持て余す山本、育てるオシム。
ほんとかよ、と思っていたが、とうとう決まってしまったらしい。
ジェフ市原の村井と茶野の、ジュビロ磐田への移籍だ。
守備の要で代表にも選ばれた茶野と、左サイドのスペシャリストで、代表に近いと目されていた村井(代表の試合で、左サイドでもたもたしているアレックスを見るたびに「ジーコはなぜ村井を呼ばない」とイライラした人は多かったはずだ)。
そこを、ごそっと抜いていくのだから、ジュビロの補強は、えげつないの一言に尽きる。
このオフ、もっとも積極的に補強に動いたのはジュビロだった。GK川口、FWチェ・ヨンス(彼も元ジェフだ)、そして、この2人。何が何でも優勝を取り戻すという不退転の決意が感じられる。
問題は、それを使う監督にある。
昨年のアテネ五輪の結果によって、一般国民(五輪の視聴者は「国民」以外に呼びようがない(笑))からは「ダメ監督」の烙印を押された山本昌邦監督を、ジュビロは「再建の切り札」として呼び戻した。もちろん、「いずれは山本で勝負」というのが近年のクラブとしての総意だったのだろうから、一度の失敗でそう簡単に路線を変えるはずもない。
全面的にダメ監督かどうかは私にはわからないが、一言でいえば、「テストを終える前に本番が終わってしまった」というのが、アテネ五輪(とそこに至る準備)を見ての感想だった。
山本監督の下、アテネ五輪を目指す代表チームが立ち上がってから本番まで2年以上あったと思うが、この間、いったい何人のキャプテンがチームを去ったことだろう。うろ覚えだが、前身のワールドユース代表では羽田だった。森崎(のどちらか)や青木がキャプテンだったこともあったような気がする。そして、最終予選で強靱なキャプテンシーを発揮した鈴木啓太が本番では外され、アテネに入ってからも那須が更迭されて最終的に小野伸二になった。2004年3月から8月までの、わずか半年だけでも3人である。
キャプテンマークの行方に象徴されるように、このチームは、集合するたびに芯がごそっと入れ替わり、いつでも「昨日今日集まったばかりのチーム」のように見えた。もちろん、絶えず新しい戦力を加えるのは当然だけれども、山本はチームの根幹を平気でいじってしまう。最終的に、それまで全くチームに関与していなかった小野と高原を軸にしようとして失敗したのは周知の通りだ。
要するに、山本という人は、選択肢があればあるほど迷ってしまう性格なのではないかと思う。彼がほとんど唯一、戦術と采配の妙を発揮したアジア最終予選では、選手の大半が胃腸をやられて、11人のスタメンを揃えることさえ困難だった。選択の余地がないから、迷う余地もなかったのである。
そんな人物に対して、ジュビロはこれでもかとばかりに選択肢を増やし続けている。それが本当に彼らが望む結果につながる準備なのだろうか。おまけに今年は1シーズン制。「ファーストはテストでセカンドに勝負」というわけにはいかない。
シーズンが終わった時、山本昌邦が「来季に向けて、いい経験を積むことができました」といういつもの台詞を繰り返す姿が想像できてしまうのは、私の偏見の故だろうか。
さて、一方のジェフ。ただでさえ厚くない選手層から、生え抜きの主力2人をごそっと引き抜かれた。
この2人の移籍がジュビロから正式発表される前日に、ジェフにとっては最大の懸案事項だった「オシム留任」が報道された。
実は、オシムの去就がはっきりせず、2人の移籍が噂になっていた時期には、「2人がジュビロに移り、これじゃやってられないとオシムも手を引いたら、ジェフは壊滅だな」などと、いたましい気分でいた。
とんでもない間違いだった。私にはオシムという人が全然わかっていない。
留任決定のタイミングを見ると、むしろオシムは、2人がクラブを去ったからこそ、今季もジェフを引き受ける気になったんじゃないだろうか、とさえ思えてくる。
オシムは選択肢がなければないなりにチームを作る。手持ちの戦力をやりくりし、不足分は選手を鍛えて育てあげ、どうにか闘える状態にもっていくという過程に、彼は監督としての喜びを感じているのだろうと思う。
戦力の充実したチームでやりたいのなら、欧州からいくらでもオファーがあるはずだ。代表監督へのオファーだってあるだろう。それでも彼はジェフを選ぶ。
かつて戦力を持て余して失敗した監督は、再び持て余さんばかりの戦力を与えられた。
育成上手な監督は、ただでさえ少ない戦力をさらに減らされ、意欲を燃やしている。
見事なまでに対照的な状況にある2人の監督が対決する今季の“遺恨試合”、今から楽しみだ。
追記:
尊敬する武藤さんが、2/25のエントリー「山本氏の収集癖」で、山本ジュビロの敵は「質量ともに抱え過ぎた選手なのではなかろうか」と書いておられる。意見が合って嬉しいのでTBさせていただきます。
さらに追記:
4/13に行われた今季最初のジュビロ-ジェフ戦は3-1でジェフの圧勝。茶野が退場、村井はジェフの3点目につながるミス、チェ・ヨンスは途中交代(代わったカレンが唯一の得点)。愛犬家の皆さんはさぞや溜飲が下がったことだろう。
試合後の会見でオシムはこう話している。
「ジュビロというのは一つの世代で成り立っていて、そこからチームを変えるのは難しいと思う。すごく彼らのいい時代というのが一つ区切りがついたのではないか。新しいチームを作るには時間が必要だ。ただ、ジュビロがいいチームになるということに疑いはない。以前のジュビロのようなエレガントなプレーはしないかもしれないが、ガツガツいくような強いチームにはなるのではないか。ただし、忍耐は必要だろう。」
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コメント
ジュビロが好きになって8年目になります。昌邦さんウォッチャーとしても同じ年月になります。仕事でお目にかかったこともあり、基本的に好きな人の為、念仏の鉄さんのお言葉ひとつひとつが痛く感じます。
とにかく勉強家で、コーチとしての素質もあると思います。豊富な知識と経験があることも確かです。でも、それはコーチとしてだけなのかも・・・?教えることと、監督業とは全く別のものなのだろうなぁ、と思う今日この頃です。監督として秀でていると私が思う人(岡田武史さん、広岡さん、星野さん、など)って、何かこう「これだ」みたいなものがあり、それに選手が納得してついて行ったから成功したのだと思います。
昌邦さんには、「これだ」を身に着けてもらい、すぐにまた優勝、とかではなく、ジュビロの世代交代をクラブ全体で一丸となって成功させる、そしてACLの常連となり、世界クラブ選手権に今度こそ出る、そんなチームにして欲しいと思います。
投稿: たむらん | 2005/01/21 12:28
ちょっと山本さんには厳しい書き方になってしまいましたね。なんだかいつも、たむらんさんが贔屓にしてらっしゃる人に厳しくなってしまって恐縮です。
私も、山本さんが90年代以降の日本サッカーに果たしてきた役割には敬意を抱いています。ただ、本当に彼に失望したのは、アテネで連敗したことよりも、3試合が終わった後で「ドイツに向けて、いい経験ができた」と言い出した時でした(大会前に「アテネ経由ドイツ行き」と言い出した時に気づくべきでしたが(笑))。
トルシエはテストと本番を厳然と区別する人でした。ジーコは親善試合も含めたすべてを全力で勝とうとします。彼らに比べ、山本さんには「目の前の試合を勝ちとる執念」が希薄に見えてしまうのです。
だからアテネの後、彼にはジュビロを離れることを期待していました。勝敗という結果だけを問われる立場に身を置くことで、勝負師として一皮むけるのではないかと勝手な期待を抱いていたのですが、そうはなりませんでした。
清水、早野、西野、原ら生え抜き監督たちが次々と第2のクラブを率いる中で、山本さんひとりが、いまだにJFL時代の枠組みに生きている、と言ったら、さらに酷な言い方になってしまいますね。ぜひ予想を裏切ってジュビロを強くして、今年の終わりごろに私に自己批判させていただきたいと、これは本当にそう思っています。
投稿: 念仏の鉄 | 2005/01/21 15:33
実はジェフユナイテッド市原・千葉もオシム続投については非常に悩んでいたようです。
オフィシャルサイトの新体制発表時の祖母井さんの「オシム依存症」という言葉が端的に悩みを表現するコメントです。
ジェフのチームカラーが見えずに、オシム監督のカリスマ性と影響力がジェフそのものと同一視されることに危機感を覚えているようです。
まだご覧になっていないならご一読を。
リンクは張れないみたいなので検索してくださいませ。
山本さんに決定的に欠けているものはカリスマ性だと思いますが、それは多分変える事の出来ない
本質であり、そこにこだわるようなら厳しいことを言いますけど成功することは難しいと思います。
カリスマ性のない監督はどうしているかというと、徹底的に理論で勝負して成功している例が大宮の三浦監督(彼の支持者にはきついかも知れません)と思います。
監督の資質として一番重要なのは、選手・スタッフの信頼を勝ち取るまでのプロセスをいかに短く出来るかどうかなのだと個人的には思います。
理論をベースに実績を積み上げる、カリスマ性をバックボーンに大胆な作戦を仕掛けるというアプローチの違いであり、集団での目的達成のためには明確な指揮系統が確立された組織を作り上げることが要求されているのであって、どちらも兼ね備える必要はないと思います。
山本さんの不幸は、常に勝ち続けることを要求される立場に居ることですね。回り道をして成功した人もいますし、オシムの場合はタイトル獲得を厳命されているようには見えませんし。
投稿: エムナカ | 2005/01/22 11:04
厳しいお言葉ですが、愛は感じるので全然問題ありませんよ、私のことは気にしないでください(笑)
確かに私も「良いテストになった」という彼のコメントは嫌いです。監督にとってテストでも、選手にとっては、それが練習中のゲームであろうが、親善試合、そして本番であろうが、関係なく、必死だからです。
アテネ組については、毎回テストテストと言われるので、いったい俺はどうすればいいのか?と迷ってしまった選手もいたのかもしれないな、と思います。
さて、ジュビロについてですが、昌邦さんはジュビロの監督になるのは今回が初めてですので、原博実さんや早野さん達とはちょっと立場が違うと思います。フロントも選手もファンも、「ジュビロの監督をやったらどうなるんだろう?」と期待と不安(いつか帰ってきて欲しいと思っていた人ではあるけど、最近の評判が良くないので)が混じっている心境だと思います。
投稿: たむらん | 2005/01/22 15:32
>エムナカさん
ジェフ公式サイト拝見しました。ありがとうございます。
新しいシーズンのスタートとしては、ほろ苦い会見だったようですね。
>カリスマ性のない監督はどうしているかというと、徹底的に理論で勝負して成功している例が大宮の三浦監督
岡田武史監督が突然、代表監督になった時に、このことでずいぶんと悩んだ、と後の著書などで語っていますね。選手を説得するには理論しかなかった、と。しかし、今なら岡田監督の言葉に耳を傾けない選手はいないでしょう。
理論から入っても、カリスマ性から入っても、成功した指導者は、結局は、あるレベルで双方を兼ね備えることになるのだろうと思います。「カリスマ性」が長嶋茂雄的なオーラのことを言うのなら岡田さんにはありませんが(笑)、しかし「理屈を超えて他人に影響を及ぼす力」だとすれば、彼の実績が充分にその役割を果たしています。
三浦監督は、JリーガーどころかJFLにさえ関わりがなかったという点で画期的な人材ですね。今季の大宮も楽しみです。
「山本さんの不幸」についてはご指摘の通りだと思います。オシムの場合、厳命はされてないでしょうけど、優勝できなかったことに最も不満なのは彼自身ではないでしょうか(笑)。
>たむらんさん
温かいお言葉、ありがとうございます(笑)。
>原博実さんや早野さん達とはちょっと立場が違うと思います。
この例え話を書いた時には「育ったクラブを離れてこそ一人前」みたいな気分がありました。反面、例に挙げた人たちは、単に育ったクラブの監督としてあまり成功しなかったからそうなっているわけで、それほど「他人の飯」にこだわる必要もないのかな、という気もしてきました。
投稿: 念仏の鉄 | 2005/01/24 10:13