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江本孟紀『プロ野球をダメにする致命的構造』PHP研究所

 勢いがついたので、もう1冊。今度は野球本だ。
 2004年に民主党を離れ、参院議員をやめて大阪府知事戦に出馬し、落選して以降、江本は野球界での活動に積極的になっている。ちょうど、球団削減が問題になったり選手会がストを打ったり、野球の危機が表面化した時期だ。ホームグラウンドの野球界に対して何かしようと彼が考えるのは当然とも言える。

 「活動」というのは、テレビで試合解説をすることだけではない。アメリカで独立リーグの運営に関与し、日本人だけの球団「サムライ・ベアーズ」が破綻した後は、日本で受け皿となるチームをつくり、さらにそれをベースに京都ファイアーバーズというクラブチームを設立した。かつてはプロ野球OBクラブの設立にも関わっている。
 そのような事業マインドを持ち、政治家としての経験から、政財界の仕組みも知っている。日本のプロ野球選手出身者にはきわめて珍しい、貴重な人材といってよい。最近は週刊ベースボールでも連載コラムを持っているが、豊田泰光の大いなる正論とはまた違った切り口で、説得力のあることを書いている(豊田さんは「古き善き野球人の伝統」からモノを言う。そういう人もまた貴重だし、必要だ)。

 前置きが長くなったが、そういう江本の著書だけに、「巨人が悪い」「コミッショナーがダメだ」「野球界は終わりだ」といたずらに人を脅すだけの類書とは違い、きわめて建設的な提言となっている。束は薄いし行間は広いが、どうして中身は濃い。

 江本の提言は、要するに「プロ野球が儲かるビジネスモデルを作ろう」ということに尽きる。詳しくは実物にあたっていただきたいが、「単独オーナーをやめ、自治体と協力して複数のオーナーにする」「二軍を切り離して独立リーグを支援する」などのアイデアは、このblogで私が断片的な思いつきとして記してきたこととほぼ同じだが、より具体性をもった統一的なアイデアとして示されているのだから、推薦しないわけにはいかない(笑)。
 とりわけ、巻末に示された独立リーグ球団の収支モデルは興味深い。1球団につき年間4億円が出入りするビジネスとして計画されている。机上の計算といえばそれまでだが、細かく記された費目を見ていくと、これまでブラックボックスの中にあった球団経営というものの実態が、少しづつ見えてくる。上述の通り、江本はアメリカで独立リーグの運営に副コミッショナーとして関与した経験がある。これらの費目や数字に、その知見が反映されているのなら、あながち「机上の計算」と切り捨てることもできまい。

 このblogを始めたばかりの2004年8月に書いたエントリ『誰が野球の側に立つのか』に、「日本のプロ野球にもっとも欠けていたことのひとつが、『選手出身で経営者と渡り合える人材』だった。広瀬氏は『いかに野球界の外部から優秀な人材を連れてくるかが最大の課題』と強調していたし、それは正しいと思うけれど、それでも、経営者側でも労働者側でもなく、『野球の側』に立って物事を動かすのは、できれば元選手がふさわしい」と書いた。その考えは今も変わらない。その意味で、政治家を経験した江本が本腰を入れて野球改革に取り組むのであれば、喜ばしいことだ。球団経営の構造的問題には目もくれずに村上ファンドを口汚くののしって野球ファンをミスリードし続ける同世代OBの言動よりも、はるかに野球界のためになる。
(球団数の削減が回避されたことでプロ野球の問題が解決したわけではないのと同様、村上代表が逮捕されたからといって阪神電鉄と阪神球団の経営構造における問題が解決されたわけではない)

 唯一、難を言うならば、この恫喝系のタイトルにだけは賛成しかねる。
 造本を見る限り、これほど建設的な内容の本だとは想像しにくい。こういうタイトルで、実際にその通りの悪態ばかりを連ねた類書は何冊もあり、飽き飽きしている野球ファンも多いことだろう。これでは、本書を手に取ってもらいたいような人々に、かえって敬遠されかねないのではないか。PHPはそれほどガツガツした版元ではなかったと思うのだが、どうしたことか。

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コメント

えっ、そうなんですか。
私もまさにタイトルを見て「あぁ感情的な悪口雑言のたぐいか」と思って手を出さなかったクチなので。
そんな面白い本だったとは。さっそく買うことにします。

ところで鉄さん、福岡vs東京のオリンピック誘致合戦についてはいかがお考えですか?
福岡人としてはそのうちコメントがいただけると嬉しいです。

投稿: 馬場 | 2006/06/06 18:50

>馬場さん
ま、いきなり買わなくても(笑)、手に取って中身をみてください。表紙の印象とはかなり違うと思います。

五輪については何とも言い難いですね。
東京の誘致計画は読んでいて退屈です。東京にとってのメリットや東京自慢ばかりを書き連ねて、「五輪や世界のスポーツに対して東京は何ができるのか」という面に乏しい。
そういう意味では、アジアに対して開こうとしている福岡で開催する方が面白いとは思います。ただ、コンパクトな大会といいながら、具体的な計画を見ると、結局は大型開発の梃子にしたいのかな、という印象を受けます。財政的な裏付けについても、ずいぶん批判が集まっているようですし。個人的には、磯崎新を担いでいるというだけで引いてしまいます。こういうところに建築家が出しゃばってくること自体が20世紀的発想なのでは。

ロンドンは「選手のための五輪」を前面に打ち出して2012年開催を勝ち取りました。その流れからすると、東京も福岡も現在の計画はいささか内向きで、JOCの候補になったとしても、国際競争に勝ち残れるかどうか疑問に思います。

身も蓋もないことを言うと、どちらも開催時期は7-8月になっていますが、この時期に日本で五輪を開催するのは、選手や競技にとっては迷惑でしょうね(北海道でやるなら別ですが、札幌市長はまったくやる気がないようですね)。8月に東京でマラソンをやったら死人が出かねませんよ。まあ、アトランタやアテネも相当暑かったようではありますが。

辛辣な話ばかりになってしまって恐縮ですが(笑)、五輪についてはこんなところです。

投稿: 念仏の鉄 | 2006/06/07 09:18

江本さんの本、読みました! いやぁ素晴らしい本でした。

タイトルに対する苦言まで含めて、鉄さんのご紹介のとおりなのですが、この本を読んで私は江本孟紀という野球人を根本から誤解していたことに気づきました。誠に汗顔の至りなのですが、あまりにも有名な「ベンチがアホやから」発言→タレント→政治家という華麗なる経歴から、江本=小器用で軽薄な才子と思い込んでおりました。

ところがどっこい、江本孟紀は熱い野球マインドに満ちた実に「いい漢(やつ)」なんですね。野球への夢絶ちがたく米国独立リーグに夢を賭けた若者たちサムライ・ベアーズに損得抜きで付き合う。夢破れて帰国した彼らに「引導渡して」あげるためにクラブチームをつくってしまう。そういう、熱い熱い「野球バカ」が江本孟紀なんです。

サムライ・ベアーズの奮闘を描いた本が紹介されてました。
「月給12万のヒーロー」
「野球選手という憧憬を捨てきれず集った賞味期限ギリギリの若者たち。アメリカに渡って、毎日バス移動とモーテル暮らしを続けた。そして、泥と汗にまみれながら、一途に夢と白球を追った…」
(amazon.co.jp)

こちらも注文してしまいました(笑)。

本気で、江本さんをコミッショナーにすべきだと思いました。

投稿: 馬場 | 2006/06/10 18:20

>馬場さん
さっそくお読みになりましたか。お気に召したようで幸いです。
「小器用で軽薄な才子」と思われても仕方ないような行動も(特に引退から間もない頃には)あったとは思いますが、高知県人に器用な人は少ないでしょうね(笑)。そもそも阪神をやめた経緯も、むしろ不器用ゆえ、とも考えられるような気がします。

投稿: 念仏の鉄 | 2006/06/12 07:44

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江本 孟紀 プロ野球をダメにする致命的構造―それでも、変革の芽は出ている     タイトルはとても過激。 現在のプロ野球の問題を構造的に解説しており、 アメリカのプロ野球構造を引き合いに出しながら、 四国アイランドリーグのような独立リーグを... [続きを読む]

受信: 2006/08/06 14:32

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