« えのきどいちろう『サッカー茶柱観測所』駒草出版 | トップページ | 加藤仁『宿澤広朗 運を支配した男』講談社 »

他人に敬意を表することを知らない者が、他人から敬意を受けることはない。

J1 第16節 退場に伴う茂原 岳人選手(甲府)の出場停止処分について

<2007Jリーグディビジョン1 第16節の試合で、茂原 岳人選手(ヴァンフォーレ甲府)は、主審より退場を命じられました。また、退場を命じられた後にピッチ上で主審を侮辱し、さらにピッチからロッカールームに戻る際に運営備品を破損させた、との報告を受けたため、規律委員会で同選手への事情聴取を行い、(財)日本サッカー協会 競技および競技会における懲罰基準に照らして審議した結果、下記のとおり処分することを決定いたしました。

【処分内容】 合計7試合の出場停止 (以下略)>
(Jリーグ公式サイトから)

 この試合はスタンドで見ていた。私がいたのはバックスタンドで、茂原と家本主審が揉めていたのはメインスタンド側だったから、何が起こったのかはよくわからなかった。とはいえ、茂原が唾を吐いたり暴言を吐いたり備品を壊したことを疑うわけではない。

 判定そのものとは別に、試合中ずっと気になっていたのは、家本主審のゼスチャーだった。
 彼が何らかの(主にファウルの)判定を下し、選手が何か言いたげに近づこうとすると、家本主審はしばしば、左手で選手を制していた。正確に言えば、下に向けた手のひらを払うように振り上げる動作を繰り返した。

 これは通常「しっしっ、近寄るな、あっちに行け」という意味をもっている。犬猫相手ならいざ知らず(と書いたら犬好きや猫好きの人には叱られるかも知れないが)、人間同士の間で行われる場合には、かなり侮蔑的な表現となる。一人前の社会人であれば、公の場・仕事の場ですることは憚らなければならない、そういう動作だと私は思う。

 家本主審は選手に対して何度もそれを繰り返していた。スタンドから見る限り、ただ歩み寄って話しかけようとした選手に対しても、「お前の話など聞く値打ちはない、あっちに行け」という意味の動作を繰り返していた。数万人の人々が見ている前で、人間扱いされず、コミュニケーションを拒絶され、ただ追い払われる心境というものが私には想像できないが、あまり体験したいとも思わない。それは選手をいらだたせ、試合を荒れさせる種をまき続けているようにしか見えなかった。

 家本主審に限らず、Jリーグでは、ときどきこのような動作を目にすることがある。
 Jリーグや日本サッカー協会が、選手に対して「審判を侮辱すること」を固く戒め、「審判に対して敬意を払うこと」を要求するのであれば、審判にもまた「選手に対して敬意を払うこと」を要求し、徹底させるべきだと私は思う。それが、例えば7試合の出場停止処分を受ける茂原に対する、主催者としての責任ではないのか。

 ワールドカップや欧州選手権に選ばれる優秀な主審の多くは、選手とにこやかにコミュニケーションをとりながら円滑に試合を進めるタイプの主審の方がずっと多いという印象がある。JリーグやJFAはそのようなものを目指しているのではないのだろうか。今回の茂原への処分(と家本主審への不処分)は、そうではない、というメッセージを内外に発してしまいかねないものだと思う。

 追記(2007.7.6)
「審判にとって今や、ジャッジするのが楽ではないことは私も分かっている。だから、イングランドの審判を見ればわかる通り、彼らは選手たちと話し合っている。しかし、日本では審判に何も言うことができないのだ。」(P.154)
「もちろん日本人審判は長所も持っている。すべてを批判しているわけではない。しかし、選手とのコンタクトの仕方は、少し修正しなければならないと思う。つまり、コミュニケーションは頻繁に、そしてもっとオープンに行うべきなのだ。」(P.158)
イビチャ・オシム『日本人よ!』新潮社から

|

« えのきどいちろう『サッカー茶柱観測所』駒草出版 | トップページ | 加藤仁『宿澤広朗 運を支配した男』講談社 »

コメント

私もJ2の試合を毎節見ているのですが、「あっちにいけ」ゼスチャーは頻出してますね(やや上品なバージョンとして「両手を前に出して内側から外側に向けてクルリと回す」なんてのもあります)。
おっしゃるとおり、Jのレフェリーは「抗議は聞かないよ」という拒絶の姿勢が強すぎるように思います。これはうがった見方ではありますが、選手に対する何らかの劣等感の裏返しなのではないかとさえ思わせる方もいらっしゃいます。そういうことをサポーターに感じさせるようではレフェリーに対する選手やサポーターの尊敬の念も生まれませんし、選手やサポーターに尊重されているという自信がレフェリーの側に生まれなければレフェリーはさらにかたくなになってしまう・・・。不幸な循環だと思います。
もっとも、テレビ中継のなかで「今日のレフェリングは流れを切らず大変に良いですね」という発言が聴かれることもままあります。そのように、解説者や実況アナといった見巧者の方が良いレフェリングをきちんと良いと評価する(悪いレフェリングにはちゃんと悪いという。これがほとんどなされないのですが・・・。審判は絶対であるという「体育」の伝統なのでしょうか。)ことによってレフェリー諸氏の自尊心や向上心をフォローすることも必要なのかな、と思います。

ちなみに家本氏は昨シーズンかなり物議をかもした方ではあります。今回の試合は見ていないのでなんともいえませんが(下リンク参照)。

http://hochi.yomiuri.co.jp/soccer/jleague/news/20060913-OHT1T00026.htm

投稿: かわうそさん | 2007/06/29 13:46

「手のひらを下に向けて」お出でお出でする、という日本人の「しぐさ」は、同じく「手のひらを下に向けて」あっち行け!をする欧米人の「しぐさ」とたいへん似ているために、誤解を招くことが多いです。知り合いの女性が、ホームステイ先(英国)の男児に向かって(日本流の)「お出でお出で」をしたところ、その子がものすごく傷ついた顔をして泣き出し、誤解を解くのが大変だったという話をしていました。
動作言語における典型的なミスコミュニケーションなんですが、家本主審の「しぐさ」については、「あっち行け」という意味はしっかり伝わっているわけですから、上記と同じではありません。
ただ、「あっち行け」しぐさの持つニュアンス、それがどれだけ侮蔑的なものであるかについては、日本人の場合世代ギャップがあるかもしれない、と思いました。この「しぐさ」は欧米起源のものですから、若い世代の方がニュアンスに敏感であるということは考えられます。
いや、決して家本審判の方を持つわけではないのですが(笑)。
かわうそさんご紹介の記事を読むと、審判としての資質に相当問題がありそうな方ですし。

投稿: 馬場 | 2007/06/29 15:49

>かわうそさん
>そういうことをサポーターに感じさせるようではレフェリーに対する選手やサポーターの尊敬の念も生まれませんし、選手やサポーターに尊重されているという自信がレフェリーの側に生まれなければレフェリーはさらにかたくなになってしまう・・・。不幸な循環だと思います。

ご指摘の通りで、どこかで循環を断ち切らなければなりません。選手が審判員を尊重しない風潮があるのも確かですが、だからといって審判員が選手や観客と同じ土俵に立つのはどうかとも思います。

>解説者や実況アナといった見巧者の方が良いレフェリングをきちんと良いと評価する(悪いレフェリングにはちゃんと悪いという。これがほとんどなされないのですが・・・。審判は絶対であるという「体育」の伝統なのでしょうか。)ことによってレフェリー諸氏の自尊心や向上心をフォローすることも必要なのかな、と思います。

レフェリングの善し悪しを適切に解説する役割が必要だというのは同感です。審判員のフォローという以上に、選手や観客に対する啓蒙という面で必要でしょう。私はエントリ本文で家本主審の判定の是非については触れませんでしたが、それは、自分に判定の是非を論じるだけの見識があるとは思えないからです。
選手のプレーであれば、「あの状況ならA選手はこの位置にいるべきだった」というようなことは、ある程度の根拠を持って言えます。しかし、審判員について「あの時はこの位置にいるべきだった」ということが言えるほどの見識は私にはない。ひょっとすると選手や監督にも、それはないかも知れません。
審判には審判の独自の判断基準があるし、高いレベルになるほど、経験者にしかわからない部分もあるでしょう。高田静夫さんなど高いレベルの試合を経験した審判OBが、判定の善し悪し、審判の見方についてわかりやすく解説するようなテレビ番組があるとよいなと思います。Jスポーツあたりでやらないかな。


>馬場さん
>日本人の場合世代ギャップがあるかもしれない、と思いました。

家本さんは1973年生まれですから、選手との間にさほどの世代ギャップはないのではないかと思います(笑)。また、揉めた相手の大半は日本人選手ですから、カルチャーギャップも少ないのでは(笑)。

投稿: 念仏の鉄 | 2007/06/29 23:00

かつてある審判が「メンタリティーが病んでおり、判定に影響している。自信を失っているようなので1か月間の研修期間を与える」というような記事は記憶にありましたし、最近、茂原という選手が審判にツバを吐いて問題になって本人は今は反省している、みたいな記事は知っていました。しかし、ああ、その相手の審判はあの問題の審判だったんですか、なるほど。そのあたりの事情は新聞は臆せず書いて欲しいもんですね。ここを読んでなかったら全く知らずに過ぎてしまうところでした(当該の試合の状況は知りませんが)。

馬場さんの「日本流のオイデオイデがイギリスの子供を傷つけた」話もひじょーに勉強になりました。東洋人の細い眼の平坦な顔でニコニコして「あっち行け」の仕種をされると、かなり悪魔のように見えるんでしょうね。

投稿: nobio | 2007/06/30 04:36

日本の審判員制度は,かなり良くできていると思いますが,SR(スペシャルレフェリー)制度だけはうまく機能していないように思います。
SRはいわゆるプロ化の一つですが,現実にはほとんどの審判員がちゃんとした仕事を持っており,仕事の合間や,職場の理解を得て,半ばボランティアとして活動しています。
現在日本には18万人以上のサッカー審判員がいますが,1級審判員は128人,SRは6人です。つまり,一生をかけるべきまともな職業を持たず,サッカーの審判で飯を食おうと考えた素っ頓狂な輩が6人のSRなわけで,確かに審判の技術は高いのですが,世間の常識から大きくずれた感覚の方もいらっしゃいます。
SRは本来は1年契約(1500万円~2500万円)ですが,契約を更新されなかった例はありません。つまり,引退するまで,協会が面倒を見る。引退した後も,インストラクターなどの職に就かせ面倒を見るわけです。選手に比べ,安定度は高く,これではホントのプロ化とは言えません。
このゆがんだSR制度を改革しなければ,おかしな判定はなくならないでしょうね。

投稿: 2級の末席 | 2007/06/30 12:06

日本の審判員制度は,かなり良くできていると思いますが,SR(スペシャルレフェリー)制度だけはうまく機能していないように思います。
SRはいわゆるプロ化の一つですが,現実にはほとんどの審判員がちゃんとした仕事を持っており,仕事の合間や,職場の理解を得て,半ばボランティアとして活動しています。
現在日本には18万人以上のサッカー審判員がいますが,1級審判員は128人,SRは6人です。つまり,一生をかけるべきまともな職業を持たず,サッカーの審判で飯を食おうと考えた素っ頓狂な輩が6人のSRなわけで,確かに審判の技術は高いのですが,世間の常識から大きくずれた感覚の方もいらっしゃいます。
SRは本来は1年契約(1500万円~2500万円)ですが,契約を更新されなかった例はありません。つまり,引退するまで,協会が面倒を見る。引退した後も,インストラクターなどの職に就かせ面倒を見るわけです。選手に比べ,安定度は高く,これではホントのプロ化とは言えません。
このゆがんだSR制度を改革しなければ,おかしな判定はなくならないでしょうね。

投稿: 2級の末席 | 2007/06/30 12:07

逆に言えばそれだけJリーガーが審判に文句を言う頻度が多いってことだよね
Jの試合を見ていると、明らかにジャッジに文句を言いすぎてるよ
海外リーグや代表を見ていてもJリーグほど文句を言う試合は無いよ
オオカミ少年みたいなものだよ
いざというときに取り合ってもらえない
審判もそれにウンザリしてるんじゃないかな
いさめる側のキャプテンやってるのが戸田や大久保みたいなのばっかだから自浄作用も期待できないだろうし
家本はゴミだけど、選手も同レベルだと思うよ

投稿: | 2007/06/30 12:10

 そもそも、選手が審判に異議を申し立てる権利など、サッカーの競技規則では認められてないんだけどw。
 だから、選手が「審判に何か言う」ことはそもそもルール違反。

投稿: 通りすがり | 2007/06/30 14:58

基本的に同意です。サッカーは競技規則だけでなく、現場での審判の判定(ファールを流すとか、アドバンテージをとるとか)が試合を作ってゆきます。それを前提として試合が進んでゆきます。それだけの権限が与えられているだけに、審判は判断と振るまいに責任をもたなくてはいけません。その一方で、プロのサッカーはエンターテイメントです。お客さんに見せてナンボの世界です。そこで審判に求められるのは、「厳重にに裁く」という発想よりも「いい試合を演出する」という発想です。これらを総合的に考えると、審判は選手・スタッフと信頼関係を築くことが必要です。しかし、家本はそれを拒否します。(私はグランパスサポで、家本には散々イヤな思いをさせられました。)また柏原ジョージも同じく感情的に選手を罵るところがあります。応援しているチームに有利であっても不利であっても、そういう場面は見たくありません。審判が試合をぶち壊すというヤツですね。誰がスタジアムの主人公なのか?って思います。(その他の怪しげな審判は単に能力が低いだけだと思います。)

投稿: cipriano | 2007/06/30 23:23

少し話題に乗り遅れた感じもしますが、一言。

審判の多くは自信なさそうですよね。
件のしぐさについても、その裏返しのような気がします。
結果的に下した判定が間違っていても、自分に自信があれば
「あっちいけ」や選手とのコミュニケーションは拒絶しないと思います。

審判こそ絶対、のような強迫観念に囚われてる・・・とも感じますし(笑)。

投稿: 山口 | 2007/07/01 12:59

>nobioさん
>そのあたりの事情は新聞は臆せず書いて欲しいもんですね。

なるほど。確かに新聞もテレビも審判を批判することに消極的という印象はあります。
ただ、家本さんが主審を務めた試合で退場者や処分者が出ることはあまりにも頻繁に起こるので、そのたびに「家本主審は昨年研修期間を与えられた人物で云々」などと繰り返すのは、紙幅や放送時間の限られた媒体では困難かも知れません。


>2級の末席さん
こんにちは。
Jリーグが始まった初期の頃にも判定をめぐるトラブルは多発していて、当時は「選手がプロなのに審判がアマチュアだからうまくいかない」という論調が支配的だったと記憶しています。
単にプロ化すれば問題が解決するわけではない、ということは期せずして明らかになってしまいましたが、どういうプロ審判制度が望ましいかについては、まだまだ改善の余地がありそうですね。


>2007/06/30 12:10の名無しさん
>逆に言えばそれだけJリーガーが審判に文句を言う頻度が多いってことだよね
ごもっともではありますが、悪い循環はどこかで断ち切った方がいいんじゃないかと思います。


>2007/06/30 14:58の通りすがりさん
「審判に何か言うこと」も競技規則で禁じられているのですか?


>ciprianoさん
こんにちは。
サッカーの競技規則には、審判が選手を侮辱することを禁じた条文は見当たりませんが、それはそんな状況が想定されていないからであって、禁じていないからやってよい、というものではありませんよね。
「サッカーの競技規則は17条から成る。第18条はコモンセンスだ」ということを審判関係者は口にされますが、その第18条に照らして彼らの態度はどうなのかということをJFAやJリーグには考えてもらいたいです。


>山口さん
こんにちは。このエントリ自体、やや乗り遅れ気味でしたのでお気になさらずに(笑)。

>審判の多くは自信なさそうですよね。
試合前に主審の名が発表された途端にスタンドから溜め息がもれたりブーイングが起こったりするような状態になってしまっては、自信をもって試合に臨むのも難しくなりそうです。…私も溜め息はついてしまったのですが。

>審判こそ絶対、のような強迫観念に囚われてる・・・とも感じますし(笑)。
組織として無謬性を強調しすぎると、かえって現場がしんどくなる、ということもありそうですね。難しいものです。

投稿: 念仏の鉄 | 2007/07/01 22:17

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/50507/15585092

この記事へのトラックバック一覧です: 他人に敬意を表することを知らない者が、他人から敬意を受けることはない。:

» 平瀬 [サッカー選手名鑑~このブログ、詳しすぎ(の予定)につき・・・~]
平瀬 智行(Tomoyuki HIRASE)フルネーム  平瀬 智行国籍      日本生年月日   1977年5月23日出身地     東京都板橋区ポジション   FW(CF)身長/体重  184cm/76kg個人タイトル  99AFC月間最...... [続きを読む]

受信: 2007/07/02 01:56

» アロイージ [サッカー選手名鑑~このブログ、詳しすぎ(の予定)につき・・・~]
ジョン・アロイージ(John ALOISI)フルネーム ジョン・アロイージ国籍     オーストラリア生年月日  1976年2月5日出身地    アデレードポジション  FW(CF)身長/体重 185cm/80kg個人タイトルチームタ...... [続きを読む]

受信: 2007/07/21 00:40

« えのきどいちろう『サッカー茶柱観測所』駒草出版 | トップページ | 加藤仁『宿澤広朗 運を支配した男』講談社 »