北京五輪野球代表についての感想。
今日、北京五輪に向けた野球日本代表メンバー24人が発表された。
<投手>
上原浩治G、川上憲伸D、岩瀬仁紀D、藤川球児T、ダルビッシュ有F、成瀬善久M、和田毅H、杉内俊哉H、田中将大E、涌井秀章L
<捕手>
阿部慎之助G、矢野輝弘T、里崎智也M
<内野手>
荒木雅博D、新井貴浩T、村田修一BAY、宮本慎也S、西岡剛M、川崎宗則H、中島裕之L
<外野手>
森野将彦D、青木宣親S、稲葉篤紀F、G.G.佐藤(佐藤隆彦)L
顔触れを見てすぐに思い当たるのは、星野監督は昨年12月の予選のチームを重視した、ということだ。24人中19人までが予選に出場している。以下の5人が入れ替わった。
OUT 小林宏、長谷部、井端、和田一浩、大村三郎
IN 和田、杉内、田中、中島、佐藤
予選では9人だった投手が1人増えた。3試合で終わる予選と違い、五輪本大会は試合数が多いのだから当然(投手を10人にするか11人にするか、が選考における最大の論点だった、と山本浩二コーチが記者会見で話している)。
和田、杉内はWBC経験者(杉内はアマ時代のシドニー五輪、和田はアテネ五輪にも出場した)で国際経験に不足はない。田中、中島はおそらく初の国際大会出場になる。GG佐藤も同様だと思うが、アメリカでのプレー経験がプラスになるかどうか。
昨年の予選では、昨季好調だった選手を中心に選んだ感があったが、今回のメンバーは必ずしも現在の成績や調子を反映してはいない。パの野手陣では打撃ランキング上位の選手が順当に選ばれているが、セではかなり異なる。投手についても涌井や成瀬の勢いは昨年ほどではないし(とはいえ実質2年目の今年も相応の成績を残しているという意味では評価できる)、上原の不振は深刻だ。
選ばれたメンバーよりもよい成績を残している選手は少なくない。
つまり星野監督は、現時点での調子よりも、予選3試合を通じて培われたチームの一体感を重視したということだろう。
シーズン真っ最中で最低限の準備期間しかとれない本大会のために、一からチームを作り直すことは困難だろうから、これは合理性のある判断だと思う。
この「予選を勝ち抜いたチームを基礎にして本大会に臨む」という当たり前のことが、アテネ五輪では許されなかった。
当時の代表チームには「本大会出場は1チーム2名まで」という制約が課されたために、首脳陣はチームをいったん解体して組み直さなければならなかった。チームの求心力を担保していたはずのカリスマ監督は病に倒れ、指導者としての実績が無に等しい代行監督が、この即席チームを率いてアテネに赴かなければならなかったのは周知の通り。
今回、その種の制約が外れたのは、プロ野球界もアテネについていくらか反省したという現れだろうし、アテネでの一部始終を放送席から見ていた現監督の強い意向にもよるのだろう。
ちなみにアテネ五輪から連続出場する選手は、投手で岩瀬、上原、和田毅、野手では宮本ひとりの計4人。本来なら黒田、松坂、城島、福留なども連続出場して然るべきだが、彼らはこの間にアメリカに渡ってしまった。
さて、顔触れを見て気になったことがいくつか。
1)宮本を誰が補佐するのか。
WBCの代表選手が発表された時、宮本不在で誰が主将役を務めるのか、という懸念をこのblogに書いたことがあったが(後に井口の出場辞退に伴い、宮本はメンバーに加わり、私が期待したような役割を果たした)、星野監督は予選の時から宮本を主将に指名していた。故障やよほどの不振でない限り選ばれるのは確実だったし、それが張り合いになったのか、宮本は打撃でも好調を維持している。
というわけで今回は主将に不足はないのだが、改めて顔触れを眺めると、野手陣は宮本以外は全員若手の感がある。捕手陣3人はベテランぞろいだが、投手陣の把握に相手打線の研究、ブルペンコーチ役と、捕手業務で手一杯になりそうだから、野手陣に宮本を補佐する選手が必要になってくるはずだ。
WBCではイチローが主将格で宮本が陰のリーダー、という分担ができていたようだし、アテネ五輪では高橋由伸が宮本の相談相手になっていたようだ。今回の予選では井端や和田がいた。
今季は必ずしも状態や成績がよくない高橋由伸、井端、小笠原らが最終候補に名を連ねていたのは、おそらくそのような含みもあってのことだったのだろうが、結局は3人とも落選。台中でベンチを引き締めていたと思われる和田一浩もいない。
年齢的には稲葉はベテランだ。実力も充分でレギュラー出場が予想されるから、候補のひとりではある。が、日本ハムでもそうだが、人格的にとても初々しくて、リーダー格とかまとめ役とかいうのはちょっと違うような気もする(あくまでメディアで見た限りでの印象)。
期待したいのはむしろ、西岡、川崎、青木といった面々。WBCで“イチロー・チルドレン”として売り出した彼らも、今や国際経験ではトップクラスになっている。予選の後で稲葉が「WBC組についていくのに必死だった」と話していたように、今や日本代表の顔でもある。やんちゃな若手という立場にとどまらず、次のWBCでは宮本から主将を引き継ぐくらいの気持ちで取り組んでくれたらいいなと期待している。
2)誰が打線の核になるのか。
国際試合、とりわけ準決勝以降のノックアウト方式に入ると、チームとしての精神的タフネス、諦めない力とでもいうものがとても重要になると思われる。
その時に大切なのは、打線のつっかい棒とでもいうべき打者だ。誰もが「○○さんに回せば何とかしてくれる」と信じられる時に、打者たちは線となって敵に立ち向かうことができる。
前回のアテネ五輪から、逆の例を見出すこともできる。準決勝でオーストラリアに1点をリードされた最終回。先頭打者だった四番・城島は初球からバントヒットを狙って失敗した。
奥田英郎は著書『泳いで帰れ』の中で<自分が何とかしようとする者の行為ではない。あとは頼むという、責任回避の行為だ。四番がこれか>とこのプレーを罵倒しているが、私も同感だった。城島は好きな選手だが、これはいただけない。日本はそのまま三者凡退であえなく敗退した。
灼熱の北京で、選手たちは苦しい時に誰の顔を見ればよいのか。監督か?そりゃ違うだろう。宮本主将といえども、試合に出づっぱりでチームを引っ張るのは難しいだろうし、まして「つないだ走者たちを本塁に迎え入れる」という役割ではない。
健在なら小笠原あたりが担うはずだった役目だが、いないものは仕方ない。ここは新井や村田に頑張ってもらいたい。台中で、単打に徹した新井は頼もしかった。本大会は彼らにとって一皮むけるチャンスでもある。
3)一塁コーチを誰が務めるのか。
3つ目は、ものすごく細かい話。五輪ではベンチ入りスタッフの数も非常に絞られる。コーチは山本浩二、田淵、大野の3人だけ。山本が三塁コーチ(これも懸念したのだが、台中では無難にこなした。北京でも頑張ってもらうしかない。暑さが心配だが)を務め、田淵はベンチで星野監督の相談相手、となると一塁コーチは控え選手がやることになる。
台中ではほとんどの時間帯を宮本が務めていた。走者たちへの指示ぶりは堂に入ったもので、まず不安はない。だが、宮本が試合に出ている間は、誰が代わるのか。
予選で宮本不在中の一塁コーチャーズボックスに立っていたのは井端だ(アテネ五輪の予選でもやっていた)が、今回は選ばれていない。予選での中日・阪神勢の使われ方を見ていると、荒木、森野ら中日勢が候補と思われるが、選手としてはともかく、コーチとしては心許ない気がする(なんて書いたら失礼だろうか。中日ファンの皆さん、どうでしょうか)。
スタッフが少ないだけに、試合に出ない選手の役割も普通のチームより重くなる。ベンチの選手たちの表情や態度にこそ、チームの一体感は現れるものだ。
懸念としていくつか書いたが、このくらいのことはおそらく監督も考えた上でのセレクトのはず。選手たちが、大きなチャンスと捉えて取り組んでくれたらいいと思っている。
あとは選手たちが開幕までによいコンディションに仕上げて本大会に臨めることを祈るばかり。
追記(2008.7.23)
代表チームの選考は、最終的には監督の専決事項だと私は思っているが、ファンやメディアから批判や異論が出るのは避けられないことだし、異論のある人は言えばよいとも思う。ただし、ファンの酒場談義なら好き嫌いだけで声高に論じてもよいけれど、メディアが批判を表明するなら、相応の根拠は示して貰いたい。
こんな判りきったことを書くのは、今週の週刊朝日の中吊り広告に呆れたからだ。
<やはり中日、阪神偏重で、今年の成績よりも「コネ」が優先!?
星野ジャパン このメンバーじゃ勝てるわけない!>
http://publications.asahi.com/syukan/nakazuri/image/20080801.jpg
記事の内容は二宮清純、小関順二、玉木正之らのコメントをつぎはぎしただけのお手軽なもの。個別には傾聴すべき部分もあるが、誰かが「中日阪神偏重だ」とか「コネ優先だ」とか「このメンバーじゃ勝てるわけない」などと明言しているわけではなく、中吊りと記事との整合性は低い。週刊朝日では、中吊り広告が記事とは別に独自の見解を主張することがあるようなので気をつけたい。
昨年のアジア予選で、普段やらないような苦しいロングリリーフや、ブルペン捕手など試合の外側での地味な仕事を任されていたのが中日・阪神勢だったことは、3試合をきちんと見ていれば誰にでも判ったことだ。今回のメンバー構成を見ても、彼らが同じような役回りになることは容易に予想がつく。人数は多くとも優遇されたとは言い難い(そもそもぶっちぎりで首位独走中の阪神から3人というのは、決して多くはない)。
そんなことには触れようともせず、人数だけ数えて「偏重」だの「コネ」だのと騒ぎ立てるような振る舞いを「下衆の勘繰り」という。06年のWBC日本代表には千葉ロッテから8人が選ばれたが、あれも誰かのコネだったというのか?
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コメント
>>荒木、森野ら中日勢が候補と思われるが、選手としてはともかく、コーチとしては心許ない気がする
私は中日ファンですがおっしゃる通りかと。
ただ荒木にはそれなりに期待しています。
リードオフマンとして盗塁を多く決めていますし、一塁コーチャーとしてなら機能すると思います。(もちろん選手とコーチは違いますから未知数ですが・・・)
打率がいまいちな彼を選んだのは、外野も守れることと代走要員ということに加えて、そういう意図もあったのではないでしょうか。
あと個人的な興味としてはDHと抑えですね。
DHは中島、もしくは村田でしょうか。
抑えは、私でしたら藤川と岩瀬のダブルストッパーですね。
中継ぎは上原、川上、和田の中で左右と調子を考慮して選ぶというのも面白いかと。(まーくんは若干不安があるので、点差の開いた場面で経験も兼ねて投げさせるのが良いように思います)
投稿: 通りすがりん | 2008/07/20 16:28
>通りすがりんさん
>打率がいまいちな彼を選んだのは、外野も守れることと代走要員ということに加えて、そういう意図もあったのではないでしょうか。
なるほど。ずっと井端や立浪と一緒にやってきたから荒木も森野も若手っぽいイメージが私の中ではなかなか消えないのですが、2人とももう30代(本番では)。そういう仕事もこなしてくれるといいですね。中軸タイプは右打者が多いチームなので、森野の出番は意外に多いような気もします。
>DHは中島、もしくは村田でしょうか。
相手投手が右か左かにもよるでしょうが、この2人が三塁とDHを分け合うのが基本形かなという気はします。
>抑えは、私でしたら藤川と岩瀬のダブルストッパーですね。
現状ではそうなりますね。集合後の上原の状態の見極めがポイントになるでしょう。
投稿: 念仏の鉄 | 2008/07/21 08:47
お久しぶりです。
TBさせていただきましたが、選手表の部分、勝手にですが使用させてもらいました。もうしわけないです。
見やすかったものでw
気にさわったのなら変更しますので、御一報を
投稿: 一介の論客・KTY | 2008/07/27 21:33
>一介の論客・KTYさん
構いませんよ。出典がわかるようにしていただいてますし、そもそも著作権を主張するような性質のものでもないですし(笑)。
投稿: 念仏の鉄 | 2008/07/28 10:13
許可ありがとうございます。
ところで、(久々に)マジメに書いてて気づいたんですが,カープとオリックス(バッファローズと書くべきかな?)からは選出無しなんですね。何となく意外。
サッカーでは通例ですけどね、代表選手のいないチームなんて。
投稿: 一介の論客・KTY | 2008/07/28 23:10
ヒットを打った自軍選手とグータッチをする以外に、
一塁ベースコーチというのが何をするものなのかよく知りませんが、
荒木ほど、中日ファンと非中日ファンで評価の別れる選手はいませんね。
中継聞いてると常に「なんでもできる」だの「しぶとい」だの言われてますが、
あの早打ちポップフライ製造マシンのどこがしぶといのか、と
いつも不思議に思います。
投稿: nobio | 2008/07/29 23:08
「荒木ほど、中日ファンと非中日ファンで評価の別れる選手はいませんね」
を、
「荒木の打力ほど、中日ファンと非中日ファンで評価の別れるものはありませんね」
に訂正します。
投稿: nobio | 2008/07/29 23:12
>一介の論客・KTYさん
>カープとオリックス(バッファローズと書くべきかな?)からは選出無しなんですね。何となく意外。
予選では四番打者がカープだったんですけどね(笑)。カープの栗原や東出をはじめ、今季好調で選ばれなかった選手は結構いますが、予選の後、合宿や練習試合を一度もする機会のないまま本大会のエントリ選手を決めなければならない、という状況の中では、予選からの変更を最小限にとどめるというやり方はやむを得ないと思います。
>nobioさん
>一塁ベースコーチというのが何をするものなのかよく知りませんが、
予選の時の宮本は、何かいろいろやっているように見えました(笑)。でも、フィリピン戦で牽制で刺されたサブローに宮本が説教した話は有名になりましたが、一塁走者が牽制で刺されたら、それは一塁コーチにも責任があるんじゃないだろうか、という気もしますが。
>「荒木の打力ほど、中日ファンと非中日ファンで評価の別れるものはありませんね」
守備と走塁では一致する、ということでしょうか。
好きな球団以外の選手への評価というのは、痛い目に遭った印象に左右されるので、ポップフライ以外の時には結構痛い目に遭わせているのかも知れませんね。
投稿: 念仏の鉄 | 2008/07/30 00:36
>守備と走塁では一致する、ということでしょうか。
はい、そう思います。そこに関しては彼は化物でしょう。
>痛い目に遭った印象に左右される
印象というのは人それぞれのものですが、
実況アナウンサー(や江本孟紀)は、とりあえず数字に依拠したことを言ってくれ、
印象を言うならその上で言ってはどうか、と、いつも思います。
http://dragox.jpn.org/2008/07.html#03
投稿: nobio | 2008/07/30 01:23
>nobioさん
>実況アナウンサー(や江本孟紀)は、とりあえず数字に依拠したことを言ってくれ、
そりゃそうです。
「中日ファンと非中日ファン」という言葉で一般のファンのことかと思いましたが、中日の試合ばかり見ていて中日びいきの放送をしているであろう(推定)名古屋の放送局のアナウンサーやOB解説者はどうなんでしょうね(笑)。
投稿: 念仏の鉄 | 2008/07/30 23:17
>名古屋の放送局のアナウンサーやOB解説者はどうなんでしょうね
おお、言われてみるまでその観点に気付きませんでした。どうなんでしょうね。
私は東海ラジオでのラジオ観戦がいちばん多いのですが、そこで裏返った声で「荒木の打撃はほんとーにしぶといですねー」なんていうアナウンサーは、まずいないような気がします。一方、解説の木俣達彦さんや藤波行雄さんや川又米利さんは如何にもそんなこと言いそうな気もしますが、今度から気をつけて聞いてみます。
投稿: nobio | 2008/08/05 03:31