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煮え切らないのは現場のせいだけではない。

 準決勝でまたも韓国に敗退。野球の金メダルの夢は潰えた。
 リードしながらも四球や守備のミスが絡んでの失点。出塁はしても走者をホームに迎えることができず投手を援護できない打線。選手選考や監督の采配に不満がないとは言わないが、別の選手起用、別の監督だったら勝てたのかといえば、確信は持てない。
 グループリーグでキューバ、韓国、USAに敗れての4位。それぞれの勝敗は紙一重でどちらに転ぶかわからないものだったが、結果としてこちらに転びはしなかった。

 ただし、日本代表が実力を余すところなく出し尽くしたかといえば、そうは思えない。上述した通り、敗因の多くをミスが占めている。日本野球の美質とはかなり異なる試合運びだった。
 準決勝以後、2日で3試合という厳しい日程の中で、エース上野が1人で3試合を投げ抜き、決勝ですべてを出し尽くして勝利した女子ソフトボールの日本代表とは、かなりの差があったといってよい。

 同じようなもやもやと落差を、サッカーの男女にも感じる。
 女子サッカーは史上最高の4位という好成績を挙げた。準決勝、3位決定戦ともに惜敗したが、特に3位決定戦では、強豪ドイツに対して終始攻め続け、絶望的な2点目を奪われた後もなお、彼女たちは足を止めることなく抵抗を続けた。試合後のテレビ報道では「チャンスは作ったが決定力不足だった」と評する声が多かったが、彼女たちが放ったシュートの多くはゴールの枠内をとらえていた。試合後の選手たちのインタビューでは、もうこれ以上はできないというくらいの試合をやりきった、という充実感が表情に表れていたように感じた。
 男子に関しては、多くを語る言葉を持たない。何もかもが中途半端だったように思う。

 持てる力を出し切った女子は立派だった。出し切れなかった男子はだらしない。
  たぶん、部分的にでも試合を観戦した人の多くが、そう思っているのではないか。
 結果はともかく、この「出し切れなかった感」については、現場、つまり選手と指導者の責任は大きいと思う。
 ただし、すべてが現場の責任に帰するべきだとは思わない。


 私は北京五輪のさほど熱心な視聴者ではなかった。全試合を集中して見たといえるのは柔道の石井慧くらいだ。とはいえ、競技のダイジェストや試合後のインタビューに答える選手たちの映像を見ていると、結果の善し悪しにかかわらず、各々がこの大会に賭けてきたものの重み、気持ちの強さはひしひしと伝わってくる。
 そして、日々その重みを受け止め続けているうちに、一部の競技の選手たちに違和感を覚えるようになってきた。
 それがつまり、男子サッカーと野球だ。

 オリンピックに出場するほとんどの選手たちにとって、この大会は競技生活における最大の節目だ。多くの選手が「この4年間、このために努力してきた」という意味のことを語る。
 ソフトボールの選手のひとりが「この4年間、アメリカのエースをどう攻略するかだけを考えてきた」と語った記事を読んで、大袈裟にいえば慄然とした。だが、たとえば北島康介は「ハンセンより早くゴール板に触るためには」と考えてきたのだろうし、塚田真希は決勝で当たった中国の選手を倒すために握力を鍛えてきた、と中継のアナウンサーは繰り返し語っていた。ソフトボール選手の言葉は、決して特異なものではないのだろう。

 だが、野球日本代表には、「この4年間、キューバのエースを打ち崩すことだけを考えてきた」選手など、1人もいないに違いない。心中期するものがあった選手もいるだろうが、それを具体的な対策として実行してきた選手がいるとは思えない。昨年の予選を勝ち抜いた経験を持つ選手でさえ、今シーズン開幕後にオリンピックについて聞かれれば「それは代表に選ばれ、合宿が始まってから考えます。今はチームが最優先です」と答えるのが常だった。
 ソフトボールの上野は4年間思い続けてきたが、野球選手たちは4週間にも満たない。
 そして、それ自体は彼らの責任ではない。
 彼らには、ペナントレースとオリンピックの軽重に優先順位をつけることは許されていないといってよい。

 しかし、テレビを見る側は、他の競技と同じような、あるいはそれ以上の期待を彼らにかける。
 今日の野球の準決勝を私は職場のテレビで見ていたが、8回裏に失点を重ねるたびに、同僚が選手や代表チームを口汚く罵った。私とて彼らのプレーぶりには深い失望を味わったが、同僚のように居丈高な態度をとる気にはなれなかった。
 たとえば私が西武ライオンズのファンで、日本シリーズ第6戦あたりでG.G.佐藤が試合を決定づける落球する姿を目の当たりにしたら、スタンドから思い切り罵倒するかもしれない。西武ファンの期待を背負い、怒りを受け止めるのは、プロ野球選手としての彼の義務だ。
 だが、日本代表としてプレーすることの責任をどのように彼が、そして他の選手たちが背負うべきなのか、私はには明確な答えが見つからない。
 それはひとえに、日本のプロ野球におけるオリンピックの位置づけの曖昧さ、世界の野球界におけるオリンピックの位置づけの曖昧さによるものであり、選手の自覚不足などという精神論に収斂できるものではない(もちろん、どんな状況のどんなレベルの試合であれ、8回の佐藤の落球は野球選手としての汚点以外の何物でもないけれど)。

 まったくの感情論として言わせてもらえば、水泳や柔道、レスリング、陸上、ソフトボールなど、この大会のために過去4年間のすべてを捧げてきた選手たちが勝ち取ったメダルと、野球日本代表が得たメダル(今大会では得られない可能性も残念ながらかなりあると言わざるを得ないのだが)が同じ重みであるとは、私には思えない。

 女子ソフトボールでは、表彰式の後、トップ3の各国選手たちが一緒になって、ボールで「2016」の文字を作り、五輪競技への復帰を訴えた。五輪がソフトボールという競技における最高峰の舞台である以上、それは当然の欲求だ。
 だが、野球はどうだ。
 このブログでも何度も書いてきたように、ベースボールの宗主国であるMLBは、五輪に選手を派遣するつもりがない。それはたぶん2016年以降においても変わらないだろう。その方針が変わらない限り、USA、ドミニカ、日本、韓国、台湾、あるいはオーストラリアといった国々は最強チームを編成することができない。
 そんな中途半端な形で五輪に復帰することに、どういう意味があるのだろうか。いっそ、野球が盛んな国で開催される時だけ公開競技として実施する、ということでもいいんじゃないかという気がしてくる。真剣勝負として命(とはいわないまでも選手生命を賭けた戦いを見ることは少なくない)のやりとりをする場にはふさわしくない。
 勝って得られるものの重みと、負けることで背負う傷の深さが釣り合っていない。そんな形で選手たちを戦場に送り込むのはもうたくさんだ。
 今大会のトップ4でいえば、キューバ代表は五輪を最大の目標としている。韓国はシーズンを中断し五輪に集中してきた。USAはMLBを除外して割り切ったチームで臨んだ。良くも悪くも、それぞれのスタンスは明確だ。日本だけが中途半端な位置にある(4年前からの進歩は認めるが)。

 野球は今大会を最後に五輪競技から外れる。世界の野球界において、また日本の野球界において五輪をどう位置づければよいのかを、抜本的かつ徹底的に話し合うには、よい機会ともいえる。
 もちろん、誰がどういうテーブルについて話すのか、という前提に最大の問題があるわけだが、今度こそ誰か本気でそれを考えてくれないだろうか。新任のプロ野球コミッショナーには、ぜひそういう意識をもっていただきたいのだが。


関連エントリ:
五輪競技落選による、MLB一極集中体制の完成。
足りなかったもの。
星野仙一が代表監督にふさわしいと考える理由。
で、野球界は北京五輪をどうするのか。
横尾弘一『オリンピック野球日本代表物語』ダイヤモンド社

 改めて並べると、同じようなことばかりずっと書いてますが。

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コメント

はじめまして。
WBCの頃からブログを拝見していました。

準決勝の敗戦は大変ショックでした。
ただ、苦戦が続いた予選でもそうでしたが、つい次回WBCが頭にちらついてしまうのです。
たとえ今回破れたとしても、次にまた挑戦する大きな舞台がある…と。
鉄さんの指摘は、一観戦者にも当てはまっていると思いました。

それにしても、宮本主将の呆然とした姿は痛々しかったです(岩瀬も)。
宮本主将が「最後に阿部の飛球を捕った李容圭(ライト)の姿が印象的だった」と話していましたが、同感です。
あの姿を見て、宮本主将も鉄さんと同じような感覚を持ったのではないかとも感じました。
他競技の選手とは比較にならないでしょうが、チームの中で五輪への強い気持ちを早くから保持してきた
宮本主将だからこそ、気持ちの差を敏感に感じ取ったように思います。

投稿: アリティア | 2008/08/22 23:16

>アリティアさん

こんにちは。長いこと拙文にお付き合いいただき、ありがとうございます。

>つい次回WBCが頭にちらついてしまうのです。

もう来年なんですよね。早いものです。
代表チームを編成する人々はアテネ以来、「監督の名前で何とかしよう」という姑息な方針を貫いてきましたが、名前で何とかなるような人材は、長嶋、王、星野で出し尽くしたといってよい(いくらなんでも野村代表監督はないでしょうから)。次回はいよいよGM的立場の人物も含めて、現場以前が問われる大会になると思います。

>宮本主将が「最後に阿部の飛球を捕った李容圭(ライト)の姿が印象的だった」と話していましたが、同感です。

ただ、従来の韓国は、こうやって日本を倒した時点で喜びを爆発させてしまい、気持ちの上では終わってしまうことが多かったように思います。
ここでさらにキューバを倒して金メダルを獲得するようなことがあれば、韓国は一皮むけて、次は完全に見下ろされて戦う羽目になるでしょうね(その分、隙ができるとも言えますが)。

投稿: 念仏の鉄 | 2008/08/23 09:19

鉄さん、ご丁寧なコメントありがとうございます。

日本はメダルを逃してしまいましたね…。
今晩、韓国が日本燃え尽き症候群(笑)を克服するかどうか興味深いですが、
このままではWBCでも韓国をはじめとする他のライバルに苦戦を強いられそうです。

鉄さんがご指摘したオリンピックと同様、WBCにおいても選手にはペナント
レースとの軽重に優先順位をつけることは許されていないと思います。
米国は別として、他のライバル国は入念に準備するでしょうから、さらに差をつけられそうな気がします。

>名前で何とかなるような人材は、長嶋、王、星野で出し尽くしたといってよい

報道によると、第2回WBC監督候補には星野監督の名前が挙がっているそうです。
賛否両論あると思いますが、星野監督自身は「現場以前」の重要性を身に染みて
わかっている人物だと思います。ただ、GM的立場の方が良いように思いますが…。

WBC話ばかりで申し訳ありませんでした。

投稿: アリティア | 2008/08/23 15:26

>アリティアさん

韓国、勝ちましたね。いい試合だったし、強かったと思います。しかしイ・スンヨプ…ジャイアンツファンとしては複雑な気分です。

>ただ、GM的立場の方が良いように思いますが…。

私もそう思います。ただ、今回の失敗で政治力は減じるかも知れませんが。今大会にしても、本当は星野総監督の下で戦術と用兵に巧みな監督が采配をふるう、という形がベストだったのでしょう。

投稿: 念仏の鉄 | 2008/08/24 08:13

プロからしか選出されないんだから、実質プロ野球と同じではないですか?
アマだったら罵倒しませんが、プロ野球の人気向上の一環としてプロを代表として出しているなら、見る目は厳しくならざるを得ないと思います。

いっそのこと、日本一になったプロ球団をまるまる派遣してしまったほうがいいのではないかな?といった議論もオリンピックから消えたことで必要なくなった。さて、サッカー困りましたね。

投稿: ソリティア | 2008/08/25 18:53

>ソリティアさん

そういう見方も否定はしません。
ただ、ここで主に問題にしているのは(あまり整理できていないエントリではありますが)、そもそもオリンピック自体が野球の世界一を決める大会ではないのに、そういうところに出て行く選手たちはどうやってモチベーションを整えればよいのだろうか、ということです。その点はオールプロであっても変わりません(というよりプロの方が、より集中しづらいだろうと思います)。

サッカーの場合は、FIFAにおける五輪の位置づけははっきりしているので、問題は「JFAがどういう姿勢で臨むのか」という一点に集約できます。
新会長が決めればよいのだと思いますよ。「代表人気回復のためにあらゆる手を尽くしてメダルをとりにいく」でも、「A代表強化のために若年層に国際経験を積ませる」でも。そういう根本的な目標を監督任せにするから、オーバーエイジ選手の派遣をクラブが拒む、などというおかしなことが起こるのだと思います。

投稿: 念仏の鉄 | 2008/08/25 20:48

テス

投稿: タム | 2008/08/26 19:14

結局韓国、キューバ、アメリカには一度も勝てなかったんですね。完敗。大会前はメダル確実と思っていただけにスゴイ違和感です。残念とさえ思えない。

と、個人的な感想は置いておいて、疑問がいくつか。

野球日本代表はどこに所属するチームなんでしょうか?星野さんは誰から任命されたんでしょう?今大会の結果を総括する組織はあるんでしょうか?

もしかしたらプロなのは選手だけで、その他はみんなアマチュア(元プロも含めていまは勝負の世界にいないという意味でも。)か素人だったんでしょうか?星野さんはご自身はプロ監督だった頃の勘を取り戻そうと、大会前にプロ球団の2軍を率いて数回指揮の練習をしていましたが。いろんな事情があったのでしょうが、あまりにお粗末でした。

そこで、次のWBCです。こちらはしっかり準備するのでしょうが、金以外いらないと豪語した大会でこの体たらく。というより、あの準備であの豪語が出、それに太鼓判を押した日本球界。

アメリカで活躍する選手も含めて、1チーム分の選手の質ではきっと負けないと思うだけに、事前の準備が大切だと思います。

本当にしっかりしないと、もしやWBCでも蚊帳の外になるんじゃないかと心配になります。

投稿: タム | 2008/08/26 20:50

>タムさま
遅くなってすみません。

>野球日本代表はどこに所属するチームなんでしょうか?星野さんは誰から任命されたんでしょう?今大会の結果を総括する組織はあるんでしょうか?

野球日本代表の母体となる団体は「全日本野球会議」ですが、これは組織としての実体はありません。予選の直後に書いた「で、野球界は北京五輪をどうするのか。」http://kenbtsu.way-nifty.com/blog/2007/12/post_651c.html というエントリで詳しく(だらだらとも)書いていますので、ご参照いただければ。

WBCはNPBとして参加する大会なので、「全日本野球会議」とは無関係です。だからといってNPBが責任感をもって準備するだろうかといえば、前回は王監督に丸投げした感がありました。監督人事を云々する前に、NPBの中でGM役を決めるべきだと思うのですが、実行委員会でそこまで話が出るのかどうか。

>本当にしっかりしないと、もしやWBCでも蚊帳の外になるんじゃないかと心配になります。

同感です。そもそも前回の運営上の問題点をMLBに改めさせるような交渉をしているのかどうか。

投稿: 念仏の鉄 | 2008/08/28 22:31

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