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「外国人選手だけFA扱い」の謎。

 ヤクルトのグライシンガーがジャイアンツに入団することが決まったようです。すでに、横浜で活躍したストッパーのクルーンの加入も決まっていますから、来季のジャイアンツの投手陣は「セ・外国人オールスター」のようになります。ジャイアンツファンとしては複雑な気分。MLBではこのくらいの規模の補強は珍しいものではありませんが、日本で見るにはまだ違和感があります。

 この移籍に限らず、近年の日本のプロ野球では、12月になると一斉に外国人選手たちが好条件を求めて移籍します。以前から不思議に思っているのですが、彼らは実質的にフリーエージェントとして扱われているようです。

 野球協約によれば、11月30日までに球団が保留選手名簿に載せなかった選手はフリーになるわけですが、外国人選手は本人と契約が合意に至らなければそこには載せない、という慣習が確立しているようです。 つまり、11月中に契約がまとまらなければ、外国人選手は自由契約になる、ということです。

 日本人選手との契約においては、球団はそんな行動をとりません。主力選手の契約更改は12月に入ってから行われることが多いので、球団は選手の合意を取り付けなくても、名簿に載せてしまっているのだろうと思います。外国人選手だけが例外として扱われている。

 プロ野球選手は、統一契約書という同一の書式によって各球団と契約することが、野球協約によって義務づけられています。野球協約の条文を読む限り、例外はない(野球協約の条文や統一契約書の書式は、選手会ホームページで見ることができます)。法律の専門家ではない私がざっと条文を眺めた程度では、なぜ外国人の選手が統一契約書を用いて契約を行わず、移籍の自由を当たり前のように行使しているのか、なぜ球団側が(嫌々ではあっても)それを容認しているのか、説明がつきません。メディアも「○○選手交渉決裂、移籍へ」などと論じるだけで、そのへんが解説されることはほとんどないように思います。日本人選手と比べて、大変な不公平であることは間違いありません。

 ジャイアンツファンが言うな、といわれそうですね。確かに球団側の要望を振り切って移籍する外国人選手の行き先がジャイアンツである、というケースが多いけれども、それ以外の球団間でもこのような形の移籍は数多く見られます。中日のウッズなどは典型例ですね。ヤクルトや広島が草刈り場になっている。パでは必ずしも一方的な流れではなく、循環しているように見えますが。

 獲得する球団からすれば、同程度の年齢・成績の日本人FA選手と比較すると、補償金なしでとれる外国人の方が都合がいい。そう考えると、現在の外国人選手たちの権利は、日本人選手の雇用を圧迫している、と言うこともできます。しかし、選手会は表だって反対を表明してはいないようです。「外国人選手の権利を制限する」よりは、「日本人選手の権利を拡張する」のが選手会の目的ですから、批判するよりは、球団側との交渉の梃子に利用したいと考えているのでしょう。

 こういう状況が果たしてよいのか悪いのか。簡単に言い切れない面は残ります。冒頭にも書いたように、MLBではごく当たり前の光景ですが、私はまだ違和感を覚えます。ジャイアンツファンだけれども素直に喜べないし、引き抜かれる球団のファンなら腹立たしいでしょう。ジャイアンツと無関係なチーム間での出来事としても、なんだかなあ、という気はする。

 アメリカから来た選手にとっては、MLB復帰(または昇格)のチャンスがあれば逃したくない、という意向が最優先でしょうから、そういうケースで選手側が選択権を持つ、という条項を契約に設けるのはわかります。しかし、国内移籍に関しては、ある程度の制限を設けてもよいのではないかという気がします。選手の権利だとか自由競争だとか、現状を肯定する理屈はつけられるのでしょうが、ファンの多くが鼻白むような移籍が毎年いくつも見られるというのは、あまり歓迎すべき事態とは思えません。

 しかし、そんな制度的な縛りをかけなくても、打つ手がないわけではありません。

 球団側は、選手に出て行かれたくなければ最初から長期契約を結べばよい。ヤクルトが最初からグライシンガーと5年くらいの長期契約を結んでおけば、1年活躍しただけで出て行かれることはありませんでした。もちろん長期契約にはリスクが伴います。安い条件で長期契約を結び、ダメだった場合に違約金を払って解雇するのと、1年契約にしておいて、活躍したら高額報酬を払う(あるいは逃げられる)のとどちらを選ぶか。難しいとは思います。でも、経営判断とはそういうものではないでしょうか。

 サッカー界では基本的に全選手が野球でいうFAなので、契約の条件や期間は個々の選手によって異なります。長期契約を結ぶ選手もいれば、そうでない選手もいる。クラブは常に数年後の戦力を構想しながら、今の陣容を編成しているはずです。それと比べると、選手は保留条項によって縛られるが球団側はいつでも解雇する権利を有する、という野球界の現状が、球団にとっていかに楽で頭を使わなくてよい経営環境かということを改めて感じます。

 少なくとも、最初に海外から選手を連れてきて契約する段階では、球団と選手は対等です。というより、マイナーリーグにいるよりはずっと高額の年俸を払うわけですから、球団側が優位である場合が多い。とすれば、これほどまでに外国人選手が都合良く移籍するケースが勃発しているのだから、最初からそれを見越した契約を結べばよいと思うのですが、なぜそれをしないのか不思議です。選手側の代理人の言いなりになってるんじゃないかと疑わしく思えてきます。

 そう考えると、結局は各球団の交渉力不足が、このような事態を招いているのではないでしょうか。もし自力で有利な条件で契約する能力がないのであれば、球団側も、それこそ代理人を立てればよいのです。“球団サイドにたって選手側と契約交渉をする代理人”って、結構需要がありそうな気がします。

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コメント

外国人選手が1年契約なのは、日本の野球シーズンだけの契約にすると日本の税金を払わなくていいからだと、聞いたことがあるような気がします。
しかし、それなら日本の球団と一旦契約した選手は他の球団との移籍に制限を設けるようにすればいいわけで、自由に移籍していくのはおかしいですよね。

投稿: 通りすがり | 2007/12/11 17:35

その謎の答は「野茂とソリアーノ」だという投稿が「教えて!goo」にありました。
http://oshiete1.goo.ne.jp/qa3456796.html?ans_count_asc=2

1:昔の野球協約では任意引退選手が海外の球団に入団することが可能だで、野茂や長谷川はそれでメジャーに行った。これに危機感を抱いたNPBは、任意引退選手が海外の球団へ入団することを禁じた。

2:1998年、ソリアーノがカープと契約で揉めて任意引退となった。ところが1により、途方に暮れる羽目に。それでMLBとNPBが協議して、とりあえずソリアーノを自由契約扱いとした。

3:以降、アメリカの選手が日本に来る際には、契約時に「契約終了と同時にフリーエージェント」という条項を盛り込むようになった。

・・・のだそうです。なんか、間違ってるよなあ。

投稿: nobio | 2007/12/11 21:19

鉄さんはかつて「自分は以前は巨人ファンだったが今はどこのファンでもない」とおっしゃってましたが、しばらく前から感じていたのですが、さいきん巨人ファンに復活されたのですか。

投稿: nobio | 2007/12/11 21:27

>通りすがりさん
>外国人選手が1年契約なのは、日本の野球シーズンだけの契約にすると日本の税金を払わなくていいからだと、聞いたことがあるような気がします。

ふうむ、その方が都合のいい場合もあるのかも知れませんね。でも、ある程度実績を残した外国人選手が複数年契約を求めるケースもありますから、一概に単年度契約が有利というのではなく、条件の立て方次第なのだと思います。

>nobioさん
>その謎の答は「野茂とソリアーノ」だという投稿が「教えて!goo」にありました。

なるほど。この手の移籍が増えたのは今世紀に入ったあたりからという印象がありますが、時期的には辻褄が合いますね。
しかしこの制度、結果的には国内移籍のために利用されまくっているわけだから、やはり修正した方がいい気がしますね。

>さいきん巨人ファンに復活されたのですか。

昨年6月に「ジャイアンツ贔屓に戻ります。」http://kenbtsu.way-nifty.com/blog/2006/06/post_d30f.htmlと宣言しております。

投稿: 念仏の鉄 | 2007/12/12 00:21

今回のエントリ、同感です。

ちなみに、外国人選手であっても12月以降保留選手名簿に掲載されたままになるという契約も不可能ではないようです。

断片的な事実しかわからないので、どこまで内容が正確かはわかりませんが、記事のアドレスをお知らせします。

「阪神困った…オリックス、バーン残留に自信」(スポニチアネックスOSAKA)
http://www.sponichi.co.jp/osaka/base/200411/25/base173199.html

投稿: E-Sasaki | 2007/12/12 17:25

>E-Sasakiさん
>ちなみに、外国人選手であっても12月以降保留選手名簿に掲載されたままになるという契約も不可能ではないようです。

まあ、もともとはそれが原則なわけですからね。
この例は2004年オフの話で、結果からいうとバーンは合併後のオリックスに残って翌05年は4勝13敗。04年も6勝8敗ですから、そもそも阪神が引き抜きをはかるほどの投手だったのかどうか。
長い目で見れば、今のやり方は各球団の調査能力や交渉力を減退させるばかりの制度になっていると思います。

投稿: 念仏の鉄 | 2007/12/13 09:35

鉄さんの「ジャイアンツ贔屓宣言」について、そう言えば完全に忘れてました。失礼しました。

ところで
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▼2006年
http://www.te2mode.com/news/sports/061114210808.html
米大リーグ、ロッキーズは13日、フリーエージェント(FA)になった松井稼頭央内野手と、1年間、契約を延長することで合意したと発表した。
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▼2007年
http://www.minpo.jp/view.php?pageId=3327&mode=0&classId=&blockId=344098&newsMode=article
米大リーグのワールドシリーズに初出場したロッキーズの松井稼頭央内野手がフリーエージェント(FA)登録し、球団は残留交渉を進める方針であることが、2日分かった。地元紙のロッキーマウンテン・ニューズ(電子版)が伝えた。
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http://seoparts.com/news/entry/20071102-00000225-jij-spo.html
米大リーグ、ロッキーズの松井稼頭央内野手が1日、フリーエージェント(FA)を申請した。地元紙ロッキー・マウンテン・ニューズ(電子版)が報じた。
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これらの記事にある「登録」とか「申請」とかは、ふつう日本で言うところの「宣言」に当たるのでしょうか。誰でも「登録」「申請」できるものではないと思いますが、どういう規則なんでしょうか。日本に来てるアメリカ人選手同様、松井稼頭央の場合も契約にそういう条項を入れてたからなんでしょうか。どなたかご存知の方教えてください。

投稿: nobio | 2007/12/15 15:06

このエントリー同感です。
私は元広島ファンですが、FAで日本人が出て行くより、深刻な問題だと思います。

リスクを負って外国人選手を取ってくるのに、そのリターンは全て他チームへ。ファンにできるのは移籍した選手が活躍しないのを祈る事くらいです凹

外国人選手は人気がない(=集客力に影響がない)と考えているから気前良く手放すことができるんでしょうか。
安い外国人で取り合えず頭数を揃える。複数年契約などというリスクの高いことはしない。
活躍すれば他チームへ移り、ますます差が開く。
本気でチーム強化するつもりもなく、人気も下がる一方。
悪循環が止まりません。せめてFA並みの金銭的補償でもあればと思います。(現行の制度ではまず無理ですが)

投稿: 球団格差 | 2007/12/15 17:14

>nobioさん
>これらの記事にある「登録」とか「申請」とかは、ふつう日本で言うところの「宣言」に当たるのでしょうか。

たぶんそうだと思いますがはっきりはわかりません。日本から行った選手は大抵「○年目にはフリーエージェントになる契約」を結んでいるようで、あちらのドラフト会議を経た新人選手よりは早くFAになっていると思います。


>球団格差さん
>せめてFA並みの金銭的補償でもあればと思います。

確かに、一切の見返りがないという点ではFAより性質が悪いですね。それこそ広島あたりから改善への声が上がってもよさそうなものですが、実行委員会でこれが話題になったという記憶がありません(実行委員会での議論がすべて公になっているわけでもないとは思いますが)。

投稿: 念仏の鉄 | 2007/12/17 02:14

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