利権構造が台なしにした、もうひとつのワールドカップ。
日本が姿を消した後のワールドカップでは、決勝トーナメント1回戦で熱戦が続いている。この大会のグループリーグでは、ほとんどすべての組で強豪と目されたチームが順当に勝ち上がった。番狂わせと言えるのはチェコとUSAを蹴落としてガーナが勝ち上がったことくらいだろう。
グループリーグでも好ゲームが多かったし、今後もサッカーファンなら誰もが注目するような好カードが見られることになるだろう。
ドイツ大会がこのように順調に進行しているのを見ると、4年前の2002年大会がいかに特異な大会だったかということを改めて感じざるを得ない。
2002年大会では、優勝候補と目されたフランスとアルゼンチン、強豪といわれたポルトガルがグループリーグで敗退し、決勝トーナメントでもスペインやイタリアが早々に姿を消すなどの番狂わせが続出した。その結果、大会が盛り上がっていくべき準々決勝や準決勝の対戦カードには、世界のサッカーファンにほとんどなじみのない国がかなりの割合を占めることになった。
ワールドカップには、国境を越えて後世まで語り継がれるような名勝負が、それぞれの大会にひとつやふたつはあるものだが、2002年大会においては、そのような評価を受けている試合を思い出すことができない(個人的にはトルコ-セネガル戦などはとても面白かったと思うけれど)。
つまり、世界のサッカーファンにとって、2002年大会は、こと試合の内容に関しては「商品価値の低い」大会になってしまった。
2002年大会に番狂わせが続出した原因として指摘されているのは、主に次の2点だ。
ひとつは、大会が開催された東アジア地域に特有の蒸し暑い「梅雨」の気候に、他地域、とりわけヨーロッパ出身の選手たちが適応できなかったこと。
もうひとつは、開幕が5月31日と通常の大会よりも早かったため、欧州各国リーグの終了からの日数が短くなり、欧州リーグで活躍する選手を多数擁する国(すなわち欧州や南米の強豪国)が、コンディションを整えることができなかったこと。
開幕を早めたのは、開催地では統計上7月上旬に雨の降る日が多く、これを避けるためだったと言われる。
つまり、この2点は、いずれもこの大会の開催地が日本と韓国であったことに深くかかわっている。逆に開催両国は、このような背景も味方につけて、ワールドカップ初勝利を含む空前の好成績を残した(ま、韓国はこれらに加えて一部の審判も味方につけたようだが)。
前回の反省もあってか、今年のドイツ大会は6月9日に開幕している。欧州各国リーグの閉幕後、各国は十分な準備期間をとることができた。このため、強豪と目される国のほとんどは良好なコンディションで本大会に臨むことができた。
今大会で強豪国が順当に勝ち上がり、好ゲームが続出しているという事実は、逆説的に前回大会の環境の劣悪さを浮き彫りにする。
試合内容のクオリティだけを考えれば、東アジアでワールドカップを開催したこと自体に問題があったのかも知れない。
この大会が日本と韓国で開かれたのは、かつてのFIFA会長アベランジェが「2002年大会はアジアで開催したい」という意向を口にしたことから始まった。それを受けてJFAが猛然と招致活動に乗り出した(最後に韓国が巻き返し、FIFA内の勢力争いに巻き込まれるような形で共催に落ち着いた)。
かつてワールドカップそのもののマーケティングを手がけ、JFAとも深いつながりのあった電通も、当然これに関わっている。2002年大会が日本で開催される上で、電通は大きな役割を果たしたといってよいだろう。
アベランジェが「2002年はアジアで」と言い出した理由には、サッカー自体のマーケット拡大という狙いがあったと言われる(当時プロサッカーリーグが存在していなかったUSAで94年にワールドカップが開催されたのも同じ理由だ。そしておそらくは2010年に南アフリカで開催されるのも)。
つまり、巨大な利権マシンであるFIFAと電通が結託して東アジアにワールドカップを持ってきた、という言い方もできる。
その結果、日本と韓国で開かれた大会の内容が低調に終わったのは上述の通り。
とすれば、「電通は自分の商売のためにワールドカップそのものの国際的な商品価値を損ねた」と言えるかも知れない。
そして、我々日本人は「自分たちが地元開催のワールドカップを享受するために、世界のサッカーファンの楽しみを犠牲にした」のだとも。
ジーコの試合時刻批判に端を発して、電通がサッカー界の利権構造を代表するような形となり、ずいぶんと批判の的になっているようだ。
電通がサッカー界、それも日本だけでなく国際サッカー連盟の中でどれだけの役割を果たしてきたかについては、いろんな文献に紹介されている。例えば、長くワールドカップのマーケティングに携わり、日本への誘致活動にも参画していた当事者である元電通マンの広瀬一郎氏が何冊も本を書いて紹介している。
FIFAそのものの長年の利権構造については、例えばデヴィッド・ヤロップ『盗まれたワールドカップ』(アーティストハウス)が詳述している。2002年大会が日韓共催になった経緯について書いた本もいくつかあったと記憶している。私は未読だが、最近出版された田崎健太『W杯ビジネス30年戦争』(新潮社)という本もこのテーマを取り上げている。
今大会をきっかけにサッカーと利権と電通の三題噺に興味を抱いた方は、上記のような本にも目を通されるとよいかも知れない。
ところで、夏季オリンピックはこのところ7月下旬から8月にかけて行われている(8月が冬になるシドニーは例外だったが)。なぜわざわざアテネやアトランタやバルセロナが年間でもっとも暑いであろう時期に開催されるのだろうか。42年前に東京で開催された時は10月10日が開会式だったのに。
最近、知人に聞いた話によると、それはオリンピックの運営費のかなりの部分を出しているUSAのテレビ局の都合なのだという。6月にはNBAのプレーオフがあり、9月以降には野球がクライマックスを迎え、アメリカンフットボールも開幕する。オリンピックはこれらを避けた夏枯れの時期に開催しなければテレビ番組としての価値がない、ということらしい。
これもまた、スポーツ界を動かす巨大な利権構造のひとつだ。
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