今秋のプロ野球ドラフト会議で、四国アイランドリーグから指名された選手は、ひとりもいなかった。
5試合連続完封という離れ業をやってのけた愛媛の西山道隆投手など、何人かの選手は数球団が候補と考えている、という報道もあったが、結局はいなかった。リーグ代表の石毛宏典は「これが現実かなと感じている。選手の頑張りもわれわれのサポートする努力も足りなかった。選手がプロになる土壌づくりを今後も築いていきたい」と話したという(東京新聞から)。
野茂英雄がオーナーであるNOMOスポーツクラブからは、柳田殖生内野手が中日に5巡目で指名された。欽ちゃん球団こと茨城ゴールデンゴールズからも指名された選手はいない。
ドラフトで誰を指名するかは、各球団が個々の戦略に基づいて(あるいは行き当たりばったりに)選ぶものであり、四国アイランドリーグから誰も指名されなかったのは、個別の判断の結果としての偶然だと信じたい。
ただし、そうだとしても「残念でした」で片づけていいのか、という面は残る。
ここには、選手の育成を誰が担うのか、という古くて新しい問題があるからだ。
今週読んだ週刊ベースボール11/28号の石田雄太の連載コラムと、野村克也著『野村ノート』に、「プロ野球は高卒選手を育てていない」という同じ問題が指摘されていた。
石田は、いわゆる「松坂世代」を例にとって「あの年、松坂大輔と同じように高卒でプロに飛び込んだドラフト3位以下のピッチャーは(中略)11人いたが、一人もモノになっていない。その一方で、大学、社会人を経由してプロに入ってきた和田毅、杉内俊哉、久保康友、木佐貫洋らの活躍ぶりは言うまでもない」と指摘する。モノになっていない高卒組は、石田が例にとった下位指名の投手だけではない。1位指名の選手にしても、阪神の藤川は7年かかってようやく主力になったが、他に1位指名された古木、実松、吉本、石堂、東出らは、7年目の今年も主力選手とは言えない。これほどまでに枕を並べて討ち死にしているようでは、球団ごとの巧拙以前に、プロ野球の二軍の仕組み自体に問題があると考えた方がいいのかも知れない。
イースタン・リーグの年度別タイトルホルダーを見ていただけば(この表は熱心な個人ファンの方が作ったもので、イースタンにはオフィシャルサイトすら存在しない)、イースタン・リーグのタイトルホルダーの中で、一軍で活躍した選手がほとんどいないことは明白だ。昨年イースタンで首位打者をとり、今年はセ・リーグの首位打者となった青木などは例外中の例外である。二軍で活躍したところで一軍とはほとんど関係がない。この表の右端に「ビッグホープ賞」というのがある。これはベースボールマガジン社が独自に出している賞で、タイトルホルダーとは別の選手が選ばれることが多いが、こちらの顔触れの方がよほどなじみがある。
もちろん、高卒で活躍する選手もいる。松坂やイチロー、松井秀喜、さかのぼれば桑田・清原のように、高卒でプロ入りしてすぐ、あるいは3,4年のうちにタイトルを争うようになるスーパースターもいる。そして、広島のように高卒の選手を二軍で鍛え上げて大きく育てる方針をもつチームもある。
だが、多くの選手は松坂ではないし、多くの球団は広島ではない。それらのケースを、すべての球団が基準とする必要があるのだろうか。いや、各球団が経営に困っていないのなら別に構わない。だが、どこも赤字で経営難でどうにもならないと言い続けている現状で、二軍選手の年俸や遠征費用や施設費などの負担を見過ごしているのは解せない。
そんなに経営が厳しいのなら、いっそのこと、不採算部門である二軍などやめてしまったらどうだろう。
球団が保有する選手は一軍枠のほかに故障等で調整する分も含めて40人程度にとどめる。ドラフトで獲得するのは大学・社会人の即戦力のみ。二軍のリーグからは脱退し、一軍登録していない選手も故障者以外は一軍に帯同する。そうすれば二軍がスタンド付きの球場を持つ必要もないし、寮もいらない。二軍のスタッフも含めて、人件費は大幅削減だ。
それじゃ長いペナントレースは戦えないよ、と言われそうだが、さて、本当にそうなのだろうか。シーズン中に一軍登録した選手の実数や、二軍で鍛えて成長して一軍に定着した選手の人数を考えれば、70人めいっぱい必要だという球団はどのくらいあるだろう。大半は「将来のために」と二軍の試合にも出られないレベルの高卒選手を何人も抱えているのではないだろうか。
この「二軍不要論」は思いつきの段階に過ぎないから、実行に移すまでには多くの問題があるだろう。だが、例えば「球団数を減らして1リーグ制にする」という暴論に比べれば、この程度は変革のうちに入らない。いきなり合併とか言い出すまえに、せめてこのくらいの試みをしてみたらどうかと思う。
そうやって二軍を縮小するチームが続出した場合、プロ野球は育成機能を大学や社会人に丸投げしてしまうわけだから、その分、大学や社会人に対してサポートをするべきだろう。
野村克也は『野村ノート』の中で、こう提案している。
「プロが高校生を大量に囲うぐらいなら、社会人に供給し育成を任せる。そして社会人が数年間かけてプロで即戦力として通用するように育てあげ、プロ球団に手渡す。もちろんその代償としてプロは社会人に育成費を出すべきである」
これを「裏金」と呼ぶからおかしなことになる。きちんと制度化して金額も定めればよい。
ここまで述べてきたように、社会人野球界は、日本プロ野球にとってきわめて重要な選手育成機関だ。その社会人チームが2ケタまで激減したという現状は深刻きわまりない。NPBは社会人球界をサポートすることに、もっと熱心になった方がよい。
そうやって二軍を縮小するチームが続出すると、ファームリーグは成り立たなくなる。広島のように二軍を重視するチームにとっては迷惑な話かも知れない。
この点については格好の解決策がある。
広島カープ二軍は、四国アイランドリーグに参戦すればよい。地理的にも近いし、試合数も多い。四国リーグにとっても大歓迎だろう。NPBのレベルを実感できるし、そこそこ有名な選手が試合に出てくれば観客動員にも役立つ。
NPBは社会人球界をサポートしろと書いたけれど、企業経営一般に余裕がなくなっている現状では、景気が少々回復したところで、昔のような社会人野球の隆盛は望めない。どんなにサポートしても現状を維持するのが精一杯ではないかと思われる。
ならば、それに代わる選手育成機関として、独立リーグをもっとサポートした方がよいと私は思う。二軍を削減した分、若い選手を独立リーグに派遣したってよいではないか(かつて西武がアメリカのマイナーリーグに選手を派遣していたように)。四国だけでなく、いろんな地域に独立リーグができれば、そういうことも可能になる。
独立リーグそのものの育成という意味でも、今年のドラフト会議の結果は残念だった。
先般開かれたプロ野球実行委員会では、育成を目的とした準支配下選手を20人まで保有してよい、という方針を決めたそうだ(というような大事な話がNPBオフィシャルサイトには報告されていない。そもそも実行委やオーナー会議のコーナーすらない。相変わらず情報開示には興味がないらしい)。
下部チームを作って育成をするというのは、サッカー界に習った方針なのかも知れない。現状を変えようという積極的な姿勢そのものは評価したい。
ただし、ここまで述べてきたことからおわかりいただけると思うが、私はこの方針には懐疑的だ。
日本サッカー協会が世代ごとに強化指針を打ち出し、指導方法についてある程度の標準化ができているサッカー界と違って、日本の野球の指導は職人芸の世界だ。各学校、各球団ごとに、それぞれのやり方があり、勉強熱心で新しいものを取り入れる指導者と、そうでない指導者には、大きく差がついているのではないかと思われる。
率直に言って、現在の70人枠の中で、高校球界のスター選手すら満足に育成できていない日本プロ野球界が、その下のレベル(準支配下選手とは当然そういう選手たちになる)の選手を育成することができるのか、私には心配だ。
(その意味で阪神の辻本投手の行く末には注目している。彼の存在自体が、この制度のテストのようなものだ)
関連エントリ
<続・プロ野球に二軍は必要か。>
注)
石田雄太、野村克也両氏の文章に関する記述を、正確な引用に改めました。(2005.11.19 20:30ごろ)
追記)
その後、育成ドラフトによって、西山道隆投手(愛媛マンダリンパイレーツ)がソフトバンクに、中谷翼二塁手(同)が広島に、それぞれ指名されて、育成枠で入団した。
追記2) 2009.4.24
豊田泰光氏のコラムに共通点の多い議論があったので、引用しておく。
<こうやってね、どんどん企業チームが消えていったら、選手作りがどうにも立ちゆかなくなりますよ。企業チーム、クラブチーム、独立リーグと連携して“プロ野球予備軍”を育成するキッチリとしたシステムを作り上げていかないと、ジリ貧もいいところになっちゃいますよ。それでなくても二軍は機能してないんですから(前から言ってるように、二軍という、一種の蔑称はもうやめた方がいい)。
ここはね、二軍を発展的に解消して、社会人や独立リーグと同じ平面上に並べ直して、お互いに協力し合ってやっていくべきなのです。
二軍は一軍から完全に切り離して、一軍の調整台のような役割から解放する。その代わり、1年中野球をやらせなくてもいい。アメリカのマイナーのように4月から9月までの契約で、あとの半年は、働いて食いつなぐ。
社会人や独立リーグと一緒にやるんだから、働くのは当然でしょうが。
こういう時代なんですから、プロ野球は70人も抱えてやってる必要はないんです。40人でいい。この40人で1年を戦う。二軍はね、12球団全体で面倒を見ればいいんです(各球団単位でやるからムダ金を使う)。しかも半年だけ面倒を見るだけでいい。金を使うなら、独立リーグや社会人を援助してほしい。>
(豊田泰光のオレが許さん! 第770回/週刊ベースボール2009.3.2号)
冒頭の<こうやってね>は日産自動車の休部を指す。エントリ内でも懸念を示した社会人チームの数は、ほぼ横ばいで、日本野球連盟の加盟企業チーム数は現在85(10年前から57減った)。独立リーグは今年から3リーグに増加。NPBとの交流戦の機会はしばしば設けられているが、組織的な提携に至ってはいない。
追記3)2009.10.2
阪神タイガースは2009年10月1日、辻本賢人選手と来季の契約を結ばないことを発表した。
http://hanshintigers.jp/news/topics/info_1275.html
辻本は米国のハイスクールを卒業した2004年秋のドラフト会議で阪神に9巡目で指名され、ドラフト史上最年少の15歳で入団した。2009年には支配下選手枠を外れ、育成選手となっていた。一軍登板はなし。
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