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桑原耕司『公共事業を、内側から変えてみた』日経BP社

 「ろくでもない商慣行日本一」を国民投票か何かで決定する選手権を実施したとしたら、「道路公団のファミリー企業独占」や「金融機関の護送船団方式」などと争う有力な優勝候補は、たぶん「公共事業における土建業界の談合」だろうと思う。公の場で談合を容認する人は、業界人を含めて誰もいないと思うけれど、現実には一向に止まらない。改革好きのIT起業家も、この分野の改革には興味がないらしい。

 そんな公共工事を、かなりリーズナブルな価格で実施することに成功したケースがあるという。
 本書の著者は、岐阜市で希望社という建設会社を営んでいる。清水建設に18年務めた後、「いいものを安く建てる」という理想を抱いて同社を設立し、15年かけて民間工事に独自のノウハウを確立してきた。そんな著者が、佐賀市長の依頼により、佐賀市の小学校校舎建設工事の発注マネジメントを請負い、談合によって受注価格を引き上げようとする業者たちを相手に、大幅なコストダウンを実現するまでの一部始終が、本書には書かれている。

 読む前には「プロジェクトX」のようなものを想像したが、意外に淡々と記されている。著者は派手な正義をふりかざすわけでもないし、黒い魔の手が迫ったりもしない。関係者が熱い涙をこぼすような場面もない。筆致は冷静だ。
 考えてみれば、このプロジェクトにおける著者の目的は、「談合をなくすこと」や、まして「社会正義を実現すること」そのものではない。佐賀市におけるプロジェクトの目的は「きちんとした建物を、予定の工期内に、適正な価格で建設すること」である。それを談合が妨げるから排除しているだけで、最終的には、施工業者もパートナーなのだ。無闇に敵対的な態度をとっても益するところはない。

 桑原が提唱するJCM(日本型コンストラクション・マネジメント)という方式に、驚くような特異な面はない。特徴といえるのは次のようなことだ。

・見積もりに際しては、見積内訳明細書のフォーマットを発注者が用意し、参加会社がこれに記入する
・発注者が、下請けの専門工事会社からも直接見積もりをとって選定を行なう。元請けが見積内訳明細書に記入した金額を下回る額を出してきた下請け業者がいた場合は、そちらを採用する
・着工後もVE(ヴァリューエンジニアリング)という過程を設け、発注者と工事会社の間で定期的に設計見直しの機会を設ける

 部外者から見れば当たり前と思うようなことばかりだが、これが当たり前でないのがゼネコンの世界なのだろう。細部をブラックボックスにしておくことで、元請けは過剰な利益を得てきた。JCMは、それをさせない仕組みといってよい。ここまでは、ちょっと考えれば誰でも思いつくことだ。

 わかっていても談合やゼネコンの暴利がなぜ止められないかといえば、主な理由はたぶん2つある。
 第1に、公共工事の発注者である首長や自治体職員が、政治献金その他の支援によって業界側に取り込まれていて、そもそも改革するつもりがない。
 第2に、自治体職員には、工事全体の作業工程を把握したり(それができなければ見積内訳明細書は作れない)、個別の金額が適正かどうかを判断する知識や能力がない。
 だから、談合は消えることなく続いている。

 ここで「業者が悪い」「業者は考え方を改めるべきだ」と言うのは簡単だ。その言葉自体は正しいかも知れないが、現実に対しては力を持ちえない。
 桑原は声高に正義を語るのではなく、発注の方式を改善することで、実務的に談合を無力化しようとする。

 本書は、談合を無力化するには、先の2つの理由さえ覆せばよいと示している。つまり、必要な要因は2つだ。
 ひとつは、談合を止めて建設コストを適正(無駄な出費はないが、業者にも相応の利益が出る金額)なものにしようという強い意志を持ち、そのための労を惜しまない首長と職員がいること。
 もうひとつは、建築業務の全般について専門知識を持ち、その時点での適正なコストを熟知している助言者がいることだ。発注サイドが「あなた方は口を揃えて『この工事は○○円かかります』というけれど、ホントは半額でできるでしょ」と確信をもって言えるなら、これをごまかすのは従来より難しくなる。
 本書の事例においては、前者が佐賀市長と佐賀市職員であり、後者が希望社だった。

 どんな分野のことであれ、改革というのはたぶん、こんなふうにして行われていくのだと思う。総論で正義を唱えても、それだけでは仕方がない。大事なのは各論であり、実現のための道筋となる具体的な事例なのだ。法律や規則や通達で上から縛ろうとしたところで、現場レベルでなし崩しにされてしまうことは珍しくない。逆に、こういうステップを踏めば実現できる、という実例を現場で示すことができれば、それを真似る者も出てくるだろう。少々手間がかかったとしても確実に利益が上がるのであれば、それは必ず広まっていく。
 たぶん、そのようにして物事は変わっていく。華々しく世間の耳目を集め、新しさをアピールし、軋轢を生みながら突き進むことだけが、改革ではない。

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コメント

鉄さん
まるでボクのために紹介して下さった??
示唆に富む話ですね~

さっそくネットで注文して読んでみようかと思います。

ボクのすむ町ではやはり清水系の地元大手が談合の仕切り役の一角を占めていました。やはり人間心がけ次第ですよね。

ある市議は先日、談合事件との関わりを聞かれ「談合は文化だ」と公言してしまいました。開き直りです。石田純一みたいなやっちゃ、と皆笑いましたが。

ほんと、佐賀市出張したいなあ。

そういえば、ボクも最近、談合をしていた人が書いた暴露本を立ち読みしました。目次をぱらぱら見て、目についた「アメリカでは」という項目だけ読んだだけですが。
 アメリカでは、談合事件の量刑が実刑と何億ドルもの罰金、だそうです。割に合わないので、談合はないそうです。

また、「たとえ談合しても最初の内部通報者は罪には問わない」という規定もあるそうです。つまり密告、ぬけがけのススメですね。これも抑止効果がありそうですね。疑心暗鬼になって結局、談合が成立しなくなるようです

談合は文化だ、と開き直っている場合じゃありませんよねえ。

投稿: penguin | 2005/03/16 02:20

この本を手に取った時、ペンギン君のところで談合について話したことが頭にひっかかっていたのは確かです。2冊注文して、町の偉い人にも読ませてあげるといいかも知れません(笑)。

>アメリカでは、談合事件の量刑が実刑と何億ドルもの罰金、だそうです。割に合わないので、談合はないそうです。
>また、「たとえ談合しても最初の内部通報者は罪には問わない」という規定もあるそうです。

アメリカ人らしい身も蓋もないプラグマティズムだ(笑)。でも日本では県や市が独自にそういう条例を設けるのは難しいのでしょうね。

投稿: 念仏の鉄 | 2005/03/16 08:24

そうですよね。改革にはトップの首長と、職員の心構えが最も大切だと思います。そういう改革の成功体験って、公務員には意外に少ないんですよね。本来の職務に忠実であることを評価する仕組みが必要な気もします。
 
 ちょっと視点が変わるかもしれませんが、「公共事業」で大きなことばかり言うI原都知事をなぜか連想しました。彼は大言放言でやたらとテレビには登場しますが、実際の会議の席上では全く他人の話を聞かない、わがままな独裁者の面はほとんど表に出ないようです。
 堤容疑者の時も、ムネオ騒動のときも、記者の方々は何となくにおいを感じながら何のアクションも起こさず、何かが明るみに出るとわっとたたき始めます。
 こういう雰囲気って、子供のいじめにも通じる気がしませんか? ほりえもん問題で「テレビ・マスコミの公共性」を語る識者は多いですが、公共なテレビの功罪について、真摯な議論や分析は少ない気がします。

 また話が飛躍しますが、性教育で国会がもめてましたね。テレビの功罪にも通じる気がしますが、日本ではあらゆる分野に、「行動科学」的な分析が必要だと思います。莫大な費用と時間はかかりますが、ある時期に○○の性教育を受けた世代の性犯罪率とか、○○番組を継続的に見ている人の行動分析とか。
行政も、行動変革を誘導するような施策を打つ場合には、インプットとアウトプットのみのモニタリングではなくて、その途中途中の社会心理学的な分析や、行動科学を活用した効果的な施策展開が必要だと思っています。
またしても話がごちゃごちゃに(笑)

投稿: ペンギン友人 | 2005/03/16 14:19

>ペンギン友人さん

遅くなってすみません。
確かに話がばらけてますね(笑)。

>本来の職務に忠実であることを評価する仕組みが必要な気もします。

減点はあるが加点がない、という評価方法では、なかなか積極的に何かをしようという気にはなりにくいでしょうね。この面でも首長の役割は大きいのでしょう。
メディアが褒めるべきことを褒めるのも大事なのでしょうね。それは批判するよりは難しいことですが。
批判するにはひとつの間違いさえあればいいけれど、褒めようと思ったら、そのテーマについて時間的にも空間的にも広い視野を持たなければなりませんからね。

投稿: 念仏の鉄 | 2005/03/17 23:06

今日、佐賀市長選挙があり、前佐賀市長が敗れ、反木下派と言われる人が当選しました。
紹介された本はまだ未読ですが、私も住むこの市がどうなっていくのか、暗澹たる思いです。

投稿: バルーン | 2005/10/24 13:07

>バルーンさん

書き込みありがとうございます。
佐賀市の事情はよく知らないのですが、地元の新聞記事などをちょっと検索すると、市長がトップダウンで行政改革を断行し市議会や市職員の反発を受けていたこと、新市長が合併前の佐賀市の水道局長(一般論として言うと、かなりの利権が発生しうるポストです)であることなどがわかります。
そして、木下氏の個人サイトのトップページの一番上に「木下としゆきに対する誹謗中傷を耳にされた多くの方からご心配のお声をいただいております。」と書かれていることなどから、どういう選挙が展開されたのか、ある程度の想像はつきます。
木下氏はまだ45歳と若いので、次のチャンスを狙うことも可能だとは思いますが。

投稿: 念仏の鉄 | 2005/10/24 23:26

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