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代理人の本分。

 井口のホワイトソックス入りが決まったという。
 MLBの移籍市場は、12月上旬のウィンターミーティング期間から、急速に商談が活発化する。市場に出ていた大物FAたちの行き先が数週間でだいたい落ち着いた後、要補強ポイントの残るGMたちは、日本からの未知の才能にようやく本腰を入れて取り組むことになる。薮、井口が(もしかすると中村ノリも)相次いでこのタイミングで決まった背景は、たぶんそういうことだろう。

 井口とWソックスとの交渉は、昨年末ごろから、ずいぶん難航しているように見えた。井口の代理人リチャード・モスは「こんな安値は井口の能力に対して失礼だ」とWソックスの提示額を批判し、WソックスのGMは「何度電話を入れても代理人から返事が来ない。こんな侮辱を受けたのは初めてだ」と不満を表明し、それぞれがメディアを通じてののしりあっていたので、てっきり破談になるものと思っていた。
 Wソックスも提示額を上積みしたようだが、一説には、井口がモスを解雇してWソックスと直接話をまとめたとも報じられている。http://www.sponichi.co.jp/usa/kiji/2005/01/26/02.html これはにわかに信じがたい。他の代理人に乗り換えたというならともかく、井口がそんなに英語が達者なのかどうか(笑)。

 リチャード・モスは、かつて横浜ベイスターズの渉外担当として優秀なメジャーリーガーを次々と獲得した牛込惟浩が「信頼できる代理人」の筆頭に挙げた人物だ(梅田香子『スポーツ・エージェント』(文春新書)による)。MLBの選手組合がFA制度を勝ち取った1960年代後半から70年代にかけて、組合の顧問弁護士として活躍した人物でもある。それほどの大物でも、常に交渉がうまくいくとは限らない(年齢も70を超えているし、すでに一線を退いた過去の人なのかも知れない)。
 もっとも、松井稼頭央の契約には及ばないまでも、それなりの金額でそれなりの球団との契約が成立したのだから、今回のモスの仕事は(解任されていないのなら)、鮮やかではなくとも、失敗とはいえないだろう。

 いずれにしても、一連の経緯を見ると、結局はモスの駆け引きよりも井口本人の意思が、Wソックスと契約することを決めた、という印象を受ける。そうであったとしたら、それは正しいことなのだ。代理人は、あくまで本人の代理なのだから。

 一方で、サッカー界では日本人の代理人が話題になっている。浦和からマリノスに強引に移った山瀬功治、鹿島からマルセイユへの移籍が決定的になった中田浩二、物議をかもした2人の代理人が同一人物だというので、その代理人・田邊伸明のblog http://plaza.rakuten.co.jp/dairinin/に、浦和や鹿島のサポーターから、ずいぶんと非難のコメントが集中している。Jリーグの鈴木チェアマンも、中田浩二の移籍について「3者の妥協点を調整するのがエージェントだが、今回は若干の問題がある。どちらかが大損するようではいけない」とコメントした。
 チェアマンの談話は、代理人にそこまで要求するのは筋違いだろう。今回の件に限って言えば、クラブ同士のビジネス上の戦いに鹿島が敗れた(=国際的な移籍ルールに対する認識不足。広山が市原を出た時にも似たようなことがあったはず)ということであって、代理人が介在しようとしまいと同じことは起こりうる。

 田邊のblogへの書き込みで印象に残るのは、「中澤、山瀬、中田浩二と、あなたが手がける移籍は、どうしてどれも古巣から恨まれるようなやり方になるのか」という意味のコメントが繰り返し見られることだ。
 確かに、中澤のヴェルディからマリノスへの移籍も含めて、どれも強引かつワガママな移籍という印象は否めない。それが選手にどれほど好影響をもたらしたとしても、出ていかれるクラブとサポーターにとっては決して納得できるものではないはずだ。
 だが、逆に言えば、この3つの移籍は、どんな手を使ったところで、古巣の側が円満に送り出すという形が想像できない。チームにとっては絶対手放したくない選手ばかりなのだ。それでも移籍することが選手本人の意思なのであれば、移籍を実現させた田邊の手腕は、(たとえ遺恨を残しかねない乱暴なやり方であったとしても)選手にとっては有益ということになる。

 田邊に非難が集中するという現象は、選手への愛情の裏返しでもあるのだろう。選手本人を悪く思いたくない気持ちが、「あいつに吹き込まれたせいだ」と代理人を悪役に仕立ててしまう心理的メカニズムも感じられる。
 だとすれば、選手の代理としてファンの憤りを受け止めるのも、代理人の使命のうちなのかも知れない。blogへの書き込みに生真面目に答え続ける田邊のコメントを読むと、そんな気もしてくる。
 彼のやり方を全面的に肯定したり支持するわけではないけれど、例えばジャイアンツの上原が、球団と代理人交渉を続けていながら、同時に自分自身もHPやメディアを使って交渉内容に関わるコメントを発表するというやり方は、あまり釈然としない。あれでは球団との齟齬を深めるだけではないだろうか。代理人に戦略性が感じられないのが気になる。
 そういう半端な例に比べれば、汚れ役に徹して選手を守っている田邊の姿勢には、はるかに高いプロ意識が感じられる。
 もっとも、NPBの代理人に関する現行のルール(弁護士に限る。一人の代理人の顧客は一人まで)が存在する限り、日本野球界にまともなプロの代理人が育つはずもないのだが。

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