田口壮の矜持。
一読して、とにかくあらゆる人に読んでもらいたくなった。田口壮オフィシャルサイトのmail from Soから、リーグ優勝決定戦の開幕を控えた10月11日の日記だ。
明日からいよいよナリーグ・チャンピオンシリーズです。
練習後、ヒューストンの先発が左ということで、何人かの記者さんに「先発があるのでは?」と聞かれました。 「ラリー(ウオーカー・外野手)も、ちょっと調子悪いしね」と。
僕の答えは「ない」です。この先も、当分なし。むしろ、僕が先発するような事態(=レギュラーに怪我人が出る)になっては困るのです。
チームの総合力がモノを言うペナントレースに対し、レギュラー陣の爆発力と、投手力が明暗を分けるポストシーズン。
これまで怪我で出場機会を控えていたラリーやレジー(サンダース・外野手)の経験、爆発力が、まさに今必要なのです。
ラリーの当たりが少し止まっていたって、そこに存在するだけで、すでに相手を威圧できるのです。ついでに言えば、ラリーがガンガン打ち始めるのは時間の問題。カージナルスファンの心配には及びません。
「今までずっと穴埋めしてきたのに、いまさら控えだなんて」と、口を尖らせる人もいます。
「もう99番のジャージ買ったのに、なかなか出ないんだもん」
それは、すまん。ベンチのほう見て手でも振っといて。
僕はここにたどり着くまでの長いシーズン、間違いなくチームのけが人の穴を埋めてきた、という自負があります。
ひとつの歯車として、僕は僕の役目を十分に果たしたから、これからは真打登場で、ラリー、レジーにがんばってもらわねば!
今年は有言実行。カージナルスは絶対に勝つ。
ミズーリ州セントルイスにて 田口壮
誰かこの文章を英訳してラリーとレジーに読ませてやってくれ。きっと彼らは、たとえ足が折れていても試合に出ると言い出すに違いない。ソーのために打たなくちゃならないんだ、と。
よその文章の全文引用は控えるようにしているのだが、このサイトの日記は数日すると更新されて消えてしまうので、あえてさせてもらう(注)。長期間にわたって読まれる価値があると思うからだ。関係者は許されよ(もしダメなら部分引用にしますので、ご連絡ください)。
この田口の心根を、日本語で「矜持」という。
試合の終盤に守備固めで出場することに対し、あるいは代打で登場してバントや進塁打を打つことに対し、これだけの高い意識を持っているからこそ、田口はそれらの仕事を完璧にこなし、なおかつスタメン起用された時にはレギュラーに匹敵する活躍をすることができる。
地味で目立たない仕事を受け持つ人々が矜持を持っている組織は強い。そして、そういう人々に矜持を抱かせることのできる指導者は、間違いなく優秀だ。田口ひとりを見ているだけで、トニー・ラルーサがどういう監督であるのか、ある程度は想像がつく。そして、その監督に信頼されている田口の戦術眼も。
かなり前に一度書いたことがあるが、田口にはできれば引退後もアメリカに残って、指導者になってもらいたいと夢想している。最初の日本人MLB監督の最有力候補だとも思っている。
だが、ワールドシリーズが先だ。私もセントルイスに住んでいたら、99番のジャージを着てベンチに手を振りたい。あんたは最高だ。
注)もう消えている(笑)。昨日読んでおいてよかった。(2005.10.15)
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コメント
こんばんは。
マリーンズは負けましたが、田口のことを書いているのを読んではコメントを残さないわけにはいけません。
田口の日記は私も必ず読んでいます。
>地味で目立たない仕事を受け持つ人々が矜持を持っている組織は強い。そして、そういう人々に矜持を抱かせることのできる指導者は、間違いなく優秀だ
そうですよね。
私もそういうチーム(組織)を見るのが好きでスポーツを見ているようなところがあります。本末転倒のような気もしますけど。
>最初の日本人MLB監督の最有力候補だとも思っている。
田口ならありますね。しかし時期的には長谷川ピッチングコーチのほうが早いような気もします。
投稿: 富井と松 | 2005/10/15 22:47
>富井と松さん
お疲れさまです。今日はいよいよヤフードームですね。ご健闘を。
田口選手、今日はスタメンでしたが負けてしまいました。もうひと踏ん張りだなあ。
>私もそういうチーム(組織)を見るのが好きでスポーツを見ているようなところがあります。本末転倒のような気もしますけど。
自分が主役タイプの性格でないせいなのか(笑)、こういう人に感情移入してしまいがちです。もちろん、主役タイプのプレーそのものを見るのは好きですが。
>しかし時期的には長谷川ピッチングコーチのほうが早いような気もします。
長谷川は現場というよりビジネスマン向きでは(笑)。ユニホームよりスーツが似合う気がします。
投稿: 念仏の鉄 | 2005/10/16 12:25
組織の中で自分の求められている役割を果たしきれず、今にも潰れそうな考える木です(苦笑)。
泣けますねぇ……田口の言葉。
思えば田口は私の予想を2回大きく裏切りました。
スローイングをつつかれすぎた挙句のショート失格。「田口は終わったな」と思っていたら、外野手として見事に再生してきたことが1回目。
そして、年々打力にも力をつけ、カージナルスになくてはならない選手にまで成長したことが2回目です。
プライドではなく矜持。良い響きの言葉を思い出させていただいてありがとうございました。
彼が安くセントルイスと契約したことが疑問でしたが、この日記を読むとその理由の一端が窺われるような気がしました。
投稿: 考える木 | 2005/10/20 00:09
>考える木さん
お疲れさまです。お互い組織人は辛いですね(笑)。だからこそ田口の言葉が身にしみます。
>スローイングをつつかれすぎた挙句のショート失格。
そうでしたね。今で言う「イップス」だったのでしょう。そして、今のようにスポーツ心理学が発達していれば(日本ではまだまだかも知れませんが)、彼は遊撃手としてやっていけたのかも知れません。
>彼が安くセントルイスと契約したことが疑問でしたが、この日記を読むとその理由の一端が窺われるような気がしました。
最初の年は、ほとんどマイナーでしたからね。その時点で、すでに若くはなかったのに。自分で年齢を気にして勝手に限界を作ったりしなくてもいいんだな、と彼を見ていると思います。
投稿: 念仏の鉄 | 2005/10/20 10:21