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「中の人」の値打ち。

元トラッキー 今年は楽天“変身”
 横浜の人気マスコットが楽天に“強奪”された—。元阪神マスコット「トラッキー」を演じ、横浜では派手なパフォーマンスで03年夏に登場以来人気を集めた『ブラックホッシー』。その着ぐるみの中に入っていた男性(30)が楽天に引き抜かれたことが19日、分かった。大魔神・佐々木と並ぶ横浜の“看板スター”を失い、球団関係者も困惑の色を隠せない。(デイリースポーツ)

 いやあ、意表を突かれました。楽天はいいところに目をつけた。やり方が少々強引だから、単純に「いい話」とは言い切れない面もある。けれども、「中の人」の代替不能な固有の価値が認められたという点で、これは快挙だ。

 一昨年の開幕まもないころ、阪神のトラッキーの中の人が球団に解雇されたことは、阪神ファンの間で話題になっていた。プロレス風のパフォーマンスを派手にやりすぎたことが球団幹部の不興を買ったらしい。ネット上で復活への署名活動が行われていたのも記憶している。
 私は迂闊にも知らなかったのだが、「中の人」はその年のうちに、横浜ベイスターズに加入していたようだ。もともと、横浜スタジアムで佐伯と格闘する姿が話題になっていたくらいだから、自然な流れではある。横浜は彼のために新しいキャラクターを作ったが、登場は週末に限定されていた。ま、もともとの着ぐるみスタッフもいるし、予算も限られていたのだろう。

 チアリーダーを公募して話題をつくった楽天イーグルスのことだから、マスコットに対してもかなりの検討をしたのだろう。そして、この世界の“第一人者”を調べ、彼を獲得できる可能性があると見て、彼の琴線に触れそうな好条件(金額だけではなく、新球団の新マスコット運用を彼に任せ、主催ゲームのすべてに登場することになるらしい)を用意したのは、見事な手腕というほかはない(以上はスポーツ各紙の報道による。まだ、楽天が彼の獲得を発表したわけではない)。
 私は楽天が「人気者」を獲得したことを褒めているのではない。冒頭にも書いたように、「中の人」という、おそらくこれまでの野球界では、いくらでも替わりがいる道具だと思われていた職種において、優れた技能を持つ人物を厚遇する姿勢を示したことを評価したい。

 プロ野球球団という事業体には、さまざまな職種がある。そして、外から見ている限り、監督と選手以外のスタッフの多くは、不当にないがしろにされているとしか思えない。
 毎年のオフの人事を見ていれば、どの球団でも、コーチやスカウト、編成部門の人々がコロコロと動かされていることは、よくわかる。名人と呼ばれるスカウトでも、ひとつの球団でスカウト生活をまっとうすることは少ない。
 ビジネス書ふうに言えば「コア・コンピータンス」であるはずの、チームの戦力づくりそのものに関わる職種ですらそうなのだから、さらに周辺的な職種の人々は言うまでもない。何日か前、どこかの新聞の夕刊で、MLBマリナーズのトレーナーを務める男性が、「日本の野球界はスタッフの技術や知識を尊重しない」という意味のことを書いていた(もっとも彼の経験はオリックス・ブルーウェーブに限られるようだから、単にオリックスがダメな組織だっただけなのかも知れないが(笑))。

 「それでも好きな野球に関われれば満足」という意識が、きっと人々のモチベーションを支えているのだろう。そんな彼らの野球に対する忠誠心に付け込むような形で、多くの球団は運営されてきたのではないかと、私は疑っている。
 もちろん例外はあるだろう。だが、それは本社から金庫番として送り込まれた人物が、たまたまスポーツ・マネジメントの手腕を持っていたという幸運に恵まれただけで、そのナレッジ・マネジメントが球団に定着し受け継がれていくわけではないので、後任が来れば、また元通りということになりかねない。少なくとも、本腰を入れて「球団経営のプロ」を育てようとしている球団は少なく、必然的に「球団運営のプロ」が育つ余地も減っていく。
(このへんは全部、外から見た憶測です。内情をご存知の方の反証を歓迎します)

 だからこそ、楽天イーグルスの「中の人」に対する姿勢は歓迎できる。
マスコットの「中の人」だけでなく、ユニホームを着ていないベンチの「中の人」や球団事務所の「中の人」に対しても同じような姿勢をとっていくのであれば、この球団は面白くなるだろう。

(しかし、昨夜のNHKスペシャル『球団創設』では、ネット裏の座席幅を広げたいという社員の提案を、三木谷オーナーは「高い席が売れなければ儲からないんだから、席数を減らすのはダメ」と思い切り却下していた。正論ではあるが、「そりゃ、貴賓室から見てるオーナーには関係ないだろうけどさ」と皮肉のひとつも言いたくなる光景ではあった)

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コメント

ただでさえ、第2期が終わっても最大人数28000人
ですから、席広げて減らすと、下手すると日本シリーズの開催が危ぶまれる可能性が有りますし、収入上
のビジネスモデルを楽天が示さなければいけない以上
むしろ席広げない事を示した三木谷氏の判断に感心しましたけどね・・・。

投稿: サモノ | 2005/02/20 19:33

>サモノさん
いらっしゃいませ。

>むしろ席広げない事を示した三木谷氏の判断に感心しましたけどね・・・。

おっしゃる通り、ビジネスとしては、まっとうな判断だと思います。
でも、私はスタジアムで狭い椅子に座るのが嫌いなんですよ。誰かがトイレに行くために、その列の全員が起立しなければならないような席はね(笑)。
従来の球団経営を批判して「ボールパーク」を打ち出している球場の改装について、ああいう身も蓋もないやりとりを見るのは、楽しいことではありません。私は経営評論家でも株主でもなく、観客として楽天にかかわるつもりですから。
あそこで三木谷さんが求めていたのは「椅子を広げることでいくら儲かるのか」という数字的な根拠だったと記憶しています。広い椅子と収入が両立すればいいわけで、提案した社員さんには、もう一頑張りしてもらいたいところでした。
実際にスタジアムの椅子が狭すぎるかどうかは、いずれ実地に確認してみるつもりです。

投稿: 念仏の鉄 | 2005/02/20 22:29

初めまして。

関連記事を探していたらたどり着きました。
すごく面白かったのでトラックバックさせていただきました。
これからも拝見させていただきます。

ところで、念仏の鉄というHNは「必殺仕置人」の山崎努の役ですよね?マイク松がもう大ファンです。「新・必殺仕置人」の方が好きだといっています。

投稿: 富井と松 | 2005/02/20 23:35

>富井と松さん
ご来訪ありがとうございます。
お二人のblogは軽妙でいいですね。私はNFLには疎いのですが楽しめます。当blogもああいう芸風にするつもりで始めたのですが、うっかり重厚長大になってしまって、なかなか抜け出せずにいます(笑)。

HNの由来はご指摘の通りです。何のヒネリもなく使っていてお恥ずかしい。私も「新」の方が好きです。最終回のビデオは涙なくして見られません。

投稿: 念仏の鉄 | 2005/02/21 00:03

富井と松の松の方です。早速のコメントありがとうございます。

> 当blogもああいう芸風にするつもりで始めたのですが、うっかり重厚長大になってしまって、なかなか抜け出せずにいます(笑)。

いやいや、あの文章はこちらは書こうと思ってもかけませんので。勉強になります。

> 最終回のビデオは涙なくして見られません。

ですよねー!!今でも色あせない芸術性は最高の時代劇の一つだと思います。
鉄さんには「松」は巳代松の松だと思って頂ければと。
関係ないこと書いてすみませんが、どうしても。今後ともよろしくお願いします。

投稿: 富井と松 | 2005/02/21 10:28

>鉄さんには「松」は巳代松の松だと思って頂ければと。

てめぇ、生きてやがったのか…。


あ、これは主水の台詞か(笑)。

投稿: 念仏の鉄 | 2005/02/22 10:19

こんにちわ。

実はこのコラムを読み損なっていて、今更ながらコメントをさせていただきたいと思います。申し訳ありません(m_m

私は昨日の自分の日記で楽天をコキ下ろしてはいましたが(苦笑)能力のある人材を抜擢する、という点においては念仏の鉄さんのご指摘どおりだと思います。
内情を書かせていただくと、私の面識のある2人組が今年から楽天マーケ部門のスタッフに登用されました。この2人が昨年まで勤めていたのは実は九州のあの球団でして、特に一人は逮捕されてしまったK社長の右腕だった方です。世間では悪い面ばかりが言われていますが、球団経営やホテル経営の改革という面で、K社長の手腕は学ぶべきこともまたあると思います。

話はそれましたが、とにかくそのような場所で改革に携わっていた方々(「異端児」と呼ばれていたそうです)を楽天が引き抜いた。彼らはスタッフにも気を使っているのが伺えます。
(予断ですが、実は私自身にも間接的にですが、マーティン・キーナートより球団インターンスタッフのお誘いを受けてました。誰でもいい、というわけでなくスポーツビジネスを勉強している方を欲しがっているようでした。)

投稿: アルヴァロ | 2005/03/26 20:43

>アルヴァロさん
いらっしゃい。興味深いお話をありがとう。
私も以前マーティー・キーナート氏をぼろくそに書きましたが(笑)、彼はGMという肩書きではあっても、実質的には営業担当(と外国人選手の採用)のようですね。いずれにしても、まだ評価する段階ではありませんが。
高塚氏についても以前ぼろくそに書きましたが、営業上の手腕自体は見事だったと思います。
ロッテのスタッフについても、最近どこかで読みましたが、元週刊ベースボールの記者を採用したり、いろんな経歴の人が入っているそうです。親会社からの出向組だけでない、「プロ野球の球団スタッフ」という業界が成立する素地が、70年を過ぎて、ようやく形成されつつあるのでしょうか。

投稿: 念仏の鉄 | 2005/03/28 00:17

コメントありがとうございます。

キーナートについてのコラムは大変印象に残ってます。どこまで関わっているかはわかりませんが、ハーバードのMBAを取っている三木谷氏とのコンビがまさに米国式の「エンターテイメントとしてのベースボールパーク」を作る方針を作っているのは間違いないでしょうね。リサーチもせずに(しているのか?)日本でそういうコピー的な戦略が通用するのかはわかりませんが、ここまでの感じでは私はちょっと疑ってます(笑)もちろん、時間が経ってからと、実際に見に行ってみないとなかなかわからないですけどね。

投稿: アルヴァロ | 2005/03/28 01:11

>ここまでの感じでは私はちょっと疑ってます(笑)もちろん、時間が経ってからと、実際に見に行ってみないとなかなかわからないですけどね。

ほぼ同感。前にアルヴァロさんのところに書いたように、異常に仕掛けに乗りやすいアメリカ人のようには、なかなか日本の観客は動かないでしょうから、そのギャップをどう埋めるかが鍵でしょう。もっとも、仙台のファンが準備中と言われる「座ってできる雀踊り」にも期待と不安が入り交じりますが(笑)。

投稿: 念仏の鉄 | 2005/03/29 09:34

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