負けたからこそ、変えてはいけない。
楽天が田尾監督の解任を決めたことについて何か書こうと思ったが、結局は春先のキーナートGM解任とコーチ人事改造の時に書いたことと、私の言いたいことは変わらない。長い引用になるが再録しておく。
後者のエントリには、次のようなことも書いた。
「実際のところ、今年の楽天ほど、負けることが社会的に許容されるチームは珍しい。
戦力が足りないことは、誰もが知っている。まさに協力を惜しんだ球団たちが、楽天を叩きのめし続けている。地元の判官びいき感情を育てるには絶好の筋書きではないか。しかもJリーグと違って、パ・リーグに入れ替え戦はない。たとえ100敗したところで、来シーズンはやってくる。
それならば、負けても、いや、負ければ負けるほど世間の関心や人気が高まり、観客が押し寄せる、そんなチームを狙うことさえ、今年の楽天ならば可能なのだ。そして、最低最悪の初年度からスタートすれば、来年以降は、ちょっと勝っただけで誰もが幸せになれる。「地元ファンとともに苦難を乗り越える成長物語」の条件を労せずして手に入れることができるのだ(浦和レッズの優勝があれほど盛り上がったのは、初期の「Jリーグのお荷物」状態からの歴史も一役買っているはずだ)」
先日、フルキャスト宮城を見てきた印象は、まさにこの通りだった。負け続けるチームを地元の人々は暖かく応援している。この愛着を大切に大切に育てていくことが、このチームには必要だと感じた。
ドラスティックなチーム改造をして勝つことが、そのために有効であるとは考えにくい。それは大きな賭けだ。いきなり来年優勝でもできれば、さすがに田尾のことなど忘れてしまう人も多いだろうが、順位がひとつふたつ上がるとか勝ち数が20かそこら増える程度の中途半端な積み上げでは、むしろマイナスになる可能性が高い。
監督や選手がごっそり入れ替わってしまったら、「苦難を乗り越える成長物語」を地元ファンと共有する主体がいなくなってしまうではないか(キーナートが失脚したために、球団フロントがこの主体となることはすでに困難になっている)。弱いスタートだからこそ、監督を変えてはいけない。せめて2年は続けなければ「物語」の継続性が失われる。
ここ数日、次期監督候補として名前が挙がっている野村克也が、このチームの監督にふさわしいかという点にも、私は大いに疑問を感じる。
彼はそれなりの戦力が整っていた南海とヤクルトでは監督として成功を収めたが、戦力不足が明白だった阪神では成果を上げられなかった。
「野村再生工場」の美名のもとに、「乏しい戦力をやりくりして勝つのが上手な監督」であると思われているようだが、見落とされている現実もある。彼がヤクルトの監督に就任した時には、すでに池山・広沢という日本有数の強打コンビがおり、西村、川崎、岡林、伊藤ら若くて優秀な投手が次々と供給された。そして、それらの投手たちを野村は酷使し、次々とパンクさせた。彼らの屍の上に監督・野村克也の栄光があるのであって、私は「再生工場」どころか「解体屋」だと思っている。
楽天イーグルスの首脳陣は、現在の陣容にはベテラン選手が大勢在籍しているから、「再生工場」を設置すれば勝てると思っているのかも知れないが、「解体」の対象となれるほどの優秀な若手投手は、一場くらいしか見あたらない。岩隈も、あの体つきを見る限り、野村のハードな起用に耐えうるとは考えにくい。つまり、野村監督にとっての車の両輪が、このチームには揃っていない。
そして、仮に再生に成功したところで、そのベテラン選手が5年10年とチームを支えてくれるわけではない。野村監督の起用は、短期的に成功をおさめたとしても、長期的に見れば、「一将功成って万骨枯る」を絵に描いたような惨状が待っている可能性がある。
戦力が充実し、成績も上がって、いよいよ上位進出をねらえる、という状況にあるチームが野村のような監督を雇えば、大きな成功を収めることができるかも知れない(ヤクルトがまさにそうだった)。だが、今の楽天が一発逆転をねらって野村を雇うのであれば、それは感心できない。
そんな星勘定よりも大事なのはファンの心だ。
フルスタの観客たちの愛情が注がれる器は、選手であり、監督だ。だが、最初から超高齢化チームとして出発した楽天にとって、最初の何年間かは選手が大きく入れ替わるのは避けがたい宿命だ。従って、選手ではなく監督がチームの顔となって、ファンの応援と愛着を注がれる受け皿となる必要がある。
ほかのことはともかく、この点においては、田尾は楽天の初代監督として立派に役割を果たした。そして、そういう存在として、野村が田尾の代わりを務めることができるとは、私には思えない。
繰り返すが、初年度に負けに負けたからこそ、もう一年、田尾が監督を続けるべきであったと私は思う。
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コメント
トラバありがとうございます。
鉄さんの記事はいつも私が考えたことより、一つも二つも深いところを突いているので読むたびにそうだよ、こういうことが言いたかったんだよなあ・・・と1人で頷いています。
来年、田尾監督でいった場合は今年より成績が上回ったり、将来性がある選手が育つことでファンも納得できると思いますが、野村監督でプレーオフ進出ならずということになればファン離れは必至でしょうね。
最終的にこの球団はカラスコ人気頼みになるような気がします(笑)。
投稿: 富井と松 | 2005/09/28 22:25
>富井と松さん
>来年、田尾監督でいった場合は今年より成績が上回ったり、将来性がある選手が育つことでファンも納得できると思いますが、野村監督でプレーオフ進出ならずということになればファン離れは必至でしょうね。
田尾監督はフルスタでの挨拶で、「この成績は私の誇り」と言ったそうですが、真に誇るべきは、ロッテファンやソフトバンクファンからの田尾コールでしょうね。
あと、ヤクルトの監督時代に思ったんですが、野村監督はメディアを通して球団と駆け引きをする人なんですよ。今もしきりに「四番打者が必要」とコメントしているのは、たぶんそういう意味です。楽天野球団の若い経営者たちにとっては、相当扱いづらい人物だと思いますね(笑)。
>最終的にこの球団はカラスコ人気頼みになるような気がします(笑)。
フルスタには黒と紫の帽子やユニホームを身に付けている人が結構いて、何だろうと思ったらカラスコ・バージョンでした。燕脂よりいいかも(笑)。
投稿: 念仏の鉄 | 2005/09/29 08:14
こんにちは。
気がつくとなんだか本当にやりそうな匂いがしてますね。
鉄さんのお話とか、私のところで紹介した彼のコラムとかを読むと、まだ私は野村克也という人間を把握しきれていないです。なので、以前と変わったのかそうでないか、じゃあやってもらおうじゃないのよ、と思い始めています。
とはいえ、フロント、オーナーはおそらくそれらのことは何も考えていないと思いますし、今のままでは変わらないでしょう(ヴィッセル神戸がいい例です)。あの面子の中に経営を深く考えられる人はいても、野球を深く考えられる人がいるとは少なくとも私は聞いたことがないので。
ところで、昔鉄さんが批判されていた「野球の未来を創る会」公式サイトなんですが、久しぶりに覗いたらTOPどころかサイト名が「日本野球改革提言会議」とかいう名前に変わっています。TOP以外何も作られていなくて、一体何をする気なのかもよくわかりません…。苦情でも来て体裁だけでも変えたのでしょうか(苦笑)
投稿: アルヴァロ | 2005/09/30 11:30
>アルヴァロさん
野村監督については、そちらのコメント欄にたくさん書いてしまったので、ここでは略します(本末転倒だ(笑))。正直なところ、彼が率いるチームには、あまり興味が持てません。成功したとしてもヤクルト時代の反復でしかないわけだし。豊田泰光さんが週刊ベースボールに書いていたように、「60歳以上の監督はワンちゃんだけで充分」ではないだろうか。
>とはいえ、フロント、オーナーはおそらくそれらのことは何も考えていないと思いますし、今のままでは変わらないでしょう(ヴィッセル神戸がいい例です)。
この調子では、どちらも成功する見通しがまったく持てません。最近は、三木谷氏が球団経営に飽きて放り出す日のことが心配になってきました。
>ところで、昔鉄さんが批判されていた「野球の未来を創る会」公式サイトなんですが、久しぶりに覗いたらTOPどころかサイト名が「日本野球改革提言会議」とかいう名前に変わっています。
私も少し前に見て、うんざりしました。前に、この団体が民主党主導らしいというので「そんなつまみ食いみたいな真似をしているから、いつまで経っても政権が取れないのだ」というようなことを書きましたが、…この調子ではマニフェストが信用されないのも仕方ないのか。
投稿: 念仏の鉄 | 2005/09/30 13:22
>最近は、三木谷氏が球団経営に飽きて放り出す日のことが心配になってきました。
実は上のコメントの中で、途中まで書いて一度はやめた話なんですが、ヴィッセルファンの友人が今まさにそのことで不安を持っています。多分彼らに見放されたら神戸の経営は相当危険なことになりそうですし…。正直、楽天本社の経営もずっと順調に行く保証はないですし、球団が黒字転換しない限りはない話ではないと思います。
投稿: アルヴァロ | 2005/09/30 16:10