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2006年9月

技巧派投手なら大学に進んでも損はなさそうだ。

 早実の斎藤佑樹投手は、高卒でのプロ入りはせず、大学への進学を決めた。
 決断そのものの良し悪しは、彼の人生全般に関わることなのだから、他人がどうこう言う筋合ではない。彼自身が後で振り返って、よい決断だった、と思えるようになればそれでよいと思う。
 ただ、野球選手、とりわけ投手にとって大学進学がプラスかマイナスか、というテーマには、いささか興味がある。

 ここ数日、テレビのニュースショーやワイドショーでも斎藤の進路は話題に上っていたようだが、私が見かけた番組では、司会者やコメント芸人たちの間では「どうせプロ入りするのなら、すぐ入った方がいい」という意見が有力だった。
 私は必ずしもそうは思わない。
 理由は単純で、斎藤のような、コントロールと配球で打者を打ち取っていくタイプの投手が高卒でプロ入りして成功した例が、あまり思い浮かばないのだ。

 実際に、現在のプロ野球で活躍している投手たちが、どういうキャリアをたどってきたかを眺めてみよう。
 「成功」の定義も難しいところだが、とりあえず、今年のWBC日本代表とオールスターゲームに選ばれた投手たちを例に挙げる。
 WBC日本代表の投手陣は、途中で退いた石井弘寿と、彼に代わって招集された馬原を含めて14人。これを出身カテゴリーで分けると、こうなる。

<高校>4人
藤川球児、小林宏之、松坂大輔、石井弘寿
<大学・社会人>10人
藤田宗一、久保田智之、大塚晶則、清水直行、杉内俊哉、上原浩治、和田毅、渡辺俊介、薮田安彦、馬原孝浩

 一方、今年のオールスターに選ばれた投手は両リーグ合わせて21人に上った。同じように分けると、次のようになる。

<高校>9人
藤川球児、朝倉健太、三浦大輔、木田優夫、松坂大輔、菊地原毅、斉藤和巳、涌井秀章、吉井理人
<大学・社会人>12人
川上憲伸、岩瀬仁紀、石川雅規、内海哲也、黒田博樹、永川勝浩、馬原孝浩、小林雅英、平野佳寿、武田久、八木智哉、福盛和男

 いずれも大学・社会人出身者の方が多い。もっとも、人数比については、それぞれのプロ入り人数という分母を算出した上で比較しなければ意味がない。今はそこまでやっている暇がないので保留とする。

 それはそれとして、顔触れを眺めると、なかなか興味深い。
 私は漠然と<高卒は速球派、大卒・社会人出身は技巧派*1>という印象を持っていたのだが、必ずしもそうとは限らないないようだ。大塚や小林雅英などのように、大学・社会人出身でも速球を武器にする投手はいる(そういえば野茂も与田剛も社会人出身だった)。
 ただし、大学・社会人出身グループには速球派も技巧派もいるが、高卒グループには技巧派は少ない。今では技巧派のようになっている木田や吉井も、若いころは球威でねじ伏せるタイプだった。最初からあまり球が速くないのは、小林宏之、三浦、菊地原くらいだろうか。私の先入観のうち、前半の<高卒は速球派>という部分は、そう間違ってはいないようだ。
 もちろん、吉井のように加齢とともにタイプを変えるケースはあるけれど、高卒の投手が最初からそういうタイプであることは稀だ。

 一方、大学・社会人出身者では、このタイプでも比較的若いうちから成功をおさめている投手が結構いる。上のリストでいえば石川や和田毅などがそうだ。
 早実の斎藤も、その気になれば結構スピードは出るようだけれど、甲子園での投球は「技巧派」タイプだった。とすれば、大学野球は彼にとってプラスになるかも知れない。大学で投球術に磨きをかけ4年後には即戦力としてプロ入り、というシナリオは、それなりに蓋然性がある。

 プロで活躍する高卒の技巧派が少ない理由としては、そもそも高校生のドラフト指名は将来性を重視して身体能力の高い投手を取る傾向が強いこと(上のリストの中で身長が180センチを切る投手は全員が大学・社会人出身だ)、指導する側もそれに合わせて素質優先の指導方針が強く「若いうちから小さくまとまっていても大成しない」という先入観から技巧派にチャンスが与えられにくいこと、逆に大学・社会人出身者は即戦力として扱われるので球の遅さがさほど問題視されないこと、などが想像できる。
(だから駒台苫小牧の田中将大のような投手なら、野球のことだけを考えるなら、特に大学に進む必要はなさそうだ)

 ちなみに大卒技巧派の例として挙げた和田毅は早大出身だ。利腕の違いはあるけれど体格も近いし、現役のプロ野球選手の中では、斎藤にとって絶好の手本となりうる投手だろう。早大出身の現役投手は、ほかにヤクルトの藤井、三沢、千葉ロッテの小宮山(かなり古いが(笑))らがいる。いずれも、速球派か技巧派か、と分ければ後者にあたる。早大は、このタイプの投手が育ちやすいのかも知れない(一方で速球を武器にする日本ハムの江尻は伸び悩んでいる。150キロの速球が売り物のジャイアンツの新人・越智が、ちょっと心配になってきた(笑))。
 早大野球部といえば、80年代ごろには、甲子園で活躍し、鳴り物入りで入部した選手が早々に退部・退学したケースがいくつもあったけれど、最近はそういう話は聞かない。早大野球部の内情など何も知らないが、三沢、藤井、和田という顔触れから激烈な上下関係やシゴキを想像するのは難しい(笑)。

 早大野球部の監督は昨年から應武篤良が務めている。捕手としてソウル五輪日本代表、引退後は新日鉄君津の監督を7年間務め、その間に松中信彦、森慎二、野田浩輔、渡辺俊介ら計6人をプロに送り出した。
 私は應武監督の指導法や手腕については何も知らない。だが、速球の森、アンダーハンドの技巧派・渡辺と、タイプの懸け離れた2人の投手をそれぞれ一流に育てていることは注目に値すると思う。

 …などと諸々考えてみると、斎藤が早大に進学することは、彼の野球選手としての将来にとって、悪い選択ではないように思える。

 ただ、高卒の技巧派の成功例は少ない、と何度も書いてきたが、何事にも例外はある。たとえば桑田真澄は偉大な例外のひとりだ。体格やコントロール、冷静な精神力、そして夏の甲子園の優勝投手であることも含め、斎藤と共通する点は多い。
 その桑田が20年前に蹴った早大に、斎藤は進学する。桑田は引退後に早大進学を希望しているという報道もあった。斎藤が在学中に桑田と接する機会ができるなら、それもまた益するところがあるだろう(メディア対応についても貴重なアドバイスが得られるかも知れない(笑))。

 今回はごく限られたサンプルを眺めただけだが、この<高卒か大学・社会人か>というテーマについては、野手も含めてそのうちまた考えてみたいと思っている。

*1
「技巧派」という言葉は据わりが悪いのだが、他に手頃なネーミングもないので、とりあえず使っている。圧倒的なスピードを持ってはいないがコントロールと配球を武器に打者を打ち取るタイプ、くらいの意味。両方を兼ね備えた松坂のような投手もいるので、いささか乱暴な二分法ではあるが、話を単純にするための便宜上ということでご理解ください。

追記(2006.9.17)
昨年のドラフトでジャイアンツに4巡指名されたが入団を断った済美高の福井優也投手は、一浪してこの秋、早大に推薦入学を決めた。私自身は甲子園での福井の投球をあまり見ておらず特に印象がないのだが、二宮清純は「驚くほど速いボールはなかったが、私の目には勝負度胸のある、いわゆるプロ向きのピッチャーに映った」と書いている。タイプを問わず、下位指名の高校生投手が成功した例は非常に少ないので、福井の判断には合理性がある。福井の卒業時にプロからの評価がどう変わるのか、このエントリのテーマにとっては斎藤以上に興味深いケースといえる。

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