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MVP goes to SHINJO.

 長い一年が終わる。野球、サッカー、オリンピック、さまざまなスポーツを見てきたはずだが、振り返って目に浮かんでくる最も印象深い場面は、記録の上では平凡きわまりないひとつのプレーだ。
 西武と北海道日本ハムが闘ったプレーオフの第二戦。連打で逆転した日本ハムは、9回裏の守りで、最後の打者フェルナンデスを打ち取った。
 センターやや後方へのフライ。捕球した中堅手は、そのまま両手を突き上げ、後押ししてくれたファンで埋まったレフトスタンドにボールを高々と放り込むと、仲間が待つベンチの方へ走っていった。彼が満面に無邪気な笑顔を浮かべていることは、背中から見てもわかっていた。これで優勝したわけではなく、対戦成績をタイにしたに過ぎない。それでも、ひとつのアウト、ひとつの勝利が、これほどまでの幸福感を醸し出すものなのだな。レフトのポール際の内野席で見ていた私は、しみじみと思った。

 昨年の秋。
 新庄剛志が北海道日本ハムへの入団会見で「これからはパ・リーグです」と口にした時には、正直に白状するが「また言ってるよ」としか思わなかった。
 ひとりだけ他の選手とは別の飛行機で、派手な服装とサンダルでキャンプインした時も同じだ。
 だが、オールスターゲームで単独ホームスチールを決めてMVPに選ばれたSHINJOが、再び「これからはパ・リーグです」と高らかに言った時、その言葉は半年前とはまったく違う意味と重みを帯びていた。
 そのことにSHINJO自身が気づいていないはずはない。だが、外から見る限り、まったく同じ無邪気な笑顔、まったく同じ軽みで話すSHINJOに、なんてすごい奴だろう、と畏敬の念さえ覚えた。

 新天地でスタートを切った球団に札幌の人々の目を惹き付けたのは、間違いなくSHINJOだった。芸能人や愛玩動物を見るような人々の態度にも(記者会見の質問内容、つまり地元メディアにさえ、そんな空気は漂っていた)、SHINJOは何の屈託もなく笑顔で応えていた。
 今になって振り返ってみれば、彼は広告塔としての自らの役割を、よく理解していたのだと思う。「ファンに愛される」ことがプロ野球選手の仕事だということを彼は知っている。直接見たことはないのだが、札幌ドームの外野スタンドに、かなりの金額を払って自分自身の広告を出していると聞く。筋金入りのショーマンシップなのである。

 6月に近鉄とオリックスの合併構想が露見して以来、重苦しい話題で野球のイメージに陰がさす中で、SHINJOの元気溌溂としたプレーは、人々の気持ちを明るくしてくれた。宙を跳ぶ俊足、定規で引いたような一直線の送球。力強いスイング、糸を引くライナー。そして何よりも、あの天衣無縫の笑顔。試合前の練習でのカブリモノが何度も話題になったが、チーム状態やスト問題の経過などを感じつつ、ここぞというタイミングを狙っていた節がある。そして確か、あれをやった日の試合には、ことごとく勝っているはずだ。

 SHINJOを見ていれば、それだけで楽しくなれる。オールスターでホームスチールが成功し、うつぶせのまま両手をばたばたさせて喜ぶ姿は、まるで三歳児のように微笑ましかった。プレーオフ進出を決めたサヨナラ満塁「本塁打」は、走者追い越しでアウトになってしまったことも含めて、彼でなければできないプレーだった。
 西武とのプレーオフでも、北海道日本ハムのビッグイニングはSHINJOの出塁から始まっている。彼のプレーには、人々の心に火をつける何かがある。プレーオフの3試合、左翼席のファイターズファンの応援は、ものすごい圧力となって西武ナインに襲いかかっていたはずだ。サッカーで言う「12人目のプレーヤー」を野球場で実感したのは、私はあれが初めてだ。
 あれほど酷評されたプレーオフがこれほどまでに盛り上がったのは、ファイターズが踏ん張ったからだ。そして、ファイターズとそのファンをここまで引っ張ってきたのは、SHINJOだと言って差し支えないだろう。

 今年のスポーツ界にも、いろいろなことがあった。優勝、タイトル、金メダル、最多安打記録、奇蹟的な勝利や苦渋の敗北が、人々の心を震わせた。
 だが、スポーツ、とりわけプロスポーツにおいてもっとも価値があるのは、結果の軽重にかかわらず、目の前のプレーそのものの力によって観客の心を惹き付け、幸せな気持ちにさせることだと私は思っている。
 そんな見物人の論理に則り、このblogの2004年のMVPを、プロ野球・北海道日本ハムファイターズのSHINJO選手に差し上げたい。
 彼は野球選手として、2004年のプロ野球を救った。


 これで本blogの2004年の書き込みは最後になります。
 訪ねてくださった皆様に、よいお年を。そして長寿と繁栄を。

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