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WBC日本代表が抱える、いくつかの課題。

 WBC日本代表のメンバーが発表された。顔触れを眺めて、思ったことを2,3記しておく。

1)主将は誰になるのか
 アテネ五輪の予選と本大会で日本代表を率いたヤクルトの宮本が今回のメンバーには入っていない。宮本がもっとも頼りにしていたらしい高橋由伸もいない。
 準備期間の短い寄せ集め集団をチームとして機能させるためには、それなりの求心力が必要になるのではないかと思う。五輪予選で宮本がどんな役割を果たしたかについては、1年ほど前に「宮本慎也という至宝。」というエントリに記した。さて、その役割をこのチームでは誰が果たすことになるのだろう。
 アテネ五輪の時と異なるのは、MLBに在籍する選手が何名か入ってくることだ。メンバーの中でMLBでのキャリアがもっとも長いのはイチローで、すでに日本を離れて5年経つ。西岡、今江、青木といった選手たちがプロ入りした時には、すでに彼は海の向こうの人だった。このように互いに一面識もないであろう組み合わせがいくつか生ずるというのは、融和を困難にする可能性がある。シドニー五輪の男子サッカー代表で、23歳以下の選手たちに、セリエAで活躍する中田英寿が加わった時には、キャプテンの宮本が仲介役を務めていたと聞く。このチームでも誰かがそういう役割をする必要があるかも知れない。全体に若いチームで、イチローより年上の選手があまりいないのも気になる。
 ふさわしいのは和田一浩あたりだろうか。うまくやってくれることを期待している。

2)控えの専門家がいない
 投手陣は先発・中継ぎ・抑えと、左右のバランスも考慮して選ばれたように見える(球威が武器の投手が多いような印象はあるが)。だが、野手陣はどうだろう。タイプとしては長距離砲もいればスピードスターもいる。スタメン9人はバランスよく組めるだろう。
 気になるのはベンチだ。選ばれた選手はみなチームで主力ばかり。途中から試合に出て、状況に応じた働きをすることに慣れている選手が、あまりいない。日常的に複数の守備位置をこなしているのは、ベストナインとゴールデングラブを別のポジションで獲得した西岡くらいだろうか。
 複数の守備位置を無難にこなし、代打に出ればバントや右打ちもできるし、チャンスには勝負強く、走塁も巧み。引退したジャイアンツの元木のような「控えのプロフェッショナル」とでもいうべき選手が1人くらいベンチにいた方がよいのではないかという印象を受ける。なんとなく若手が控えになりそうな顔触れだが、その選手がいるだけでチーム全体が引き締まるようなベテランがベンチに座っていると、チームの生態系が安定するし、試合の形勢がよくない状況下でも、雰囲気を盛り上げることができるのではないかと思う。
 だが、この選考には、そういう観点はなさそうだ。
 フィリップ・トルシエの語法を借りれば、「試合を始める選手」は十二分にそろっているが、「試合を終える選手」については、よく見えてこない。

3)正捕手を誰にするのか
 城島という絶対的なスターが、MLBへの移籍と重なってしまったために選抜されなかった。里崎、谷繁、阿部という3人を、王監督はどう使うのだろう。誰かをレギュラーとして使うのか、投手との相性等から使い分けるのか。判断できるほどの材料を私は持たないが、一般論としてはレギュラーは固定した方がよいのではないかと思う。里崎は試合に出ないことに慣れているし、谷繁は五輪予選で城島のバックアップを献身的にこなした。どちらになっても大きな問題はないとは思うが、監督としてはもっとも難しい部分ではないだろうか。


 選手個々の力量では、世界レベルで一流の選手ばかりだと思う。問題は、その力量をきちんと発揮できるかどうか。課題として3点挙げたけれど、結局はどれも「この集団をいかにしてチームにするか」ということに尽きる。
 王監督とコーチ陣が、そういう面をうまくやってくれるよう祈っている。あと、松井秀喜がさっさと参加を決めることを。打力だけでなく、松井がいることでチームが落ち着いてくるような気がする。


*出張先のネットカフェでそそくさと書いているので、帰京後に修正する可能性があります。あしからず。

…と書いたので、せっかくだから追補しておく(笑)。
 2)のところで「複数の守備位置を無難にこなし、代打に出ればバントや右打ちもできるし、チャンスには勝負強く、走塁も巧み」と書いたものの、そんな重宝な選手が実際にいるものだろうか、と考えているうちに、外野については理想的な選手に思い当たった。田口壮だ。しかも彼は、おそらくは遠慮せずにイチローにモノが言えるであろう先輩格でもある(昔は試合前にレフトとライトの定位置でキャッチボールした仲だ)。こういう選手がベンチにいるチームは強い、はず。(2005.12.10)

で、内野は川相。このクラスになれば、歳も国際経験も問題ではない。(2005.12.14)

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コメント

深いですね。

由伸の辞退理由は手術直後でコンディションに責任が持てないからだと思いますが、ヤクルトの場合は古田新監督に遠慮して参加を見送った選手が居そうな気がします。特に宮本のように義理堅い選手は・・・。王さんも一選手の立場なら間違いなく古田を選んだはずですが、監督をキャンプ期間に拘束するのはさすがに気が引けたのではないかと思います。

控え要員についてはおっしゃるとおりと思います。代打の切り札でヤジ将軍のような選手が居るとベンチの雰囲気が変わりますからね。

捕手は経験なら谷繁、打力なら阿部、勢いと投手との相性なら里崎ということになりそうです。

後は前のエントリのところでコメントしたように外野が特に心配。松井秀喜が参加すればほとんどの問題は解決できそうなんですけれど・・・。

投稿: エムナカ | 2005/12/10 01:28

>エムナカさん

主将とか控えが大事だと思うようになったのは、アテネ五輪予選を見ていて気づいたことです。札幌では井端や木村和哉や谷繁がいい仕事をしていたように思います。

選ばれなかった選手すべての事情がわかっているわけではないので、個別にどうこう言うことは控えます。ただ、いないことが残念に思える選手が何人かいる、というだけです。

それにしても王監督は、他の選手に対してはストイックな発言に終始しているのに、松井に対してだけは「加わってくれると信じている」と公然とプレッシャーをかけていますね。王さんにとっても、彼は特別な存在なのでしょう。

投稿: 念仏の鉄 | 2005/12/10 08:23

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