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平田竹男・中村好男編著『トップスポーツビジネスの最前線』友人社

 早大スポーツ科学部が2003年10月から翌2004年1月にかけて14回にわたって実施した同名の講義の記録である。コーディネーターはJFAジェネラルセクレタリーの平田竹男。当然ながらサッカー界を中心に、文字通りスポーツビジネスの各分野の最前線の人々が登場して、自分の仕事について話している。

 ぐだぐだと説明するよりも、各回の標題と講師を見れば本書の価値は一目瞭然だ。

第1回「スポーツビジネスとは」平田竹男(JFAジェネラルセクレタリー)
第2回「プロスポーツクラブの経営事例」牛島洋(鹿島アントラーズFC社長)
第3回「スポーツクラブの経営理念」成田十次郎(筑波大名誉教授、読売クラブ初代監督)
第4回「スポーツ用品のマーケティング戦略」クリストフ・ベズ(アディダス・ジャパン社長)、辺見芳弘(同副社長)
第5回「スポーツと環境」水野正人(ミズノ社長)
第6回「最前線のスポーツビジネス」平田竹男
第7回「スポーツの法務」小竹信幸(博報堂法務室)
第8回「ビジネスマンとしてのスポーツ選手」堀池巧(元日本代表)
第9回「スポーツメディアの現場(TV)」ジャック・K・坂崎(J坂崎マーケティング社長)
第10回「スポーツメディアの現場(新聞)」武智幸徳(日本経済新聞社運動部記者)
第11回「スポーツメディアの現場(雑誌)」戸塚隆(講談社「フットボールニッポン」編集長)
第12回「スポーツ選手のマネジメント」次原悦子(サニーサイドアップ社長)
第13回「スポーツ選手の強化育成」田嶋幸三(JFA技術委員長)
第14回「まとめ」平田竹男

 およそ、このテーマで考えうる最高級の顔触れといってよい。これが社会人向けのオープンセミナーであれば、何万円払っても聴きたいという人が殺到したに違いない。早大の学生も、実に530人が受講したという。

 そして彼らは、大学の講義だというのに、例えばこんな生々しい話をしている。
「賞金が2億2800万円。コストに関係なく入ってくるカネですから、勝たなければだめだという理由はこれです」「損益3億1200万円のうち、賞金だけで2億2800万円を稼いでいるわけですから、それ以外で稼いだ分は1億円もないんです」(牛島洋)
「セレブリティに、おカネを払うか払わないかという議論がありますが、アディダスは原則として払いません。セレブリティの方々がアディダスの商品を着たいと望む場合に、商品のご提供をさせていただいています」「見せかけで着ていただいても、結局は消費者からは見破られてしまうというのが我々の経験則から持つ考えなのです」(辺見芳弘)
「ベッカム選手が移籍するにあたって、当然ユニフォーム・サプライヤーとの契約というのが大きなファクターになっています」(小竹信幸)
「最初、某テレビ局に話をしまして、『やろう』ということになって進んでいたのですが、1か月後に編成局からノーが出た。ゴールデンタイムにFC東京とレアルマドリードの試合なんかやれない、視聴率は取れないということで、断ってきたのです」(ジャックK.坂崎)
「訴訟を起こすというのは、おカネもかかりますし、時間もかかります。本当に手間暇もかかります。でも、とにかくやられっぱなしにはしない。何か書くと、こういううるさいエージェントが出てくる。この“うるさい。めんどくさい”と思わせることが、実は大切なんです」(次原悦子)

 どうです?読みたくなってきたでしょう(笑)。
 スポーツビジネスに関心のある人は、ぜひ入手することをお勧めする。これで1500円(本体価格)は安い。小さい版元なので書店の店頭ではほとんど見当たらないが、Amazonなどで取り寄せることが可能だ。

追記
 この講義、今年もやっているらしい。 ラグビーや陸上の協会幹部の話が、この流れとどれだけ噛み合うか(合わないか)も含めて、興味深い顔触れ。今季の講義もぜひ出版してほしい。

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コメント

これだけ聞いていれば連載できてしまうような顔ぶれですね。
今年は楽天の三木谷、アルビの池田両社長も講師なんですね。
すごすぎる、、、。

投稿: penguin | 2004/11/24 11:39

三木谷さん、微妙なタイミングの講義だったようですね(笑)。
次原悦子氏が公の場で話をするのは非常に珍しいことで、それだけでも興味深い本でした。私はこの人の顔写真を初めて見たような気がする(笑)。

投稿: 念仏の鉄 | 2004/11/24 13:58

僕は去年この講義を受けていました。確かにスポーツビジネス界のビッグネームがそろっています。そして内容的にも質が高く満足のいくものでした。しかし一つ言わしてもらうと、それぞれの紹介にすべて一コマで終わり、じゃあ結局スポーツビジネスってなんなの?それに必要なものは何ナノ?これらの人に通じるものって何ナノ?ってことが見えてきませんでした。つまりスポーツビジネス業界への最新の就職相談所。彼らのしている全てがスポーツビジネスだ、って言われればそれまでですが。
結局早稲田らしいもので終わる気がします。本はぜひもう一度復習するために買うつもりです。それぞれの人の言葉に感銘を受けたいと思います。では

投稿: 036 | 2004/11/25 17:17

>036さん
この講義そのものは、あくまで入門篇なのでしょう。
スポーツビジネスの修士・博士課程を準備中、と本書にも書かれていましたから、
036さんがおっしゃるような体系化を視野に入れた、
「スポーツ産業学」のようなもののための広告塔という意味合いもあるのでしょうね。

投稿: 念仏の鉄 | 2004/11/25 22:07

お留守中にTB送らせていただきました。
「トップスポーツビジネスの最前線」のタイトルで3冊が改訂版として出版されていました。「サッカー批評」の書評コーナーで見かけて、こちらのエントリーを思い出して早速購入しました。
2003年版を読み終えたところですが、イチロー選手が質問のある記者だけをインタビュールームに入れることを許可した話なんかは興味深いですね。
これから2004年版を読みます。

投稿: 若葉 | 2006/09/28 08:56

>若葉さん
講談社が2冊を再刊すると同時に3年目の講義を新刊として出したようですね(順序が逆か(笑))。2年目の2004年版では、ラグビー協会の人の話のつまらなさが印象に残っています(笑)。

投稿: 念仏の鉄 | 2006/10/02 11:08

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受信: 2006/09/28 08:48

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