西部謙司『監督力』出版芸術社
総合スポーツ誌のサッカー特集を購入するか否かで迷った時、執筆者に西部謙司が名を連ねていたら、結局は買っていることが多い。
私にとって、西部の文章はキラーコンテンツというわけだ。
西部の文章は、いつも超然としている。
日本人のサッカーライター全員の中で、ひとりだけ立ち位置が違う、という印象を受ける。立っている位置が違う以上、見えるものも違う。いや、見ようとするものが違うから、違う場所に立つことを選ぶのか。
どっちでもいいんだが、とにかく西部を特徴づけているのは、その「目」だと思う。公開されている事柄の、ある連続性の中から、ひとつの文脈を見いだす力。
特定の選手や指導者と親しくなって独占的にコメントを得るような取材活動の中からではなく、ただ真摯に、その場で起こることを見続けて、そこから何事かを読み解いていく。たとえば本書でいえば「南面する監督」「威張っているサッカー」という概念の立て方の秀逸さ。
私は後藤健生の文章からサッカーの読み方を教わり、西部謙司の文章からサッカーの味わい方を教わったと思っている。
サッカーの監督について論じるということは、まさに「公開情報の連続性の中からひとつの文脈を見いだす」行為だ。デルポスケ、デシャン、ラニエリ、オシムといった世界の名将を、西部は気持ち良さそうに論じている。ツボに入っている、という感じを受ける。
それだけに惜しまれるのだが、本書の造本のダサさ加減は、ただごとではない。これで版元の名が「出版芸術社」というのは、悪い冗談としか思えない。
高校生のラクガキのようなイラストを平然と載せていた同社での前著『サッカーがウマくなる!かもしれない本』よりはマシだが、スタイルのある西部の文章を、このようなパッケージで刊行する感覚は解せない。
もうひとつ、内容の多くは雑誌に発表された文章の再録だろうから(いくつかは読んだ記憶がある)、加筆訂正をしているにせよ、初出情報を掲載していないのは、読者に対していささか礼を失したふるまいだと思うのだが。
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コメント
西部謙司。僕も一番好きです。
ダイジェストの連載とかかなり楽しみに読んでます
投稿: | 2005/06/16 04:02
しばらく海外出張に出ていたもので、お返事が遅れて失礼しました。当blog最初のエントリに、実に9か月目にして初めてコメントとなりました(笑)。ありがとうございます。
西部氏のその後の著書についても、いずれ書こうと思っています。
投稿: 念仏の鉄 | 2005/06/26 15:31