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三本の安打と、三塁手の悪夢。

 ジョージ・シスラーのシーズン最多安打記録に並ぶ、今年257本目のイチローの安打は、ワンバウンドで三塁手が頭上に伸ばしたグラブの上を抜けていった。
 この時、テキサス・レンジャースの三塁手ブレイロックは、三塁ベースのやや斜め前方、芝生に足がかかりそうな場所にいた。三塁手の一般的な守備位置は、二塁ベースと三塁ベースを結んだ線よりやや後ろだが、もし彼がそこにいたら、あれは単なるサードゴロだっただろう。

 ただし、あの時ブレイロックが、例えばイチローのバントヒットを警戒して前進するというような判断ミスを犯していたのかといえば、おそらくそうではない。
 イチローの次の打席で、258本目の安打がセンター前に抜けていった時も、ブレイロック三塁手は同じ場所に立っていた。つまり、そこがイチローに対する彼の定位置ということになる(ウィンなど足の速い打者に対しても同じ位置にいた)。その前のカードでは、オークランド・アスレチックスの三塁手も、やはりイチローの打席では同じ位置に立っていた。

 頭上を越されて安打にされるリスクを踏まえてもなお、三塁手はイチローに対して、浅めにポジションを取らざるを得ない。バントに対する備えというだけではない。緩い当たりの打球を深い位置で捕球していたら内野安打にされてしまうからだ。

 この日3本目、シーズン259本目の安打が、その傍証になるだろう。センター返しの打球が投手の頭を超える。遊撃手ヤングは二塁ベースやや後方でボールをつかんで一塁に投げる。一連の動作には何の遅滞もない。それでも、イチローをアウトにすることはできないのだ。またも内野安打。
 下がればバントを決められ、前に出れば左右や頭上を抜かれる。定位置でゴロを捕っても、ちょっとバウンドが高ければ一塁に間に合わない。これでは、どうにも守りようがない。すべての三塁手にとって、イチローは悪夢のような存在に違いない。

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コメント

イチロー、凄いですね。
どんな賛辞の言葉をもってしても、それが
「イヤミ」にならないところがまた、凄いと思います。

まるで、サイボーグみたいですね。
何をしても美しいし、サマになる。感情の流れが全く
読めないし。

このまま、どんどん記録を伸ばして欲しいです。
真っ向から勝負してくれるアメリカにも、感謝です。

投稿: Cimbombom | 2004/10/04 00:52

やあ、いらっしゃい。
いつも無表情でクールなイチローですが、タイ記録となる安打で一塁に立った時には、無表情の中にも興奮が隠せない、という感じでした。
そして、新記録の時には本当に嬉しそうでしたね。チームメイトに囲まれた時、エドガー・マルティネスが、他の選手の祝福が終わるのをイチローの背後でずっと待っていて、最後に抱きしめていたのが印象的でした。
ケン・グリフィ、ランディ・ジョンソン、A-RODとシアトルを出ていくスーパースターたちを見送ったエドガーおじさんにとって、イチローは最後に残った宝物なのでしょう。

投稿: 念仏の鉄 | 2004/10/04 10:13

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