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誰が野球の側に立つのか。

 ネットで調べものをしていたら、今日、渋谷公会堂で「野球を愛する会」という団体の催しが開かれることに気づいた。池井優、谷沢健一、衣笠祥雄、広瀬一郎、玉木正之、村上忠則によるパネルディスカッションと、なかなか充実した顔触れだ。ちょうど渋谷に行く予定もあったし、入場無料でもあり、せっかくなのでのぞいてみた。

 演題は「語ろう!日本のプロ野球が進むべき正しい方向を。」とある。基調講演をした元電通マンの広瀬一郎氏(産業経済研究所)が「『正しい方向』という表現は危険。正解はひとつではないし、不正解もひとつではない」「プロ野球について語るべきことは無数にあるが、今は経営問題にフォーカスを絞って議論しなければ意味がない」と強調したのだが、その後のパネルディスカッションは、残念ながらそうならなかった。

 始まってみて判ったのは、この会は谷沢健一氏が、早大野球部の同期生だった川島という男性と2人で起こしたものだった。パネリストは皆、谷沢氏の依頼で集まったらしい。
 「親会社の事業報告書を読んでも、球団のことなんて虫眼鏡で探さなければ見えない程度にしか書いてない。親会社の赤字額は書いてあるが、球団の赤字はわからない」などという話が谷沢氏の口から出ると、へえっ、と思う。元プロ野球選手には珍しい。そういえばこの人は数年前、早大の大学院で、スポーツ経営について勉強していたのだった。
 村上忠則氏は、昨年の世界選手権で日本代表の監督を務めた人物で、元日産自動車監督。日産の営業畑の管理職でもあり、カルロス・ゴーンの下で改革を実践した経験談は、興味深いものだった。内容的にはビジネス雑誌等で紹介された域を出てはいないが、アマチュア野球界の中枢に(彼は日本野球連盟の理事でもある)、きちんとビジネス界でも戦っている人がいることに、新鮮な驚きを覚えた。
 ほかにも、「ドラフト会議が始まった一期生の時から裏金はあった」と衣笠氏が発言したり、空理空論の人だと思っていた玉木氏が冷静かつ建設的な発言をしていたりと、部分的には興味深いところも少なくなかったが、パネルディスカッションとしては、司会者が早大の学生だったこともあり、出席者が総花的にそれぞれの意見を述べるにとどまった。特に池井先生は、場違いな昔話を愉しそうに話し続けて、貴重な時間を空費させてしまった。失礼ながら、もはや彼は、こういう場所に招かれるべき人物ではないようだ。

 とはいえ、どんな司会者がついても、2時間くらいの議論でいきなり結論が出るわけもない。この催しに意義があったとすれば、谷沢、衣笠という野球界内部の人たちが、メディア上にコメントするのでなく、自分で場を作ってまで、議論をしようという姿勢を見せたことだろう。闇雲な「合併反対」「1リーグ反対」ではなく、より根本的な問題を解決するために冷静に議論しようという態度は貴重なものだと私は思う。

 このところ、合併や1リーグ制に反対する野球ファンの集会やデモが盛んに行われている。
 ここ一週間ほどは、著名ライターを前面に押し立てた「野球の未来を創る会」という団体が目立っている。こないだ発足したかと思ったら、もう集会とデモをやっている。公式サイトに掲載された発起人たちのコメントは方向性にかなりのばらつきがあり、組織として何を目指しているのか明確でないわりには、集会だデモだ署名だという示威行為には手際がよい。サイトにアップされたデモの写真を見ると、横断幕や幟まで揃えている(手書きではなく、業者の手によるものにしか見えない)。たぶん、その種の活動に慣れた人々が仕切っているのだろう。

 もちろん、誰が野球の未来について語ろうが主張しようが構わないのだが、やはり選手なり元選手なり、当事者たちが議論を深め、意思表示をし、イニシアティブをとっていかなければ、外からどんな改革が行われたところで根付きはしない。日本のプロ野球にもっとも欠けていたことのひとつが、「選手出身で経営者と渡り合える人材」だった。広瀬氏は「いかに野球界の外部から優秀な人材を連れてくるかが最大の課題」と強調していたし、それは正しいと思うけれど、それでも、経営者側でも労働者側でもなく、「野球の側」に立って物事を動かすのは、できれば元選手がふさわしい。
 谷沢氏のような動きがほかにも現れ、その中から強力な人材が現れるようになれば、野球は再び未来に希望を見いだすことができるはずだ。
 いささか褒めすぎかも知れないが、あえて期待を込めて。

追補
 SPORTS Yeah! No.101(2002/9/10)の「飯田橋の不夜城<こちら編集部>」で、次の一文を見つけた。

【8月某日】日比谷公会堂で「プロ野球の未来を創る会」。玉木氏や本紙連載中のやく氏も発起人に名を連ねているが、どう見ても会場周りは民主党の関係者のような方々ばかり。(中略)純粋なファン主体の合併反対運動はむずかしいのだ…と実感。

なるほどね。

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