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代理人の名誉。

 以前、「代理人の本分」というエントリーで言及したサッカー代理人・田邊伸明のblogは、彼が手がけた移籍に怒る人々の書き込みが殺到して手に負えなくなったようで休眠状態だったが、今月に入って再開されている。山瀬、中田浩二のそれぞれのケースについて彼の立場からの説明が書かれており、特に中田のケースでは、欧州との移籍制度の違いについての説明が興味深い。

 再開後のエントリーを読んで思うところがあったので、田邊のblogのコメント欄に感想を書き込もうとしたら、「楽天広場に登録しなければコメントできない」と拒否された。そのためだけに楽天に登録する気にもならないので、ここに書くことにする。「代理人の本分」と重複気味の話になるが、そういうわけなのでお許しを。

 2つの移籍が非難を浴びたことについて、田邊にも言いたいことはいろいろあるようだ。山瀬のケースの説明に、こう書いている。

「何故、田邊の取り扱う選手は問題になるんだ」というご指摘がありますが、正直、私も何故だかわかりません。チームにとって主力選手だということ以外、特に思い当たることはありません。

 傍目には、その理由は明白であるように思える。
 中澤、中田浩二、山瀬。どのケースをとっても、移籍は唐突に表面化し、誰からも納得のいく説明はなされない。選手自身の意思が見えないままにファンは疑心暗鬼に陥っていき、そして結局は、懸念された通りの結末に至る。さんざん心配させられたあげくに最悪の結果が待っているのだ、そりゃあ感情的にもなるというものだ。
 要するに、唐突で強引だから、騒ぎになる。

 田邊は、これらの移籍に際して、メディアやファンに向けて何か対策をしたのだろうか。
「クラブや選手に説明する意思がなければ、それを差し置いて私が説明するのはどうかと思ってきました」と田邊は書いているが、クラブはともかく、選手は彼の顧客だ。説明しないことが選手自身に不利益をもたらすのなら、その点について助言することは代理人の職務だろう。そこで手を打とうとしないままメディアに文句をつけているのであれば、その代理人はたぶん、自分がショービジネスの一角で生きているという自覚がないのだろう。

 ただし、この3人の移籍では、どれほど周到なメディア対策を行なったとしても、ファンから非難を浴びることは免れなかったに違いない。田邊自身が書いている通り、彼らはチームの現在と近未来にとって欠かせない主力選手だったからだ。

「チームにとって主力選手だということ以外、特に思い当たることはありません。」と田邊は書く。前後の文脈からすると、田邊は「主力選手だということ」が問題の原因だとは思っていないようだが、主力選手がチームの意に反して出ていくことをファンが快く思うはずがないのだから、それだけで十分に騒ぎの理由になりうると私は思う。何の不思議もない。

 もちろん、田邊は選手の意思を実現するためにベストを尽くしたのだろう。そして、不可能としか思えなかった移籍を実現させてきた。見事な手腕といってよい。彼は誇らしげに、こう書いている。

 私は選手のエージェントとである以上、これからも「プレーヤーズファースト」の精神を貫いていきたいと思います。

 それはそれで結構だ。彼の顧客は選手なのだから、選手の方を向いていればいい。ただ、もし彼が、選手だけでなく、ファンにも愛されたり尊敬されたりしたいと思っているのなら、それはお門違いというものだ。
 田邊の文章を読んでいると、彼は代理人として懸命にベストを尽くしているのにファンに非難されるのは理不尽だ、と考えているような印象を受ける。
 だが実際には、代理人がベストを尽くし、いい仕事をすればするほど、彼に反発するファンは増えていく。代理人の「いい仕事」は、しばしばクラブやそのファンの利益に反するからだ。中澤や中田浩二や山瀬のケースのように。

 では、そのファンからの反発や憎悪を、代理人は選手に代わって受け止めるべきなのだろうか。
 それは正解のない問題だと思う。それぞれの選手と代理人との間で、あるいはそれぞれの代理人自身が決めることだろう(一時期の団野村は、確実にそういう役回りを引き受けていた。自覚的にやっていたのかどうかは知らないが)。
 だから、田邊がどうするかは、田邊が決めればいいことだ。blogのコメント欄を書き込み禁止にしたとしても、私は別に非難はしない。
 ただ、以前、田邊について「汚れ役に徹して選手を守っている」と書いたことがあったが、再開後の書き込みを読むと、どうやら彼にはそこまでの覚悟があるわけではなさそうだ。ファンに対して中途半端に理解を求める文章が目に付くし、騒ぎの責任を選手に転嫁しようとしていると解釈されかねない表現も、いくつか見られる。
 もっとも、プレーヤーズファーストに徹しきれず、そんなふうに田邊自身の感情が噴出してしまうところが、彼のblogの面白いところでもあるのだが。

 MLBにも大物代理人は大勢いるが、人格を讚えられるような代理人は多くはない。異常なまでの高額契約を勝ち取ることで有名なスコット・ボラスの渾名は「吸血鬼」だ。
 スポーツ代理人とは、本質的には汚れ仕事なのだと思う。選手を無垢に輝かせておくために、ファンに見せたくない部分を代行する仕事なのだから。アメリカの4大スポーツに顧客を持つロン・サイモンは、著書『スポーツ代理人』の中でこう書いている。
「私は悪者で結構だ。罵詈雑言を甘んじて受けよう。私はスポーツ代理人であり、それが私の職業なのだ」

 最近出版されたサニーサイドアップに関する本に目を通してみた。この会社の初期の重要なクライアントであった前園も登場するのだが、なぜ彼を選手として大成させることができなかったのかについては言及されていなかった。まったく経験のない海外移籍に取り組んだ苦労については書かれているが、素人がプロの領域に素手で踏み込んだことへの反省は記されていない。
 前園が大成しなかったのは、一義的には前園の責任だろう。だが、選手の生活も人生もすべてを預かると謳っている企業にとって、前園のケースが失敗であることは疑う余地がない。その失敗を失敗と認めずに、この会社の歴史を語ることができるのだろうか。中田との成功は、前園との失敗の上に築かれたものではないのだろうか。
 この本が、前園の事例を総括し反省し克服するという過程を記さないまま、ただ会社そのものを称揚していることが、私には理解できない。
 代理人自身がクライアントを踏み台にしてスターになることに、何の意味があるのだろうか。

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コメント

 こんにちは~
代理人の世界は詳しく知りませんが、読んで、全然関係ないことを思い出しました。

 あるテレビの女子アナの話です。
「あたしらは、しょせん刺し身のパセリなんだよね~。ニュースなり、タレントなりが商品なんであって、あたしらは、あくまで商品の引き立て役。もしパセリがしなびて元気なかったら、刺し身もまずそうに見えちゃうでしょ?だから精いっぱいキレイに見えるように努力する。だけど最近、自分が刺し身だと思うパセリが多すぎて。それって大きな勘違いだと思うんだけど」

何の話かと思ってさらに聞いていると、
「ある女子アナ○○さん。楽屋でメイク中、ADに『飲み物もってきて』と言う。言われたADは、ハイってなもんで、すかさず、その人専用のカップを差し出す。コーヒーの濃さ、蜂蜜の量、甘さなどぜんぶ決まっている。○○さんスペシャルって言うんだって。それじゃないと、○○さんも、『味が違う!』って怒るんだって。勘違いさせてしまう周りも周りだけどね」
 この女子アナに、少しだけ好感持ちましたね。今時珍しいタイプだな、と。

うーん。
話の趣旨が微妙に違いますが、裏方は裏方に徹したほうが、どれだけ格好いいか、ってことですかね。
たぶんこの代理人も、スタンスがどこか中途半端なんんですね。読んだ限り。ヒールな役者にも、裏方にもなりきれない。

投稿: ペンギン本人 | 2005/03/18 19:39

本編も楽しませてもらいましたが、ペンギン本人さんの引用しているある女子アナのコメント、後半だけ見ると、「え、こんなタカビーに共感するの?」って思っちゃいました。

一部だけ見ると、全体としての意味が違ってしまう例の一つですね。気をつけないと(苦笑)。

私個人も代理人はあくまで代理人。目立つ仕事をして次の仕事への地ならしをする手法もありでしょうが、やはりクライアントの利益確保が最優先でしょう。目立たない方が個人的には好み。
今後も大型移籍の影には必ず代理人のいい仕事が付いて回るでしょうから、田邉氏含め頑張ってもらいましょう。

投稿: エムナカ | 2005/03/18 21:35

エムナカ様、初めまして。
わたしの言わんとすることを正しく解釈して下さいましてありがとうございます。訂正ものだな。あ~恥ずかし。

投稿: ペンギン本人 | 2005/03/18 22:28

うん、まあペンギン君の言ってることはわかりますが、女子アナについていえば、テレビ局が彼女たちを刺し身として売りたいのなら、それでも構わないと思います。
ただ、それならそれで、株にちょっかい出された途端に「報道の使命」とかなんとか言い出すなよ、とは思いますが(笑)。

あと、本業のタレントであっても「○○さんスペシャル」をADに作らせるのは嫌ですね。もっとも、女子アナには個人マネジャーがいないからADにさせるしかないのか。

投稿: 念仏の鉄 | 2005/03/19 00:46

 はい。確かにタレントであってもADに、そーゆーことやらせるのはイヤだと思います。

 が、ある映像制作プロダクションにいた女性(転職してきて、いま同じ職場です)の話ですが、そういう、「出演者の好み」に、いかに精通し、敏速に反応できるかが、仕事を受注できるか否かの分かれ目になってくるそうです。「だから、タレントさんの好みのロケ弁を覚えるのなんて、当たり前なのよ」。

 ははー。厳しい世界ですね~。
 そういえば俺も、サツカンの生年月日や趣味を必死に覚えた日々があったっけ。あれはあれで、醜悪だったかもしれない。。。。でも、営業マンはどの世界でも、似たようなコトはやってるわけで、、、、。

 要は、受注関係がないにもかかわらず召使いのように人を使うケース。これは、醜悪ですね。

 話を元に戻して、今季、サッカー界で目立った欧州移籍は大久保ぐらいでしたね。やっぱりW杯のような目立った活躍の舞台がないと、欧州移籍は難しいんでしょうか。アジア予選、今週末楽しみですね~。
 かなり厳しい、という見方ばかり出ていますが、鉄さんの予測はどうなんでしょう??イラン戦で活躍して欧州へのステップをつかむ選手はいるんでしょうかね

投稿: penguin本人 | 2005/03/23 00:51

>かなり厳しい、という見方ばかり出ていますが、鉄さんの予測はどうなんでしょう??

イランとやる時はたいてい接戦になるので、結果は予測不能だと思います(笑)。ただ、「アウェーの重圧」ばかりが喧伝されていますが、実際には今の日本代表は、「ホームの重圧」には弱いけれど、「アウェーの重圧」はさほど苦にしていないと思いますね。前半を0-0でしのげれば勝機が出てくるかな、という気はします。まずはしっかり守ることでしょう。こういう状況に異常に強い川口がいないのは、やや心配ですが。
私は25日は出張先で見ることになるので、速報らしいことはできないと思います。というか、そもそも当blogで速報らしいことをしたためしはありませんが(笑)。

>イラン戦で活躍して欧州へのステップをつかむ選手はいるんでしょうかね

この夏の移籍市場に関しては、日本から欧州に行く選手よりも、すでに欧州にいる日本人選手の移籍が活発になるような気がします。

投稿: 念仏の鉄 | 2005/03/23 01:41

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