知事選ってのは候補者に投票するものじゃないんでしたっけ。
川勝平太が出馬するというので、へえ、これはまた…と驚いて、彼のサイトでマニフェストを読んで、内容はいいと思うけど子供や家族の写真を意味もなくちりばめる手法はちょっとやらしいな、でも彼が当選すれば面白いな、と思ったのが、静岡知事選挙に対する私の関心のすべてだった。
だから、川勝氏が当選したことは興味深く思うし、熊本の蒲島知事と並ぶ「学者知事」として、これからの仕事ぶりにも注目している。
…でも、そんな考え方は異端なのかなあ、と選挙結果を報じる今朝のテレビを見ていて思ってしまった。
普通のニュースでもワイドショーでも、この選挙の結果はもっぱら「民主党の候補者が勝った」「自民が負けた」「政局への影響はどうなる」という角度から報じられている。
そりゃまあ、それぞれの党本部は、そういう捉え方をしていたのでしょう。あれだけ幹部が応援に駆けつけて、候補者そっちのけで政権交代がどうとかいう話ばかりしているのだからね(テレビがそういう部分だけを切り取って流しているのかも知れないが)。
でも、知事選はあくまで候補者個人を選ぶものだ。団体戦である議会の選挙なら、政党が勝った負けたという言い方がふさわしいだろうけど、知事選の結果がそんなに政党の優劣に直結するもんなんでしょうかね。
今回、川勝の対抗馬だった坂本という女性候補について私は何も知らないが、これまた結果が出た後のワイドショーで見た限りでは、相当イヤな感じの人だと感じた。
自民党の幹部が次から次へと応援に訪れているにもかかわらず、テレビ取材に対しては「私は県民党です。自民党じゃないですから」と平然と言う。自民党の幹部が大勢応援に来られてますが、との質問に対しては、「みなさん私が一緒に仕事をしてきた友達として来ているので、自民党として来ているわけじゃありませんから」と、こわばった笑顔で目線を相手からそらしたまま話す。そうですか、みんなお友達ですか。
ああ、この人は知事になったら議会での質問や取材に対しても、こうやって子供の言い訳みたいなことを恥ずかしげもなく言うのだろうな、とりつくしまもない官僚答弁をするのだろうな、と容易に想像できてしまう姿で、私がもし静岡県民だったら、こんな映像を一度でも見たら、絶対この人には投票しないと思うことだろう。
川勝平太に投票した静岡県民の全員が彼の学者としての値打ちを知って選んだとは限らないだろうが、それを棚上げにして、公の場でテレビカメラに写された姿を見ている限りでも、両者の間にはかなりの差がある。むしろ、ここまで魅力に差があるのに、僅差に持ち込んだ自民党の底力は馬鹿にできないのではないかと思うくらいだ(ま、そもそもこんなタマしか出せないという点には大きな問題があるが(笑))。
民主党にしても、同じ日に行われた兵庫県知事選では独自候補を立てることができず、自民が押す現職に相乗りしている。ま、兵庫は兵庫で事情があるんだろうが、そちらは「事情があるから」と考えたのかどうかほとんど話題にならず、静岡に関しては静岡の事情は問わずに「民主が勝った」と言い立てる報道というのは、なんだかなあ。
という素朴な疑問でした。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
静岡県知事選では民主党が候補者調整に失敗して、第三位の候補が30万票も取っています。ふつう、これほど大きく「票が割れる」と、自民党候補が「漁夫の利」を得るものなのですが(笑)。
「にもかかわらず」、川勝氏が勝ったということは、候補者の個人的魅力に加えて「風が吹いた」ということだろうと思います。
民主党にとっては、72万票対70万票の辛勝ですが、自民党にとっては102万票対70万票の惨敗であります。
まぁそれにしても、千葉県知事選もそうでしたけど、選挙にあたって「所属政党隠し」をしなければいけないというのは、いかにも末期症状です。
ちくま新書から「自民党政治の終わり」 (野中尚人・著) という大変面白い本が出ています。
http://tinyurl.com/matbrj
「戦後自民党政治」を成り立たせていた前提条件がすべて失われている、ということがしみじみとよく分かります。
自民党の窮状は、太郎ちゃんの個人的力量不足によるものではなく、構造的なものであるということです。こういうときに総理総裁をやるというのは、「歴史的貧乏くじ」かもしれないなぁと思います。(もちろん総理総裁には「望んでなった」太郎ちゃんなのでありますが!)
投稿: 馬場 | 2009/07/06 13:36
この違和感は、全国とローカルの距離感じゃないですかね。
日本だけじゃなくて、アメリカでも知事選では大手マスコミは共和党か民主党か、ですし。
マスコミはどうしても選挙結果を世論や首長の支持率に結び付けたがる。
国民はそれほど馬鹿ではないでしょう。
これが衆院選になると、A党かB党かC党・・になるとおもうのですが、選挙はローカルになればなるほど視点が「この候補者は地域とウチの家族のために何をしてくれるんだ」ということに集約していくと思います。
だから、今回も東京のマスコミが自民党の終焉のストーリーに結び付けたい一方で、きっと静岡のメディアは冷静に候補者を見ていると思いますよ。
投稿: ふくはら | 2009/07/06 16:40
遅くなってすみません。
>馬場さん
>自民党にとっては102万票対70万票の惨敗であります。
ああ、それは確かにそうでしたね。
候補者を一本化できなかったというのは政党にとっては失敗だったはずですが、それでも勝ってしまうのは「風」なのかも知れません。
>ふくはらさん
>この違和感は、全国とローカルの距離感じゃないですかね。
ま、静岡県民以外にとっては、川勝とか坂本とかいう固有名詞はどうでもいいのかも知れませんし、「静岡にとって誰がいいのか」という観点も持ちづらいのは確かですね(私のように「川勝平太」という固有名詞の方に反応してしまう人もいるとは思いますが、多数派じゃないんでしょうね。ご本人が当選の弁として「知名度はゼロに等しかった」と言ってましたし)。
こういう話をしていたら、阪神大震災が発生した2日後くらいに、東京のキー局のニュース番組が「同規模の地震が東京で発生したらどうなるか」という特集を組んでいるのを見て、こっちは発生してる最中なのに、と関西の人が怒っていたのを思い出しました。
投稿: 念仏の鉄 | 2009/07/08 04:13
私も「川勝平太、出馬」と聞いて「え゛~」と思ったクチです(笑)。
学者さんとしての川勝さんのファンとしては「よしゃあいいのに」というのが正直な感想です。だって政治家って、人が悪くないとできない商売なんですから。
『日本文明と近代西洋――「鎖国」再考』で、日本近代化の謎を解いて華々しくデビュー。江戸時代再評価の先鞭をつけた方ですよね。見識とビジョンは文句なし。
でも、知事ってのは言うことを聞かない議会と駆け引きし、面従腹背な県庁役人どもを使いこなさないといけない仕事なのです。「君主は愛されるより恐れられるべきである」というのはマキャベリの金言でありますが、「恐れられる知事」に川勝さん、なれるのかなぁ。ファンとしては、ちょっと心配なところです。
投稿: 馬場 | 2009/07/08 12:36
>馬場さん
ま、でも大学というのも権謀術数渦巻く世界ですから(笑)。早大のやめ方などを見ても(詳しい経緯は知りませんけど)、笑顔の奥に激しいものを持っている人なのだろうと思います。
投稿: 念仏の鉄 | 2009/07/09 10:54
・・・たまに高校野球やJ2ベガルタ関連でコメントさせていただいていましたが、実は私は現在静岡在住でして。
今朝の「こんにちは県庁です」という県庁の広報ラジオに新知事が出演してらっしゃいました。政策の基本は文化立県的なものを目指すスタンスのようでした(たとえば教育の話題でも「文武両道という言い方があるけど、文武芸です」といった話をされていたし)。一種のクリエイティヴシティ的なものを目指されているのかもしれません。
というわけで、確かに川勝さんは「学者」のカテゴリに入る方ですが、学問領域としては文化政策という実学寄りのプロパーですので、どこかでみずから行政に関わってみたいという意思はお持ちだったのかな、と思います。その点ではいわゆる「文人知事」ではなく「実学知事」とでもいうようなタイプなのかもしれません。
対抗馬だった坂本さんは「県内進学校-東大法学部-労働官僚(静岡県副知事出向経験者)-衆院議員」といういかにもな経歴で、既存の力場を保存したいという方にとってはファーストチョイスだったような気はします。静岡は比較的保守的な土地柄なので、今回のような状況がなければ問題なく禅譲を受けていたような経歴の人だろうな、というのが県民としての観測でしょうか。
ともあれ、空港、どうすんのかなあ・・・。
投稿: かわうそさん | 2009/07/13 12:29
>かわうそさん
そうですか、静岡にお住まいでしたか。いいところですね(笑)。
>既存の力場を保存したいという方にとってはファーストチョイスだったような気はします。
現実には、それこそが彼女の敗因だったのかも知れませんね。特に根拠のない推測ですが、私に投票権があれば、それは「そういう経歴の知事はイヤだ」という動機が投票行動に大きく影響したことと思います。
>ともあれ、空港、どうすんのかなあ・・・。
空港には積極的なようですね。「海洋史観」の人ですから、国内交通というより、海外と静岡を直接結ぶ窓、という捉え方なのでは。
投稿: 念仏の鉄 | 2009/07/13 19:54