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当blogは『おしゃれ野球批評』を推薦します。

 表紙とタイトルにくじけて、目を背けてはいけない。「浴びろ!オレの野球汁(はあと)」という帯の惹句にも、退いてはいけない(いや、私だってそんな暑苦しそうな汁を浴びたくはないけれど)。
 このblogをちょくちょく訪れるようなタイプの野球好きの貴兄(と貴女)であれば、『おしゃれ野球批評』(DAI-X出版)を手に取ってみることをお勧めする。

 内容紹介は公式サイトに任せるが、要するにいろんな筆者を集めて野球についてのコラムを書いてもらった、というだけの本である。
 こういう造りの本は昔から時々見かけたが、あまり成功したものがない。構造がシンプルなだけに、執筆者のセレクトがすべてとなり、編集者にとっては簡単なようで難しいのだ。結果として、それぞれの野球に対するスタンスや体温がバラバラで一体感がない本ということになりやすい。いかにも勘違いしたようなノリの奴が1人か2人紛れ込んで自己顕示欲を撒き散らすだけで、書籍としての魅力は著しく損なわれてしまう。

 本書では、そこの難しいところを見事に乗り切っている。私が名前を知っているのは、えのきどいちろう、佐野正幸、杉作J太郎、綱島理友、吉田豪、リリー・フランキー、渡辺祐くらいで、執筆者32人の大半は知らない人だったが、上記した「勘違いしたようなノリ」の文章は見当たらない。それぞれの野球好きの度合いや知識やファン歴には差があっても、ベクトルはほぼ揃っている。野球でもサッカーでも会社でも軍隊でも、構成員が同じ方向を向いている集団は強いものだ。彼らは客席から野球を見ている。それ以外のものを向いてはいない。そこに、何とも言えない心地よさがある。

 黙って即座に買いなさい、と言いたいところだが、まあ、お試しに立ち読みしてみるのもいいだろう。ただし、えのきどいちろいう「04シーズンなどについて記す」と、「杉作J太郎、広島カープを語る」だけは開くのを避けた方がいい。後者は、笑い転げて止まらなくなる。前者は、号泣する羽目になりかねない。どちらも書店の店頭にはふさわしくない行為だ。私はタリーズの店内でエスプレッソ・マキアート(S)を飲みながらうっかりえのきどの文章を読んで、あやうく泣き崩れそうになった。愛するものを失った喪失感をこれほど哀切に描いた文章は、世の中にそう多くはない。えのきどの13ページだけでも、私にとっては1300円(税別)を払う値打ちがある。

 いずれにしても野球ファンにとっては、枕元にでも転がしておいて時々読み返し、新しいシーズンに備えるのにふさわしい1冊である。

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コメント

丁度一ヶ月経ってしまいましたが(笑)ようやく読むことが出来ました。

「客席から見た野球」。このような視点こそが今、野球界に足りないものだな、と感じます。人気が落ちて叫ばれているのは何だか表面の楽しさの追及と言いますか、それも必要なんでしょうけど、私のような若造でも、もう20年近く野球とジャイアンツを追っています。マネジメント界を除きながらも、「それだけじゃないんだよ、野球は!」と私はよく言いたくなります。「それだけじゃない」野球への熱い心をこの本は見事に叫んでくれています。
その意味ですごく幸せになれた感じです(笑)


唯一巨人について語ってくれたリリー・フランキーの項を読みながら、彼の虚無感について考えていました。今は巨人を見ずとも飯が「食える」時代になってしまいましたが(笑)、いろんな人がもう一度あの感情を取り戻したい、熱くなりたい、と実は思っているんじゃないでしょうか。私も多分その一人です。この本の執筆者のような人達が(特に私たちの世代でも)東京ドームに増える日こそがジャイアンツの復活だと思ってます。

投稿: アルヴァロ | 2005/12/13 11:32

>アルヴァロさん

前回、原監督が作ったチームは、久しぶりにジャイアンツファンが安心して応援できるチームだったと思います。優勝できるかどうかはともかく、彼はそういう部分では、間違えることはないでしょう。このオフもFAを獲りまくっているようですが、実際には投手ばかりですから、「グラウンドに知らない選手が並んでいる」という状態にはなりませんし。

投稿: 念仏の鉄 | 2005/12/14 09:36

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