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フルスタに観客がいるうちに。

 9月11日は仙台にいた。
 東北出張の帰りに、フルキャスト宮城で楽天イーグルスの試合を見てきた。13時からのデーゲーム、相手はソフトバンク・ホークス。
 ボールパーク構想をぶちあげてスタートした野球場がどのようなものか、初年度のうちに一度見ておきたいと思っていた。

 フルスタの最大の長所は、仙台駅からシャトルバスで5分、徒歩でも20分弱という立地だろう。試合が終わってから歩いて仙台駅まで行くことがまったく苦にならない距離だ。
 試合前の球場外には、さまざまなテントの屋台が並び、一般参加らしいダンスパフォーマンスも行われていた。賑やかな雰囲気は悪くない。試合中もチケットさえあれば出入り可能で、場外の屋台村は賑わっていた。ホーム側である三塁側スタンドの外側には、東北名産の屋台のほかに、足湯につかりながらテレビで試合中継が見られるテントなどもある。レフトスタンドの背後には芝生に覆われた小山があり、ここで観戦することもできる。山の裾では子供たちが跳ね回って遊んでいた。

 という具合になかなかいい雰囲気もある反面、ネット裏スタンドの下では、試合開始15分前にはすべての弁当ブースが売り切れになっていた。食品の持ち込みを禁じておきながら供給できないのでは話にならない(球場内の売店の軽食は売られていたから飢えることはなかったけれど)。
 開幕前にこのblogでネット裏の座席幅が話題になったことがあったが、結論から言えば、他の球場の椅子と大差なく狭い。成人男子が並んで座れば接触を避けるのは難しいから、座り心地は快適とは言えない。値段のせいもあるのだろうが、他のエリアよりも空席が目立つ。リンク先に引用した三木谷オーナーの考えは、現時点では絵に描いた餅に過ぎない。
 結論としては、部分的には工夫していい雰囲気を作っている面もあるけれど、全体として他球場よりも画期的によいものを提供しているというほどではない。「ボールパーク構想」は道半ば、というところだろう。
 印象に残ったのは、球場のハードウェアや球団のサービスよりも、フルスタに集まった観客の方だった。

 7回表のソフトバンクの攻撃中のことだ。スタンドのあちこちで、ボンッ、ボンッと音がする。
 昼間から花火でもあるまいし、何だろうと思ったら、風船が破裂する音だった。
 7回の攻撃に先立ち、それぞれのチームのファンが、それぞれのチームカラーの細長い風船を飛ばす風習は、ここ仙台の地にも移植されていた(私はこれがあまり好きではないが、今は棚上げにする)。
 どうせ球団歌が流れた後で飛ばすのだから、7回表が終わってから膨らませても間に合いそうなものだが、楽天ファンの多くは、7回表が始まった途端に風船を膨らませて待機していた。ところが、力んで空気を吹き込みすぎるのか、ソフトバンクの攻撃が長すぎたせいなのか、あちこちで風船が破裂してしまう。5人や10人ではない。私の耳に聞こえただけでも30や40は鳴っている。
 スタジアムで風船を飛ばす場面には何度も居合わせたが、こんなに破裂させてしまうのは珍しい(フルスタではトランペット等の鳴り物が禁止されているのでよく聞こえた、という可能性もあるけれど)。

 きっとこの球場の観客は、野球を見ることに慣れていないのだろうな。
 そう思い至った途端に、いくつもの場面が思い当たった。
 狭い座席幅にもかかわらず思い切り足を広げて座る、隣の席のおっさん。楽天の打者の凡フライにも大声で騒ぎ立ててしまう、その隣の席のおっさん。インプレー中に人の前を横切って買い物に行くおばさん。私の周囲だけでなく、あちこちで似たような光景が目に付いた。
 もちろん他の球場でもそういう手合いはいるけれど、ここでは遭遇する確率が異常に高い。いずれも野球や野球場に慣れていないために起こることだといってよい。

 もちろん、四半世紀の空白の後に、突然球団ができたばかりなのだから、不慣れなのは当たり前だ。逆に、野球を見慣れていないが故に起こる、いい面もある。

 試合は楽天が一場、ソフトバンクが新垣の先発で始まった。一場がいきなりコントロールを乱して4失点するも、楽天はその裏すぐに3点取って追いすがり、2回以後は両投手も踏ん張って0行進が続く。6回裏、楽天は守備の人・酒井の鮮やかな本塁打で追いつくが、追撃ムードの高まった7回表に、ホークスは城島の3ラン本塁打で突き放す。試合はそのまま9回へ。楽天の敗色は濃厚だ。
 だが、9回裏になっても、観客はほとんど帰ろうとしない。先頭の吉岡が三塁線を破ると、スタンドの盛り上がりはこの試合で最高潮に達した。そしてそれは、最後の打者がアウトになるまで続いた。

 夢一杯の開幕直後ではない。すでにペナントレースの趨勢が決した9月である。敗戦に敗戦を重ね、最下位を独走し、プレーオフ参加権への争いからも脱落したチームが、9回裏に3点をリードされてなお、球場全体から大きな声援を受ける。鑑賞モードの観客は少なく、ネット裏でもほとんどが楽天を応援して手を叩き、声をあげる。
 ホーム側外野席だけでなく、すべてのスタンドでいい大人がユニホームを着用している割合は、たぶん他球場よりも高いと思う。こんな幸福なチームは他にない。

 他にないと思いつつ、ではこのチームは、この初心で無邪気な観客たちに幸福をもたらしているのだろうか、ということも考えてしまう。
 勝利の喜びを与えることはめったにない。一目見られれば満足というほどのスーパースターもいない。個人成績で突出した数字を残している選手もいない。しょっちゅう試合をしてはいるけれど、「ああ、今日はあれが見られて良かった」と観客に思わせるほどの何かが起こることは、おそらくは多くはないだろう。
 それでいいのだろうか。

 選手個々の能力が足りないのは仕方のないことだ。2割5分の打者が、仙台に引っ越して気合を入れたからといって、いきなり3割打てるようになるわけではない。チームが勝てないのも、ある程度は仕方ない。
 しかし、どんな選手にも「頑張る」ことはできる。

 周囲のおっさんたちが叫ぶ声を聞いているうちに、このチームの選手たちに求められていることは、「わかりやすく頑張ること」なのではないかという気がしてきた。
 サッカーでいえばFC東京のように、とにかく一生懸命に走ること。内野ゴロでも一塁に全力疾走し、捕れそうにない打球にも体を投げ出して追いすがる。攻守交代の際にも走る。
 口の悪い言い方をすれば、少々高度なプレーをしたところで、フルスタの観客の多くには理解できないだろう。その打球が捕球可能なのか難しいのか、などということを判断できる観客も、おそらくはほとんどいない。ただし、選手がその打球を捕るためにどれほど必死になっているかは、誰にでもわかる。それなら、誰にでもわかるようなプレーをしてみせるのが、この無償の声援に応えることではないのだろうか。

 観客の特性を抜きにしても、楽天の選手は大人しすぎる。ベテランが多いせいもあるのだろうが、「闘将」とか「突貫小僧」とか「火の玉」などと渾名されるようなタイプの選手は皆無といってよい(強いて言えば、中日で活躍していた頃の関川ぐらいか)。みな、淡々と静かにプレーしている。どんな不甲斐ない試合をしても9回裏まで応援し続けて貰えることに、特にありがたみを感じているようにも見えないし、だからファンのために頑張ろうと思っているようにも見えない。
 選手たちも、心の中では深く感謝しているのかも知れない。だが、スタンドからプレーを見る限り、それはあまり伝わってこない。そして、観客にとってはそれがすべてなのだ。プレーを通じて感謝を表現できるような選手が、せめて1人や2人くらい出てこないものだろうか。

 厳しい言い方をすれば、フルスタの声援は選手にとってはぬるま湯だ。勝てなくても、打てなくても、変わらぬ声援を送ってくれる(宮城県出身の水谷秋夫さんは、仙台には穏やかな人が多い、と書いている)。
 だが、それがいつまでも続くという保証はない。もし、それが観客たちの経験不足によるものだとしたら、今のような試合が続いていけば、いつかはイーグルスのファンたちも、ベガルタサポのように怒りを露にするか、あるいはフルスタに足を運ぶことをやめてしまうことになる。
 それがプロ野球選手にとって、球団にとって、どんなに怖いことであるのか、まさに身をもって体験してきたのが楽天の選手たちではなかったか。あらゆる手を尽くして観客をスタジアムに惹き付け続けなければ、自分が野球をする場を失うのだということを知っているはずの彼らが、1年も経たないうちに、惰性のようなプレーをしてしまうのでは、まったく救いがない。
 今、試合に出ている選手が大人しい性格ばかりで、わかっていてもできないというのであれば、編成サイドのこのオフの最大の課題は「闘将」「突貫小僧」系の選手を獲得することだろう。

 ただし、獲得したとしても、現場がその選手を重用するかどうか、という問題も残る。田尾監督をはじめ、今の楽天のコーチ陣の中に、現役時代に闘志を剥き出しに戦っていた人物は見当たらない。楽天の現在のチームカラーには、首脳陣のそんな肌合いも影響しているように思える。

 楽天が優勝を争うようなチームであれば、ここまでは言わない。だが、勝つことでファンを喜ばせる見込みのほとんどないチームである以上、勝利の代わりに何をもってファンを喜ばせ、満足させるのかについては、真摯に考える必要があると私は思う。フルキャスト宮城が観客で埋まっているうちに、そこに思いが至らなければ、いずれ空席が増えていく。そうなってからでは遅いのだ。
 今、スタンドに座っている観客に「また来よう」と思わせるのと、「楽天の試合なんかつまらない」という判断を下してしまった元観客の気持ちを再びフルスタに向かわせるのと、どちらがより困難であるかは言うまでもないのだから。


追記(2005.9.12)
フルキャスト宮城のハードウェア面については、楽天イーグルスの公式サイトよりも、施工にあたった鹿島のサイト内にある特集「フルキャストスタジアム宮城に行こう」が詳しい。このオフ以降の改装計画についても紹介されている。来シーズンになれば客席も増設される予定だが、今でさえ満席になってはいない。

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コメント

お帰りなさいませ。
衆議院選の意外な結果に大騒ぎが起きていますね。私は小泉支持であったものの、あまりの極端さに逆に不安になってしまうくらいでした。情けないことに下のエントリーで鉄さんが危惧されていたことがようやく身に染みてきた感じです。


さて、こちらの楽天フルキャスト、実は私は先々週の末に行くつもりだったのですが、友人との兼ね合いで万博へ行くことになってしまい実現できずでした。時間的には2週間後にラストチャンスがあるのですが、行けるかどうかは学業との戦い次第で少々厳しい状況です。今年中に行きたかったんですが…。
というわけで、このレポートは非常にありがたかったです。

>きっとこの球場の観客は、野球を見ることに慣れていないのだろうな。

私はサッカーの日本代表戦を観戦するときにも同じことを感じます。やはり、一つ一つのプレイに対する反応に差が出ていてそこで分かってしまうんですよね。一方でこの前バスケの日本代表戦を観戦したのですが、そこではバスケ初観戦で部活でもやっていない私のような人は、反応を見る限り少ない印象でした。

サッカー日本代表も楽天も今の共通点はやはりライト層が多いことですね。バスケの代表がライト層すら取り込めていないことを考えれば、ある意味では喜ばしいことなのですが、ご指摘の通り今のうちにハートをつかまないと悲惨な結果が待っています(サッカー日本代表ですら何もしなかった結果、海外組なしでは閑古鳥という状態になってしまったのですから)。

で、選手の必死さです。甲子園の高校野球と比べても、最大の差はそこにあると思います。生で見てよくわかったのが、とにかく高校生は一発勝負なのでTVに映っていない部分でも必死でした。一方でプロはチーム差はあるものの、その必死さを年間130も試合があるということで130分の1(言いすぎですね)に薄めてしまっている気がします。

まだ地盤のない楽天はそれが重要でしょうね。それでも地盤があったからよかった一時期の阪神と違って地盤のない楽天がこれを続けると、「負けても必死に応援するサポーター」を作るはずが「どうせ今日も負けるだろうと冷めた気持ちで見にくる観客」にしかならなくなり、かなり厄介ですね。確かに今後かなりの遠回りをしそうで怖いです。

投稿: アルヴァロ | 2005/09/12 17:29

>アルヴァロさん

>衆議院選の意外な結果に大騒ぎが起きていますね。


結局のところ、この選挙は実質的に、小泉政権に対する信任投票だったのでしょうね。そして圧倒的多数が小泉政権の継続を望んだということです。

>サッカー日本代表も楽天も今の共通点はやはりライト層が多いことですね。

プロ野球では主催試合が年間70もあるので、コアなファンだけでは到底スタンドを埋めることができません。楽天に限らず、基本的に観客の大半は、アルヴァロ君が言う「ライト層」を想定する必要があると思います。

グラウンドの外側では、そのライト層の観客を喜ばせる努力をかなりしていると思います。また、グラウンド整備や場内アナウンスにまで観客を参加させるなど、細かいサービスにも工夫のあとはうかがえます。
(以前話題にした「中の人」は、カラスコという悪役キャラとして活躍していたようです。カラスコグッズなのか、黒と紫の帽子やユニホームを着たファンも結構目にしたので人気があるのでしょう)

それでも、やはり野球観戦の核は「野球」なわけで、勝ち負けは時の運としても、観客に「来た甲斐があった」と思ってもらえるだけの最低限の保証が必要でしょう。松井やイチローなら見るだけで満足してもらえるけれど、そういうスターがいない場合にどうするのか、ということですね。

そこで何を提供できるかはチームカラーや土地柄によって違いがあってよく、都市部のチームなら「イケメン軍団」で女性ファンを動員するような手もあるかも知れません。ただ、1試合だけの印象ではありますが、フルスタには「頑張る姿」が似合いそうな気がしました。

投稿: 念仏の鉄 | 2005/09/12 20:30

 トラックバックありがとうございます。
 残念ながらフルキャストスタジアムに行ったことはまだ無いのですが、念仏の鉄様の文章を拝見すると、野球好きが集まっているというより、仙台の老若男女がふるいにかかることなくそのままやってきているという感じですね。
 地元紙も相当煽っているようですし、現在のフルスタはブームというかバブルというか、いつはじけるかわかりません。ただビッグスワンが今でも観客で一杯のように定着するかもしれません。ビッグスワンの初期と違って大量にタダ券を配ったわけでもないですし、たぶん。
 負け続けなのに田尾監督の人気は高いようです。闘志が今ひとつ感じられない指揮官・選手達の性格が、案外好かれているのかもしれません。

投稿: 水谷秋夫 | 2005/09/13 20:29

>水谷さん

>闘志が今ひとつ感じられない指揮官・選手達の性格が、案外好かれているのかもしれません。

おお、それは盲点でした。某金満球団から誘われたと噂の「男・○○」氏が監督になって鉄拳制裁などふるいまくったら、仙台のファンは引いてしまったりするのかも…。

投稿: 念仏の鉄 | 2005/09/14 00:00

武田薫のこと調べてたら、またここにきてしまいました。(関係ないが武田氏は仙台の出身)
どんな事情があるのか知らないが、デーゲームが多いだろうに、わざわざ西日にあたるホーム側ベンチはいかがでした?

メジャーリーグの上っ面を真似てるとしか思えない。

今年、仙スタでサッカーも見たが、「かっ飛ばせ~○○」という野球式コールには血の気が引いた。

投稿: 莫迦乃花 | 2005/10/02 00:52

>莫迦乃花さん

>どんな事情があるのか知らないが、デーゲームが多いだろうに、わざわざ西日にあたるホーム側ベンチはいかがでした?

私が訪れた時は曇っていたので、日が射す方角は意識しませんでした。見てる側にはあまり関係ないですね。スタンドはどのみち9割方が楽天ファンだし。
事情は私も知りませんが、スタジアムの外側の露店や施設は三塁側に集中していたので(外野の後ろの山も)、その手のものを設置するのに都合のいい側をホームにしたのかも、という気はします。

投稿: 念仏の鉄 | 2005/10/02 02:14

>今年、仙スタでサッカーも見たが、「かっ飛ばせ~○○」という野球式コールには血の気が引いた。


ここを読み返していて思い出したのですが、日本シリーズが終わった後、阪神ファンの同僚に会ったら、「サッカーみたいな応援すな!」とロッテファンに八つ当たりしてました(笑)。

投稿: 念仏の鉄 | 2005/11/15 11:02

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