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千葉ロッテのデータ分析は、アウトソーシングの手本でもある。

 千葉ロッテの圧倒的な勝利で日本シリーズが幕を閉じてから1週間。さまざまなメディアで勝負の総括や千葉ロッテの内幕が報じられ始めた。
 昨日(11/2)のNHK「クローズアップ現代」もそのひとつだ。バレンタインのデータ解析の凄みを勝因のひとつに挙げて、興味深いものがあった。国谷裕子キャスターは特に野球に詳しい人だとは思えないが、余計な予断を(余談も)挟まず、的確な進行ぶりで好感が持てた。

 私がプレーオフから日本シリーズに至る千葉ロッテの戦いを見ていて印象に残ったもののひとつに、打者たちの堂々たる四球の選び方があった。厳しいカウントからの際どいコースへの球を、何の迷いもなく見送って一塁に歩く、という場面が何度も目に付いた。普段はセ・リーグの試合ばかり見ているらしい解説者たちは、一様に、彼らの選球眼の良さに感嘆していた。

 「クローズアップ現代」では、この見送り方の見事さが、打者の選球眼の良さだけでなく、スタッフによるデータ解析の産物であることを明かす。
 例えば阪神・藤川のシーズン中の投球を解析して、「特定のカウントから変化球を投げると大半がボールになる」と結論づけ、「このカウントから変化球が来たら見逃せ」と打者に指示する。そうなれば打者は、投じられた球のコースを厳密に見極める必要はない。速球か変化球かの区別さえつけばよかった。それが「堂々たる見逃し」の正体だった、と番組は説く。
(従って、これがストライクになれば「きっぱりとした見逃し三振」となる。おそらくバレンタインは、指示の結果としての見逃し三振を責めはしないのだろう。どの解説者だかライターだか忘れたが、この「きっぱりとした見逃し三振」が多いことを理由に、詳細な投球分析の存在を推測していた文章も目にした。炯眼である)。

 雑誌では「Number」640号に永谷脩が「日本一を支えた男たち」と題して、同じ内容に触れている。バレンタインがアメリカから連れてきたポール・プポという統計アナリストの存在は知られていたが、具体的に彼が何をやっているのかは、日本一という成果が出て、ようやく紹介されはじめた感がある(Numberのこの号は、永谷と阿部珠樹という2人のベテランをメインライターに、充実した記事が満載されており、お買い得だ。第4戦の9回裏、小飛球となった矢野のバントを捕球しようとする今江の写真は本誌の白眉)。

 これらの番組や記事からわかるのは、プレーオフ終了からわずか数日の間に千葉ロッテは阪神の選手を徹底的に分析し、対策を持って日本シリーズに臨んだが、阪神は千葉ロッテについてろくに準備をしていなかった、ということだ。シリーズ開始前に阪神優位を唱え、両者の戦いぶりの差を「勢い」「準備期間」だけで説明しようとしたテレビ解説者たちは、己の不勉強ぶりを恥じた方がいい。
(Numberに掲載されているインタビュー記事の中でも、城島健司は舌を巻くような千葉ロッテ攻略法を披露している。彼が健在なら千葉ロッテは日本一どころかリーグ優勝もなかった可能性は大きいし、阪神の誰かが城島に相談していたら日本シリーズの結果も多少は違っていただろう。そう言えば、ジャイアンツV9時代の正捕手だった森昌彦(現・祗晶)は優勝するたびに南海の野村克也捕手に相手チームの情報を仕入れに通ったと言われ、「野村家には森の歯ブラシがある」と噂されていた)

 さて。
 Numberの永谷の記事や「クローズアップ現代」によれば、千葉ロッテは阪神の公式戦の試合データ映像を入手して解析に務めたという。永谷は交流戦とそれ以降の公式戦と書き、「クローズアップ現代」は過去2年間としていたので、量については両者に食い違いがあるのだが、データ映像の入手先がデータ配信会社「アソボウズ」である点では一致している。アソボウズから入手したデータを、バレンタインの指示に基づいて、球団スコアラーが整理し、プポが解析する。そのような流れで分析が進められたらしい。

 ちょっと調べてみたら、バレンタインは10年前に千葉ロッテの監督をした時にも、草創期のアソボウズのデータを活用し、データ収集や解析の手法についてもいろいろと注文をつけていたらしい。プロ野球界に定着したこの企業にとっては、バレンタインは恩人ということになるのだろう。
 アソボウズは現在、9球団だか10球団だか、とにかくほとんどの球団にデータを提供しているという。つまり、それは金さえ出せば入手できる公開情報であるから、入手可能なデータの質と量において、12球団は横一線にある。ただし、そこから先、そのデータをどう生かすかについては、腕によって大いに差がつく。阪神がアソボウズと契約しているかどうかは知らないが、今回のシリーズは、この情報に対する姿勢の差が結果を大きく左右したと言ってもよさそうだ。

 アソボウズの歴史については創業者の片山宗臣が『パソコンが野球を変える!』(講談社現代新書)という本に書いている(らしい。私は未読)ので、詳しくはそちらに譲る。私がこの会社を面白いと思うのは、パソコンで野球を変えたということ以上に、この会社が、日本の野球界とは何の係累もないところから出現した点、そして、おそらく日本野球では初めての、「野球そのもののアウトソーシング」を請け負うことに成功した点にある。

 日本のプロ野球界では、なぜリストラクション、あるいはアウトソーシングによるコストダウンというものが行われないのか、私は以前から不思議に思っていた。バブル崩壊から十数年、それぞれの親会社では厳しくリストラ(単なる人減らしの意味で用いられることの多い言葉だが、組織の構造改革という本来の意味も含めて)やアウトソーシングが行われてきたはずだが、不採算部門であるはずの球団では、それらが目に見える形で行われることは少ない。経費節減というと、年俸の高い選手を解雇するとか、スカウトの人数を減らすとか、戦力低下に直結するような拙劣なやり方が目立ったように思う。

 日本経済新聞社運動部による『プロ野球よ!』(日経ビジネス人文庫)という本がある。2003年2月に刊行された文庫オリジナルで、プロ野球界の課題や改革案が書かれている。具体的なアイデアが満載されており、今読んでも面白いのだが、この中に「打撃投手専門の派遣会社」という案がある。
「裏方さんたちを含み大名行列となる遠征の経費はかさむばかり。いっそのこと、打撃投手やブルペン捕手を『派遣社員』に任せてみてはどうだろう。何もチームお抱えの元選手がやる必要はない。球団の集中する関東と関西に人材派遣会社を立ち上げ、各球団と契約した打撃投手をその都度、派遣するのだ。アウトソーシングを徹底すれば、無駄な遠征費をかけなくて済む」
 そのまま実行可能かどうかは別としても、考え方として面白い。アウトソーシングからは、経費を節減する効果と、アソボウズのような外部の知恵を取り入れるという効果がある。
 吉例に則って経営されてきた感のあるプロ野球界だが、どの分野ならアウトソーシングが可能であるのか、見直す余地はかなりありそうだし、それが球団経営や野球そのものの活性化にもつながる。フロントに外の世界の人材を大量登用した千葉ロッテは、その点でも改革の先行者である。

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コメント

私もBSの再放送でこの番組見ました。

ボビーのデータ野球の成功の裏には副官のプポ氏の存在があると言うのは、各メディアの優勝翌日からの報道で少しずつ明らかにされていましたが、やはりこのNHKの番組が一番わかりやすく伝えていたように思います。

結局ボビー含めたスタッフが分析したデータをそのまま与えるわけではなく、必要最小限の情報に理由付けをして納得づくで選手に理解してもらうところまで含めて徹底しているところなのですよね。

特に藤川の低目変化球を見送るロッテ選手の対応は中継解説者みんなが感心していました(特に4戦目の田淵氏はことさら強調していました)。

データを中途半端に入れると失敗するのは今年の阪神もそうですが、ちょっと昔にさかのぼればヤクルトとオリックスの日本シリーズで、開幕前のメディアを通じたヤクルトのわなにまんまとはまってしまったオリックスのイチローが徹底的に抑え込まれて、チームの勢いも封じられたことですかね。

今年も金本、プレーオフでは松中を徹底的に抑え込んだのが効きました。短期決戦では従来タイプの打線を敷くチームなら中軸に仕事をさせなければ相手の力が半減することをまたしても証明することになりました。

その意味でもシーズン中から打線を組み替え続けた意味が短期決戦でも活かされたロッテの総合力は、ファンの贔屓目を割り引いても本当にたいしたものだと思います。

投稿: エムナカ | 2005/11/03 20:53

>エムナカさん

>ちょっと昔にさかのぼればヤクルトとオリックスの日本シリーズで、開幕前のメディアを通じたヤクルトのわなにまんまとはまってしまったオリックスのイチローが徹底的に抑え込まれて、チームの勢いも封じられたことですかね。

これは95年の話だと思いますが、この時もアソボウズのデータを野村監督が生かした、ということらしいです。この会社にとっては飛躍の年だったわけですね(笑)。

投稿: 念仏の鉄 | 2005/11/03 22:15

オークランド・アスレティックスのビリー・ビーンGMの活躍を描いた、マイケル・ルイスの『マネー・ボール』にもデータを分析するプロフェッショナルの話が出ていましたね。守備だって数字であらわせるという自負に驚いたものです。

そんなわけでバレンタインが昨年の途中からアメリカからデータ分析のプロを呼んだと聞いたときはなるほどなと思ったものです。

今年のわれらがドラゴンズは、落合監督の方針で交流戦対策としてスコアラーを増員したのですが、ご存知のとおりの結果に終わりました。自前で抱えればいいわけではないという見本です(苦笑)

投稿: E-Sasaki | 2005/11/03 23:41

>E-Sasakiさん

>マイケル・ルイスの『マネー・ボール』にもデータを分析するプロフェッショナルの話が出ていましたね。

あの本に出てくるデータアナリストたちも、最初はMLB関係者から全く相手にされなかった様子が書かれており、そのへんの意識は日本もアメリカも大差ないようです。そう考えると20年以上もプポ氏を使っているというバレンタインは凄いですね。

余談ですが、ビーンの片腕だったデポデスタ・ドジャースGM、ビーンの信奉者らしいエプスタイン・レッドソックスGMが相次いで解雇されました。本家アスレチックスも今年はプレーオフ進出を逃し、増殖するかに見えた“マネー・ボール派”は、ちょっと旗色が悪くなっています。
彼らが信奉する理論は盗塁やバントを非常に軽視しているので、それらを多用する“スモール・ボール”がワールドチャンピオンを争った今年の結果も、彼らにとっては不都合なものでしょうね。


>今年のわれらがドラゴンズは、落合監督の方針で交流戦対策としてスコアラーを増員したのですが、ご存知のとおりの結果に終わりました。自前で抱えればいいわけではないという見本です(苦笑)

中日がアソボウズからデータを買っているかどうかは知りませんが、落合監督は部外者の作ったデータはあまり信用しそうにない気がします。偏見ですが(笑)。


※当初エントリの最後につけていた正力賞に関する文章は、冗長な気がしたので削除しました。このエントリ、カッコ内の余談が多すぎるので。ま、いつものことですが(笑)。

投稿: 念仏の鉄 | 2005/11/04 00:21

 Numberの640号、購入しました。
Numberを読むのなんて、本当に久しぶりだったのですが、鉄さんが勧められるだけあって、本当に読み応えのある一冊でした。
  千葉ロッテの精緻なデータ分析にも、驚かされましたが、それぞれ、意地も拘りもあるだろう選手たちを、データ導き出す指示どおりに動かしてゆく、バレンタインやスタッフの人心掌握術にも、驚かされました。
(同じ紙面でイチローが、「個人があってチームがある」と、まるで反対の発言をしているのも、印象的)
  写真では、第3戦でKOされた藤川球児が呆然としている姿が印象的。やっぱり、同年代男の子がセットアッパーなんて過酷な役目を果たしている姿を見ると、ついつい入れ込んでしまいます(私は、能見選手と同じ年で、藤川よりはひとつ上です)

投稿: southk | 2005/11/08 02:07

>southkさん

や、いらっしゃい。
私も最近はSport Yeah!を選ぶことが多かったんですが、今回はNumberの方がいいと思います(今回のYeah!は阪神ファン向きかも)。
永谷さんという人は、その時々の旬の人物(山田、東尾、権藤、イチロー、etc.)にべったりと食い込むスタイルがあまり好きになれなかったのですが、この号ではいい感じの距離感を保っています。監督がアメリカ人だから食い込みづらかったのかも知れませんが(笑)。

>同年代男の子がセットアッパーなんて過酷な役目を果たしている姿を見ると、ついつい入れ込んでしまいます

阪神のブルペン陣、JはともかくFKは若いですよね。藤川はプロ入り当初、故障の多かった投手だけに、これだけ投げると、ちょっと来年が心配です。

投稿: 念仏の鉄 | 2005/11/08 09:27

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