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高いレベルで野球がしたいのなら。

 このオフにも大勢の日本人選手がMLBに移籍していきます。FA権取得までまだ時間のかかる選手も、「ポスティングで行かせてください」と球団に訴えた(と取材陣の前で公言した)りしています。

 「高いレベルで自分の力を試してみたい」と彼らのほとんど全員が口を揃えます。

 なるほど。それはスポーツ選手としての本能のようなものでしょう。そこにストップをかけるのは、生きるのをやめろというようなもので、むごいことです。

 でも、そうやって日本から好選手がいなくなっては困る。日本のプロ野球は滅びてしまいます。故郷が荒れ果ててしまうのは、彼らが望むことでもないでしょう。

 そんなジレンマを解消する妙案があります。ドミニカのウィンターリーグに参加してみたらどうでしょう。

 ウィンターリーグの概要はこちらにある通り。過去の個人成績リーダーズのリストを見ても、MLBで活躍した選手の名がごろごろ並んでいますし、オフを利用して里帰りし、ウィンターリーグに参加する現役メジャーリーガーも少なくありません(こちらのブログを見ると、レッドソックスのオルティスも毎年のように参加しているようです。

 FAの資格がなくても、ポスティングをしてもらわなくても、このオフからすぐに現役メジャーリーガーと対戦できるし、日本の球団をやめなくてもいいし、一石二鳥以上じゃないですか。どうせ喋れないのなら英語もスペイン語も似たようなもんでしょ。「高いレベルで自分の力を試してみたい」のなら、今すぐカリブ海に飛んで、現役メジャーリーガーと勝負してみてはどうでしょうか! 巨額の報酬だけは期待できませんけど。

…という、単なる思いつきのイヤミを書き逃げして終わるつもりだったのですが、書きかけてほったらかしている間に、今週発売の週刊ベースボール12月31日号に掲載されているジャイアンツ清武代表の連載コラム「野球は幸せか!」が目にとまりました。

 ジャイアンツからドミニカのウィンターリーグに参加している深沢和帆投手が、日本の選手会から試合出場を止められた、と清武代表は書いています。

支配下選手の場合、十二月から一月までは、ポスト・シーズンだ。野球協約第173条では「球団または選手は、毎年12月1日から翌年1月31日までの期間においては、いかなる野球試合も行なうことはできない」ことになっている。これには「コミッショナーが特に許可した場合はこの限りでない」というただし書きがついているのだが、コミッショナーが許可しても、選手会が深沢のような試合出場を認めない。

 深沢は「自分がライバルたちに追いつくのは簡単なことではないと思います。彼らと同じことをやっていては差は縮まりません。ここで真価を発揮できずしてどうして日本で一軍定着が狙えようかという気持ちです。どうか、ドミニカで12月の試合出場を許可頂きたく、お願いします」とメールを出したり、選手会事務局に電話して訴えたが、結局、認められなかった。

 <選手会はだれのためにあるのだろう。>と清武代表は憤ります。

「一人の例外を認めると、オフシーズンの練習や試合出場を強制する球団が出てくる」というのが選手会の言い分だが、その頑なさが二軍選手の成長の壁になっている。

 このオフは確かジャイアンツと中日がドミニカに選手を派遣しています。ジャイアンツは志望した選手だけを送り出しているようですが、おそらくは球団が費用を負担し、引率のコーチも同行しているので、純然たる選手個人の自主的行為とも言い切れない面は残る。グレイゾーンであることは確かです。

 しかし、選手本人がやりたがっていることはほぼ間違いない。にもかかわらず、選手会がそれを妨げる。変な話です。日本の選手会がお手本にしているであろうMLBの選手たちは、特に規制されているふうでもなく同じウィンターリーグに参加しているのですから、なおさら奇妙に見える。

 野球がうまくなりたい、高いレベルで経験を積みたい、というのは若手選手の本能のようなものでしょう。そこにストップをかけるのは、生きるのをやめろというようなもので、むごいことです。

 その「むごいこと」を、同じ野球選手の集まりである選手会が行う。変ですね。

 意地の悪い見方をすれば、こういうことも言えます。すでに功なり名遂げて高い収入も得ている選手会の幹部たちが、これから成長して自分たちの競争相手になるであろう若い選手の成長を妨げている、と。

 もちろん選手会側にそんなつもりはないのでしょうけれど、結果的には同じことです。

 日本プロ野球選手会は、<日本のプロ野球12球団に所属する日本人選手全て(一部の外国人選手を含む)が会員となっている団体>です(かつて落合博満選手が脱退していたことがあったので、一応は任意なのだと思いますが。また、清武代表のエッセイを読むと、育成選手は対象外のようです)。

 数億円の年俸を稼ぐスター選手と、これから成長しなければならない若手選手。利害が相当に異なるはずの人々が同じ組合に所属していること自体に無理があるんじゃないでしょうか。日本の選手会が打ち出す方針の多くは、一握りのスター選手たちの利害に即したものになっているように、私には見えます。

 MLBの選手組合は、あくまでメジャーリーガーだけが組合員です(メジャーとマイナーを行ったり来たりしている選手について、どこで線を引くのかはよくわかりませんが)。かつて彼らが1994-1995年に大規模ストライキを実施した時に、球団側はマイナーリーガーや引退した元メジャーリーガーら非組合員を集めてスト破りの試合を実施しようと画策したこともありました(野茂が敢然とロサンゼルスに渡ったのは、まさにその渦中の時期で、スト破りに利用されかねない状況でもありました)。

 日本では一軍選手も二軍選手も球団との契約は同一なので、MLBのように別の組織にすることはできないかもしれません。しかし、何らかの線引きをして、それぞれの実情に即した施策をしていく必要があるのではないでしょうか。「選手会が『野球をしたい』という選手の意思を妨げる」というのは、どう考えてもおかしな話です。以前書いた「日米野球への参加拒否」なども、今回の事例と似ているように感じます。

 ネタのつもりで書き始めたエントリが、妙にくそまじめな結論になってしまいました。ホントは「今すぐドミニカに飛べば、オルティスとガチで勝負できるよ、球児くん」とか書いて終わるつもりだったんですが。

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コメント

ははぁー。
「一人の例外を認めると、オフシーズンの練習や試合出場を強制する球団が出てくる」ですか、実に官僚的な答弁ですね。「やりたくないから、やらない」というとき、誰しも同じような陳腐な言い回しになるんですなぁ。

「そういうことにならないように、選手会があるんでしょ!」と反論されたらオシマイだと思うんですが。
「選手の意志に反して強制しない」という約束をすればそれでいいはず。
場所がドミニカなだけで、伊豆山中での自主トレとなんも違わんと思います。

投稿: 馬場 | 2007/12/20 17:42

>馬場さん

ま、あくまで一球団代表が一方的に書いていることではありますが(笑)。
仮に深沢投手が選手会の制止を振り切って試合に出てしまったらどうなるのか、というのは興味深いですね。選手会は何らかのペナルティを課すのか、そもそもそんな権限があるのか(ま、組合員としての資格停止や制限はありうるかもしれません)。

投稿: 念仏の鉄 | 2007/12/21 09:07

まぁ高いレベルってのは評価(金銭は勿論、社会的待遇)でしょうw
落ち目の巨人(金銭とメディアの贔屓)からメジャーに変っただけ
逆にダルビッシュが対談で語ったプロ野球観は非常に新鮮でしたよ
従来の単純な成績=実力の上下ではない共感できる価値観で日本球界を託せる人材だと

投稿: メディア | 2008/04/02 13:59

>メディアさん

>逆にダルビッシュが対談で語ったプロ野球観は非常に新鮮でしたよ

どの媒体でいつ誰としていた対談か教えていただけると嬉しいです。

投稿: 念仏の鉄 | 2008/04/03 09:36

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