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プロ野球監督と学歴。

 このところ、古いエントリにコメントがついて、プロ野球の育成力について延々と議論をしているのだが、その過程で思い出したテーマがいくつかある。

 以前、別のエントリで「高卒と大卒、どちらが有利か」「高卒かつドラフト下位でプロに入ることにはリスクが大きいのではないか」というような議論をしたことがあった。この件については、少し前に読んだ泉直樹『ドラフト下位指名ならプロへ行くな!』(実業之日本社)という本がさまざまな材料を提供してくれている。本自体の結論としてはタイトルの通りで、とりわけ高卒選手においてのリスクは大きくなっている、というのが著者の考えのようだ。

 では現役を退いた時にはどうなのか、という疑問もある。他の世界に転じる場合はともかく、プロ野球界の中で、いわゆる背広組の仕事に就く上で、学歴が関係する局面があるのだろうか。
 豊田泰光氏が「球団フロントに残るには大卒が有利」とか「仰木がなかなかGMになれなかったのは高卒だから」というようなことを書いているのを読むと、実際にそうなのか、といささか気になってくる。
とはいえ、球団職員としてどんな選手OBが球団に残っているのかは、部外者にはなかなか把握しづらく、調べるのは難しい。

 では、公になっているところで、監督の学歴はどうなんだろう。
 選手が引退後に球団内でする仕事の最高位といえば、ユニホーム組では監督だ。もし各球団に学歴重視という傾向があるのなら、そこにも反映されているんじゃないだろうか。

 今年の12球団の監督のうち、アメリカ人2人を除く10人を高卒組と大学・社会人出身組に分けると、次のようになる。

●2009年 4:6
<高校>渡辺久信、梨田昌孝、野村克也、秋山幸二
<大学・社会人>大石大二郎、原辰徳、真弓明信、落合博満、高田繁、大矢明彦

上述の『ドラフト下位指名なら…』によると、1980年から2007年までの間にプロ入りした選手の出身カテゴリーは高卒949人、大卒449人、社会人585人だそうだから、高卒:大学・社会人出身の比率はおよそ48:52になる。現在の監督の構成比は、そこから大きく外れてはいない(実際には80年より前にプロ入りした監督が半数を占めるが)。

では、遡ってみるとどうだろう。5年刻みに調べてみた。

●2004年 4:6(アメリカ人2名を除く)
<高校>堀内恒夫、伊東勤、王貞治、梨田昌孝
<大学・社会人>落合博満、若松勉、岡田彰布、山本浩二、山下大輔、伊原春樹

●1999年 4:8
<高校>野村克也、王貞治、東尾修、仰木彬
<大学・社会人>星野仙一、長嶋茂雄、権藤博、若松勉、達川晃豊、上田利治、佐々木恭介、山本功児

●1994年 6:6
<高校>高木守道、三村敏之、野村克也、森祇晶、仰木彬、鈴木啓示
<大学・社会人>長嶋茂雄、中村勝広、近藤昭仁、根本陸夫、八木沢荘六、大沢啓二

●1989年 2:10
<高校>森祇晶、仰木彬
<大学・社会人>藤田元司、山本浩二、星野仙一、関根潤三、村山実、古葉竹識、上田利治、杉浦忠、近藤貞雄、有藤道世

●1984年 4:8
<高校>王貞治、稲尾和久、岡本伊三美、植村義信
<大学・社会人>古葉竹識、山内一弘、安藤統男、武上四郎、関根潤三、上田利治、広岡達朗、穴吹義雄

●1979年 3:8(アメリカ人1名を除く)
<高校>中利夫、梶本隆夫、広瀬叔功
<大学・社会人>古葉竹識、別当薫、長嶋茂雄、広岡達朗、西本幸雄、大沢啓二、山内一弘、根本陸夫

疲れてきたのでこのへんでいったんやめるが、どうやら傾向ははっきりしている。

<大学・社会人>のカテゴリーには高校から社会人を経てプロ入りした人もいるから、必ずしも「大卒優先である」とは言いきれない(実際には大学を卒業していない人が結構いるという話もあるし)。
だが、「高校から直接プロ入りした監督」が少数派である年が多いことは明らかだ。しかも、調べた範囲では、古い方がその傾向が強く、今はそれほどでもない。
実力の世界と言われるプロ野球でも、実力が計りづらい分野では学歴が影響する余地がある、ということだろうか。正直なところ、ここまで差があるとは、調べてみるまで気付いていなかった。

この件、もう少し調べてみようかと思っている。

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コメント

アメリカでは違うそうですが日本の場合、選手として「ある水準」未満に終わった人が監督になることは滅多になく、監督選考の根拠として選手としての実績が重視されますよね。したがって、監督選考に学歴が(野球の実力と無関係に)関係しているかどうかは、「ある水準」に達した選手に占める学歴ごとの内訳を調べてからじゃないと判断できないのでは。

ここに列挙された名前を見るととりあえず、「ある水準」に達するのは大学・社会人出身選手の方が多いのかなあ、と感じます。というか、想像します。と言ってもその「ある水準」をどう定義すればいいのか、わかりませんが。

投稿: nobio | 2009/04/28 10:30

>nobioさん
>監督選考に学歴が(野球の実力と無関係に)関係しているかどうかは、「ある水準」に達した選手に占める学歴ごとの内訳を調べてからじゃないと判断できないのでは。

ごもっともです。
実はこの次に、殿堂入り選手の学歴と監督歴を調べてみようかと思ってました。「ある水準」の一例としては申し分ないのではないかと。
 
 
>ここに列挙された名前を見るととりあえず、「ある水準」に達するのは大学・社会人出身選手の方が多いのかなあ、と感じます。

あくまで印象論ですが、私は逆のように感じていました。
高卒選手は一流選手ばかり(タイトルホルダーか、史上有数の強豪チーム黄金期の主力か)ですが、大学・社会人出身者は、上田、根本らの成績は凡庸そのものですし、西本、中村らも球史に残る選手というほどではありません。

ま、この件については、このエントリのようなサンプリング調査ではなく、悉皆調査をして比較検討しないと結論は出ませんが(と言うのは簡単ですが、やるのはなかなか面倒です(笑))。

投稿: 念仏の鉄 | 2009/04/28 23:49

>>「ある水準」に達するのは大学・社会人出身の方が多い
>私は逆のように感じていました

ああ、なるほど。たぶんそれは「逆」ではないです。

私は、監督になった人は大卒が多い、という例示を見て、「ということは、つまり『全てのプロ野球選手のうちで』、選手としての実績が『ある水準』に達するのは大卒が多いのか?」と思ったんです。

鉄さんがおっしゃってるのはたぶん「『監督になった選手のうちで』、球史に名を残すというほどの凄い水準まで行かなかった(にもかかわらず監督になった)人は大卒が多い」ということですね。言われてみるとそれはそれで一理ありそうな気がします。

投稿: nobio | 2009/04/29 02:35

>nobioさん
>鉄さんがおっしゃってるのはたぶん「『監督になった選手のうちで』、球史に名を残すというほどの凄い水準まで行かなかった(にもかかわらず監督になった)人は大卒が多い」ということですね。

その通りです。正確には「大学・社会人出身者」ですね。
高卒でそういう人はあまり思い浮かびませんが、須藤豊がいます。指導者としての実績を評価されての就任でしょう(ただ、この方は引退後に一度球界を離れて、別の職歴を経てから監督になっていますが)。

投稿: 念仏の鉄 | 2009/04/29 09:08

失礼します。

少しエントリー内容とずれるかもしれませんが、
そもそもNPBの選手達はキャリアパスとかセカンドキャリアについてどれくらい考えてるんでしょうかね。
引退後はやはりコーチ業やりたいと思ってる人は実際どれくらいの割合なのか疑問に思ったりしました。
中田英が税理士を目指すニュースの中で、
張本・大沢親分が「喝っ!」と言っていたのを思い出しました。やはりこういった感じが大勢なんですかね。
気持ちは分かりますが、選手会とかの意見を聞いてみたいものです。

投稿: 3U | 2009/04/30 09:24

>3Uさん
>そもそもNPBの選手達はキャリアパスとかセカンドキャリアについてどれくらい考えてるんでしょうかね。
>引退後はやはりコーチ業やりたいと思ってる人は実際どれくらいの割合なのか疑問に思ったりしました。

ま、確かに全員がコーチや監督になりたいとは限らないでしょうね。

かつてのプロ野球選手のセカンドキャリアは、とにかく現役のうちは野球を目一杯やって、引退後は、採用したスカウトか高校や大学時代の恩師が再就職を世話してくれる、というような形が典型だったのではないかと思います(指導者や球団職員として野球界に残る人たちは少数派でしょう)。

プロ野球の歴史はおおむね戦後史と重なりますから、ほとんどの期間は高度成長期やバブル期です。人一倍体力があり真面目で苦労を厭わない若い男性であれば、再就職はそれほど難しくなかったものと思われます。

ですから、セカンドキャリア問題というのは、野球界にとっては最近現れてきた新しい課題です。
NPBは一昨年、セカンドキャリアサポートを行う組織を作ったそうですが、発足後何か月かの時点では相談者が少ないと報じられていました。選手会でも、セカンドキャリアをサポートする、という方針を表明したことはありますが、公式サイトのトップページには特に項目が見当たりません。

バブル崩壊後に発足したJリーグと選手協会のセカンドキャリアサポートへの取り組み方(現役選手のインターン制度などもあります)に比べると、まだ温度差がある印象を受けます。

投稿: 念仏の鉄 | 2009/04/30 14:32

>プロ野球の歴史はおおむね戦後史と重なりますから、ほとんどの期間は高度成長期やバブル期です。
>バブル崩壊後に発足したJリーグと選手協会のセカンドキャリアサポートへの取り組み方

なるほどー。そう言えばそうですね。
Jリーグの取り組方も納得です。
確かに大変(笑)だと思いますが続報待ってます。

投稿: 3U | 2009/05/03 10:54

>3Uさん

妙に忙しくなってしまって、しばらく手をつけられそうにないのですが、殿堂入りメンバーについてはいずれやるつもりですので、気長にお待ちください。

投稿: 念仏の鉄 | 2009/05/05 00:37

はじめまして、いつも楽しく読ませていただいてます。

他球団のことはあまり気にしていなかったのですが、阪神の場合監督は学歴が基準の一つになっていたそうです。(戦前の時期を除いて、野村以外は大卒だったように記憶しています。確か、野村の「あぁ阪神タイガース」か何かに書かれていたような…)

元オーナーの久万の方針だったらしく、早稲田出身の仲村や岡田が重用されていたりします。逆に掛布は高卒のため監督就任はないと噂されていた時期もありました。


投稿: かえる | 2009/05/11 01:52

>かえるさん

ありがとうございます。

阪神の監督は、エントリで調べた79年以降でも、中西太、藤田平は高卒ですし吉田義男は立命館大中退ですから、必ずしも大卒でなければ監督になれなかったというわけではなさそうです(真弓現監督は高卒社会人経由ですね)。

とはいえ、監督人事がOB中心だったわりにスター監督は少なく、安藤、中村ら、他球団のファンから見ればどこを評価されたのかよくわからない人たちが選ばれてきたのは確かですね。

掛布は晩年から引退後にかけて、ずいぶんと冷遇されていましたね。村山・江夏、掛布・岡田という同時代のライバル2組のうち、監督になった村山・岡田がどちらも大卒で、高卒の江夏・掛布は引退後にコーチにもなっていないのは事実です。

投稿: 念仏の鉄 | 2009/05/11 10:07

プロ野球選手の活躍する割合など面白い論文を発表している先生がいます。下記HPをご覧ください。興味がわくと思いますよ
http://gendai.net/m=view&g=sports&c=040&no=20147

投稿: 三輪 伸介 | 2009/06/02 22:04

>三輪 伸介さん

アドレスを直接入れてもうまくつながりませんが、日体大の黒田次郎氏のインタビューですね。以前、このblogでも話題になって、元の論文を入手しました。論文そのものでは、素人目にも衝撃的、というほど高卒が不利な数字が出ているわけではありませんが、興味深い研究ですね。

投稿: 念仏の鉄 | 2009/06/03 08:32

こんにちは、これまで各所にてお勧めのブログとして紹介されていたリンクを辿って以来、断続的に読ませていただいております。

失礼ながら過去記事の中で、私にとって興味深いものが掲載されておりましたのでコメントを設けさせていただきました。

プロ野球の監督業は漠然として大卒有利という印象を抱いておりましたが、「ある水準」というのが大変気になりまして列挙された監督名を眺めながらふと連想してみたのですが、野手なら1000安打、投手なら100勝という基準が見えてきました。

それから慌てて統計してみたのですが、さらに興味深い検証内容が出来上がりました。

まず、昭和40年以降を題材とします。その間、外国人及び代理期間のみの監督を除くと大体100名おりました。その中で1000安打もしくは100勝を挙げた監督が67名いました。

それだけなら実績有利だけで済んでしまうのですが、それ以外の監督33名の内、大卒(中退含みます)・社会人
から入団した監督が28名なのに対し、高卒の監督はたったの5名でした。

一人ずつ挙げますと、鬼頭政一(511安打)阿南準郎(746安打)仰木彬(800安打)梨田昌孝(874)牛島和彦(53勝)です。

ご存知かもしれませんが、鬼頭は西鉄暗黒時代に成り手がいなかった事情がありました。阿南は長いコーチ生活から大抜擢と言われていました。仰木も最後は名監督と呼ばれましたが、同じく長い下積みです。梨田は人気選手及びNHKの解説者を経て、牛島は126セーブという代替とも呼べるような記録を持っています。

1000安打&100勝といえば、連盟表彰です。ファンにしれみれば興味の薄い到達ラインですが、こうした結果を見ると監督推薦のための大義名分もしくは現役時代にハッパを掛けるための基準だったかもしれないと、即席の統計ながら少し閃いたものがありました。

もちろん、その水準が高く成ればなるほど監督への道は近くなっていくようです。当然ですが、高卒の方が若いうちから選手生活が始まりますので記録的に有利なのは確かですが、上田利治のように選手キャリアが殆ど無い監督は大卒・社会人でないと厳しそうですね。

初めてのコメント且つ長文にて、失礼致しました。

投稿: haus | 2009/10/04 00:29

くどいようですが、大卒・社会人出身者で1000&100未満の監督も挙げてみますね(名前だけです)。

順不同にて:

藤本定義、後藤次男、安藤統男、中村勝広、水原茂、
近藤貞雄、根本陸夫、別当薫、森永勝也、達川光男、
荒川博、武上四郎、宮崎剛、土井淳、権藤博、
伊原春樹、田丸仁(プロ経験なし)、戸倉勝城、
濃人渉、大沢啓二、八木沢荘六、山本功児、西本幸雄、
上田利治、松木謙治郎、岩本義行、岩本尭、佐々木恭介、

以上、間違いがありましたらすみません。
一応、私もMLB中心ですがブログを書いております。

投稿: haus | 2009/10/04 00:38

申し訳ありません、何度も。
高卒で須藤豊が抜けていました(495安打)。

1000&100の到達者は66名ですね。

投稿: haus | 2009/10/04 00:41

>hausさん

興味深いデータをありがとうございます。こんな手間のかかる作業に参加してくださるとは嬉しいです。
1000安打・100勝未満のケースは特に興味深いですね。
高卒組の仰木、梨田、牛島は、通算成績は1000/100に届かなくてもオールスタークラスの一流選手だったわけですから、高卒かつ非一流選手が監督になることは例外中の例外ということがよくわかります。

結局のところ、監督と学歴について考えるには、<学歴と選手成績>の関係、<選手成績と監督就任>の関係、そして成績をランク分けした上で<個々のランク内における学歴と監督就任>の関係を見る必要がある、ということになりそうですね。

投稿: 念仏の鉄 | 2009/10/04 21:25

高卒と大学卒の監督の割合を調べたら面白ね!!黒田次郎氏の論文で活躍する割合がでていたけど、コネの世界のない監督業ではどうなっているのか?過去5年でも知っている人はいないでしょうか?

投稿: 皆川伸作 | 2009/10/14 21:51

選手ばかりではなく監督の経歴を調べるサイトを立ち上げましょう!!

投稿: 岡田正信 | 2009/10/15 22:34

返事ください。岡田

投稿: 岡田 | 2009/10/23 22:38

>岡田さん
>返事ください。岡田

ひとつ前のコメントは、私に対するご意見ということですか?
恐縮ですがご期待には沿えません。

投稿: 念仏の鉄 | 2009/10/23 23:48

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