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ジョン・スポールストラ『エスキモーに氷を売る』きこ書房

 ライブドアの堀江社長は『マネー・ボール』を参考にチーム作りをしたい、という話をしている。もうひとつ、本書もぜひ読んでいただきたい。
 『マネー・ボール』が「金をかけずに強いチームを作る方法」の教科書だとしたら、本書は「弱いチームで儲ける方法」の教科書だ。

 著者は91年から4年間にわたって、NBAニュージャージー・ネッツのマーケティングを指揮した(2年間はコンサルタントとして、後半の2年間は社長兼CEOとして)。私はNBAには疎いが、本書の記述によれば、ネッツは最低のチームだった。著者が関わるようになる前の5年間の成績は最下位かその次、入場料収入は常に最下位。
 そんなチームが著者に率いられた途端に王者への道を歩み始めた……というわけではない。本書の類を見ないユニークさは、商品がどんなにひどくても、それを売ることはできる(しかも顧客を騙すことなく、満足を与えつつ)と主張している点にある。事実、ネッツの成績は相変わらずパッとしないにもかかわらず、著者は収益の大幅改善に成功してしまう。4シーズンの間に、ネッツの観客動員数は27位(最下位)から12位へ、スポンサー収入は40万ドルから700万ドル以上へ、そしてネッツの売却価値は5200万ドルから9200万ドルへ飛躍したという。

 著者は、「ネッツは素晴らしいチームですから見に来てください」と、ありもしない魅力を地域に訴えることをやめ、「ネッツと試合をするためにニュージャージーにやってくるマイケル・ジョーダンらのスーパースターを見ませんか?」と地域住民に働き掛け、好カードをセット化したチケット商品を売り込んだ。試合チケットを値引きする代わりに、プレゼントや食べ放題などさまざまな付加価値をつけた。顧客データベースを整備して、顧客にきめ細かい働きかけをしてシーズンチケットを販売した。さまざまな手をつかってスポンサーにアピールし、ひとたび契約したら必ず継続してもらうために、よく工夫された年次報告書を作成した。紹介されているアイデアの多くは、今日からでも導入できそうだ。著者は本書をスポーツマーケティングの本ではなく、どんなビジネスにも応用可能な「ジャンプ・スタート・マーケティング」の本だと規定している。

 著者の言が正しければ、「チームが弱いから客が入らない」という経営者たちの考えも、「リーグの繁栄のためには緊迫した好ゲームが必須で、そのためには戦力均衡が絶対条件」と言うスポーツ経営学者やライターたちの考えも、どちらも浅はかな思い込み、ということになる。
 堀江氏でも三木谷氏でも、次にプロ野球に加わる経営者には、ぜひ本書の理論を実践していただきたい。もちろん、既存の球団が実践してくれても大いに結構。私が球団オーナーなら、新しいアメリカ人選手に何億円か払う代わりに、とりあえず1年、スポールストラとコンサルタント契約を結ぶことを検討する。
(アメリカと日本の経営は違う、とお思いだろうか? 著者は何度も来日経験がある。ニュージャージーにある日系企業とスポンサー契約を結ぶために、本社の意思決定者にネッツをアピールすることが目的だった。その努力の結果、1年間で日系企業のスポンサーは1社から12社に増えたという。少なくとも著者は彼の流儀で日本企業から金を引き出すことには成功したわけだ)

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コメント

日本の場合、イベントやタイアップの集客で真っ先に思いつくのはバレーボール(苦笑)。これはある意味成功、ある意味失敗。アイドルタレント起用はファン層を広げる意味では有効だが、結局は試合の内容が伴わないと固定ファンは増えず、アイドル目当ての一過性のいわゆる「にわか」が代替わりするだけになってしまう危険性がありますよね。

どこのスポーツクラブも「固定・コア層」はそれなりに確保できているはずなんですから、いかに「にわか」を「固定・コア層」に変えるかという努力のためにアイデアを練っていると思います。日本でもBANDAIがスポンサーに付いていたときのフリエが、スタジアム限定ガンプラを先着入場者に配布することやってましたが、ただスポンサーが提供してくれるから機械的にやっていた印象しかありません。その効果をマーケティングする努力が欠けていれば、そんなに期待出来るものではないでしょう。地域の人すべてに訴えるような戦略こそ大事なのだと思います。日本のスポーツビジネス運営はそういう観点がいまいち抜けているところが結構多い。
個人的にはFCのテディベアやポケモンにはちょっと惹かれたことはあります(苦笑)。川崎や柏はそういう点はちょっと弱い(爆)。

しかし、この本のタイトル、日本語にするとどぎついですが、原書のタイトルはどうなんでしょうか。原語の性格上、日本的なやわらかい表現は難しいでしょうし、ブラックジョークのつもりもあるのでしょうが、差別的表現と訴える人間がいてもおかしくなさそう。

投稿: エムナカ | 2004/09/25 08:34

原題はIce to the Eskimosだから、ほぼ直訳ですが、本文では言及がなく、あくまで象徴的に使っているようです。日本版は2000年に刊行されましたが、私はこのタイトルのせいでスポーツビジネスに関係がある本とは気づかず、最近、知人に勧められるまで見過ごしてました(笑)。

イチローの入団一年目、シアトルマリナーズのホームゲームのほとんどがNHK-BSで中継されましたが、しょっちゅう「○○デー」と称して、子供の観客にグローブやバット、帽子などを配付していた記憶があります。ヤンキースタジアムでもよくやってますね。
日経ビジネス9/20号の特集「プロ野球は死んだのか」の古田インタビューに「近鉄のお偉いさんに『ほんまに経営努力したんですか』って聞いたら、エラい怒られましたわ。『うちは12球団で一番、小学校にグローブを配ってるんや』って」とありますが、どうせなら大阪ドームで配るべきだったのでしょうね。

投稿: 念仏の鉄 | 2004/09/25 09:44

4周年を記念に昔のエントリを見てます。

私もこの本を読んで感動したクチです。

実はこの本を読んで「ア○ス○(地元の某プロスポーツチーム)のために書かれたような本だ!」と感動しまして、球団役員が知り合いだったので、送りつけて読ませたことがあります。3年くらい前だったでしょうか。その後丁寧な礼状とともに返却してくれましたが、まぁチームはあぁいう状態で(笑)。

本を読むことはカンタンですが、本に書いてあることを実行することはとても難しいのですねぇ。
良い本なんですが・・・

投稿: 馬場 | 2008/09/11 18:07

>馬場さん
しかしまあ、今のJリーグで「○○選手来福!」と宣伝して客が呼べるような選手がいるかといえば…結局カズくらいしかいないんじゃないでしょうか。ま、それ以外のことはやってみればいいんじゃないかと思いますが。

投稿: 念仏の鉄 | 2008/09/12 10:14

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受信: 2005/12/29 11:19

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受信: 2006/03/25 17:51

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