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静かなるヘルメットの男。

 ヤンキースは、とうとうレッドソックスに追いつかれてしまった。まったく、とどめを刺せる時に刺しておかないと、こういうことになる。明日はペドロ・マルティネスもカート・シリングも先発できないことだけが救いだが、油断してはいけない。2001年のワールドシリーズで3度先発したシリングの気性なら明日もリリーフ登板しかねないし、年長のシリングがそんなことを言い出せばペドロだって投げないわけにはいかないだろう。

 第6戦、ヤンキースの最後の打者になったのはトニー・クラークだった。走者2人を置いて三振。負け続けたこの3試合、肝心な局面になるとクラークに打順が回って三振、という印象がある。4試合に出場して19打数3安打、三振は9。強打者をずらりと並べたヤンキース打線だが、たったひとつ穴が開いただけで、こんなにも苦しくなるものか。クラークは、第3戦でペドロから本塁打を放ったジョン・オルルッドが、その後の打席で足を痛めて引っ込んで以降の代役だ。オルルッドがケガさえしなければ、と思っているニューヨーカーは多いことだろう(そもそもオルルッド自身がジアンビの代役一塁手として雇われたのだが、それはひとまず措かせてもらう)。
 実はオルルッドもALCSでは11打数2安打で、打率はクラークと大差ない。ただし、三振はゼロ。彼はバットに当てるのが滅法巧く、外野フライでいい場面では外野フライを、内野ゴロでいい場面では内野ゴロを打てる選手だ。もしヤンキースがこのままALCSを落とせば、オルルッドのケガが勝負の綾だった、ということになりかねない。

 NHK-BSがMLB中継を始めてから、今年が15年目になるそうだ。私が自宅でBSを見るようになったのは1990年からだから、ほとんど全期間にわたって見ていることになる。
 野茂がドジャース入りした95年以降は日本人選手が出場する試合を中心に放映するようになったが(野茂が投げない日は他のカードを中継していたから、当時ドジャースのエースだったラモン・マルティネス(ペドロの兄)が投げる試合はほとんど見ることができなかった(笑))、それまではさまざまなカードが放映されていた。それでもなぜか偏りはあって、91年からの数年間は、テレビをつければトロント・ブルージェイズの試合をやっていた、という記憶がある。

 たぶん偶然だと思うが(予測していたならNHKのスタッフは凄腕だ)、トロントは92、93年とワールドシリーズに連覇した。強い上に、個性あるスターが揃う魅力あるチームだった。ロベルト・アロマー、ジョー・カーター、ポール・モリター、デーブ・ウィンフィールドといったスター選手に混ざって、ひょろひょろと背の高い左打者が6番あたりを打っていた。強打者が守ることの多い一塁のポジションに、二割五分そこそこの若手がいるのが不思議だったが、もっと不思議だったのは、彼が守備についている時でもヘルメットを被っていることだった。大学時代に病気で脳の手術をした経験があり、頭を保護するためにヘルメットを被っているのだ、とアナウンサーは説明した。そんなハンデを背負いつつもマイナー経験なしでいきなりメジャーデビューしたのだから、相当なエリート打者と言ってよい。その後の成長は著しく、93年には三割六分三厘という高打率で首位打者を獲得した。

 それから10年以上経った今でも、彼、つまりジョン・オルルッドはヘルメットを被って一塁を守っている。頼りなげだった若者は、MLBでも屈指のミート(あちらの用語では確か「コンタクト」か)の巧みな打者に成長し、毎年のように三割前後の打率を残してきた。
 なぜか日本人選手とも縁がある。97年にメッツに移ると、翌年に吉井理人投手が加入。シーズン途中には野茂もドジャースから移ってきた。2000年にシアトルに移ったので、新庄とは入れ違いだったが、佐々木とイチローが相次いで加入してきた。日本では彼を「イチローの同僚」として知っている人が多いだろう。そして今年、シアトルを解雇されたと思ったら、ヤンキースに入って松井と同じベンチにいる。彼ほど数多くの日本人選手とチームメイトになったメジャーリーガーはいないだろう。
 日本人選手のいるチームは試合中継も増える。従って、94〜96年あたりを除けば、オルルッドは相当な頻度で日本でのテレビ中継に登場してきたはずだ。もしかすると、個人としては最多出場になっている可能性もある(そんな統計を出すのは気が遠くなるほど面倒くさいので、誰もやらないと思うが(笑))。たぶん、私自身がもっとも多く試合を見ているメジャーリーガーは彼だと思う。

 そんな長い付き合いではあるが、私は彼の人となりをほとんど知らない。まとまったインタビュー記事も読んだことがない。だが、おそらくは物静かな紳士なのだろうと思う。少なくともグラウンドの上で感情を荒げた姿を見たことがない。常にちょっと困ったような顔をして坦々とプレーする姿だけが印象に残っている。

 今年は打撃不振でシアトルを解雇されたが、ヤンキースに移ってからは.280と、まずまずの成績を残している。現在36歳だが、来年も現役生活を続けることは、おそらく可能だろう。そうなれば嬉しい。
 とはいうものの、目下は、そんな先の心配をしている場合ではない。せめて代打かDHでいいから、このヤンキースの窮地を救ってくれないものだろうか。

追記
 彼の人柄を示す記事をMAJOR.JPで見つけた。私が抱いていたイメージ通りの人物のようだ。

追記2
 第7戦の終盤、オルルッドは打席に立ったが、ヤンキースを救うことはできなかった。走者を置いて三振した彼は、例によって静かに、うつむいて何やら呟きながらベンチに戻っていった。

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コメント

管理人さん、以前にオルルッド選手の近況についてお尋ねした者です。あの時は大変お世話になりました。
 あの後、オルルッド選手の近況がどうしても気になりまして私なりに少し調べていたのですが、そうしました所、次のような記事を見つける事が出来ました。『ESPN』のPeter Gammons記者の4月13日付の記事です。その記事の中からオルルッド選手に関して書かれてある部分を以下に引用します。

 「Meanwhile, the Red Sox have stayed in touch with John Olerud as a possible Doug Mienkiewicz replacement. olerud is still bothered by the foot injury that knocked him out of playoffs, and hopes to be ready to start trying to play by May 1. 」〔http://sports.espn.go.com/mlb/gammons/story?Id=2036219〕

 このPeter Gammons記者の記事によりますと、オルルッド選手は現在、ボストン・レッドソックスと連絡を取り合っている状態にあるようですね。ただ、昨年のア・リーグチャンピオンシリーズで傷めた足の怪我については未だ回復に至っていないようですので、メジャーで再びプレー出来るかどうかは今後の回復状況にかかっていると言えるのではないでしょうか?

 管理人さん、オルルッド選手に関してほんの数行しか書かれていない記事ですが、今後の何かのお役に立ててくだされば幸いです。

投稿: かずひさ | 2005/04/24 14:17

>かずひささん
ご丁寧にありがとうございます。私だけが教えてもらうのではもったいないので、本日付けのエントリーでご紹介しておきました。

投稿: 念仏の鉄 | 2005/04/24 17:10

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