WBC日本代表候補発表に思う2、3の事柄。
もう2日前になるが、12/15にWBC日本代表の候補選手が発表された。顔触れは以下の通り。
【投手】岸孝之(西武)、涌井秀章(同)、小松聖(オリックス)、ダルビッシュ有(日本ハム)、渡辺俊介(ロッテ)、田中将大(楽天)、岩隈久志(同)、馬原孝浩(ソフトバンク)、和田毅(同)、杉内俊哉(同)、内海哲也(巨人)、山口鉄也(同)、藤川球児(阪神)、松坂大輔(レッドソックス)、黒田博樹(ドジャース)、斎藤隆(元ドジャース)
【捕手】細川亨(西武)、阿部慎之助(巨人)、石原慶幸(広島)、城島健司(マリナーズ)
【内野手】中島裕之(西武)、片岡易之(同)、松中信彦(ソフトバンク)、川崎宗則(同)、小笠原道大(巨人)、栗原健太(広島)、村田修一(横浜)、岩村明憲(レイズ)
【外野手】稲葉篤紀(日本ハム)、亀井義行(巨人)、青木宣親(ヤクルト)、内川聖一(横浜)、イチロー(マリナーズ)、福留孝介(カブス)
(生年月日、利き腕も含めたリストは公式サイトに)
この日には候補者45人が発表されると予告されていたが、蓋を開けてみたら34人だった。原監督の意向らしい。このメンバーで来年2/15から合宿に入り、最終的には28人に絞って大会入りするという(故障などのアクシデントによる多少の入れ替えはあるだろうが)。
要するに、この34人は「日本代表候補合宿メンバー」ということになる。賢明な判断だと思う。
北京五輪でも6月ごろだったと思うが、1次候補と称して60人くらいのリストが公表されたが、何の意味があるのかわからなかった。
それでも北京五輪の時はシーズン中だったから、選手たちはコンディションを整えるまでもない。発表されたところで何か準備をしなければならないということもなかっただろうが(パスポートの用意くらいはしたかも知れないが)、今度はオフを挟むので調整の仕方が変わってくる。候補と言われてオフ返上で準備したあげくに合宿にも呼ばれない、では外れた選手も不快だろう。「選手たちは3月初めの本番に向け、覚悟を持って例年より前倒しで調整して来る。門戸を広げるのは決していい方向とは思わない」というコメントを見ると、選手サイドから見て意味不明なことはやりたくない、と原監督は考えたようだ。
実際、ほとんど実害のなかったはずの今回でも、不快感を表明する人はいる。松井稼頭央の事務所の人が怒っている、とサンスポが報じている。
< 「落選理由も選考の説明も何もない。手紙で(この日発表された)34人に入っていない、と書かれていただけ。あまりに冷たいやり方です」
松井稼の所属事務所「クロス・ビー」の代表取締役、神崎実氏が語気を強めた。今月8日、原監督は暫定候補44選手に共闘への士気を高める手紙を送った。松井稼のもとにも届いたが、34選手から漏れたことに関しては「45人には入るが、そこから絞った34人には入っていない」と書かれていただけだったという。
松井稼は今季、3度の故障者リスト(DL)入り。DLに45日以上入った選手がWBCに出場するには所属球団の許可が必要だが、松井稼サイドはアストロズに許可を求め、快諾を得ていた。
一方、NPB(日本プロ野球組織)側からは協力を求める連絡が何度もあり、松井稼も「喜んで協力します」と答えていたが…。「選手へのリスペクト(尊敬)が感じられない。せめて説明が欲しかった」と神崎氏。発表以前の段階での対応に不信感を募らせた。>
球団に許可まで取ったのに…という点で同情はできる。ただし、日本代表というのはそんなに監督が選手に気を使って頭を下げて参加してもらうようなものなのだろうか、という気もしないでもない。記者会見で落選を知ったというのならともかく、事前に「選ばれない」という連絡が書面でなされていることは記事中でも明らかだ。*
ともかく、外された選手から不満の声が上がるのは仕方ないし、避けられない。このタイミングですら、選手を絞り込めばこういう反応が(メディアも含めて)出てくる。大会直前の2月にそれをやればチームに悪影響を及ぼしかねない。トラブルの種を早めに片づけたという点でも、34人まで絞ったことは評価できる。
顔触れそのものについていえば、不在が気になったのは西岡剛だ。
松井稼頭央は、私の感覚では「選ばれてスタメンで出場してもおかしくはないが、選ばれなくてもおかしくはない」という位置の人だ(サンスポの上の記事では<“正遊撃手”が、まさかの落選だ。>と書いているが何の根拠があるのか)。
上の顔触れを見てもわかるように、彼とポジションが重なる優秀な選手は国内にも大勢いる。野球が五輪競技から外れた今、日本代表が国際大会に真剣に臨む機会が4年に1度のWBCしかない、という状況を考えると、力量に大差がなければ、次回大会にも出場できそうな選手を優先するという判断は納得できる。ベンチにいて貢献できるベテランなら選ぶ価値もあるが、松井稼はそういうタイプでもなさそうだし。
一方、西岡はまだ24歳と若く、しかも第1回WBC、北京五輪と2度の国際大会を経験し、活躍した実績もある。やってみなければ普段の実力が発揮できるかどうかわからない国際試合において、戦力として計算の立つ貴重な選手だ。今季の成績も悪くない。大きな故障もない。落選の報に本人がとてもがっかりしたコメントを出しているので**、意欲もコンディションも問題なかったと思われる。川崎と並んで代表チームを背負っていく選手だと思っていたので、どういう判断なのかは気になる。
年齢でいうと、70年生まれの斎藤隆が最年長で、72年の稲葉が続く。そして、1歳違いの73年にイチローがいる。イチローも35歳だ。野手陣では年齢、実績、その他含めてあらゆる面で最上級ということになる。今回は宮本キャプテンもいないので名実ともにリーダー格にならざるを得ないが、幸い、同学年に松中と小笠原もいる。このへんが核になっていけばチームはおのずとまとまるのではないかと思う。
戦力面での感想はいつも通りだ(笑)。
捕手陣の中でのサポート役、野手における控えのスペシャリスト、投手陣におけるセットアッパー問題が気になる。
左の中継ぎが山口しかいないのはいささか不安。岡島をなぜ選ばなかったか、というのも(古巣ジャイアンツに対しては屈託がありそうなだけに)気になるところ。先発も中継ぎもやってきた武田勝(日本ハム)あたりも候補に入っていてよさそうなものだが。
ただ、WBCでは投球数制限があるので、前回も2番手投手は「第2先発」のような形で投入されていた。つまり1試合で先発投手を2人使うわけだから、先発投手が多くなるのは必然でもある。北京五輪とはレギュレーションが違うので、おのずと構成も異なる。
捕手は城島と阿部が同時に選ばれるという、かつてない高いレベルでの均衡となった。城島は右打者、阿部は左打者なので監督は併用を考えているかも知れない(MLB所属選手は城島が、アジアとキューバの選手は阿部が、それぞれ対戦経験をもっているという点でも相互補完的だ)。
野手陣は、ここ一番で代打でバントを決められそうな選手が見あたらないのが気になる。外野は左打者が多いので、あえて亀井を抜擢する理由も思いつかない。田口壮を招いた方がチームの戦力は向上するだろう。ジャイアンツの若手に国際経験を積ませたい、というのなら(その枠が許されるかどうかは別として(笑))、実はあまり若くない亀井よりも坂本の方がいいんじゃないか。
というわけで、岡島、西岡、田口あたりが欠落しているように感じるのだが、最終メンバーはここからさらに絞られる。前回大会でも、当初メンバーには含まれていなかった宮本と福留が大きな役割を果たした。本番まで3か月、まだいろんなことが起こるだろう。3月の時点で最高のチームで大会に臨めるように祈るばかりだ。
*
そもそもこの記事を読んだ最初の感想は、「神崎って誰?」だった。MLB球団との契約における代理人ではないだろうから、松井のそれ以外のビジネスをマネジメントする会社なのだろうが、サンスポの「所属事務所」という表現に違和感がある。野球選手が所属するのは野球チームだけでしょ(それも厳密には個人事業主として契約しているに過ぎない)。
ビジネスマネジメントの立場から、クライアントの商品価値を傷つけられたことに怒り、回復を図ってこんな記事を書かせたのかも知れないが、松井本人ならともかく、事務所の人が感情的になってどうする。本人をかばったつもりなのかも知れないが、この記事はむしろ彼のクライアントの商品価値をさらに下げている気がする。少なくとも私は、この人を通さないと松井稼頭央に取材ができないのなら、あまりやる気がしないなあ、という気分になった。
**
<「この大会を目標にしてきたし自分の中では出るつもりでいたので本当にショックです。気持ちを切り替えて09年のシーズンにこの悔しさをぶつけたい」>(日刊スポーツ)
西岡には「出るつもりでいたので本当にショック」と言うだけの実績がある。しかも監督に対する恨み言は混ざっていない。記事を読んだ人は誰もが西岡に共感し好意を持つに違いない。こういう状況で選手が発する声明としては非の打ち所がない。
松井の事務所の人は、こういう時に何を言えばよいのかを選手にアドバイスする立場の人だと思うのだが。
追記(2009.2.26)
上記34人のうち、黒田博樹、斎藤隆が調整上の理由などで辞退。岩田稔(阪神)が追加招集され、33人で2/16に宮崎で合宿入りした。合宿中に故障離脱者はなく、最終日の2/22に最終メンバーが確定。岸、和田、細川、松中、栗原が代表から外れた。和田を除く4人は調整不足が理由と報じられた。
| 固定リンク
| コメント (10)
| トラックバック (0)
最近のコメント