暴走王・石川賢を悼む。
今でもあるのかどうか知らないが、私が小学生の頃に、子供向けのテレビ漫画雑誌というものが創刊されて、仮面ライダーやらマジンガーZやらの人気テレビ番組をもとにした漫画が掲載されていた。原作の漫画からテレビ化された作品をさらに漫画化するという、考えてみれば妙な二次創作である。
石川賢の名を初めて知ったのは、永井豪の漫画を原作とするそのような二次創作漫画の作者としてだったと思う。といっても、子供にはそんな複雑な事情はよくわからないから、「永井豪の漫画のバッタ物を描く人」というくらいの認識だったかも知れない。当然ながら、さほどの興味をそそられることもなかった。
(あとから考えれば、子供向け漫画としては異常な迫力で強烈な印象を残した『ゲッターロボ』の作者でもあったわけだが)
その石川賢が化けた、と思ったのは、『魔界転生』を読んだ時だった。角川書店の単行本で書き下ろしだった。H.R.ギーガーに影響を受けたとおぼしき(違ったらごめんなさい)魔物の描写で画面を埋め尽くす密度が圧倒的であり、甦った魔人たちに立ち向かう柳生の忍者たちの人間離れした能力の凄まじさ、死にざまの見事さに感銘を受けた。
もっとも、本当に驚いたのは後年、81年に作られた角川映画(深作欣二監督)を見たり、山田風太郎の原作を読んだ時だった。天草四郎が甦らせたいにしえの剣豪たちを柳生十兵衛が倒していく、という基本設定は一緒だが、物語の途中から石川版『魔界転生』は原作と関係のない筋道をひた走っていた。私がもっとも魅力的に感じた忍者たちの戦いは、ほとんどが石川のオリジナルだったのだ。
続いて発表された『虚無戦史MIROKU』や『魔空八犬伝』、『スカルキラー邪鬼王』といった作品、あるいは『ゲッターロボ』の数々の続編でも、石川はその圧倒的な画力とパワフルなキャラクター、逸脱するプロットといった特徴をいかんなく発揮して私を魅了した。石川が創造するキャラクターは誰もが凄まじいエネルギーを抱えている。主人公は悩みも迷いもせずに力一杯突き進む底抜けに明るい快男児であり、それに味方するキャラクターのアクの強さは敵役たちに優るとも劣らない。思えば『ゲッターロボ』の主人公の1人、神隼人は狂信的な学生運動家で、高校生でありながら一部の校舎を支配し、離脱しようとする部下の顔に爪を立ててぐしゃぐしゃにいたぶるサディストだった。
と同時に石川は、敵陣にも魅力的なキャラクターを配置する。二つの集団がぶつかりあうところに、さまざまな対決が生まれるが、どんなに窮地に追い込まれても不敵に笑う脇役たちの存在感は強烈無比で、とんでもない必殺技を繰り出しながら華々しく闘っては倒れていく。誰にでも一度は壮絶な見せ場を作ってやるのが石川のいいところだ。
そんなキャラクターたちのエネルギーが物語を牽引し、本来予定されていたプロットをしばしば逸脱する。いや、石川作品では、敵と味方だけでは飽き足らず、どちらに加担するともつかない第三勢力や共通の敵が現れて、事態をさらに混乱に陥れる。それは作品としての欠陥ではなく、むしろ魅力のように感じられた。
そのせいかどうか、大風呂敷を拡げるだけ拡げておいて、収拾がつかないままに終わる作品は多かった。数々の作品をひとつの世界観の中に再構築すべく、大幅加筆しながら『虚無戦記』と『ゲッターロボ』の選集が刊行されたが、それらを読んでも、結局何がどうなったのか私にはよくわからなかった。だが、そんな物語の結構などどうでもいいと思わせるだけの魅力が、石川の漫画にはあった。絵柄も物語も凄まじい勢いで加速しながら暴走する、その加速感こそが魅力だった。
近年は『神州纐纈城』の漫画化など時代劇に重点を置いていた石川が急逝したのは昨年の11月。58歳の若さだった。手に取る気を起こさせなくなって久しい永井豪作品とは異なり、まだまだ高いテンションを保って作品を発表し続けた、現役そのものの作家だった。
遺作となった『戦国忍法秘録 五右衛門』(リイド社)が、最近、発売された。
石川五右衛門を伊賀忍者と設定し、織田信長、羽柴秀吉、徳川家康ら戦国大名を登場させながら、例によって破天荒な設定とプロットで押しまくる。五右衛門の暴走する破壊力もいつもの通り。雑誌掲載時の第6話、単行本1冊分で中断し、未完のまま終わったことは惜しまれる、と言うべきなのだろうが、石川作品に限ってはそうでもない。プロットの途中で放り出されることには慣れている。彼自身はどうせ、どこか別の世界で、今も爆走する男たちの物語を生み出し続けているに違いない。
昨年の秋、石川の訃報を聞いた時には何を書けばよいのかわからなかった。『五右衛門』を読んで、ようやく何か書こうという気になってきた。
ごちゃごちゃと書いてきたが、本当に言いたいのはひとつだけ。
これだけたくさんの無茶苦茶な作品を残してくれてありがとう、石川さん。
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