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2009年7月

高代延博「WBCに愛があった。 」ゴマブックス

 今春の第2回WBCで三塁ベースコーチを務めた高代延博が大会を回顧した本。あとがき等を見ると、スポーツ・ヤアの元編集長、本郷陽一が関わっているようだ。

 第1回大会の後には2冊のドキュメンタリーが刊行されたが、いずれも取材者(石田雄太、石川保昌)の手によるものだったから、インサイダーによるWBC回顧録というのは初めてで、それだけで興味深い。三塁ベースコーチとして、日本代表の攻撃のすべてをグラウンドで体験してきた高代であれば、なおさらだ。

 刊行時の目で記したプロローグ、大会そのものについての考えを述べたエピローグを除くと、本書は著者が原代表監督から三塁コーチへのオファーの電話を受けた日に始まり、帰国便が成田空港に到着する場面で終わる。
 コーチ陣の編成が発表された時、私は、原と高代にどういうつながりがあるのだろうと訝しく思ったものだが、高代自身も同じような戸惑いを持っていたようだ。ジャイアンツとのプレーオフに敗れたその夜に、落合監督自身の口から翌年の構想に入っていないことを告げられ、その2日後、ナゴヤドームで荷物をまとめている最中に、携帯電話に原自身から連絡があった。
 意欲はあるものの、WBCに参加すれば、そのシーズンはもうコーチとしての仕事はない。生活のためには他球団に就職した方がよいのではないか、と迷った高代は、率直に事情を話して返答を保留するが、プレーオフが終わるような時期には、すでにどこの球団も監督・コーチ人事は完了していた。原の誠意、妻の勧めにも推されて、高代はコーチを引き受ける。
 …というような、わりとなまなましい内情が、坦々と記されていく。首脳陣の顔合わせ、選手選考*と、大会に向けた準備が進み、そして合宿へと向かっていく。

 面白いのは首脳陣の人間関係における高代の立場だ。
 もちろん高代のコーチとしての手腕は評価され、仕事の上では尊重されていたのだろうが、高代は人間関係の上ではまるで外様なのだ。この大会限りのプロジェクトチームとして集められたコーチ陣とはいえ、それぞれに既存の関係はある。王顧問、原監督、篠塚・緒方コーチというジャイアンツ人脈が中心にあり、投手コーチの山田、与田は職掌上は専門外。
 そのため、仕事を離れた場面では一人で過ごすことが多かったようで(酒を飲まないコーチが多かったせいもあるらしい。高代自身は飲む人なので)、本書では、合宿や遠征生活の中で一人で夕食に出かける場面がたびたび出てくる。というより、監督主催などの食事会以外では、スタッフと行動をともにする場面がほとんどない(選手とは食事をしないのがポリシーらしい)。食事会で王顧問の隣に座るたびに緊張しているのもおかしい。
 別にそれがトラブルや不和の存在を示唆しているというのではなく、プロジェクトチームの成り立ち方というのはそんなものだろうな、とも思う。いい大人が1か月以上も集団生活を送るのだ。よほど気心の知れた相手でなければ、四六時中一緒にいたのでは疲れてしまうことだろう。何気ない場面だけれども、こういう描写にリアリティを感じる。
 
 宮崎での合宿、そして大会がスタートすると、今度は三塁ベースコーチとしての高代の眼と腕が前面に出てくる。これも本書の肝だ。
 どの試合のどの場面で、どの走者のスタートが遅れたことがどういう結果をもたらしたか。どうすれば自分は失敗を防げたのか。ある局面で本塁突入を指示し、別の局面で止めたのはなぜか。相手外野手の肩をどう評価していたか。テレビで見ているだけではなかなか判らない(いや、球場で見ていても判るとは限らない)、微妙なプレーと判断の機微が、試合の行方を左右していく。まさに「三塁コーチが見た侍JAPAN」(サブタイトルの一部)である。高代が書く三塁コーチ論をぜひ読んでみたい、と思わせる。ま、ご本人はまだまだコーチとして仕事を続ける意欲たっぷりだろうから、本当に肝心なことが書けるのはずっと先になるのかも知れないが。

 高代にはもうひとつ、守備コーチとしての仕事もあった。
 合宿に集まった内野手たちからアドバイスを乞われて、それぞれに対して課題とその解決方法を教える場面は圧巻といってよいが、白眉は何といっても村田への指導だろう。

 WBCを見ていて驚いたことのひとつが村田の守備だった。決して上手ではなく、そもそも本人がまともに意欲を持っていなかったことは確実(昨年末のテレビ番組で、広島の東出から「広島遠征では毎晩焼き肉屋に通っているから、3連戦の3日目あたりには明らかに守備の動きが悪い」と指摘されて、「今は食べたいものを腹いっぱい食べたい」と居直っていた)だった村田が、厳しい打球に飛びついて、しばしば危機を救っていた。本書では、原監督と高代が、村田の意識を変えて練習に取り組んでいく様子も記されている(横浜の指導者はこれまで何を教えてたんだろう、という気もしないでもないが。こういうことをきちんとさせられないのが弱いチームなのだろうな)。
 
 高代のノックの巧さが、USAで行われた第2ラウンド以降、現地のメディアに絶賛されていたという話は、大会当時も話題になっていた。本書でもその件が紹介されている。練習試合を行ったサンフランシスコ・ジャイアンツのベンチコーチが、守備理論を聞くために高代を訪ねてきた場面も興味深い。ベテランのベンチコーチを感服させる高代も見事だし、日本人にわざわざ教えを乞うコーチも立派だ。

 もちろん、ひとり高代だけでなく、原監督をはじめ伊東、山田、篠塚ら、それぞれのコーチに、それぞれのWBC物語があることだろう。彼らのような指導者がチームを支えていたこと、そもそも高代のような指導者がいること自体が、日本野球の強みなのだろうと思う。
 高代は法大ー東芝と進んだ後にドラフト1位で日本ハムに入団、日本ハムで10年、広島で1年の現役生活を過ごして引退。そのまま広島でコーチ生活に入り、90年から昨年まで19年間コーチ業をしてきた。現役時代から守備と走塁に定評のある内野手だったから、もともとそれらの技術については思考と実践を重ねていたのだろうが、人に教えるとなればまた別だ。
 本書は、優れたコーチとなった高代の仕事ぶりをWBCという特殊な大会を通じて描いたものだが、そこに至る過程、彼がいかにして優れたコーチとなったかについても興味が湧いてくる。
  
 
*
亀井義行の選考については、本書によれば高代自身が推挙したという(昨年末にテレビ番組に出演して、亀井の守備を高く評価したこともあった)。このblogで議論になったこともあるので、該当部分を引用しておく。

<問題は、外野の守備がための選手の是非だった。
 外野担当の緒方コーチも、そこは決めかねていたようで「例えば逃げ切りたいときに、どうしますか? 青木、イチローに代打はないですよね。福留に代打はあるかもしれません。その場合、守りはどうしましょうか」と全員に問題提起した。
 私は「亀井義行はどうか」と推薦した。
 色眼鏡で見られる巨人の選手、しかも実績には欠ける。だから、原監督や緒方ら巨人のスタッフにしてみれば、自分のチームの選手を推しにくかったのかもしれない。しかし、私は、敵チームである中日の三塁コーチャーズボックスに立っていて亀井は嫌な外野手の一人だった。肩と、打球を処理してからの動作の速さに関して言えば、全盛期の高橋由伸にもヒケを取らないレベルにあると感じていた。
 最終メンバーまで亀井が入ったことに「巨人だから選ばれた」という批判があったみたいだが、内情は違う。これは亀井の名誉のためにも特記しておきたいと思う。>

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知事選ってのは候補者に投票するものじゃないんでしたっけ。

 川勝平太が出馬するというので、へえ、これはまた…と驚いて、彼のサイトでマニフェストを読んで、内容はいいと思うけど子供や家族の写真を意味もなくちりばめる手法はちょっとやらしいな、でも彼が当選すれば面白いな、と思ったのが、静岡知事選挙に対する私の関心のすべてだった。
 だから、川勝氏が当選したことは興味深く思うし、熊本の蒲島知事と並ぶ「学者知事」として、これからの仕事ぶりにも注目している。

 …でも、そんな考え方は異端なのかなあ、と選挙結果を報じる今朝のテレビを見ていて思ってしまった。
 普通のニュースでもワイドショーでも、この選挙の結果はもっぱら「民主党の候補者が勝った」「自民が負けた」「政局への影響はどうなる」という角度から報じられている。

 そりゃまあ、それぞれの党本部は、そういう捉え方をしていたのでしょう。あれだけ幹部が応援に駆けつけて、候補者そっちのけで政権交代がどうとかいう話ばかりしているのだからね(テレビがそういう部分だけを切り取って流しているのかも知れないが)。
 でも、知事選はあくまで候補者個人を選ぶものだ。団体戦である議会の選挙なら、政党が勝った負けたという言い方がふさわしいだろうけど、知事選の結果がそんなに政党の優劣に直結するもんなんでしょうかね。

 今回、川勝の対抗馬だった坂本という女性候補について私は何も知らないが、これまた結果が出た後のワイドショーで見た限りでは、相当イヤな感じの人だと感じた。
 自民党の幹部が次から次へと応援に訪れているにもかかわらず、テレビ取材に対しては「私は県民党です。自民党じゃないですから」と平然と言う。自民党の幹部が大勢応援に来られてますが、との質問に対しては、「みなさん私が一緒に仕事をしてきた友達として来ているので、自民党として来ているわけじゃありませんから」と、こわばった笑顔で目線を相手からそらしたまま話す。そうですか、みんなお友達ですか。
 ああ、この人は知事になったら議会での質問や取材に対しても、こうやって子供の言い訳みたいなことを恥ずかしげもなく言うのだろうな、とりつくしまもない官僚答弁をするのだろうな、と容易に想像できてしまう姿で、私がもし静岡県民だったら、こんな映像を一度でも見たら、絶対この人には投票しないと思うことだろう。

 川勝平太に投票した静岡県民の全員が彼の学者としての値打ちを知って選んだとは限らないだろうが、それを棚上げにして、公の場でテレビカメラに写された姿を見ている限りでも、両者の間にはかなりの差がある。むしろ、ここまで魅力に差があるのに、僅差に持ち込んだ自民党の底力は馬鹿にできないのではないかと思うくらいだ(ま、そもそもこんなタマしか出せないという点には大きな問題があるが(笑))。

 民主党にしても、同じ日に行われた兵庫県知事選では独自候補を立てることができず、自民が押す現職に相乗りしている。ま、兵庫は兵庫で事情があるんだろうが、そちらは「事情があるから」と考えたのかどうかほとんど話題にならず、静岡に関しては静岡の事情は問わずに「民主が勝った」と言い立てる報道というのは、なんだかなあ。

 という素朴な疑問でした。

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