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世界フィギュア初日を見物する。

 世界フィギュア初日の東京体育館には、空席も結構多かった。この夜の種目はペアのショートプログラム。日本代表がエントリーしていないのが空席の理由かも。

 会場でフィギュアスケートを観るのはこれが2度目の初心者だが、テレビとの最大の違いはそのスピード感にあるように思う。アリーナ席に座ると、目の前に来た選手があっという間に数十メートル先に去っていく。おそらくは全力疾走するよりも速く移動しながら、にこやかに演技をしているというのは、かなり非日常的な光景だ。

 もうひとつ、テレビで見ていると、まるで体重がないかのように軽やかに飛び上がってくるくると回っている天使のような女子選手たちも、近くで見れば、やはりアスリートらしい筋肉と相応の重量を備えているのがわかる。着氷する時のドンとかズサッとかいう音も重々しい。そういう生身の人間が重力に抗ってジャンプすることがいかに大変かというのも伝わってくる。

 にもかかわらず、中国の申雪(Xue SHEN)やホウ清(ホウはまだれに龍:Qing PANG)は、まるで体重がないかのように軽やかに見えるのだから凄い。プログラムにまで大本命と書いてある申雪/趙宏博が登場したのは出場22組中の21番目だった。
 場内FMラジオで解説していた天野真は「レベルの高いプログラムを組めば正確さにこなすのが難しくなるし、レベルを下げれば高得点が狙えなくなる。どちらをとるかはすべてのコーチが悩むところ」と話していたが、この2人は、そんなジレンマとは無縁だ。素人目にも誰よりレベルが高く難しいであろう技を次々と繰り出しては、誰よりも正確にこなしていき、表現力も豊か。
 ど素人の観客も、21組も続けて見ていればそれなりに目が肥えてくる。彼らは明らかに格が違う。2分50秒の演技を終えて静止した瞬間に立ち上がって拍手を送っていたし、周囲の観客の多くも同じだった。SPでは唯一の70点台を出し、もちろん大差の1位。観客をもっとも喜ばせた演技が、ジャッジにも高く評価されたという、幸福な結果だった。

 日本代表がエントリーしていない、と書いたが、日本出身の選手は2人出場していた。
 トリノ五輪でもおなじみの井上怜奈はジョン・ボールドウィンとアメリカ代表として。そしてもう1人、川口悠子はアレクサンドル・スミルノフと組んで、ロシア代表として。2人ともスタンドからは大きな拍手と声援を受けていた。
 井上/ボールドウィンは得意技のスロウトリプルアクセル(たぶん)に失敗して点数は伸びなかったが、川口/スミルノフは手堅い演技で上位に食い込んだ。
 川口という選手について私は何も知らなかったのだが、日本ではなかなかよい相手が得られず、アメリカで活動した後、昨年ロシアに渡ったのだという。五輪と違って世界選手権では国籍は障害にならないようだ。このまま、このペアが好成績をあげていけば、次の五輪を狙ってロシア国籍を取得することになっていくのかも知れない。

 素人目に想像しても、日本の女子選手は欧米の男子からペアの相手として好まれそうな要素をたくさん持っている。小柄で体重が軽い。技術レベルが高い。欧米の女性に比べれば協調性も高そうだ。
 逆に日本国内の状況を考えると、現在の女子シングルは非常にレベルが高く、日本代表に食い込むのも容易ではない。だいたい、現在のナンバーワンと目される浅田真央はまだ16歳だ、当分はそこに君臨するだろう。まだ伸び代のありそうな安藤美姫も19歳。同世代の女子選手にはなかなか厳しい状況ではある。ペアに活路を見いだそうと考える選手がいても不思議はない。
 だが、国内でペアを組むにしても、体格と膂力に優れた男子選手は日本にはなかなか現れないだろうと思う(現在の日本人男子のトップである高橋、織田にペアのパートナーが務まるとは思えないし、過去の男子選手を思い起こしてもペア向きと思われる体格はほとんどいない)。

 だとすると、パートナーを求め、活躍の場を探して、日本の女子選手が海外に出て行くという動きは、今後もありうるのかも知れない。もしかすると逆に、空いている日本代表枠を狙って、海外の有望な(しかし国内選考の壁が厚過ぎて国際大会までは手が届かない)男子選手が日本にやってくる、などということも起こるのだろうか。日本国籍を取得するのは世界的には困難な方なのだろうが、最近は代表クラスのスポーツ選手はあまり時間がかからずに取得できているようだし。
 スタンドからしきりに暖かい声援を受けている「米国代表」や「ロシア代表」の日本女性たちを見ていると、それも、そう悪いことではないような気もする。


 蛇足だが、以下は運営サイドへの苦言。

・アリーナ席の椅子はパイプ椅子だった。左右をビニールバンドでしっかり固定しているから幅も狭く、座り心地が非常に悪い。最大9時間、ペアだけでも4時間という長丁場を座り続けるのは困難で、足や腰が痛くなった。8000円という安くない値段の席なのだから、もう少しまともな椅子を用意してほしい。

・会場内にはプログラムをどこで買えるのか表示がなく、係員に聞いてやっとブースを見つけた。商売っ気がないというかなんというか。

・会場内向けにミニFMの解説放送が行われていた(この日は天野真と伊藤みどり)。場内放送で、受信用ラジオを無料で貸し出している、と知らされたのだが、それがどこで借りられるのかがわからない。入り口の係員に聞いても知らず、別の係員に聞いてようやく判明。

・ で、ブースは見つかったが、どこにどう並んで誰に何を申し込めば借りられるのかがよくわからない。客は結構集まってきているし、ブース内には手の空いているように見えるスタッフが数人いるのだが、集まった客を効率よくさばくために何かしようという動きは皆無。途中で気付いたチーフらしい男性が、並んでいる人々に申請用紙とペンを配り始めたが、ブース内のスタッフは他人事のように見ている。
 というわけで、運営サイドがこの状態を放置しておくなら、観客が増える本日以降にはかなりの混乱が生ずるのではないかと思われる。
 私はもう行かないので関係ないですが。

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コメント

 会場で御覧になったなんて、本当に羨ましい限りです。
(パイプいすは、あんまりだと思いますが)

 テレビで言っておりましたが、
SP2位に食い込んでいるドイツのサブチェンコ&ゾルコーヴィ組も、
サブチェンコ選手がウクライナ出身だそうで。
あと、ゾルコーヴィ選手は見た目から察するにアフリカ系?
今後は、こういう異人種、異国籍カップルが、
ペアの主流になって行くのかも知れませんね。

 申雪&趙宏博は、フジテレビの駄目中継で見てさえも、
涙ものの出来でした。
もう、10年以上応援している人たちなのですが、
見る度に凄みを増しているなあ。

投稿: southk | 2007/03/21 21:25

>southkさん
TBまでいただいてありがとうございます。
某チケットサイトの先行販売で、この日にどの種目が行われるかも知らずに買ったチケットでしたが(笑)、結果的には満足しています。

場内FMでは、イタリアの男子選手もチェコ出身らしいと天野さんが話していました。国境を越える選手は、特に欧州内では珍しくなさそうですね。ドイツ代表の黒人選手というのはサッカーでもまだ珍しいので、彼の出自も気になります。ドイツの別のペアには、母親が日本人という女性選手もいました(見た目はまるで東洋人)。

投稿: 念仏の鉄 | 2007/03/22 01:52

こんにちは。

妻がどうやら明日女子を観に行くみたいで本エントリーは参考にさせて頂きました(笑)
スタッフの段取りの不手際は別にして、FMチューナーの貸し出しサービスは、来場する付加価値を高めるいい試みですね。他のスポーツでも活用できるのではと思います。
視聴率や注目度もその一助となるのでしょうが、やはり実際の階上に足を運ぶ人が増える事が、上記述べられているインフラの改善などへのアピールにもなりますしね。

投稿: hide | 2007/03/23 20:39

>hideさん
おっしゃる通りで、本来は場内FM解説&端末貸し出し(しかも無料)というサービスがあることを褒めるべきでした(笑)。どんな競技でもスタンドで見ている観客が最も情報量が少なくなるという矛盾に満ちた状況があります。ラジオ中継されている野球やサッカーなら自力で補足できますが、そうでない場合には主催者がミニFM放送で解説を流すというのはありがたいことです。テレビ中継と違って不要な芸能人ゲストやポエムアナもいませんし(笑)。

投稿: 念仏の鉄 | 2007/03/23 23:24

こんにちは。ポエムアナに耐えながら女子SPのビデオを観終えたところです。
フィギュアでも場内解説をやっているのですね。
これは有名かもしれませんが、国技館での大相撲本場所では、場内限定「どすこいFM」というのが聞けます。(携帯ラジオの貸し出しもしています)NHKではまだしゃべらせてもらえない新米親方やゲストも登場して、とっても面白いですよ。放送ブースに入ってではなく客席の一角でしゃべっているので、自分もその場にいるのにますます臨場感が増して、ひとり観戦でも盛り上がります(笑)。
国技館にいらっしゃるときにはおすすめです。

投稿: 若葉 | 2007/03/24 13:35

>若葉さん
「どすこいFM」って、ネーミングが凄いですね。大相撲はラジオ中継があるのだから、会場内中継の必要性はそれほど高くなさそうな気もしますが、しかし生で見ながら聞くにはラジオ中継はうるさ過ぎるか(笑)。解説者の研修も兼ねていそうですね。

投稿: 念仏の鉄 | 2007/03/25 09:09

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  申雪&趙宏博*1の演技は、やっぱり素晴らしかったです。   NHK杯で2人に一目惚れしてから、もう11年ぐらい経つはずなのですが、 あの頃、まるで上海雑伎団みたいなノリで大技を繰り出していた2人が、 大技の迫力はそのままに、 エレガントで繊細な演技力をも身に... [続きを読む]

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