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アンバランス・ゾーンに惹かれる。

 ひところほどの勢いは失ってしまったようだが、今季、「おかわり君」こと西武の中村剛也が名前の通りの剛打をふるって人気を博したのは、なかなか痛快な出来事だった。確か2年前の秋、日本ハムが東京ドームを本拠地とする最後のホームゲームを戦った時に、いきなり四番打者で登場し、勝ち越しタイムリーを放ったのを覚えている。体型は当時から変わらない。

 彼のような「太っているが、よく打つ」タイプの選手を見るのは久しぶりだ。日本人では、同じ西武からジャイアンツに移籍したデーブこと大久保博元あたりが最後だったような気がする。
 最近は、球場の大型化に伴ってか、太ったプロ野球選手は激減した。足・肩ともに一定の水準を超えた、いわゆる“三拍子揃った選手”が、特に外野手においては当たり前となっている。
 だが、四半世紀くらい前までは、どの球団にも1人くらいは“打つだけの選手”がいたものだ。晩年の張本勲をはじめ、遠井吾郎、高井保弘、大杉勝男といった人々が代表格。日本にやってくるアメリカ人選手にも、このタイプが多かった。
 彼らは主に一塁か外野を守り、クリーンアップの一角に座って、長打力を誇った。しかし、日本野球をメジャーリーグと比較する人々は、彼らの存在を日本の後進性の証拠と決めつけた。本塁打と盗塁とを両立させる秋山幸二の登場が、彼らの時代の終焉を決定づけたような気がする。

 太っているからといって守備や走塁で著しく劣るとは限らないが、たいていはそうである場合が多い。指名打者制度のないセントラル・リーグでは、よほど並外れた打力を備えていなければ、このタイプの選手が生き延びることは難しい。
 昭和50年代に、例えば張本が試合終盤になると守備要員の二宮至と交代するのを見るたびに、日本野球の未熟さを露呈しているような気がして、あまりいい気分ではなかった。
 だが、彼らの多くが駆逐されてしまった今となっては、三拍子揃ったアスリートだらけの野球場というのも、なんだか味気ないような気がする(我ながら勝手なものだと思うが(笑))。

 近年の「太った外野手」に、1999年から3年間にわたって読売ジャイアンツに在籍したドミンゴ・マルティネスがいる。マルティネスは、丸々と太った体型と穏やかな人柄でファンに親しまれ、“マルちゃん”と呼ばれた(大相撲のアメリカ人横綱・武蔵丸の愛称からの転用かも知れない)。
 その前に在籍していた西武ライオンズではもっぱらDHだったが、ジャイアンツはセ・リーグでDHがない。故障で長期欠場した一塁手・清原和博の代役としてシーズン中に急きょ入団したという経緯から、主として一塁を守ったが、清原が復帰すると代打に回った。
 しかし、長嶋茂雄監督はマルティネスの強打を惜しんで、しばしば左翼手としても起用した。左の松井秀喜、高橋由伸に加えて、清原、マルティネスという右の強打者をも同時にラインナップに並べる超攻撃的打線というわけだ。

 目論見通りに打った日もあれば、不発だった日もある。いつも変わらなかったのは、マルティネスのたどたどしい守備ぶりだ。見るからに走るのが苦手そうな体型だけに、左翼に飛球が飛ぶたびに、巨人ファンはハラハラする羽目になった。平凡なフライでもマルティネスが捕れば歓声がわく。意外な強肩を発揮し、本塁送球で走者を刺してみせた時には、もうその試合のヒーロー扱いだった。彼を見ていると、誰もが心配性のお母さんのようになってしまったのである。それはそれで、見る者を楽しませる姿ではあった。

 下手な守備を売り物にするのは、見世物としては程度が低いと言えるかも知れない。だが、プロ野球選手といえども、全員がすべての分野においてバランスの取れた能力を持っているわけではない。球団においても然り。ひとつの球団にあらゆるポジションで攻走守揃った選手ばかりを揃えられるわけではない。何かが突出し、何かが劣っている選手たちを組み合わせてチームを作るのが常であり、その中で、「攻撃力優先」という方針を持つチームがあってもいい、と私は思う。
 近年のジャイアンツはしばしば「四番打者ばかり集めてつまらない」という批判を受け続けているが、私は、長距離打者をラインナップにずらりと並べること自体は、非難されるようなことではないと思っている。チームのセールスポイントを明確にするのは悪いことではない。ただ、その長距離打者たちがまったくいいところを見せられずに負けてばかりいる、というプランと結果との齟齬が、非難に値するだけだ。

 サッカーにおいては「守備を少々犠牲にしても攻撃を優先する」というタイプのチームは非常に高く評価され人気もあることが多いのに、野球で同じことをすると、たとえ勝率が高くとも批判を受けることが多いのは解せない。「守備を固めてコツコツと1点を取る野球」がもっとも価値があると無条件に考えている人が日本には多いように思う。極端な守備偏重のチームを「バランスが悪い」と批判する声は、ほとんど聞いた記憶がない(私は、どうせならこの2つのタイプの強豪が激突するような試合を楽しみたいと思っているので、昨年の日本シリーズは中日とダイエーでやってほしかった)。

 サッカーの話を、もう少し続けたい。サッカーの試合では、しばしば終盤の力攻めを見ることがある。
 何が何でも1点を取らなければならない場面で、リスクを冒して、例えばヘディングに強いディフェンダーを相手ゴール前に上げてゴールを狙わせる、というようなプレーだ。(ワールドカップ/フランス大会予選のウズベキスタン戦終盤で、岡田武史監督が、センターバックの秋田豊をゴール前に上がらせたケースなどがこれに当たる)
 この究極的な形態として、ゴールキーパーが上がってしまう場合がある。もちろん、上がりっ放しでは試合にならない。コーナーキックなどのセットプレーの時に、ゴールキーパーが攻撃参加するのだ。

 横浜マリノス時代の川口能活は、このプレーを好む選手だった。アトランタ五輪のハンガリー戦の終盤では、コーナーキックの際に相手ゴール前に駆け上がっていた。この時は上村が見事にヘディングシュートを決めて同点ゴールを挙げた。川口自身がボールに触れたわけではないが、突然のキーパーの乱入に相手ディフェンダーのマークも多少は混乱して、間接的に上村のゴールを支援した効果があったかも知れない。同じ年のJリーグの試合では、同じような場面で実際にヘディングシュートし、惜しくもゴールポストに当たって阻まれたものの、Jリーグ初のGKによるゴールを記録する寸前までいった。
 川口としても、自分自身でゴールを決められる、と本気で思っているわけではないだろう(もちろん真剣に狙ってはいるだろうが)。自身が上がって行くことによって相手DFに与える影響、そしてそれ以上に、味方に喝を入れる、という効果を狙っているのではないか。
 何が何でも点を取らねばならぬ、という捨て身の意思統一。そんなものを作り出したい、と川口は考えていたのだと思う。

 それは、ディフェンダーを上がらせる監督にしても同じだ。サッカーでは、試合中に監督が選手に指示を徹底させることはきわめて難しい。そのため、用兵に巧みな監督は、しばしば、選手の交代や配置替えによって、この局面ではこういう試合運びをするんだ、という意思を選手に伝える(日本代表の試合で中山雅史が途中出場する場面に居合わせた経験のある人は、一瞬でスタジアムの雰囲気が変わってしまうことを肌で感じているはずだ)。
 2002年ワールドカップでベスト4という空前の好成績をあげた韓国のフース・ヒディンク監督は、同点あるいはリードを許した試合の終盤で、守備的ポジションの選手を引っ込めて、フォワードを次々と投入する采配を見せていた。守備の要にして精神的支柱である洪明甫を下げてフォワードの選手に交代した時はさすがに驚いた。そうやって、彼は「攻めるしかない」という状況を選手たちの間に作り出したのだと思う(実際には万能選手のユ・サンチョルがMFからポジションを下げて洪の去った後をカバーしており、ユの存在がヒディンクの用兵を可能にしていたわけだが)。

 マルティネスをレフトに起用するという長嶋監督の用兵にも、同じ意思表示があったのかも知れない、と今にして思う。長嶋は、そういう起用の好きな監督だった。第一期監督時代には外野手の柴田勲に三塁を守らせたり、左打者にワンポイントの左投手をリリーフに送る間、先発投手の小林繁に外野を守らせたこともあった。
 バランスを崩しても、それ以上に点を取って勝つ。長いシーズンのすべてでそういうやり方をしても成功することは難しいかも知れないが、特定の試合や状況における戦術としては、ありうることだ。

 現在、プレーオフ進出が危機に瀕しているニューヨーク・ヤンキースは、このところ、アレックス・ロドリゲスを2番打者として起用し続けている。MLBには強打者を2番に使う監督もいるとはいえ、チーム三冠でトップに立ち、本塁打王を争っている最強打者が2番というのは、さすがに聞いたことがない。
 先発投手陣が故障に次ぐ故障で崩壊し、それ以上にブルペンが当てにならないチーム状況の中で、この打順は「もはや打ち勝つしかない」というジョー・トーリ監督の強い意思表示なのだと思う。その打順のもとでヤンキースは打ちまくり、シーズン終了を前に、首位レッドソックスに手のかかるところまで来ている。

 チームのバランスを保つことが大事なのは言うまでもない。安定した土台を築かなければ、長いシーズンを戦い抜くことはできない。
 だが、すでにリードを許した状況においては、バランスを保っているだけでは差を詰められない場合もある。
 そんな時、追いつき、追い越すために自らバランスを崩して攻撃に出るという決断は、見る者の心をも沸き立たせる。その瞬間の絶妙のスパイスとして、アンバランスな選手には、捨てがたい魅力がある。
 だからといって、中村剛也に「もっと太れ」とは言わないが。

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コメント

>第一期監督時代には外野手の柴田勲に三塁を守らせたり

これは高田ではなかったかと思ったのですが、間違ってたらすみません。

投稿: 通りすがりの者です | 2005/11/03 21:10

>通りすがりの方へ

>これは高田ではなかったかと思ったのですが、間違ってたらすみません。

あ、ちょっと紛らわしかったですかね。
ご指摘の通り、長嶋監督就任2年目の76年に左翼手の高田繁を三塁手にコンバートしましたが、彼はダイヤモンドグラブ賞を取るほどの名三塁手になったので、アンバランス呼ばわりしたら失礼になります(笑)。
私が書いたのはその前年のことで、中堅手の柴田勲が1試合だけ三塁手として起用されています。長嶋自身が引退した穴が埋めきれず、苦肉の策でもありました。

投稿: 念仏の鉄 | 2005/11/03 22:03

新庄選手の引退宣言のことをどうしても書きたかったのでこのエントリに。あいつほど「アンバランスな」選手もそういないでしょうから(笑)。

報道に接して思ったのが、「こいつ、『引退宣言のあとのこと』は、なーんにも考えてないよなぁ」ということです。
かの「野球エンタテイナー」の頭の中には、「どうやったら最高にインパクトのある引退宣言ができるか」ということ以外は何もなかったと確信しています。まぁそれが新庄らしいと言えばそのとおりですが、「28年野球(ばっかり)をやってきた」彼が「野球のない人生」をどう送るのか、同郷人としていささか心配です。

新庄の明るさ、ノリの良さ、軽さ。目立ちたがり、自惚れ強さ、サービス精神、自己中心性。こういう彼の性格の特徴は、生まれ育った福岡・博多の土地柄を良く反映しています。いささかマンガ的なまでに誇張されていますが、実に「福岡人らしい」人物なのです。野球界では珍しいタイプであったろうに、つぶされもせず、球界改革に(結果として)貢献してきたことに、陰ながらエールを送っていました。(というか、面白いのでつい注目してしまうんですよね。)パ・リーグの目玉がひとつ消えてしまうので、とても残念でなりません。

とはいえ。
新庄のことですから「野球のない人生なんて耐えられん!」といきなり復活するかもしれませんねぇ(笑)。
「今度はボロボロになるまでやる」と前言をひるがえしても、彼の場合、誰も非難しませんしね。

「引退決定」で怖いもののなくなった新庄の、今年のこれからの「はじけ方」を楽しみに見ていくことといたしましょう。

投稿: 馬場 | 2006/04/19 12:58

>馬場さん
>新庄選手の引退宣言のことをどうしても書きたかったのでこのエントリに。あいつほど「アンバランスな」選手もそういないでしょうから(笑)。

そんな無茶な(笑)。でも、新庄の話なら、どんな無茶でもアリですね(笑)。
彼については、とりわけ2004年の振る舞いに大変な感銘を受け、その年の大晦日に「このblogの2004年のMVP」を差し上げてしまったことがありました(http://kenbtsu.way-nifty.com/blog/2004/12/mvp_goes_to_shi.html ちなみに2005年のMVPというのは特に決めてません。忘れてたわけではないのですが、コレという人物が思いつかなかったので)。

馬場さんがおっしゃる通り、引退しようが、戻って来ようが、彼は彼の好きなようにすればよい、と私も思います。
「あのひとのやることをじっと見つめてりゃいいんです。そうすれば、誰もがしあわせになれるんだから」とはロッテ時代の落合が長嶋茂雄を評した言葉ですが、今や新庄にこそふさわしい。

投稿: 念仏の鉄 | 2006/04/19 21:39

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