技巧派投手なら大学に進んでも損はなさそうだ。
早実の斎藤佑樹投手は、高卒でのプロ入りはせず、大学への進学を決めた。
決断そのものの良し悪しは、彼の人生全般に関わることなのだから、他人がどうこう言う筋合ではない。彼自身が後で振り返って、よい決断だった、と思えるようになればそれでよいと思う。
ただ、野球選手、とりわけ投手にとって大学進学がプラスかマイナスか、というテーマには、いささか興味がある。
ここ数日、テレビのニュースショーやワイドショーでも斎藤の進路は話題に上っていたようだが、私が見かけた番組では、司会者やコメント芸人たちの間では「どうせプロ入りするのなら、すぐ入った方がいい」という意見が有力だった。
私は必ずしもそうは思わない。
理由は単純で、斎藤のような、コントロールと配球で打者を打ち取っていくタイプの投手が高卒でプロ入りして成功した例が、あまり思い浮かばないのだ。
実際に、現在のプロ野球で活躍している投手たちが、どういうキャリアをたどってきたかを眺めてみよう。
「成功」の定義も難しいところだが、とりあえず、今年のWBC日本代表とオールスターゲームに選ばれた投手たちを例に挙げる。
WBC日本代表の投手陣は、途中で退いた石井弘寿と、彼に代わって招集された馬原を含めて14人。これを出身カテゴリーで分けると、こうなる。
<高校>4人
藤川球児、小林宏之、松坂大輔、石井弘寿
<大学・社会人>10人
藤田宗一、久保田智之、大塚晶則、清水直行、杉内俊哉、上原浩治、和田毅、渡辺俊介、薮田安彦、馬原孝浩
一方、今年のオールスターに選ばれた投手は両リーグ合わせて21人に上った。同じように分けると、次のようになる。
<高校>9人
藤川球児、朝倉健太、三浦大輔、木田優夫、松坂大輔、菊地原毅、斉藤和巳、涌井秀章、吉井理人
<大学・社会人>12人
川上憲伸、岩瀬仁紀、石川雅規、内海哲也、黒田博樹、永川勝浩、馬原孝浩、小林雅英、平野佳寿、武田久、八木智哉、福盛和男
いずれも大学・社会人出身者の方が多い。もっとも、人数比については、それぞれのプロ入り人数という分母を算出した上で比較しなければ意味がない。今はそこまでやっている暇がないので保留とする。
それはそれとして、顔触れを眺めると、なかなか興味深い。
私は漠然と<高卒は速球派、大卒・社会人出身は技巧派*1>という印象を持っていたのだが、必ずしもそうとは限らないないようだ。大塚や小林雅英などのように、大学・社会人出身でも速球を武器にする投手はいる(そういえば野茂も与田剛も社会人出身だった)。
ただし、大学・社会人出身グループには速球派も技巧派もいるが、高卒グループには技巧派は少ない。今では技巧派のようになっている木田や吉井も、若いころは球威でねじ伏せるタイプだった。最初からあまり球が速くないのは、小林宏之、三浦、菊地原くらいだろうか。私の先入観のうち、前半の<高卒は速球派>という部分は、そう間違ってはいないようだ。
もちろん、吉井のように加齢とともにタイプを変えるケースはあるけれど、高卒の投手が最初からそういうタイプであることは稀だ。
一方、大学・社会人出身者では、このタイプでも比較的若いうちから成功をおさめている投手が結構いる。上のリストでいえば石川や和田毅などがそうだ。
早実の斎藤も、その気になれば結構スピードは出るようだけれど、甲子園での投球は「技巧派」タイプだった。とすれば、大学野球は彼にとってプラスになるかも知れない。大学で投球術に磨きをかけ4年後には即戦力としてプロ入り、というシナリオは、それなりに蓋然性がある。
プロで活躍する高卒の技巧派が少ない理由としては、そもそも高校生のドラフト指名は将来性を重視して身体能力の高い投手を取る傾向が強いこと(上のリストの中で身長が180センチを切る投手は全員が大学・社会人出身だ)、指導する側もそれに合わせて素質優先の指導方針が強く「若いうちから小さくまとまっていても大成しない」という先入観から技巧派にチャンスが与えられにくいこと、逆に大学・社会人出身者は即戦力として扱われるので球の遅さがさほど問題視されないこと、などが想像できる。
(だから駒台苫小牧の田中将大のような投手なら、野球のことだけを考えるなら、特に大学に進む必要はなさそうだ)
ちなみに大卒技巧派の例として挙げた和田毅は早大出身だ。利腕の違いはあるけれど体格も近いし、現役のプロ野球選手の中では、斎藤にとって絶好の手本となりうる投手だろう。早大出身の現役投手は、ほかにヤクルトの藤井、三沢、千葉ロッテの小宮山(かなり古いが(笑))らがいる。いずれも、速球派か技巧派か、と分ければ後者にあたる。早大は、このタイプの投手が育ちやすいのかも知れない(一方で速球を武器にする日本ハムの江尻は伸び悩んでいる。150キロの速球が売り物のジャイアンツの新人・越智が、ちょっと心配になってきた(笑))。
早大野球部といえば、80年代ごろには、甲子園で活躍し、鳴り物入りで入部した選手が早々に退部・退学したケースがいくつもあったけれど、最近はそういう話は聞かない。早大野球部の内情など何も知らないが、三沢、藤井、和田という顔触れから激烈な上下関係やシゴキを想像するのは難しい(笑)。
早大野球部の監督は昨年から應武篤良が務めている。捕手としてソウル五輪日本代表、引退後は新日鉄君津の監督を7年間務め、その間に松中信彦、森慎二、野田浩輔、渡辺俊介ら計6人をプロに送り出した。
私は應武監督の指導法や手腕については何も知らない。だが、速球の森、アンダーハンドの技巧派・渡辺と、タイプの懸け離れた2人の投手をそれぞれ一流に育てていることは注目に値すると思う。
…などと諸々考えてみると、斎藤が早大に進学することは、彼の野球選手としての将来にとって、悪い選択ではないように思える。
ただ、高卒の技巧派の成功例は少ない、と何度も書いてきたが、何事にも例外はある。たとえば桑田真澄は偉大な例外のひとりだ。体格やコントロール、冷静な精神力、そして夏の甲子園の優勝投手であることも含め、斎藤と共通する点は多い。
その桑田が20年前に蹴った早大に、斎藤は進学する。桑田は引退後に早大進学を希望しているという報道もあった。斎藤が在学中に桑田と接する機会ができるなら、それもまた益するところがあるだろう(メディア対応についても貴重なアドバイスが得られるかも知れない(笑))。
今回はごく限られたサンプルを眺めただけだが、この<高卒か大学・社会人か>というテーマについては、野手も含めてそのうちまた考えてみたいと思っている。
*1
「技巧派」という言葉は据わりが悪いのだが、他に手頃なネーミングもないので、とりあえず使っている。圧倒的なスピードを持ってはいないがコントロールと配球を武器に打者を打ち取るタイプ、くらいの意味。両方を兼ね備えた松坂のような投手もいるので、いささか乱暴な二分法ではあるが、話を単純にするための便宜上ということでご理解ください。
追記(2006.9.17)
昨年のドラフトでジャイアンツに4巡指名されたが入団を断った済美高の福井優也投手は、一浪してこの秋、早大に推薦入学を決めた。私自身は甲子園での福井の投球をあまり見ておらず特に印象がないのだが、二宮清純は「驚くほど速いボールはなかったが、私の目には勝負度胸のある、いわゆるプロ向きのピッチャーに映った」と書いている。タイプを問わず、下位指名の高校生投手が成功した例は非常に少ないので、福井の判断には合理性がある。福井の卒業時にプロからの評価がどう変わるのか、このエントリのテーマにとっては斎藤以上に興味深いケースといえる。
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コメント
早大野球部の雰囲気については
「和田の130キロ台はなぜ打ちにくいか」(佐野真・講談社新書)
が参考になると思います。
野球部の指導が特に科学的という印象はなかったのですが、早大野球部に入って「129キロの球しか投げられない(=早稲田では「並」以下)」という「現実」に直面した和田青年が、生涯のパートナーとなるトレーナーと出会い、科学的練習とたゆまぬ努力で一流の投手に成長していく物語が語られています。
和田もそのトレーナーも、早稲田の「スポーツ科学部」という学部に所属していたというところがミソなわけで、和田の野球人生にとってこの上なく貴重な「出会い」を得られた早稲田大学スポーツ科学部という「環境」は、要注目だと思います。スポーツ推薦というか、トップアスリートはAO入試でこの学部に入れてくれるみたいですし、「科学的にスポーツする」環境があるのは素晴らしいのではないかと。ちなみに、スポーツ科学部ではコーチやトレーナーの養成、スポーツビジネスも教えていますから、万が一トップアスリートでなくなっても「つぶしがきく」?(笑)。
甲子園でハラハラされていた斎藤君のお母様に安心していただくという意味でも、けっこうお勧めの進路かもしれませんね(笑)。
なお、この本には和田の卒業論文(本物!)も載っていまして、そういう意味でも貴重な本です。
投稿: 馬場 | 2006/09/12 16:46
参考までに教えていただきたいのですが、
斎藤君が技巧派で、田中君が速球派であると判断されたようですが、その判断の根拠は何でしょうか。速球と変化球の投球比率に違いがあるのでしょうか。奪三振の数に違いがあるとか・・?
自分は、2人とも高校野球の投手としては相当の速球派だと思います。
斎藤君も「最後は直球」と頑固に拘るあたり、相当の「速球派」ですし、球速も数字的には斎藤君の方が勝っていましたよね?・・・鋭い変化球を上手く使っている点では田中君も全く同じですし、田中君の制球力が斎藤君より劣っていたようにも思いませんし・・・。
確かに、投球そのものは別として人物のイメージ的には、斎藤君が繊細、田中君は剛球といった感じですが。
投稿: KuiKuga | 2006/09/12 21:47
>馬場さん
その本、新刊の時に書店の店頭で手に取ってみた記憶はあるのですが、購入に至りませんでした。理由はよく覚えていませんが、もう一度眺めてみようかと思います。
>KuiKugaさん(または「Fusion5-1」さん、もしくは「学校の近くの文京」さん)
>斎藤君が技巧派で、田中君が速球派であると判断されたようですが、その判断の根拠は何でしょうか。
ご指摘の通り、斎藤を技巧派と分類できるのか、という点はこのエントリの弱いところです。私が斎藤を「技巧派」としたのは主に決勝戦(1試合目)を見ての印象によるもので、特に客観的な指標に基づいてはいません。
斎藤のコメントとしては「ストレートの球威やスライダーのキレは田中の方が上。だけど、スタミナや制球力は自分の方が勝っている」(SPORTS Yeah! No.148 2006.9/8>>9/21号)という発言があり、彼自身のセルフイメージは、ここで言う技巧派に近いようです。
いずれにしても、本文末尾の注にも書いたように、ここで用いている<速球派/技巧派>という二分法自体がかなり曖昧で大雑把なものなので、もっとよい定義、あるいは高卒プロ入りの有利不利を分かつ適切な指標はないものかと思っています。
ところで、参考までに教えていただきたいのですが、
あなたのIPアドレスからは、エントリ『“福岡五輪”は東京都知事のかませ犬だったのか。』のコメント欄に複数のHNでかわるがわる論拠の不正確な批判(このコメントは違いますが)が書き込まれているのですが、そういうことをされるモチベーションは何なのでしょうか?
投稿: 念仏の鉄 | 2006/09/13 10:17
こんばんは。
野球小僧の最新号に載っていた、中日・中田スカウト部長のインタビューが面白いので、一部紹介します。
中田『野球界全体に「自由枠重視」の風潮があった中で、高校生を間違いなく穫れる制度ができた。素材のいい高校生の方がトータルで見れば活躍するということが、数年後には一般的に行き渡っていくと思います。昔はどの球団もそうだったんですけどね。最近は「自由枠を使わないと損」という流れになって、即戦力が欲しいから安易に自由枠に走る。でもやはり、チームの核となるのは高校卒の選手ですよ。
ごく単純に20年間野球をやろうとしたら、高校生の方が圧倒的に確率は高い。プロに早く入って来られますから。高校生でも本当にいい素材はすぐにプロに入るべきですよ。プロ入りして2年、3年で出てこられますよ。1度レギュラーをとれば、長く活躍できて、チームの核となれるのです。』
ビリー・ビーンやビル・ジェイムズと真逆の見解ですね。穿った見方をすれば、荒木以後の中日のドライチ高校生で3年くらい出てきたのは朝倉くらいなので、自己弁護や資金難などとの辻褄合わせにも聞こえてしまうのですが。森岡や平田はまだわかりませんが、2年で出てくるというのはどうも…
投稿: 冬潮 | 2006/09/15 22:54
訳の分からないかもしれないTB送り付けました。
お目汚し程度とは思いますが・・・・・
申し訳ないですm(__)m
投稿: KTY | 2006/09/16 00:16
タイトルを入れてませんでした。「投手考察(liberism)」です。
投稿: KTY | 2006/09/16 07:49
>冬潮さん
中田部長自身は日体大からドラフト外入団でしたね。
川上、岩瀬、井端、福留と並べて見ると、中日の核はむしろ大学・社会人出身者ではないか、という印象はありますね(笑)。
問題は「本当にいい素材は」という部分なのだろうと思います。
>KTYさん
こんにちは。ご紹介いただきありがとうございます。
やはり<速球派/技巧派>という分類は、厳密に定義を詰めていくと無理がありそうですね。本格的に統計処理をするのなら、身長や球速のようなシンプルな指標で比べた方がよさそうな気がしてきました。「本格的に統計処理」なんて面倒なことを自分でやるかどうかは別ですが(笑)。
投稿: 念仏の鉄 | 2006/09/16 09:33
高校からプロ入りした投手に技巧派が少ないのは、高校生ごときを押さえ込めないストレートではプロでは通用するはずがないという先入観のようなものがプロ側にあるからということと、選手自身の側も、高校生相手に通用しない速球では自信がもてるはずもなく、プロ入りに躊躇してしまうということがあるからではないでしょうか。
鉄さんが例に挙げられていた桑田は、高1の頃はともかく、2~3年の頃は速球の力で押さえ込むピッチングをしていたと記憶しています。斎藤にしても田中にしても、どちらも力のあるストレートをみせながら、スライダーで主に勝負しているという印象を私は受けました。鉄さんも仰ってますが、速球派か、技巧派かという分類は曖昧なもので、あくまでも個人的なイメージに左右されるものであり、どちらに分類されるか見解の分かれる投手も多く出てくるものと思います。
星野伸之(引退。ブルーウェーブ-タイガース)は、旭川工高、山本昌は日大藤沢高と、プロ入り後3~4年かかってはいますが、高校出の技巧派投手です。遅い球を速く見せることでストレートで勝負するところなど、技巧派の極致といっても過言ではないと思います。それを考えると、本気で高校生の技巧派投手を発掘すれば、案外、面白い人材が隠れているかもしれません。
ありきたりの結論になりますが、大学に進むのであれ、プロに進むのであれ、個人の資質とその後の出会いが大きな鍵を握っているように思います(つまらないこと言ってすみません)。馬場さんもコメントされておられましたが、和田投手とトレーナーを務めた土橋恵秀氏の出会いなどはその良い例だと思います。
(ぼちぼちとブログ書き始めることにしました。今のところなんだかなぁ~、って内容ですが、リハビリのつもりでぼちぼちいきますので、またよろしくお願いします。)
投稿: 考える木 | 2006/09/16 20:37
「20年間野球をやろうとしたら、高校生の方が圧倒的に確率は高い」
私は中日ファンですが、(データを示しやすい立場にいるのに)何のデータも示さずこんな発言するスカウト部長って、ちょっと信じられませんね。
投稿: nobio | 2006/09/16 21:14
>考える木さん
山本と星野は同期でともにドラフト5位指名。3年目までには一軍で活躍していました。
ただ、他の年のドラフト指名者リストを眺めてみると、彼らはレア中のレアケースですね。下位指名の高校生が一流選手になったケースは、野手には結構ありますが、投手では稀です(上位指名の高校生投手には成功例も多いですが)。
ところで、去年のドラフトでジャイアンツの4巡指名を断った済美高の福井優也投手は一浪して早大進学が決まったとのこと。甲子園での福井はあまり見ていないので私自身は印象がないのですが、二宮清純は「驚くほど速いボールはなかったが、私の目には勝負度胸のある、いわゆるプロ向きのピッチャーに映った」http://www.ninomiyasports.com/xoops/modules/news/print.php?storyid=4381
と書いています。このエントリのテーマからすると、非常に興味深いケースとなりそうです。
>nobioさん
「20年現役」なら高校生の方が多そうですが、「38歳まで現役」と言い換えると社会人出身者にも結構いますしね。毎日新聞は都市対抗がらみでこんな記事を載せています(有名選手を列記しただけで、統計としては無意味ですが)。
http://www.mainichi-msn.co.jp/sports/ama/shakaijin/news/20060902k0000e050066000c.html
そもそもプロで20年以上現役でいられること自体がレアケースですから「20年間野球をやろうとしたら」と誘われても、高校生も返事に窮してしまいそうですね。
投稿: 念仏の鉄 | 2006/09/17 10:18
お返事恐れ入ります
>私が斎藤を「技巧派」としたのは主に決勝戦(1試合目)を見ての印象によるもので
そうでしたか、それはますます疑問ですね。決勝の1戦目、斎藤君は、6個四球を出して16個も三振を奪ってます(15回)。一方の田中君は、四球は3個だけで三振は10個だけです(約13回)。
私の印象では、キャラクターに惑わされず投球だけを見れば、むしろ斎藤君のほう速球派で、田中君のほうが制球の良い技巧派に見えました。田中君は剛球というより、スライダーのほうが印象的でしたしね。球速も斎藤君が上でしたから。
>斎藤のような、コントロールと配球で打者を打ち取っていくタイプの投手が
斎藤佑樹投手は、決勝再試合の13奪三振を含め、この大会で78奪三振(7試合、69回)をマーク、1958年の第40回大会で板東英二投手(徳島商)が奪った83三振に次ぐ記録となった
(日刊スポーツ)
・・・という記録からも、やはり彼を「コントロールと配球で打ち取るタイプ」と分類するのはいささか無理があるかと。鹿工戦の毎回13奪三振は印象的でした。数だけで言えば、同じく甲子園で延長など投げまくった松坂投手を上回っていますし。
投稿: KuiKuga | 2006/09/17 13:25
>早大野球部といえば、80年代ごろには、甲子園で活躍し、鳴り物入りで入部した選手が早々に退部・退学したケースがいくつもあったけれど、最近はそういう話は聞かない。
たしかに最近はそういう話を聞きませんね。しかし80年代に入部した選手というのは、自分と同世代だけにその動向が気になり、伸び悩んだ選手が何人か続いただけで「早稲田に行くと伸びない」という思い思い込みが出来ていました。
高校時代に無名だった選手は、石井浩郎(1983入学)、小宮山悟(1986)など、プロで活躍した選手がいるのですが…。早実の小沢章一(1983)、池田の江上光治(1984)、取手二の石田文樹(1985)などは、甲子園での勇姿が記憶に鮮明なだけに、大成できなかったことを惜しむ思いも強烈です。でももう20年以上も前のことなんですね。
小宮山は以前、雑誌のインタビューで「早稲田に入るために二浪したという廻り道を後悔していないか」という趣旨の質問に対し、こんな内容の答をしていました。
「自分が3年生になった年(1988年)に監督が替わった。その監督からは多大な影響を受け、今でももっとも尊敬する人物である。もし現役で入っていたら擦れ違いに終わっていたわけで、自分に貴重な出会いをもたらしてくれたという意味で二浪には意味があった」
小宮山一人だけの発言から監督が他の部員からも尊敬されていたかどうかはわかりませんが、少なくともこの監督は1990年春にしっかり優勝を遂げています。残念ながら小宮山が卒業した直後のシーズンですが、早稲田にとっては1982年秋以来久しぶりの優勝であり、ひとつの転換点だったかもしれません。
興味深いのはこの優勝時の四年生にスポーツ科学科(現スポーツ科学部)の一期生がいるということです。スポーツ科学科の講義の詳細は知りませんが、文字通りスポーツを科学するところなら、時代遅れの根性論や理不尽なシゴキとは確かに無縁でしょう。
「和田の130キロ台はなぜ打ちにくいか」によれば、和田毅の入学時(1999年)には野球部員の約3分の1がスポーツ科学科の学生だったとか。面白いことに和田が入学した年も監督が交替しているんですね。そして新監督が唱えた制度のお陰で出会った「学生トレーナー」との二人三脚の中で、和田は急速の進歩を遂げるのです。この辺のことはコメント欄で馬場さんも触れておられますが、ホント「出会い」って大切ですね。
卓球の福原愛選手も早大合格の感想を求められた際、「斎藤君だけじゃなくトップレベルのアスリートがたくさん集まるので、そういう人たちと話せるのが楽しみ」と言っていましたね。多くの出会いという意味からも、斎藤選手の進学は正解のような気がします。
桑田真澄が早大入学を考えているというのは知りませんでした。もしも20年前に早稲田に入っていたら、2歳上の小宮山と同級生になっていたわけで、想像するとちょっと楽しいです。どちらも理論家だから。
投稿: えぞてん | 2006/09/22 22:29
>えぞてんさん
レスが遅れて失礼しました。
アマ野球では監督の存在というのは非常に大きいのだな、と思うのと同時に、スポーツ科学部のようなシステマティックなスポーツ指導の仕組みができていくことで、監督の個人技を超えた安定した指導が可能になるのかな、とも思います。
投稿: 念仏の鉄 | 2006/10/02 11:04
早大の監督と言えば、國學院大學4年当時の渡辺俊輔に目をつけて新日鐵君津にスカウトし、彼をエースとしてチームを都市対抗ベスト4、さらに渡辺をシドニー代表にまで引っ張り上げた應武篤良監督というのが、現早稲田大学野球部監督だそうですね。たまたま先週読んだ渡辺俊輔著『アンダースロー論』という本で知りました。
投稿: nobio | 2006/10/03 13:37
鉄さん、お帰りなさい(笑)。
桑田が早稲田に入って、斎藤君と机を並べるというのを想像すると微笑ましいですね。桑田だったら「教授」でもいいような気がしますが。「投球学」という学問だってあっていいでしょうから。
投稿: 馬場 | 2006/10/03 15:55
>nobioさん
渡辺の本、面白そうですよね。手に入れましたが、まだ読んでません。
渡辺が應武監督の目にとまったのは、ほんの偶然の好投だったそうで、そういうことが重なっていくうちに大きな開きが生ずるのかと思うと、人生はなかなか怖いものです。
>馬場さん
ご無沙汰しました。
桑田の騒動というのが留守だったのでよくわからないのですが、どうやら来年は他球団で現役を続けるつもりのようなので、来年の早大入りはないのかも。斎藤の後輩になる可能性はありますが(笑)。
投稿: 念仏の鉄 | 2006/10/04 02:12
ちょっと大昔のエントリに失礼いたします(笑)
今日の「斎藤佑樹早大初練習に参加」というTVニュースで、應武監督が語っていたコメントが、ナカナカ興味深かったです。
ネット上にソースが見つからなかった(なおかつ、應武氏があんまり流暢にコメントするタイプではなかった←このあたり、むしろ好印象でしたが)ので、私流の要約となってしまいますが、
【斎藤には、「自分から野球をとったら何が残るか」を考えるような4年間を送ってほしい】
と、いうような事をおっしゃっていました。「春は全員に(ベンチ入りの)チャンスがある。甲子園優勝投手を(候補に)入れないわけにはいかないでしょう」と、一応、マスコミさんの喜びそうなコメントもされているのですが、こういった発言のできる指導者というのは、ある程度信用できるという気がします。
投稿: southk | 2007/01/14 01:46
>southkさん
>【斎藤には、「自分から野球をとったら何が残るか」を考えるような4年間を送ってほしい】
イビチャ・オシム翁がよく同じようなことを言ってますね。最近もU20代表選手についての談話の中で、「日本にはレジャーがたくさんあるが、プライベートも100%サッカーにささげることが重要」と話しています。文脈によっては体育会系根性主義のように聞こえかねないので、誰が話すかによって印象がかなり異なる可能性はありますが(笑)。
投稿: 念仏の鉄 | 2007/01/14 22:40
プロに行きたい選手、親、指導者は必見です。
http://gendai.net/?m=view&g=sports&c=040&no=20147
投稿: saitou | 2007/05/18 14:25
朝日にも載ってました。
http://www.asahi.com/sports/column/TKY200705050113.html
ドラフト制度が始まった65年から03年までを調査した「日本プロ野球のドラフト制度に関する研究」によると、高卒、大卒、社会人出身のうち、1軍の試合出場経験なしに引退する選手の4分の3が高卒だ。投手の場合、1軍経験なしに引退するのは高卒は37.3%と、大卒の15.9%に比べて高い。執筆者の一人、日体大スポーツ局の黒田次郎は「近年、高卒の平均在籍年数は4年に満たない。大学卒業前の若さでお払い箱になる計算だ」と指摘する。
ちょっと衝撃的ですね。プロ野球の育成システムへ根本的な疑問を突きつける結果だと思います。
投稿: 馬場 | 2007/05/18 17:06
>saitouさん、馬場さん
この論文については、TBをいただいている「高校生か即戦力か@ドラフトを中心に野球界を見る」や「プロの育成能力はなぜ低いのか@観測所雑記帳」の中でも議論されているので、ご覧になるとよいかと思います。プロ野球の育成システムの問題については、当blogでも「プロ野球に二軍は必要か。」http://kenbtsu.way-nifty.com/blog/2005/11/post_6360.htmlなどの議論をしてきました。
元の論文を入手して目を通してみましたが、本エントリに関係ありそうなデータとしては、選手の身長が、高卒や大卒に比べて、高卒社会人・大卒社会人が有意に低いとされています。高卒選手の平均は179.68で、斎藤佑樹投手はこれを下回ります(まあ、彼の身長175センチは、大卒や大卒社会人の平均も下回っていますが)。
投稿: 念仏の鉄 | 2007/05/22 22:00
プロアマで試合をやるそうですね。マー君とハンカチ。。だいぶ差がついたような気がしますが。
投稿: 馬場 | 2009/04/23 22:44
>馬場さん
11/22に予定される大学選抜とプロ選抜による交流試合ですね。
斎藤は順当にいけば選ばれるのでしょうが、プロ側がどういう選び方をするかですね。大学野球出身者で固めるのが筋のような気もしますが(笑)。
田中はWBCで開幕が早かったので、この時期まで投げさせるのは酷な気もします。斎藤が相手では、妙な力が入って故障の元になりかねませんし。
>だいぶ差がついたような気がしますが。
ま、斎藤も大学生としては優れた成績を残していますし、そこまで言うのは早計かも知れません。
投稿: 念仏の鉄 | 2009/04/24 00:19
大学選抜とプロ選抜がやるなら、
プロは(というかプロも)「高卒4年目以内」でやって欲しいです。
投稿: nobio | 2009/04/24 15:50
>nobioさん
試合の趣旨がどこにあるかによるでしょうね。
「この際、白黒つけたろ!」という試合なら同世代でしょうし、親睦あるいは「プロの一流選手の胸を借りる」みたいな目的なら、少し上の世代がよいでしょうし。
ただ、この時期のプロ選手は、ベテランや故障者はすでに休養に入り、そうでなければ秋季練習で負荷のかかるトレーニングをしているはずなので、いずれにしても真剣勝負は難しいと思います。
ま、個人的にそういう気持ちで、この日に向けて調整する選手がいれば別ですが。
投稿: 念仏の鉄 | 2009/04/25 15:08