楽天に関根さんを。あるいは「1勝5敗の勝者論」。
楽天のマーティ・キーナートGMが解任されたという。率直に言って、驚いた。
(前略)球団創設から携わるキーナート氏は、「球団の顔」として地元仙台にとどまらず幅広くPRに貢献してきた。しかし、GMの重要任務である編成部門では期待された外国人選手獲得ルートの乏しさもあり、十分機能しなかった。
そこで、編成部門は広野功GM補佐が統括する形に変更。キーナート氏をGM職から、営業面やファンサービス拡大を補佐する「球団アドバイザー」に転じさせ、役割分担の明確化を図った。「アドバイザー」の肩書はあるが、外国人の不振などの責任を取った事実上の降格人事だった。(後略)(日刊スポーツ) - 4月29日9時57分更新
この報道が事実なら、感心しない。
私は彼が楽天のGMに就任した時に、スポーツライターとしての彼が書いた文章を徹底的に批判したことがある。ゼネラルマネジャーとしての手腕に対しても懐疑的だった。
だが、実際に球団が動き出してみると、チームの戦力を整えるというGM本来の職務をしているのは広野編成部長で、キーナートGMは、実際には営業部門と外国人選手を担当しているようだった。安くて優秀な外国人選手を獲得する手腕が彼にあるとは思えなかったが、主に営業をやって、「ボールパーク構想」の実現を手がけるのであれば、それはそれでいいのではないかと思った。
だから、上記の記事のようにキーナートと広野の持ち場を整理するというのは、適切な措置だと思う。
私が「感心しない」と思ったのは、「解任」という言葉が一人歩きすることだ。球団はたぶん「解任ではない」「降格ではない」と言うだろうけれど、GMという肩書を彼から剥がすのなら、世間に「解任」「降格」と言っているのと同じことだ。
それはつまり、せっかく、さまざまな地元メディアやイベントに顔を出し、親しまれ始めていた球団の広告塔としての彼の値打ちを、自ら暴落させることに等しい。「チーム不振の責任を取らされて降格された」人物を、誰がイベントに招きたがるだろうか。実利を求めるなら、GMという肩書は変えずに、役割分担だけを変えればよいではないか。チームの編成をしない人物にGMの肩書を与えるのはインチキだが、この非常事態に、そのくらいのインチキは仕方がない(というより、もともと彼がチーム全体を編成していたわけではないのだから、この肩書は最初からインチキなのだ)。
この人事には懲罰の匂いがする。三木谷オーナー自身の突然の坊主頭もそうだが、巷間伝えられる楽天という企業グループの「体育会系体質」を思わせる出来事で、よい印象は受けない。
私が東北楽天ゴールデンイーグルスという球団に期待していたのは、野球の試合で好成績を収めることではない。「成績は悪くても、そこそこ儲かる」というビジネスモデルを確立してくれることだった。そういう考えを抱くようになったのは、『エスキモーに氷を売る』という本を読んでからだ。
プロスポーツ球団の経営において、「チームが強ければ人気が出て儲かる」という考え方には、二重の意味で無理がある。
第1に、現実にはそんなことはない(笑)。70年代の阪急ブレーブス、80年代の西武ライオンズ、あるいは昨今の横浜マリノスなど、反証には事欠かない。
第2に、仮にそれが事実だとしても、優勝するチームは年に1つしかない。1,2の強豪を除けば、他のチームは弱い。弱ければ儲からない、という経営をしていたのでは、儲からないチームの方が常に多数派になってしまう。これではリーグとして立ち行かなくなる。
従って、プロスポーツクラブに必要なのは、「弱くてもそれなりに儲かって経営は回っていく。強い時には、もっと儲かる」という状態を作ることだ。実際にJリーグには、そういうクラブもいくつか実在している。
三木谷オーナーには、そういう球団経営を目指し、これからの球団経営のモデルケースになってもらいたいと思っていた。
実際のところ、今年の楽天ほど、負けることが社会的に許容されるチームは珍しい。
戦力が足りないことは、誰もが知っている。まさに協力を惜しんだ球団たちが、楽天を叩きのめし続けている。地元の判官びいき感情を育てるには絶好の筋書きではないか。しかもJリーグと違って、パ・リーグに入れ替え戦はない。たとえ100敗したところで、来シーズンはやってくる。
それならば、負けても、いや、負ければ負けるほど世間の関心や人気が高まり、観客が押し寄せる、そんなチームを狙うことさえ、今年の楽天ならば可能なのだ。そして、最低最悪の初年度からスタートすれば、来年以降は、ちょっと勝っただけで誰もが幸せになれる。「地元ファンとともに苦難を乗り越える成長物語」の条件を労せずして手に入れることができるのだ(浦和レッズの優勝があれほど盛り上がったのは、初期の「Jリーグのお荷物」状態からの歴史も一役買っているはずだ)。
そんな球団を率いるのにもっともふさわしい人物が、日本にひとりだけいる。
関根潤三である。
ヤクルトの監督時代、彼はチームが勝とうが負けようがおっとりと構えて、池山や広沢がどれほど三振しまくろうとフルスイングすることを許し、とうとう日本を代表する打者に育て上げた。関根さんが育てた人材を引き継いで、野村克也が「勝つ監督」として黄金時代を築いたのが90年代のヤクルトである。『一勝二敗の勝者論』などという無茶なタイトルの本を書けるのは関根さんのほかにはいない。
(当blogは原則として敬称略だが、彼だけは「関根さん」と呼ぶことをお許しいただきたい)。
80歳に近い関根さんに監督をやらせろとは言わない。だが、一昨年までニューヨーク・ヤンキースのベンチにいたドン・ジマーのような役割を、彼なら果たせるのではないか。関根さんが田尾の相談役としてベンチに座っていたら、それだけでチーム内外のギスギスした雰囲気は、だいぶ緩和されるのではないだろうか。現在のコーチ陣とは世代的に一回り違うので軋轢も生まれようがないだろう。田尾とは「プロ野球ニュース」仲間だし。
というわけで、三木谷オーナーには、どうしてもコーチ人事をいじりたいのなら、関根さんに相談してみることをお勧めする。引き受けてもらえなかったとしても、関根さんと話せば、連敗なんて大した問題じゃないような気分には、なれると思う。
それより何より、関根さんには似合うと思うんだよな、あの臙脂のユニホーム。
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