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達成感について。

 胸のすくような勝利だった。
 前半なかなかチャンスをモノにできなかっただけに、七回に福留が代打本塁打を打った時には、本当に晴れやかな気分になった。その後の連打、とりわけ代打・宮本のタイムリーヒットの鮮やかさ。さらにその裏、韓国の3,4,6番から三振を奪った上原の気迫。序盤、左翼ポール際のファールを飛び込んで捕球した多村も見事だった(東京ドームに続いて二度目だ)。
 かくて日本はWBC決勝に進む。

 ゲームセットが宣告されると、韓国の選手たちはぞろぞろとベンチを出て、例によって「テーハンミングッ」を連呼するスタンドのファンに手を振りながらグラウンドを歩いていた。選手もファンも、どこかさばさばしているように見えた。サッカーのワールドカップ2002年大会で、準決勝でドイツに敗れた直後の韓国代表とスタンドのファンの雰囲気に、よく似ている気がした。
 威勢のいいことを口にしてはいても、彼らは心のどこかで、準決勝に進んだことに達成感を覚えていたのかも知れない。ひとつの大きなテーマだった兵役免除が、準決勝に進んだ段階で実現してしまったことも、彼らの執念に影響を及ぼしていたかも知れない。

 王監督は試合後、アメリカのテレビ局のインタビューに答えて、「決勝に進むことよりも、2つ負けていた韓国に勝ったことの方が嬉しい」と話していた。もし達成感が執念に水を差すのだとすると、この発言には若干の懸念を感じないでもない(単に、王監督の負けず嫌いな性格の発露、という気もするが)。
 しかし一方で、決勝の相手は日本と無縁ではない。キューバはに国際大会でさんざんやられてきた。松中と福留はアトランタの決勝で敗れた。宮本はアテネ五輪の表彰式の後、銅メダルを貰った時にはこれも悪くないかと思ったが、隣でキューバが金メダルを受け取るのを見たら悔しさがこみあげてきた、と話していた。アテネ組の松坂や小笠原も、たぶん同じ思いを共有している。あの真っ赤なユニホームを目の前にすれば、彼らは達成感など即座に忘れてしまうだろうと、私は楽観的に考えている。もはや失うものはない。思う存分に戦ってほしい。

 決勝が日本-キューバという組み合わせになったことで、イチローと大塚は、決勝戦に出場するただ2人だけのメジャーリーガーになる。イチローひとりという可能性もある。プライドの高いイチローにとっては、それもまた大きなモチベーションになるのではないかと思う。


注)
七回裏の上原の投球に関する記述に誤りがありましたので修正しました。(2006.3.20)

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コメント

いやぁ本当に溜飲が下がりました。
次は決勝でキューバにリベンジしてほしい。
参加しなかった連中が「しまった」と思うような試合を希望します!

投稿: 馬場 | 2006/03/19 20:59

あそこで福留が打たなかったら明日は会社に行けないところでした(笑)
不調でもあそこなら打てるというところに来ました。たぶん左投手に代わっていたら打てなかったと思います(「代えるなよー」と祈ってました)。

しかし、キム・ビュンヒュン。2001年のワールド・シリーズを思い出しました。

投稿: E-Sasa | 2006/03/19 22:23

松中の激走が福留のハートに火をつけたらしいです。私も中国戦のときにそれを感じました。特に過去にナショナルチーム経験のある福留、松中の思い入れはそれなりに高いと想像されるので、これまでブレーキになっており、この日の先発を外れた福留の心には引っかかるものがあったでしょう。

昨シーズンプレーオフの大ブレーキだった松中が今大会はホームラン以外のところで貢献しています。

それにしても一番いい場面で代打に送った王監督の男気も感じられる采配でした。

野村監督がシダックス時代にキューバ相手の親善試合で2勝したこと、今日のサンデースポーツで語っていました。キューバは変則投法に弱いだろうと予想し、アンダースローの投手をぶつけたそうです。

ローテーションから行けば松坂なんですが、状況次第で渡辺俊介のロングリリーフ、もしくは先発ローテ崩しで渡辺を先発させるかも知れません。

セットアッパー、クローザー陣は当然全員待機、球数制限が95に緩和されたので一次リーグ、2次リーグのようなロングリリーフは必要なくなり、ブルペンに誰を用意しておくかも結構気になります。

出来れば初代王者になってほしいです(バックナンバーでもUSAを叩いて優勝を掻っ攫ってほしいとコメントしていました)。でも運も味方して準決勝進出が決まったわけですから、それ以降はおまけみたいなもの。準決勝は3度目の対決では負けられないという特殊な事情がありましたが、決勝のキューバにそのような理由を見つけるとすれば何になるのでしょう。過去のナショナルチーム経験者のトラウマを取り払うチャンスではあるでしょうが、正直韓国戦ほど気合いが入るかどうかが微妙。モチベーション維持のために、どういうコントロールをするか、王監督の動向が気になります。

とにかくあとはボーナスです。思いっきりやってほしいです。

投稿: エムナカ | 2006/03/19 23:57

ごぶさたしてます。
いやー、久しぶりに、「野球ってこんなに面白かったのか!」って再認識させられる試合でした。

7回のシーンでは、テレビの前でひとりで絶叫したり小踊りしながら応援してしまいました。

トーナメントで負ければ終わり、しかも日の丸を背負ってプロが戦う。序盤で先制点をとらないといけない。そうはさせじと力投する先発投手、、、。へんなたとえですが、高校野球のような?ひたむきさを感じました。
ペナントレースは日常、WBCは非日常という違いがあるにせよ、もっとこんな気迫あふれる試合が増えればいいなあ、と思いました。

韓国は、やはり福留のツーランで集中力の糸が切れたのか、あとは全然恐くなかったですね。日本以上に熱しやすく覚めやすい国民性なんでしょうか??

あと、はっきり言って、上原を見直しました。テンポよく投げてる割に一発打たれる、という印象があったのですが。こんなに頼りになるピッチャーでしたっけ?イ・スンヨプを完璧に抑えたのもよかった上原との対決、二度とも三振だったような。
今後巨人ベンチ内であつれきがなければいいですが?

あと、イチロー。きょうは3安打と2盗塁1打点ぐらいですか?やっぱ気迫が伝わってきました。

それと、実況アナウンサー。韓国選手のことを「ペ・ヨンジュン」と言ったり、「ペトコスタジアム」を「コパカスタジアム」とか言い間違えていませんでした?コパカバーナかよ、、、。私の幻聴でしょうか。佐々木のこなれない解説とともに、ご愛敬でした。

投稿: ペンギン | 2006/03/20 00:47

>馬場さん
>参加しなかった連中が「しまった」と思うような試合を希望します!

たぶん、すでに「しまった」と思ってるでしょうけど(笑)、次もそういう試合であってほしいですね。

>E-Sasaさん
>あそこで福留が打たなかったら明日は会社に行けないところでした(笑)

現実世界に中日ファンの友人はいませんが、ここにいらっしゃる方たちも安心してるだろうな、と思いました。あと奥田英朗も(笑)。

>しかし、キム・ビュンヒュン。2001年のワールド・シリーズを思い出しました。

あれも悲惨でしたからねえ。しかも二夜連続で。

>エムナカさん
>キューバは変則投法に弱いだろうと予想し、アンダースローの投手をぶつけたそうです。

70年代から80年代にかけてのアマ日本代表は、国際試合に技巧派のアンダースローを多用しましたが、だんだんと通用しなくなっていきました。そこで抜本的に考えを変え、「90マイルの速球+決め球になる変化球」を武器とする投手陣で銀メダルを取ったのが88年のソウル五輪。その時に抜擢されたのが野茂や石井丈、潮崎といった投手たちでした。
その意味で、今大会で渡辺俊介が軸として使われ好投しているのは興味深い。先祖返りなのか、歴史が循環しているのか。

投稿: 念仏の鉄 | 2006/03/20 00:54

>penguinさん
>7回のシーンでは、テレビの前でひとりで絶叫したり小踊りしながら応援してしまいました。

こういう感覚に、実は我々は結構慣れているのだと思います。サッカーの国際大会だったり、オリンピックだったり。ただ、野球ではそういうことはめったになかった。それが、この大会の値打ちだと思います。

>イ・スンヨプを完璧に抑えたのもよかった上原との対決、二度とも三振だったような。
今後巨人ベンチ内であつれきがなければいいですが?

イが打って韓国が勝ちでもしたら、もっと軋轢の種になったことでしょう(笑)。過去2試合で十分打ってるんだから、このくらいでいいですよ。

>それと、実況アナウンサー。
TBSは見てません。
JSPORTSは元NHKの大ベテラン島村アナで、抑えた実況がよかったです。安心して聞いていられる。
何より素晴らしかったのは、試合前に準決勝までの歩みを紹介した時、USAとの失点率の差に触れて「これはアメリカ戦でサヨナラ負けする前に奪った三振ひとつ分、日本が上回ったということです」と話したこと。暗に「グリフィから奪った三振は無駄ではなかった」と言っている。藤川球児は、これを聞いたら泣いていいと思う。

投稿: 念仏の鉄 | 2006/03/20 01:04

>USAとの失点率の差に触れて「これはアメリカ戦でサヨナラ負けする前に奪った三振ひとつ分、日本が上回ったということです」と話したこと。暗に「グリフィから奪った三振は無駄ではなかった」と言っている。藤川球児は、これを聞いたら泣いていいと思う。

もう私は泣いてます(T_T)。
そっか、「三振ひとつ」の差だったのか。

こういう洞察深い、野球をよく知っている方のコメントを聞くと、野球が好きで良かったと心から思います。
藤川に聞かせてあげたいです、ほんと。

投稿: 馬場 | 2006/03/20 01:54

>馬場さん
すいません、調べなおしてみたらアウト2つの差でした(アメリカと失点が同じでイニング数が2/3回多い)。私の聞き違いかも知れない。しかし、島村アナの発言のニュアンスはそういうことだったと思います。
準決勝進出が決まったとき、王監督が「みんなが頑張って最少失点に抑えたから勝ち上がれた」と話したのも、同じことですね。

投稿: 念仏の鉄 | 2006/03/20 08:50

打撃陣の奮起にもですが、今大会の投手陣の皆さんには本当に頭が下がります。

正直グラウンドが硬いとかボールがちょっと違うとかあったと思うんです。でも、苦労しながらもちゃんと抑えてくれる。本当にうれしいですし、何より誇りに思います。

>「グリフィから奪った三振は無駄ではなかった」と言っている。藤川球児は、これを聞いたら泣いていいと思う。

私も「あの三振」が分かれ目だと思っていました。でも、今大会は一度も緊張の糸を切らしていないことが最後につながったと思います。

最後に忘れてはいけないのが、宮本。心理面の支えであっただろう彼の、代打に向かう素振りを見て「いける」と思えた。あのタイムリーには感動しました。本当になくてはならない存在です。

投稿: アルヴァロ | 2006/03/20 12:39

>アルヴァロさん
>打撃陣の奮起にもですが、今大会の投手陣の皆さんには本当に頭が下がります。

ここまで7試合もやって、先発投手が打ち崩された試合がひとつもないというのは驚くべきことです。リリーフ陣も含めて、大量失点は皆無ですからね。

>最後に忘れてはいけないのが、宮本。
確かJSPORTSの中継で聞いた話だと思いますが、宮本は準決勝の試合前、打撃投手をしていたそうです。スタッフがいないわけではないようですが、疲れているだろうから、と代役を買って出たのだとか。井口の代役に選ばれた時、「雑用でも何でもやる」と話していた通りのことを進んでやっている。「チーム」に何が必要なのか、感覚として判る人なのでしょう。

ちなみにアルヴァロ君のコメントは、このblogの通算1000件目のコメントだそうです。それがめでたいのかどうか、よく判りませんが(笑)。

投稿: 念仏の鉄 | 2006/03/20 23:11

いろいろと良い面が出た準決勝の日本代表ですが、私には上原のピッチングが最も印象に残りました。国際試合無敗はダテではありませんね。さすがです。
シンカー気味のフォークの切れに比べ、スライダー気味のフォークに切れがないと見るや、ストレート中心の配球に切り替えたり(これは里崎の手柄かもしれません)、広めのストライクゾーンを目いっぱい有効に使うコントロールといい、本当にいいものを見せてくれました。
それとファールフライの好捕、スリーバント失敗と、浮き沈みの激しかった多村にようやく1発が出たのも、嬉しい出来事でした。
ぜひ、決勝でも、モチベーションをきらすことなく、思い切りの良い、いいプレーを続けて欲しいものです。

投稿: 考える木 | 2006/03/20 23:37

>考える木さん
>私には上原のピッチングが最も印象に残りました。国際試合無敗はダテではありませんね。さすがです。

このところの投球、とりわけ準決勝を見ていると、気合を気負いでなく集中に転じることができる人なのだな、と感じます。大きな舞台になるほど力を発揮するというのは、そういうことなのでしょうね。
(この3つの違いは何だと言われればうまく説明できませんが、しかし厳然たる違いがあるのは確かです。おそらく、自分のすべきことをきちんとすることに意識を置くのが「集中」で、そこを飛ばして結果を求めることに意識が行ってしまうのが「気負い」なのではないかと思います)

投稿: 念仏の鉄 | 2006/03/21 07:46

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