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2006年11月

10年目のタイムアップ。

 横浜FCがJ2に上がるというのは感慨深い出来事だが、それ以上に城彰二が今季限りで引退するという事態に感慨と当惑を覚える。正確に言えば、城が引退し、同じチームにいるカズはまだ来年もやりそうだという事態に。

  前園は一足早く放送席の人となり、中田英寿も世界各地で自分を捜している。そして城がまもなく引退。金子逹仁が出世作『28年目のハーフタイム』や『決戦前夜』で新世代の登場と謡い上げた主要登場人物たちが、彼らが乗り越えたはずの三浦知良よりも先にピッチを去っていく。

 前園も城も(彼らと並んで金子の主要登場人物だった川口能活も)海外に進出はしたけれど、中田英寿を除いては、海の向こうに自分の居場所を築くことはできなかった。欧州の中堅以上のクラブで定位置を獲得することに成功したのは、実際には彼らの次の世代だった。とすれば、颯爽と登場した「新世代」は、実はさらに新しい世代にとっての踏み台でしかなかったのか、と言えなくもない。

 彼らを「アトランタ世代」とか「ジェネレーションX」とか名付けて意味ありげに売り出した(そして自分自身をも大きく売り出すことに成功した)スポーツライターは、その「世代」の予想外に早い終焉に直面した今、何を思っているのだろうか。金子にはぜひ、何らかの総括をしてもらいたいものだと思っている。前園や城のこの10年をもっともよく描くことができる書き手がいるとしたら、それは10年前の金子を措いてほかにいないはずだから。

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日米野球の「役割」と、選手会の「役割」。

 日米野球の初戦と第2戦を2晩続けて見てきた。
 観客が大勢入っていたのが、ちょっと意外だった。満席とはいかないが2試合とも4万人前後。公式戦に比べて割高なチケットの上、日米ともに出場辞退者続出だというのに、スタンドはなかなか盛り上がっている。

 MLBの野手陣は、二冠王ハワードや首位打者マウアー、盗塁王レイエスとライトの三遊間コンビといった活きのいい若手や、ジャーメイン・ダイやアンドルー・ジョーンズなどキャリア・ハイを迎えたベテランまで、旬の選手を揃えて見応えがあった。
 特にライアン・ハワードには驚いた。引っ張ってジャストミートした打球が速いのはともかく、流し打った打球があれほど速い打者は初めて見た。遊撃手レイエスのスナップスローも、溜め息が出るほど見事だ。トロントのライル・オーバーベイは初めて見たが、地味な左打ちの一塁手マニアの私の好みに合う。オルルッドもティノ・マルティネスも引退してしまって寂しかったが、来年は彼に注目してみたい。

 試合に登場したらスタンディングオベーションしようと待ちかまえていた城島は遂に出番がなかったし(これほど使われないのでは、ケガでもしたのではないかと不安になってくる)、日本側は「日本代表」とは到底言えない顔触れだった。
 とはいえ、日本一になって元のホームグラウンドに凱旋してきた小笠原は貫禄を見せたし、梵の守備はフットワークが小気味よい。内海や涌井のような売り出し中の若手投手がMLBの強打者に苦心惨憺して立ち向かう姿は観客を惹き付けていた。9回を迎えても席を立つ観客があまり目立たないというのは、この手の催しでは珍しいことだ。全体としてはそれなりに楽しめる試合だった。

 日米野球には、学生時代は熱心に通った。79年に米両リーグのオールスターチームが来日して対戦を繰り広げた時のメンバーは、今にして思えば考えられないほど豪華絢爛だったし、81年に来日したカンザスシティ・ロイヤルズは、前年のワールドシリーズを戦った顔触れがほとんど残っていて印象深かった。日本の高校生がメジャーリーガーをナマで見る機会など、それ以外にはありえなかった。
 その後、テレビで日常的にMLB中継が放映され、日本人メジャーリーガーが次々と誕生し、MLBの公式戦が日本で開催されるに至って、「本番が見られるのに、花相撲を見ても仕方がない」という気分になり、日米野球には興味を失っていった。
 だが、このごろはまた一回りして、「花相撲であっても、見る値打ちのあるものが見られるのなら、それで十分」という気分に戻っている。レイエスとライトとハワードとダイとマウアーとオーバーベイと井口と城島を全員見ようと思ったら、アメリカに住んでいたとしても結構手間がかかりそうではないですか(笑)。東京ドームにいながらにして、これらのメンバーに加えて小笠原や青木や福浦や里崎や梵がついてくるのだから、この効率の良さはなかなか捨てがたい。

 だが、日米野球の今後の存続は、かなり危うい雲行きになっている。
 選手会は「来秋に予定される日韓野球、2年後の日米野球には選手会として参加しない旨をNPB側に通知した」のだそうだ。「選手会として参加しない」という表現は曖昧だが、素直に読めば、選手は日韓野球にも日米野球にも出ませんよ、という意味だろう。宮本会長は夏にもWBCができたことで「日米野球の役割は終えた」と話している。

 私はむしろ、WBCができたことで、日米野球の役割はかえって明確になったと思っている。
 「世界一リーグ決定戦」などというのは単なる主催者のアオリ文句であって、日米野球が双方ともに真剣勝負であったことなど過去に一度もない。しかし花相撲には花相撲なりの役割というものがあるのであって(だからこそ本場所とは別に花相撲が存在している)、従来のように真剣勝負のふりなどせず花相撲に徹すれば、日米野球は依然としてファンを喜ばせることができる。

 現に、チケットを買ってスタンドに来たファンは喜んでいる。MLBには意欲を持って参加してくる一流選手が結構いる。それなのに、日本の選手会は「役割は終わった」と宣言して降りてしまうのだという。
 今回の日米野球では大量の出場辞退者が出ているが、大会そのものはそれなりにつつがなく行われている。今回のように、やる気のある選手だけでやれば、それでいいではないか。わざわざ選手会が大会そのものをボイコットする意味がどこにあるのだろう。メジャーリーガーのプレーを間近で見たいとか、剛速球を打ってみたい、強打者に投げてみたい、という選手が日本にいたとしたら(きっといると思うけれど)、この選手会の決定はとても迷惑なのではないかと思う。

 宮本選手会長は最近、ポストシーズンの試合数等に関する交渉に際し、NPBから満足な返答が得られなかったことから、「プレーオフか、あるいはどこか5試合ほどやらないことを考える」とも話している。
 そんな経緯を見ると、日米野球に協力しないという宣言は、単に日米野球の問題というよりも、ポストシーズンに関する一連の交渉材料のひとつと捉えてのことなのかも知れない。

 だとすればなおさら、選手会が試合への不参加を交渉材料として用いることには強い違和感を覚える。
 2004年のストライキが野球ファンや世間から圧倒的に支持されたのは、それが球団数削減という異常事態に対抗するための緊急措置だったからだ。
 現在行われている交渉は、もっと日常的な条件闘争だ。日刊スポーツ記事によれば、ポストシーズン導入に伴って選手会が要求している事項は、1)球場施設の改善、2)日程の緩和、3)故障者リストの導入、4)先発投手の登録日数を改善…の4点。3)4)はFA権取得までの日数短縮が目的と思われる。選手会がそれを要求することに異論を唱えるつもりはないが、どのひとつをとってもファンの利害とは直接関係がなく、ファンを巻き込むような性質の事柄ではない。労使の間でじっくりやればいい。
 選手会がこれらの要求を通すためにストライキをしたところで、支持するファンがいるとは思えない。宮本会長はそんなことも判らないのだろうかと思うと哀しくなる。何を焦っているのか。

 詳しい交渉内容を知りたくて選手会公式サイトを訪ねてみたが、この件についての記載は見当たらず、選手会主催イベントの宣伝ばかりが目立っていた。
 いきなりボイコットとか言い出す前に、まずファンに自分たちの主張の是非を問うてみてはいかがだろうか。
 
 
 
追記
パの東西対抗戦が今年限りで終わるのも、このへんの状況と無関係ではなさそうだ。私は一度も見に行ったことがないのだが、昨日のNHKサンデースポーツを見ると、リーグ全体のファン感謝デーの趣があり、パ各球団の応援団たちが仲良く相互乗り入れしていて、なかなかいい雰囲気だった。
もっとも熱心な顧客層が、これほど喜び、継続を望んでいる催しを打ち切ることについて、選手会はどう考えているのだろうか。

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