選手会とジャイアンツは敵なのか。
下で紹介した『アマチュアスポーツも金次第』の中に、気になる記述があった。
<それにしても面白いのは、選手の権利であるFA権の取得年限短縮を、経営側である巨人が主張していたことだ。
冷静に考えてみれば、これは選手会が主張すべきことなのだが、雇用者側である巨人が声高に訴えているところが不思議でもある。>(P.37)
<FA権の取得期限短縮については、巨人が出してくる論理に説得力がある。現状、アマチュア選手には球団を選ぶ権利があるわけだから、もしも完全ウェーバー制が導入されたとなると、選手側は球団選択の自由を奪われたことになる。
だとすると、選手会側こそがFA権の短縮を強く要求すべきだと思うのだが、その主張を巨人がしているのだ。>(P.39)
これは、西武の裏金問題発覚を受けて行われたドラフト改革論争についての記述だ。
この時点での議論だけを見れば確かにその通りなのだが、歴史的に見れば、選手会は「ドラフト会議の完全ウェーバー化」と「FA権の取得年限短縮」を一体として扱ってきた(たとえば2004年9月に選手会が発行した「決意!」という本の中で当時の古田会長は「FA資格の大幅拡大と補償金の撤廃」を「これはドラフトの完全ウェーバー制導入とセットで実現すべき改革です」と書いている)。
ジャイアンツが今回の議論で持ち出した「国内移籍と国外移籍のFA取得年限に差をつける」という案も、選手会の公式サイトには以前から掲載されている。
つまり、選手会は年限短縮を主張していないのではなく、単に一時的に引っ込めたに過ぎない。どさくさ紛れに利益拡大を図っている、と世間から見られるのを嫌ったのかも知れない(実際、ジャイアンツはそのような批判を受けている)。
だから、今後のドラフト改革論議の中で、選手会がいずれはFA権取得年限短縮を再び持ち出すことは確実だと私は思っている。
生島淳がそのような経緯を知らないとも思えないので、このように書かれていることは不思議に感じる。
さらに言えば、ジャイアンツがFA権の取得年限短縮を主張すること自体は、不思議でも何でもない。
日本でFA制度が始まってから現在に至るまで、FA選手の最大の買い手はジャイアンツだった。
獲得した選手がどれほど期待を裏切っても、巨額の投資が一向に優勝という成果に結びつかなくても、不合理なまでの情熱(それを「信念」と呼んでもよいかもしれない)を持ってFA市場を買い支え続けたジャイアンツがいなかったら、日本のFA制度は形骸化の一途を辿り、選手の権利は著しく貧しいものになっていたはずだ。
(そもそもFA制度が成立したこと自体、ジャイアンツの意向に負うところが大きかったと言われたはずだ)
世間ではジャイアンツと選手会が不倶戴天の仇敵であるかのように思っている人が多いし、もしかすると著者の生島もそのような印象を持っているのかも知れない。
だが、ことFA制度においては、ジャイアンツと選手会の利害と主張は一致しているし、むしろジャイアンツこそ選手会の最大の支援者だったと言っても過言ではないのではないだろうか。
メディアを通して舌戦を繰り広げてはいても、当事者たちはお互いにそのことを判っているはずだ。裏でつるんでいる、とまでは思わないが(笑)。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
この巨人の主張には、日本でプロ野球を経験した選手は、巨人がFA獲得の名乗りを上げれば必ず入団するはず。という自信に裏打ちされているんだろう。
こんな巨人の意見に、全く反論しようとしないのが、FAと最も縁が薄い広島というのがNPBの摩訶不思議。
投稿: | 2007/05/23 07:51
>007/05/23 07:51の名無しさん
NPBの会議の多くは常にジャイアンツのいいなりで物事が進むのが昔から不思議(というか不満)だったのですが、3月のドラフト改革に関しては、他球団もかなり抵抗を示したようです。ちゃんと議論が行われること自体は結構なことだと思います。ただ、ジャイアンツのクロスウェーバー案に対抗しうる代案を出した球団はほとんどなく、単に現状維持だけを望んでいるとしか思えない態度の球団もありますから、もっと頭使えよ、と思いますが。
投稿: 念仏の鉄 | 2007/05/23 08:47