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万人の夢を背負う男(2)

 ワールドカップ・フランス大会の出場メンバーからカズが外されたことを、私は発表の翌朝のニュースで知った。
 ショックだった。予期していた以上にショックだった。
 あのころ、「カズはどうなるの」と人に聞かれるたびに、「入ってもおかしくはないし、入らなくてもおかしくはない。ただしフランスに行ったとしても先発は難しいだろう」と答えてきた。カズの落選が報じられた夜にも、そうとは知らず、サッカー好きの知人と深酒しながら同じことを話していた。
 しかし、結局のところ私は、カズが落ちる可能性を、あまり突き詰めて考えたくはなかったのだと思う。
 朝のニュースの“街の声”で、高校生くらいのねえちゃんが「当然じゃないですかあ」「体力落ちて足手まといになっても困るしー」などと言ってるのを見て、今すぐテレビをぶち壊したいという凶暴な衝動に駆られた。自分でもどうかと思うほど腹を立てていた。てめえらに何が判る。てめえなんかに何が判る。
 私が『万人の夢を背負う男』という文章を書いてから、たった5年しか経っていなかった。

 それより3週間ほど前、フランス大会に臨む25人の候補を決めた5月7日の記者会見で、岡田武史監督は「誰某を選ばなかったのは何故か」という類いの質問のすべてに丁寧に答えた。ラモス、柱谷、前園…。「ラモスがいなければ日本のサッカーは10年は遅れていた」と岡田が話すのを聞きながら、過去の数多くの人たちの努力と執念の産物として、岡田とそのチームはフランスに行くんだな、彼らの夢を背負って、日本のサッカーを代表していくんだな、と、しみじみと実感した。
 チームというのは駅伝のようなものなのかも知れない。闘い、支え、そして力尽き、続く者にタスキを託す。あの時点でカズを外していたら、岡田は会見でカズについて何と言っただろうか。

 カズと北沢が合宿を去った途端に、キャプテンの井原は練習で大きな故障をした。かろうじて間に合ったアルゼンチンとの初戦、試合前のコイントスの際には、相手のキャプテンに何度も何度も握手を求めている。平常心を欠いているのは明らかだった。カズに代わるFWの軸に指名された城は、ゴールに向かう気持ちを内心では持っていたのだろうけれど、それはスタンドまで伝わっては来なかった。
 結果から言えば、試合中にビビるという心性とは無縁だったカズと北沢がベンチにいたら、彼らの気持ちにも少しは余裕ができたのかも知れないと思う。
 カズが代表から落ちたのと同じ日、ロマーリオがセレソンから外れるというニュースを見た。合宿中のケガが理由だった。記者会見で涙を浮かべ、両手で顔を覆い、「世界が音を立てて崩れていく」と話していた。それでも、ロマーリオには94年の栄光が残る。カズには何もない。(この項まだつづく)

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