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小六親分のご冥福を祈る。

 ご存知の方はご存知の通り、私がここで名乗っている「念仏の鉄」という名前は、テレビドラマ『必殺仕置人』(および『新必殺仕置人』)で山崎努が演じた僧侶崩れの骨接ぎ屋の名から拝借している。
 
 『必殺仕置人』はいわゆる必殺シリーズの第2作。第1作『必殺仕掛人』は池波正太郎の「仕掛人梅安」シリーズをもとに作られたから、オリジナルのテレビドラマとしてはこれが最初ということになる。そこで生み出された同心・中村主水(藤田まこと)というキャラクターが大成功して、以後、四半世紀の長きに渡ってシリーズが続くことになった(テレビ朝日はまた作るらしいですが)。

 町衆からの袖の下を楽しみに生きているケチな悪徳同心の主水と、観音長屋に住み着いた怪しげな無宿人たちが「悪によって悪を懲らしめる」と始めた殺し屋稼業に、後見人のような形で関わっていた“天神の小六”という人物がいる。やくざの大親分らしいのだが、牢内で牢名主として君臨している。命を狙う刺客から身を守るには牢内の方が安全、という理由で牢にこもっているらしい。牢内の罪人ばかりか牢番の役人まで手なづけて悠然と暮らしている。昼行灯と呼ばれる中村主水になぜか一目置いて、さまざまな形で一統をバックアップし、時には牢外での手助けを主水らに求めることもある。まさに石が流れて木の葉が沈む世の中を象徴するような人物だ。

 この小六を演じていたのが高松英郎だった。

 鋭い眼光とワシ鼻で暗黒街の大物を貫禄たっぷりに演じた、と言いたいところだが、実をいうと、この人が時折見せる笑顔には本来の人の良さのようなものが感じられて、凄惨な世界に生きてきた人物という印象を大きく減じている。とても「いい人」のように見えるのだ。

 ではミスキャストだったのかといえば、そうとも言えない。昭和40年代後半という時代に、お茶の間に流れるドラマで殺し屋を主役に殺人シーンをたっぷり見せるという設定には批判も強かった(当時はまだ「お茶の間」というものが日本の家庭に実在していた)。
 そのためか、このシリーズで代々の元締格を演じた俳優は、比較的善良なイメージを背負った人物が多い(最初の『必殺仕掛人』では山村聰が元締を演じた。日本でもっとも総理大臣役が似合った俳優だ)。『仕置人』には元締がおらず、レギュラー陣の中でもっとも重みのある役が小六だった。高松のシャイな感じの笑顔も、そのような意味での毒消しを果たしていたのかも知れない。

 その高松英郎が亡くなった。77歳、亡くなる前日まで現役でテレビドラマの撮影をしていたそうだ。昭和30年代は大映映画で活躍したが、40年代以降はテレビドラマを主な舞台とし、いつも頑固親父や好々爺を演じていた印象がある。彼の人柄について私は何も知らないが、好人物を感じさせるような笑顔は最後まで変わらなかった。ご冥福を祈る。

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コメント

 高松英郎氏逝去ですか。
 私にとっての氏は、やはり柔道一直線です。梶原一騎の支離滅裂な原作を、近藤正臣、名古屋章、岸田森らが支えた怪作でした。中でも、師匠役の高松英郎氏は絶品。訳のわからない強化策を次々に(主人公の)桜木健一に強要する姿は絶品でした。
 もし、巨人の星が実写化されたとしたら、星一徹は高松英郎氏以外いなかったのでしょう。その代わりが、柔道一直線だったのかもしれません。
 そのような「怪しい師匠」が、NHKの雲のじゅうたんで、「立派な師匠」を演じたのも面白かったです。

 直前までお元気だったと言う事を敢えて「よかった」と言わせていただきましょう。ご冥福をお祈りします。
 

投稿: 武藤 | 2007/03/01 00:12

こんにちは。富井と松です。いつもお世話になっております。

小六親分お亡くなりになりましたかー。おっしゃるとおり物語がシビアだったので、牢名主なのに何かほっとさせる感じでしたよね。
元締めなしであの話が成り立ったのに一役かったと思います。
ご冥福をお祈りします。

投稿: 富井と松 | 2007/03/01 00:27

>武藤さま
今朝のワイドショーなどの追悼コーナーは「柔道一直線」一色でしたね。
そういえば高松さん、ゲームか何かのCMで星一徹に扮していたこともありました。確かによく似合っていました。

投稿: 念仏の鉄 | 2007/03/01 00:30

>富井と松さん
寅の元締も山村聰も故人だし、年齢的に当然といえば当然なのですが、元締格の登場人物たちは亡くなった方が多くて寂しい限りです。

投稿: 念仏の鉄 | 2007/03/01 00:34

「高松英郎さんって?」と思ってネット検索したらすぐ写真が出てきて「ぁー、この人かぁ。」
テレビをあまり見ない私でも、お顔はよく存じ上げておりました。
ご冥福を祈ります。合掌。

投稿: 馬場 | 2007/03/02 17:23

>馬場さん
こういう味のある脇役がいないとドラマは成り立ちませんね。高松さんは大映ニューフェース、つまり映画界の出身でした。彼と同世代の俳優にはそういう人が多いのですが、今ではテレビドラマを支える脇役の大半は劇団出身になりました。そういう時代の流れも感じます。

投稿: 念仏の鉄 | 2007/03/04 14:16

こんにちは。 大道芸観覧レポートという写真ブログをつくっています。 昭和33年のスターベストテンもとりあげています。 よかったら、寄ってみてください。 http://blogs.yahoo.co.jp/kemukemu23611

投稿: kemukemu | 2007/05/13 20:24

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