2004年の言葉。とりとめもなく。
年が明けてからこういう企画をやるのはいかがなものかという気がしないでもないが、さっき思いついたので勘弁してほしい。2004年のスポーツ界を象徴するというわけでもなんでもなく、ただ私自身がたまたま耳にして、頭にこびりついてしまった言葉を集めてみた。高橋洋二の『10点さしあげる』のようなものだと思ってください。
「ニュージーランドに帰る前に、釜石でやれてよかった」
2月某日・ラグビー 釜石シーウェイブスのアンドリュー・マコーミック選手/最後の試合を終えて
かつて東芝府中で活躍し、日本代表キャプテンも務めたアンガス。日本選手権で関東学院大に敗れ、現役引退となった後の会見で、「釜石はニュージーランドと似ている。選手の家族が集まってバーベキューやったり、子供にラグビー教えたりして楽しかった。ファンも熱い。いいプレーはほめるけど、悪いと文句言う(笑)」と最後の選手生活を過ごした土地への愛着を語った。経済的なことを棚上げして言えば、釜石は日本で唯一ラグビーのクラブチームが成立する土壌を持つ地域なのかも知れない。
「日本、勝ちました!」
8月某日・NHK刈屋富士雄アナウンサー/アテネ五輪体操男子団体で。
「…栄光への架橋だ!」というあまりにも有名な決まり文句は、NHKの五輪テーマソングにひっかけて準備してました、という感じが露骨で、あまり好きではない。それよりもその直後、判定の表示を待たずに「勝ちました!」と言い切ってしまったところに、スポーツアナウンサーとしての矜持を感じた。「小西さん、どうぞ泣いてください」という解説者への言葉も、単なる放送席の内輪話にとどまらず、体操ニッポンの大先輩が感涙にむせぶ様子を視聴者に伝え、同時に解説者が何も喋れなくなった事情を説明する言葉として、適切だった。
「新聞やテレビは、合併とかストライキとか、自分自身も少し嫌気がさしますけど」
9月某日・プロ野球 中日ドラゴンズの英智外野手/ヒーローインタビューで
詳しくは「英智はいつも途方に暮れている」を参照されたし。
「プロ野球のファンはヌルいよね。サッカーで同じことがあったら、とっくに文京区のあそこに火をつけられてるよ」
9月20日・広瀬一郎/シンポジウムKAWASAKI FOOTBALL FORUM「Jリーグとプロ野球」で、プロ野球の合併問題について。
サッカーファンが多い客席は爆笑したが、野球界から出席したパネリストの小関順二、坂井保之の両氏は、「文京区のあそこ」がJFAハウスを指すのだと知らず、ぽかんとした表情だったのが印象に残る。
「とてもエモーショナルな週末になるだろう」
9月30日・MLB シアトル・マリナーズのメルビン監督/シーズン最後のホーム3連戦を前に
イチローがシーズン最多安打記録に王手をかけて臨んだ最終3連戦は、シアトルの英雄エドガー・マルティネスの引退興行でもあったため、チームはぶっちぎりの最下位であったにもかかわらず多くの観客が詰めかけた。グラウンドには「サンキュー、エドガー」の文字が記され、イチローの新記録、エドガーの引退セレモニーと、確かに監督の予告通りに。引退試合となった10月2日の試合では、長くDH専門だったエドガーに、デビュー当時のポジションだった三塁を守らせる粋な采配も見せた。彼はシーズン終了後に解任されたため、メルビンにとっても最後の三連戦となった。いちばんエモーショナルだったのは彼自身かもしれない。
「今日は、ごめんなさい。リーグ戦も、ごめんなさい」
11月某日・Jリーグ FC東京の原博実監督/ホーム最終戦の後、観客への挨拶の冒頭に。
ジェフ市原相手に0-2とリードを許し、かろうじて追いついて引き分けたという、ややふがいない試合だったので、謝らずにはいられなかったのだろう。北関東なまりというのは荒々しく聞こえることが多いのだが、この人の栃木弁は、のどかな印象を受ける。
「総合格闘技を舐めてました」
12月31日・柔道家の滝本誠/「PRIDE男祭り」でのマイクパフォーマンスで
格闘技のことはよくわからないのだが、初めてグローブをつけて試合をする柔道家が、体重ではるかに勝る元相撲取り・戦闘竜と殴り合いの勝負に出るというのは、やはり豪胆なことだと思う。3ラウンドの間に、当初の戸惑いを消化して、みるみる適応していった滝本。舐めていてもこれだけやるのなら、本気で準備したらどうなるのか見てみたい。
追記(2006.6.8)
「ほぼ日刊イトイ新聞」が2006年6月に「NHKアナウンサー刈屋富士雄さんインタビュー オリンピックの女神はなぜ荒川静香に『キスを』したのか?」を全20回で掲載、第4回で、この 「小西さん、どうぞ泣いてください」について語っている。まだ4回分しか読んでないが、刈屋アナの仕事ぶりの奥深さを垣間見ることができる、見事なインタビューである。
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コメント
あけましておめでとうございます。
日本で迎える新春は久しぶりなこともあって、実はまだ若干の違和感があるのですが、
とにかく日本は飯が旨い!帰国以来、ハンバーガーを1度も口にしておりません。
不思議なものでアメリカにいるときはアメフトやNBA、大学スポーツが気になって
仕方がなかったけれども、
日本に帰ってみるとやはり日本のスポーツのほうが面白いと感じます。
当り前といえば、当り前なんでしょうが。
今年は歌舞伎、落語、オペラを重点的に見たいと思います。
投稿: ふくはら | 2005/01/08 23:50
>ふくはらさん
今年もよろしくお願いします。
ちょっと出かけていて遅くなりました。すみません。
>今年は歌舞伎、落語、オペラを重点的に見たいと思います。
時間のかかる見世物ばかりですね(笑)。ま、寄席は短時間で切り上げることもできるけど。
私の今年の見物人生活のスタートは、フィギュアスケートでした。テレビで見てると体重がなさそうな感じですが、間近の席で見ると、ジャンプから着地する時に靴の刃が氷に突き刺さるガッという音が生々しく感じられます。
投稿: 念仏の鉄 | 2005/01/11 08:58
ココログ初見参です。貴殿の釜石シーウェイブスのマコーミック選手の記事を拝見しました。全く同感です。さすがの御慧眼に敬意を表します。
ココログの仕組み現在勉強中です、失礼があればお許しください。
投稿: シーウェイブス・ジャパン | 2005/02/13 20:15
>シーウェイブス・ジャパンさん
ご来訪ありがとうございます。私はまったくラグビーには素人なので、シーウェイブス・ジャパンさんのような経歴の方に敬意などと言っていただけるとは汗顔の至りです。
ただ、アンガスのような名選手が、現役生活の最後を釜石で送ってくれたのは、実に素敵なことだな、と思ったので、紹介してみたくなった次第です。
投稿: 念仏の鉄 | 2005/02/13 21:30