上原君、頼むからカート・フラッドの名前くらい覚えてくれ。
上原浩治がジャイアンツとの契約書にサインしたと聞き、とりあえずは安心した。どれだけ粘ったところで、球団が今春のうちにポスティングに合意するとは到底考えられなかったからだ。
上原についてもジャイアンツについても、私はさほど心配してはいなかった。特に感情的対立になっているふうでもなかったし、自費参加とはいえキャンプでの練習は例年並みに進んでいるのだから、今季を棒に振るとか選手生命にかかわることになる心配はまずない。今季、若手投手が急成長すれば、次のオフに球団の考えが変わる可能性もあるだろう。上原がどうしてもアメリカに行きたいのなら、また次のオフに仕切り直して、合意点を見いだしていけばいい。
…という、わりあいニュートラルな見方をしていたのだが、上原が公式ホームページに書いている「選手の立場」という文章を読んだら、がっくりきてしまった。失望の一語に尽きる。彼は、こんなに幼い人だったのか?
ここには、一連の交渉の間に彼が考えたことが述べられている。
「一番感じたんは、選手の立場ってとても弱いってこと」という総括はいいとしても、球団の選手保留権についての記述は、まったく感心しない。
「メジャーと日本では、今の保留制度ができるまでの過程に違いがある。メジャーでは裁判だか何かの手続きで一旦は保留制度は無効だということになったらしい。」
「要はメジャーでは最初に人権が尊重されていて、保留権がゼロの状態から選手会と経営者側が話し合って決まったこと。でも、日本は最初に無期限の保留権があって、それからFA制度ができた。」
上原は言う。「保留権ってどうやって決まったか、勉強したんよ。勉強したっていっても、人から聞いただけやけどね。」
だとしたら一体誰がこんなふうに上原に教えたのだろうか。彼の事務所のスタッフか、代理人か。もう少し正確に教えてやってほしい。
MLBにも最初は無期限の保留権があった。1922年には最高裁が「MLBは独占禁止法の適応を受けない」という判断を示して、これを支持した(これが以後数十年間にわたり保留条項の撤廃を妨げることになる)。
保留条項に初めて挑戦したメジャーリーガーは、セントルイス・カージナルスの黒人外野手カート・フラッドだった。1969年のオフ、フィラデルフィア・フィリーズへのトレードを通告されたフラッドは、これを拒否し、MLB機構を独占禁止法違反で訴えた。
ジャッキー・ロビンソンの9年後にデビューし、まだ人種差別が残る野球界を生き抜いてきたフラッドの、誇りを賭けた戦いだった。訴訟は最高裁まで争われ、結局はフラッドの敗訴に終わる。
フラッドは、70年シーズンは裁判に専念してプレーせず、71年、ワシントン・セネタースに移籍したが、15試合に出ただけで、シーズン途中で引退した。最高裁判決が下されたのは72年。69年シーズンには33歳で.285を打ったフラッドは、結果的に自ら起こした訴訟によって選手生命を絶たれた。
このフラッド訴訟をきっかけに、野球界には「10年間野球界に所属し、5年間同一チームに在籍した選手はトレードを拒否できる」という「10 and 5ルール」が作られ、同時に年俸調停制度が始まった。そして75年、オークランド・アスレチックスのエース、キャットフィッシュ・ハンター投手が、オーナーの契約不履行による年俸調停で、フリーエージェントの権利を認められる。同じころ、契約書にサインしないままプレーを続ける選手が現れはじめ、ドジャースのエース、アンディ・メッサースミスが起こした調停で、ついに球団の保留権を否定しフリーエージェントを認める裁定が下った。
翌76年、数百人に登る選手が契約更改せずにシーズン入りし、これを背景に選手会はMLB機構と新たな労使協定を結ぶために交渉を重ねた末、保留権については6年という期間で合意が成立した。それがFA制度のはじまりとなった。
かなり駆け足で経緯を説明しようとしても、このくらいの長さにはなる。2リーグ制によるMLBが始まってから、FA制度の確立まで75年かかっているのだ。それを「裁判だか何かの手続き」の一言で片づけるのは、フラッドやメッサースミスに失礼ではないか?
上原が希望するポスティングが実現しなかったとしても、彼は故障がなければ4年後にはフリーエージェントの権利を得る。それは紛れもなく、選手フラッドの屍の上に築かれたものだ。「メジャーでは最初に人権が尊重されていて」という言い方は、あまりに粗雑だ。フラッドやその他の人々が、体を張って自らの人権を尊重させたのだ。
いきなりフラッドの名を出しても、上原は面食らうだけかも知れない。では、野茂や伊良部ならどうだろう。
彼らが非難の嵐の中でアメリカに渡ってから、まだ10年かそこらしか経っていない。日本でもアメリカでもプレーするチームを失うかも知れないというギリギリの状況で、彼らは敢然と海を渡り、そこから少しづつ、日本人選手がMLBに移る道が整備されてきた。ポスティングもまた、そんな流れと試行錯誤の中から生まれてきた制度だ。苦し紛れの妥協策だから、球団も選手も満足してはいない。だが、ないよりはましだ。そういう過渡的なものでもある。
「ポスティング制度だって、最初からなければ俺も頼まへんし、こんなことにならなかった」
それなら、時計の針を10年分巻き戻して、野茂と同じ場所からやり直したいとでも言うのだろうか。
ジャイアンツに対する述懐にも、同じような印象を受ける。
「逆指名って制度があって「入団してください」って言ってくれた球団の中からジャイアンツを選んだだけ。日本のプロ野球で野球をするなら、一番、注目されて設備や環境の整ったジャイアンツがいいと思って選んだんだよ。乱暴な言い方になるけど「入れてください」ってお願いして入団したのなら「メジャーに行かせてください」って簡単には言えないけど、必ずしもそうじゃない。」
それは「乱暴な言い方」ではない。「子供じみた言い分」という。
上原がジャイアンツの主力投手であることのメリットを存分に享受していることに、疑う余地はない。成績そのものは彼の努力の成果であるにせよ、他球団で同じ成績を残したとしても、彼が手にしている高額の報酬や、テレビやラジオへの出演機会や、絶大な人気を得ることはできない。それは上原自身にもわかっているはずだ。1年目のシーズンが終わった時、彼は「野球をやるなら、やっぱり巨人ですよ。松坂君がいくら甲子園のヒーローでも、ひとりで西武球場を満員にはできないでしょ」と話していた。それは、上原自身にもあてはまる。
「入れてくださいとお願いしたわけじゃない」という上原の論理に従うなら、くじ引きドラフトによって自分の意志と無関係にジャイアンツ入りした松井秀喜が、MLB行きの決断を発表する際に「裏切り者と呼ばれるかも知れませんが」と苦渋の表情を浮かべていたのはなぜだろう。
松井が気兼ねしていた相手は、おそらくはオーナーや球団代表ではない。それは東京ドームを訪れる観客に対する気持ちであり、同時に、原監督(当時)や長嶋前監督や、その他の数多くの先人たちに対する気持ちだったのだろうと私は思っている。
ジャイアンツといえども、最初から「一番、注目されて設備や環境の整った」球団だったわけではない。川上哲治が入団した昭和12年には、プロ野球自体が正業とはみなされていなかった。「昭和9年に発足して、23年間も赤字を続けたんですよ」と渡辺恒雄前オーナーは語っている(小林至「合併、売却、新規参入。たかが…されどプロ野球!」より)。川上や長嶋茂雄や王貞治ら、折々の選手たちが懸命にプレーすることによって、プロ野球は社会に認められ、ジャイアンツのユニホームは尊敬と羨望のまなざしを受けるようになった。
上原が満喫しているジャイアンツの社会的ステイタスは、そうやって先人が築いてきたものなのだ。それをわかっていたからこそ、松井はあれほど苦悩したのではなかったか。
さんざんいい思いをしたあげくに、出ていきたいとなったら「入れてくださいとお願いしたわけじゃない」などと、いい大人が口にするものではない。
上原は、長嶋や松井の前でも、同じ言葉を口にできるのだろうか。
「選手の立場ってとても弱い」と上原は言うけれど、今の彼が選手生命を賭けて戦わなければMLBに行けないほどには弱くはない。
彼がポスティングを要求できるのも、普通に投げていればFA権が手に入るのも、MLBへの移籍を計画できるのも、並外れた大金と名声を得てこられたのも、すべて彼の先輩たちが築き上げ、勝ち取った遺産のおかげだ。彼自身の力で得たものは、その一部に過ぎない。
上原が先日サインした契約書に記された今季1年の報酬額が、現在の彼の監督が、203勝を挙げた18年間の現役生活で得た報酬額の合計を上回っていると知ったら、私がここで書いていることも、少しは理解してもらえるだろうか(海老沢泰久「ただ栄光のために」によれば、堀内恒夫の年俸がもっとも高かった年が1800万円。これを18倍しても3億6000万円には及ばない)。
カート・フラッドは裁判を始める前、「それをやりだしたら、もう野球界では食っていけなくなるぞ」と同僚に言われて、「そんなことはわかってる」と答えた。選手会の会合の場では、こう話したという。
「いま自分がやろうとしていることは、すべての野球選手のためになることだ、保留条項を抹消すべきときがきているのだ」
そんな先人に対して、この「選手の立場」という文章は、あまりにも敬意を欠いている。それが哀しい。
保留制度について人前で語ろうとするのであれば、他人から聞かされた粗雑な要約を受け売りするのではなく、せめてフラッドとメッサースミスのことくらい自分自身で勉強してきてほしい。調整法にせよ何にせよ、他人任せにせず自分で納得してからはじめるのが、彼のスタイルではなかったのか。
念のため繰り返しておくが、私は上原がMLBに行きたがっていることや、ポスティングを要求していることを批判するつもりはない。ただ、この「選手の立場」という文章の論理の未熟さに呆れているのだ。私がここに書いたことは、彼自身が属する業界の歴史なのだ。この程度のことを踏まえずに物を言うのは恥ずべきことだ。これが30歳になろうとしている大人の、しかも球界を代表する投手の言うことかと思うと、ただただ情けない。
私は、プロフェッショナルの職業人としての出処進退のあり方を、幾多のスポーツ選手たちから学んできた。20歳に満たない少年少女に畏敬の念を抱くこともある。だが、今の上原は手本にしたくはない。
「球界再編の年っていうなら、もっとそういう論議をして早く新しい制度を決めてほしいね。」
ここには彼自身が論議に貢献しようという意志は感じられない。まるで他人事のような彼の言葉を、彼の後輩たちはどう思うだろうか。
「選手の立場」だけではなく、「上原浩治の立場」も少しは考えてもらいたい。いつまでも雑草ではないのだ。今の君は、日本代表のエースなのだから。
※カート・フラッドおよびMLBのFA制度の成立過程についての記述は、主に以下の資料を参考にしています。
マービン・ミラー『FAへの死闘』ベースボール・マガジン社
デイビッド・ハルバースタム『さらばヤンキース』新潮文庫
ウィリアム・B・グールド(スタンフォード大学法学部教授)による講演 http://www.jil.go.jp/kouen/no_23.html
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コメント
今日はじめて読みましたが、おもしろい・・・。
「もっとそういう論議をして早く新しい制度を決めてほしい」ですか。
「自分がやるのだ」という先人の言葉と並べて読むと、悲しくなりますね。
投稿: nobio | 2006/01/17 22:58
>nobioさん
コメントありがとうございます。もう11か月前になりますが、無闇に力が入って、ほとんど徹夜で書いたエントリなのに全く反響がなくて寂しかったので、嬉しいです(笑)。
投稿: 念仏の鉄 | 2006/01/18 03:01
「最近のコメント」に上がっていたので読んでみたら、面白いじゃないですか! まったく同感です。
でも上原を責めるのはちょっと可哀想かなぁと思いました。いや、ジャイアンツという超「恵まれた立場」にまるっきり無自覚なのには私も結構ムカつきましたけど(笑)。だけど、この程度の一知半解で「大リーグ挑戦」とか考えているとしたら、ハラハラしてしまいますね。上原くん、人生、間違えそう。
でも今のプロ野球のシステムの中では、彼がちゃんとしたことを学ぶ機会は確かに絶無でしょう。そしてもともとプロスポーツ選手というのは、そういう管理系の仕事には向いてない人たちなんですから、無知であることを責めても仕方がない。そういう人たちの人生を守り、世間へのちゃんとした向き合い方を教えるという意味でも、「交渉代理人」の制度を入れることは有意義だと思います。
上原くんも自分が信頼する代理人の「先生」から教えてもらったら謹んで聞くでしょうし、先人への感謝と敬意も持てると思います。少なくとも大リーグの制度に対するちゃんとした知識、これは選手本人が自分のキャリア選択を間違えないようにするために必須なのですから、利害が対立しない立場(つまり自分が選任した代理人)に教えてもらうのが一番妥当なことです。
(球団というのは、少なくとも年俸交渉するときは、真っ向から利害が対立する相手であるということが選手に自覚されていないというのが一番根の深い問題かもしれません。)
投稿: 馬場伸一 | 2006/01/18 17:07
>馬場伸一さん
2005年2月の世界へようこそ(笑)。
>そういう人たちの人生を守り、世間へのちゃんとした向き合い方を教えるという意味でも、「交渉代理人」の制度を入れることは有意義だと思います。
しかし現実には、上原には代理人がついているにもかかわらず、こういう文章が公表されているわけです。上原が公式サイトに書いたMLBのFA制度に関する見解が、この代理人から教えられたものだとしたら、ずいぶんと歪んだ知識を植え付けたものですし、そうでないのなら、公式サイトにアップした時点で修正を求めるのが代理人の責務ではないでしょうか。
上原の代理人は、一昨年のオフだったか「ジャイアンツは自分を代理人と認めない、名誉棄損だ」とメディアに話したこともありました。代理人が自分自身の名誉のために交渉相手と喧嘩することが、何かクライアントの利益になるのでしょうか(代理人業界の利益にはなるかも知れませんが)。
優れた代理人がおっしゃるような役割を果たしうることは否定しませんが、このような実例を見ていると、代理人制度の導入そのものが選手の教育に結びつくとは私には思えません。
野球界の歴史と、先人への敬意を若い選手に教えるのは、代理人ではなく、野球人の仕事です(豊田泰光さんが、まさにそういう仕事に精根を傾けることで殿堂入りを果たしました)。
投稿: 念仏の鉄 | 2006/01/19 00:45
>しかし現実には、上原には代理人がついているにもかかわらず、こういう文章が公表されているわけです。
あっちゃー、そうなんですか! 失礼いたしました。
それにしても上原へのいい加減な教示といい、球団とのトラブルといい、その代理人も困った人ですね。トラブルを回避するために介在する代理人がトラブルを起こしててどうするんでしょうね。
代理人制度には野球界というインナー・サークルに「健全な世間の常識」を導入する効果を期待していたんですが、代理人の質が悪ければ逆効果ということなんですよねぇ。すっごい「とほほ」な気分になりました。
投稿: 馬場伸一 | 2006/01/19 13:09
無知さにかけては私も上原にひけは取りません。
http://www.kouji19.net/cgi-local/diary2.cgi?key=050217
上原は「まず疑問に思ったのは、サッカー界は1年おきの契約で、なんで野球界は経営者側に長い保留権があるかってこと」と書いてますが、これ、私にとってもかねがね不思議です。サッカー界にはドラフトもないみたいだし、それでも、そのやり方が戦力不均衡を招いているという声も聞かないし、サッカーと野球ではどうしてこれほど違うのでしょうか。教えて君で恐縮ですが。
そう言えば野球界の「選手の年俸を必ず球団関係者がリークする」という風習も不思議です。サッカーでもやってるのに私が見落としてるのでしょうか。
投稿: nobio | 2006/01/19 19:55
私が認識している範囲で。
(真実と異なるかもしれませんが)
野球はドラフト会議で「外部の人材を指名」し、サッカーは主に「下部組織の選手との契約」によってプロ選手を確保しています。
全国高校サッカーで発掘される選手もいますが、下部組織としてアマチュアチームを保有するサッカークラブの場合、「自前の選手」をプロとして使うことができます。
サッカーでは、クラブ所属・未所属を問わず「有望選手はプロとして契約する」という、ただそれだけの単純なルール(?)です。
ドラフトで全球団一斉にプロ候補を選択するプロ野球、テストによってプロ資格の認定を決定するボクシング・ゴルフ・ボウリングなどと違い、サッカーの場合は欧州のクラブチームを範にしているようですね。
サッカーも複数年契約があり、契約満了までに移籍する場合は移籍先のチームから「移籍金」が払われます。有力選手に対し、クラブ側としては「移籍金狙い」で、最初から複数年契約を結ぶようですね。
投稿: はたやん | 2006/01/19 20:31
>馬場伸一さん
>代理人制度には野球界というインナー・サークルに「健全な世間の常識」を導入する効果を期待していたんですが、代理人の質が悪ければ逆効果ということなんですよねぇ。
日本野球界の代理人は、まだ歴史が浅いこともあって、「野球選手の代理人に必要な素養」が何であるかということは、まだ確立されていないのだろうと思います。
>nobioさん
>サッカー界にはドラフトもないみたいだし、それでも、そのやり方が戦力不均衡を招いているという声も聞かないし、サッカーと野球ではどうしてこれほど違うのでしょうか。
「戦力の均衡」に関する最大の違いは、サッカー界に「戦力均衡化」という目標はない、ということです。世界のどこでも、金のあるクラブは国内外から有力選手をかき集めてどんどん強くなり、貧乏なクラブは引き抜かれるばかりです。
日本でも、このオフに浦和レッズがやっていることから見れば、読売ジャイアンツなんて可愛いものです(笑)。
しかし、そのことがJリーグのためにならないとは誰も思っていないようです。それは主に次の2つの理由によります。
上位クラブについては、Jリーグ・天皇杯優勝の先にアジアチャンピオンズリーグという舞台があり、これに優勝すればトヨタカップに出られるという遠大な目標があるので、どんどん強くなってくれた方が日本サッカーのためになる、という事情があります。
下位クラブについては、二部リーグ上位クラブとの入れ替えが恒常的に行われるので、一時期の阪神タイガースのようにとてつもなく弱いチームが毎年リーグに居座って試合をつまらなくする、という事態は起こりにくくなっています。
そう考えると、NPBが「戦力均衡化」を目指さなければならないのは、「閉じたリーグ」に特有のことだと言えそうです。
プロサッカーでも昔は保有権という考え方がありましたが、欧州ではベルギーのボスマンという選手が移籍の自由を欧州委員会に提訴して勝訴して以来、野球のような保有権は認められなくなりました。
Jリーグには、選手を獲得したクラブは、元の所属クラブに求められた場合、年俸×移籍係数の移籍金を支払わなければならないというルールがあります。移籍係数は若いほど高く設定されています。ただし、これはあくまで国内ルールで、海外クラブには通用しません(中田浩二が鹿島からマルセイユに引き抜かれた時には、このギャップを突かれて、主力をタダで失うことになりました)。Jリーグも世界市場の一部なので、世界市場が全員FAなら、それに準じざるを得ないということです。
ついでに言うと、Jリーグで新人選手獲得競争の過熱による契約金高騰や裏金騒動が起こりにくい理由としてはは、次の3点が考えられます。
1)サッカー選手はFAなので流動性が高く、新人選手に巨額の投資をしても、回収することが難しい。
2)野球では個人の能力がきわだって高ければチームが弱くても好成績を残せる(=金をくれるならどの球団に入っても大差ない)が、サッカーのプレーは周囲の選手との関係性の中で表現されるので、自分のプレースタイルに合致するチームを選ばなければ試合出場や活躍ができない(=金以外の要因で選ぶ必要がある)。
3)Jリーグに限っていえば、新人に大金を払う余裕がない(しかもそれを公表していて、スター選手でさえ年俸が安いのが周知のことだから、大金を要求しづらい)。
また、はたやんさんがご指摘のように、下部組織から昇格する選手の比率も最近は高まってきましたから、それも理由のひとつでしょう。
>そう言えば野球界の「選手の年俸を必ず球団関係者がリークする」という風習も不思議です。サッカーでもやってるのに私が見落としてるのでしょうか。
サッカーでも多少は報道されていますが、さほど話題にはなりませんね。プロ野球のように恒例行事化されているわけでもないようです。代表クラスの選手だと、代理人交渉による複数年契約が珍しくないし、更改時期もまちまちです。
それに何より、野球に比べると可哀想なほど安いですから(笑)。年俸が1億円に達している日本人選手は、数年前には私の知る限り楢崎ひとりでした。
>はたやんさん
代返ありがとうございました(笑)。
>有力選手に対し、クラブ側としては「移籍金狙い」で、最初から複数年契約を結ぶようですね。
ボスマン判決以後、契約期間が満了した選手の移籍について移籍金を取ることができなくなったため、代わりに複数年契約で縛る手法が開発されたということだと思います。
投稿: 念仏の鉄 | 2006/01/20 00:49
>3)Jリーグに限っていえば、新人に大金を払う余裕がない(しかもそれを公表していて、スター選手でさえ年俸が安いのが周知のことだから、大金を要求しづらい)。
うーむ、地元に貧乏球団を抱える福岡人としては身につまされますねぇ。で、そのアビスパ福岡ですが、J1昇格によって選手人件費は9億円くらい確保できそうです。
http://www.nikkan-kyusyu.com/view/fu_1133071269.htm
それでも平均で3千万円ぽっち。でも、J2のときは5億円ポッキリしかなかった(平均16百万円)のに比べれば大躍進であります。しかし、Jリーグのクラブあたり平均の選手人件費は11億円ですから、ビンボに変わりはなし。
http://www.j-league.or.jp/aboutj/jclub/2004-5/013.html
福岡の環境ですと若手中心の「育成型」チームとならざるを得なかったので(05年チームの平均年齢はなんと23歳!)、今オフの補強は「Jの戦いを知っている」ベテラン中心になっています。
野球より給料が安いのに野球に劣らぬ人気を確保しているのは、Jリーグの戦略の成功なんでしょうね。球団経営に関するデータを公開しているところとか、ぜひ日本プロ野球機構に学んでほしいところなんですが…。
投稿: 馬場伸一 | 2006/01/20 12:12
>馬場伸一さん
>野球より給料が安いのに野球に劣らぬ人気を確保しているのは、Jリーグの戦略の成功なんでしょうね。
いやいや、年間動員数はダメと言われる野球チームでも100万人近いわけですし、テレビ中継は今でも圧倒的に野球の方が多いです。サッカーは代表の試合こそ常に満員ですが、Jリーグが「野球に劣らぬ人気」とは言いづらいものがあります。ただ、Jリーグは初期のバブルが崩壊した後に、収入の範囲内での身の丈にあった経営に切り替えることで、経営の安定化に成功しつつあることは確かですね。
投稿: 念仏の鉄 | 2006/01/20 19:48