« 原辰徳ほどジャイアンツの監督にふさわしい人物などいるはずがない。 | トップページ | 重厚なコーチ陣への若干の懸念。 »

プロ野球におけるOver35世代の変遷の一例。

 ひとつ前のエントリのコメント欄に

>ただ、昭和50年代ごろのベテラン選手たちのおっさんくささに比べると、
>今の30代、40代の選手は善くも悪くも若々しく見えるんじゃないでしょうか。

と書いたら、nobioさんからこういうコメントを貰った。

>そういう例も多いとは思いますが、そうではない例も多い、ような気もします。
>例えばアーチェリーで「中年の星」を自称する 山本博とか。
>和田一浩なんかも見るたびに、はあ? このおっさんがオレよりはるかに年下なのかよ、と舌打ちしたり、

>え、この方が私なんかよりはるかに若いんですか、と尊敬したりしてしまいます。

 山本博先生や和田一浩がおっさんくさいことに異論はない。
 だが、この話は世代傾向についての話題なので、2、3人のサンプルを取り上げて議論をしても仕方がない。あくまで集団として比較しなければ。

 そこで、試みに今年(2008年)と1981年について、35歳以上の現役選手を書き出して、顔触れを眺めてみることにした*。


【1981年(昭和56年)】46人

読売/吉田孝司35、松原誠37、柴田勲37、ホワイト38
広島東洋/安仁屋宗八37、高橋直樹36、渡辺秀武40、金田留広36、ライトル36、山本浩二35
阪神/竹之内雅史36
ヤクルト/神部年男38、大杉勝男36、マニエル37、山下慶徳36
中日/戸田善紀36、木俣達彦37、富田勝35
横浜大洋/野村収35、辻恭彦39、山本恒敬41、基満男35、中塚政幸36
日本ハム/成田文男35、高橋一三35、村上雅則37、井上弘昭37
阪急/白石静生37、中沢伸二35、大橋穣35、島谷金二36、高井保弘36、大熊忠義38
ロッテ/高橋博士35、榊親一36、有藤道世35、張本勲41
西武/山下律夫37、山崎裕之35、土井正博38、田淵幸一35、長谷川一夫36
南海/佐々木宏一郎38、伊藤勲39、藤原満35
近鉄/白仁天38


【2008年(平成20年)】80人

読売/豊田清37、門倉健35、藤田宗一36、クルーン35、小笠原道大35、木村拓也36、谷佳知35、清水隆行35、大道典嘉39
中日/山本昌43、谷繁元信38、立浪和義39、T・ウッズ39、中村紀洋35、和田一浩36、井上一樹37、上田佳範35
阪神/下柳剛40、ウィリアムス36、野口寿浩37、矢野輝弘40、金本知憲40、桧山進次郎39
横浜/川村丈夫36、三浦大輔35、入来祐作36、工藤公康45、石井琢朗38、仁志敏久37、佐伯貴弘38、鈴木尚36
広島/高橋建39、広池浩司35、前田智徳37、緒方孝市40、アレックス36
東京ヤクルト/リオス36、木田優夫40、遠藤政隆36、萩原淳35、リグス36、渡会博文36、宮本慎也38、城石憲之35、ガイエル36、真中満37
北海道日本ハム/稲葉篤紀36
千葉ロッテ/小宮山悟43、高木晃次40、堀幸一39、ベニー37
福岡ソフトバンク/二コースキー35、水田章雄35、的山哲也38、松中信彦35、小久保裕紀37、本間満36
東北楽天/小倉恒38、吉岡雄二37、山崎武司40、沖原佳典36、リック36、鷹野史寿35
埼玉西武/西口文也36、正津英志36、三井浩二35、石井一久35、谷中真二35、種田仁37、高木浩之36、江藤智38
オリックス/デイビー35、川越英隆35、清原和博41、北川博敏36、ラロッカ36、塩崎真35、カブレラ37、村松有人36、ローズ40

 

 ちなみにこの1981年がどんな年だったかというと、セはジャイアンツ、パは日本ハムが優勝、日本シリーズはすべて後楽園球場で行われ、ジャイアンツが勝った。MVPはセが江川卓、パが江夏豊、新人王はセが原辰徳、パが石毛宏典。山本浩二が本塁打と打点の二冠王、落合博満が初のタイトル(首位打者)を獲得した。野村克也と王貞治と高田繁が引退した翌年でもある。

 さて、皆さん、この顔触れを比べてどう思われるだろうか。もとより印象論なので正解はない。私自身は、冒頭に書いた印象に変化はない。自分自身のその時点の年齢によるバイアスは当然かかっていると思うが(1981年は17歳、2008年は44歳)。


 それ以外に、書き出してみて思ったことをいくつか。

・とにかく人数が全然違う。プロ野球の選手寿命はこんなに伸びているのかと思う。
 81年の人々はほとんどが引退間近という感じだが(全盛期といえるのは山本浩二くらいだろう)、今年のO-35たちは全盛期だったり発展途上だったりする選手が結構いる。
 プロ野球OBから、「昔の選手は体が強かった。今の選手はひ弱だ」という説をよく聞く。短期的にみればそうだったかも知れないが、長期的には正しくない。昔の選手の方が引退する年齢が若かった。
 選手寿命が伸びた理由としては、トレーニングおよび身体ケア技術の進歩、医療技術の進歩、酷使や故障をおしての出場が減ったこと、選手起用や雇用における偏見(30を過ぎたらもう引退だな、という周囲の視線)の希薄化、などが考えられる。

・2008年のリストで「おっさんくさいな」と感じる選手(下柳とか和田一浩とか清水隆行とか)は、思い起こせば若い頃からすでにおっさんくさかった。1981年のリストの選手たちが若い頃どうだったかは、私は見ていないのでわからない。ご記憶の方がいらしたら教えてください。

・81年リストにマッシー村上の名があるのを見つけて、彼がかなり長いこと現役だったのを思い出した。私が現役選手として知っているのは、この頃の彼だけだ。スリークォーターかサイド気味のフォームから緩い球を投げるベテランで、選手名鑑に「元大リーガー」などと書いてあるのを初めてみた時は、何のこっちゃ、と不思議だったのを覚えている。
 しかし、それは「若いころの珍しい経歴」くらいにしか見なされておらず、当時のマッシーがすごく尊敬されていたとか、しょっちゅう話題に上っていたという印象はない。たぶん、当時より今の方がずっと尊敬されている。マッシーは野茂の成功によって再発見され、値打ちが上がったといってよさそうだ。

・81年リストはほとんどの選手の名前と顔くらいは思い浮かぶのだが(今の方がよく知らない選手が多い(笑))、横浜大洋の山本恒敬という選手がまったく記憶にない。調べてみたら、選手登録してはいてもブルペン捕手専任に近かったようだ。

・ちなみに、81年の時点で現役で35歳に満たない選手には、衣笠祥雄34、水谷実男34、安田猛34、若松勉34、星野仙一34、谷沢健一34、平松政二34、福島久晃34、江夏豊33、加藤英司33、福本豊34、得津高宏34、東尾修31、大田卓司30、門田博光33、鈴木啓示34らがいる。強烈におっさんくさい(谷沢と平松は別だが)。
 しかし、当時34歳の世代(1947年、昭和22年生まれ)って、ものすごい当たり年だな。団塊の世代で人数も多かったのだろうけど。

・そういえば、団塊世代より前の10〜15年間くらいに生まれた日本人は、成長期を戦中戦後に過ごしたため、食糧難で栄養不足だった人が多い(地域によって例外はあるだろうが、全体的傾向としては)。
 そういう問題のなかった戦後生まれが、この1981年ごろから30代後半にさしかかっている(1981年に満35歳の人は1946年(昭和21年)、終戦直後に生まれている)。
 プロ野球において、このくらいの時期から選手寿命が伸び始めたのであれば、そんな社会的背景も影響しているのかも知れない。


*
ソースは2008年が週刊ベースボールのプロ野球全選手写真名鑑号(2/23号増刊)、1981年は同社刊行の「プロ野球70年史(記録編)」。いずれも、その年に達する満年齢が記されている。見落としや数え違いが多少あるかも知れないので、お気付きの方はご指摘ください。

|

« 原辰徳ほどジャイアンツの監督にふさわしい人物などいるはずがない。 | トップページ | 重厚なコーチ陣への若干の懸念。 »

コメント

ご無沙汰しております。
確かに実感として感じるところもありましたが、こうして並べてみるとこんなに選手の寿命が延びているのかと、正直驚きました。

もうひとつ、昭和20年付近生まれにはこうしてみると選手としてはすごい当たり年に感じるのですが(これ以外にも山本や田淵などもこの世代ですよね)、ある程度結果を残している指導者が少数なのは、何か原因があるのでしょうか…?これより少し下となる現50歳世代は原・岡田・落合・大石とまだまだ伸びそうな、有望な指導者が多いと思うのに反して…と思ったりしました。

投稿: アルヴァロ | 2008/11/01 18:37

>アルヴァロさん
団塊世代の周辺、1946-50年生まれでみると、日本一は若松が1回、リーグ優勝した監督は星野3回、東尾2回、山本浩二、伊原が1回(バレンタインも1950年ですが)。
必ずしも少なくはないのですが、それぞれが優勝した年を思い出しても、星野を除いて、なぜか監督の印象は薄い気がします。

投稿: 念仏の鉄 | 2008/11/02 11:46

「Under25」を調べても面白いと思います。
(※自分で調べろという話ですね…)

若手に好投手はいますけど野手が少なくなってます。
時代が「投高打低」になってます。
サッカーで言う北京世代でレギュラーを取っている野手は、
坂本勇人と小窪(広島)だけじゃないでしょうか?
83年、84年まで拡げるともう少しいます。
中村剛也、片岡易之、西岡剛、今江敏晃、吉村裕基というあたりですね。

1981年はどうだったのでしょうか?

投稿: 党首 | 2008/11/02 23:12

>党首さん
それを調査するのは大変です。
というのは、「プロ野球70年史」の年度別選手リストには個人成績が載っていないので、誰がレギュラーなのかわかりません。確か「60年史」には各年度の規定打席・既定投球回数の達した全選手の成績が載っていたのですが、「70年史」では各10傑に減ってしまいました。

ただ、私の記憶をもとに、81年に日本シリーズに出場した両チームのレギュラーの年齢を守備位置順に書き出してみるとこうなります(投手を除く)。

読売/山倉26中畑27篠塚24原23河埜30ホワイト38松本27淡口29(またはトマソン30)
日本ハム/大宮27(または加藤33)柏原29菅野29古屋26高代27岡持30島田27クルーズ30ソレイタ34

U-23は原だけ、U-25でも篠塚が加わるだけです。この前年の広島ー近鉄でも、23歳以下のレギュラーは両チーム合わせて高橋慶彦1人だけ。

例えば1956年の西鉄ライオンズのように、レギュラーの半数がU-23という極端なチームもないわけではありませんが、過去30年くらいは、大雑把に言って各チームに1人いるかどうか、というくらいの状況が続いているように思います。

投稿: 念仏の鉄 | 2008/11/03 00:32

風貌についてはよくわかりませんが、35歳超の人数がそんなに増えているというのは驚きました。ご存じのように私はプロ野球に関して「グラフにすると鮮やかに見えること」をつねに探しているので、ちょっと盲点を突かれたというか、いいことを教わりました。

「神経が図太い男はおっさん臭く見える」という仮説を、もちろんこれは証明不能のアヤシイ仮説ですが、けっこう実感に合致する仮説でもあります、まあそういう仮説を元に、「昔は心技体すべてを備えたものだけが34歳の壁を超えられたが、現在は技と体の比重が増え、そのため精神的に幼い(それが反映して面貌が幼い)ベテランが増えた」という説はどうでしょうか。

投稿: nobio | 2008/11/03 12:40

>nobioさん

プロ野球70年余での推移を調べてみると面白そうですね。
ただ、支配下選手の数自体もだんだんと増えているので、それも織り込んで考慮する必要はありそうです。


>「昔は心技体すべてを備えたものだけが34歳の壁を超えられたが、現在は技と体の比重が増え、そのため精神的に幼い(それが反映して面貌が幼い)ベテランが増えた」という説はどうでしょうか。

うーん、現象としてはおっしゃるような面もあると思いますが、近年のベテランが「幼い」とは必ずしも思わないのですよ。原辰徳が頼りなく見えた、という話から始まったのでそういう方向に振れても仕方ないのですが、全体的な傾向としては、後から書いた通り、「善くも悪くも若々しく見える」というのが私の印象です。

今年40代で現役の工藤、山本昌、金本、矢野、山崎武司あたりは、精神的に幼いとは思いませんが、雰囲気は若々しく感じる。「若々しい」というのは、何でしょうね、変化や進歩の可能性を感じさせる、とでも言い換えたらよいのか。81年の張本や前年に45歳で引退した野村克也は、「変化や進歩の可能性」なんて言ったら叱られそうなくらい「俺は完成した選手だ何でも知ってるぞ」というオーラが出ていたものです。

 つまり、<おっさんくさい/若々しい>という二分法には、<成熟/未熟>と<停止/進歩(変化)>という二種類の対立軸が含まれているので(もっとあるかも知れませんが)、総合的には、どちらがポジティブでどちらがネガティブとも決め難い気がします。

投稿: 念仏の鉄 | 2008/11/04 09:09

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: プロ野球におけるOver35世代の変遷の一例。:

« 原辰徳ほどジャイアンツの監督にふさわしい人物などいるはずがない。 | トップページ | 重厚なコーチ陣への若干の懸念。 »