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社会部というリアリズム。

 ジャイアンツが選手への報酬にサラリーキャップ制を導入した、とスポニチが書いている
 アメリカのプロスポーツ界にある「サラリーキャップ制度」は球団間の約束事としての制度であり、一球団でやるのならそれは単なる「予算」だが、しかしジャイアンツが予算枠を前面に出して選手への報酬を抑制にかかること自体、これまでになかったことだ。
 確かにここまで二岡、江藤、桑田と働きの悪い高額所得者たちは、激しく切り下げられている。昇給額が少ない、と上原が不満を示しているのも周知の通り。

 一場への裏金発覚により、今年8月、渡辺恒雄オーナーが退き、ジャイアンツの経営陣は一変した。滝鼻卓雄オーナー、桃井恒和球団社長、清武英利球団代表。この3人によるオフの動きが面白い。
 観客動員の実数発表。内野スタンドのグラウンド側への拡張とネットの一部撤廃。内野ネットに穴を開けて選手が観客にサインすることを可能にする、というアイデアも、細かいことだが、いい案だと思う。「飛ばないボール」の採用も然り。デーゲームを増やすのは大歓迎だ。
 選手への対応も、従来とは違ってきたように見える。清原の処遇についてだけは、人気に目がくらんだ感がなくはないが、FA宣言した清水と仁志への対応は、方針が一貫してブレがない。早々に「複数年契約は2年まで。あとは付帯条件で」という方針を打ち出し、MLB入りを目指した仁志に対しては、一定の理解を示しつつ、期限を切って残留の意思表明を求めた。仁志や上原とのやりとりに関して、球団を批判する声はほとんど聞こえてこない。

 週刊ベースボールの12/20号に掲載された清武球団代表のインタビュー記事も面白い(オフ企画の「球界を動かす人々」という連続インタビューの第3回。この連載は毎回興味深い。一言で言えば、経営側だって一人ひとりは馬鹿じゃない(少なくとも球団社長や代表は)ということが如実に理解できる。選手会の幹部の中で、これに見合う内容の話ができる選手が古田の他に何人いるだろうか)。
 2006年に開催予定のW杯について「あれはまだ本物のワールドカップじゃないでしょうね。興行、いわば招待試合のようなものですから」と言い放ち、辛口のはずの同誌・柳本元晴編集長を「ズバズバおっしゃいますね(笑)」とたじろがせている。

 このインタビューの白眉は、裏金問題についてのやりとりだろう。
 裏金は「僕の常識で信じられないし、あってはいけない」と断じた後、ドラフト制度の影響を問われて、「今のドラフト制度だから裏金が動く、という見方は違うでしょうね」と清武は言う。
 「(制度を)変えたらなくなりますという単純なものではない。この土壌を変える方法を徹底して考えなければならないでしょうね」
 「私見として挙げるなら、牽制効果は有効でしょうね。たとえば『不正防止ダイヤル』をNPBに設け、情報の窓口とし、そこで得た情報についてはしっかりと調査をし、球団、選手にしかるべきペナルティーを加えるということです。内部告発というと印象はよくないかもしれませんが、球団同士、大学同士と、お互いが牽制し合うことで、かなりの効果はあると思います」

 身も蓋もないリアリズムである。「不正防止ダイヤル」などというアイデアは保身や面子を考えたら決して出てこないだろうし、「大学同士」という言葉の中で、暗にアマ球界側の責任にも言及してしまうところも臆面がない(笑)。
 この身も蓋もないリアリズムは、清武が社会部記者出身であることと無縁ではないだろう。新聞記者や、そのOBたちを見ていると、出身部署とキャラクターはしばしば密接に関係している。
 これまでジャイアンツを動かしていたのは政治部出身者が多かった。大ボスの渡辺恒雄・前オーナーが大政治記者だったからだが、日本の政治家が公式の場では空虚な言葉を述べつつ大事なことはすべて密室で決める人種である以上、成功した政治部記者たちも、そういうやり方を好む体質を持つであろうことは想像に難くない。
 一方、社会部の行動原理はずっとシンプルだ。いいことはいい。悪いことは悪い。悪いやつはけしからん。社会面の事件記事は、常にそういう原理に基づいている。密室の交渉は暴くものだ、というのが事件記者の本能でもある。社会面の記事は、良くも悪くも読者たる世間の気分を反映することを重んじる。「大衆は決めたことに従えばよい」という多くの政治家の認識とは、これも対照的だ。

 こういう社会部的なリアリズムの資質こそ、今の野球界にとっては必要なのだろうと思う。滝鼻オーナー、桃井球団社長も社会部出身と聞く。この体制がある程度の長期にわたり、彼らが打ち立てる方針が後任者たちにも受け継がれていくようなら、ジャイアンツはもっとも革新的な経営をする球団になる可能性がある。一場さまさまである。

(しかし一場も、この時期に結婚して「来夏出産予定」とは、野球部を退部してからドラフトまでの間をどう過ごしてたのか容易に想像できるような話ではある(笑)。そういう脇の甘さも大活躍すれば「エースの美徳」になってしまう世界ではあるが、そうなったらなったで利用しようと近づいてくる手合いの多い世界でもある。敢えて自由獲得枠で採用した以上、楽天野球団は、この迂闊な若者を守り、まともな社会人に育てる責任を負っている)

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コメント

一時期読売ジャイアンツの経営陣はどうせ「ナベツネ院政」を実現するためのダミーに過ぎないと思っていましたが、今オフの他社メディアを利用した報道戦略を見る限り、かなり積極的な「ナベツネ色一掃キャンペーン」を張っているような印象です。

ナベツネも今季の世論の巻き返しが相当予想外で、自分を否定された印象がとっても強かったのでしょうかねぇ、あんまり退陣後に野球の話を語っている印象がありません。本当に自ら幕を引きたかったのかもしれません。

年内に岩隈問題、ダイエー経営譲渡が決着、あとはFA選手やポスティングによるMLB挑戦がどうなるか今オフの残件といったところでしょうか。内野手は松井稼頭夫ですら苦労したので、井口には積極的なアプローチがないのかなぁ。仁志は頭で野球のできる数少ない選手の一人ですが、やはり現在の年齢を考えると相当安売りしない限りMLBが手を出しにくい存在なんでしょうね。フィジカル的には20代前半の選手にはかなわないでしょうし、そういう観点で選手を探しているチームならプエルトリコ、ドミニカ、ベネズエラから戦力を探す方がはるかにローコストで済みますしね。

投稿: エムナカ | 2004/12/24 21:31

ジャイアンツの経営方針がこれほど変わったということは、前オーナーは影響力を行使していないのでしょう。自制しているのか、単に野球に興味がなくなったのか、理由は知りませんが。

MLBはウィンターミーティングで発生した商談が一段落すれば、井口にも現実性のあるオファーが発生するんじゃないかと思います。彼の代理人のモスは、元横浜の牛込さんが「最も信頼できる代理人」と言ってますが、古い世代の人だけに、今のGMたちのビジネススタイルと合うかどうかが気になってます。
仁志については、たぶんこれまでと同じように、彼の高すぎるプライドが、自身の可能性を狭めるのではないでしょうか。

投稿: 念仏の鉄 | 2004/12/25 15:42

はじめまして。いつも鋭い視点で書いている念仏の鉄さんのコラム,以前から楽しみにさせてもらってます。一応大学でスポーツ経営を勉強しています。


巨人の新経営陣については,本当になるほどと思いました。この球団がこんな展開を見せようとは,わずか半年前までは想像もつかなかったことです。私も巨人ファンをずっと続けていますが,今後が楽しみです。

今回のサラリーキャップ方針の発表は,1球団のみの予算決めだったことなど,自分の中では最初どこまでいいことなのか測りかねてました。ただ,元々球界において経営規模が一つ抜けている(=絶大な発言力がある)巨人が自主的にこの制度を先陣切って取り込んだことに意味があると思いました。このままオープンな経営などもやっていけば他の球団もいい刺激になるのではないか,と期待しています。

投稿: アルヴァロ | 2004/12/27 00:07

>アルヴァロさん
ようこそ、初めまして。サイト拝見しました。本格的にスポーツビジネスを勉強されているのですね。理系特有の合理性は、きっとこの世界でも生かす場所があると思います。
あと、私もFC東京贔屓です。たぶん、このサイトを読んでても判らないと思いますが(笑)。

さて、ジャイアンツのサラリーキャップですが、本来なら選手は反発していい話かも知れません。しかし、この半年間、選手会があらゆる主張を「ファンのため」と言い続けてきた以上、このオフの年俸闘争は、彼らの正当性が試される場にならざるを得ない。
上原の一連の言動は、その点にあまりに無頓着なので、私はいい印象を持っていません。せっかく代理人がついているのに、なぜそういうことを顧客に教えないのか。
契約更改の場で選手がファンサービスについて提言したという話もさほど聞かないし、「構造改革委員会」の最初の集まりには選手会から5人くらいしか出席しなかったし、彼らは喉元過ぎたら熱さを忘れてしまったのではないかと危惧します。
あまり関係ないレスになってしまってすみません(笑)。

投稿: 念仏の鉄 | 2004/12/27 01:16

 久しぶりにうかがいました。
 話は全然違いますが、社会部といえば、本田靖春さんの訃報記事、出身である読売社会面は半段の顔Pつきベタ長行、朝日は確か3段、毎日も3段だったかな。。。。
 がんばれ、読売社会部!特に東京!大阪は大谷昭宏さんとかいるしまだまだ大丈夫では?
 巨人といえば、ユニホームを変えるんですね。胸にYGマーク、なんだかヤンキースを意識したようなデザイン?と感じました。

投稿: ニッポニアペンギン | 2004/12/28 17:54

本田氏は辞めてからも読売の政治部支配を批判していた人ですから、現場の担当者が幹部に配慮して…なんてことかも知れませんね。大谷氏はとっくに辞めてフリーになっているのでは。

ジャイアンツのビジター用ユニホームの胸には長いことTOKYOと書かれていて、これをYOMIURIに変えたのは、つい3,4年前だったはず。これも思い切った変更ですね。あとはヤンキースタジアムの広告を何とかしてくれるとうれしいんですが。広告をやめろとは言わないが、あの馬鹿げたオレンジ色は勘弁してほしい。

投稿: 念仏の鉄 | 2004/12/28 19:06

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