明日も太陽が昇るが如く。
物心ついた頃は、読売ジャイアンツの全盛期だった。
昭和39年に生まれた私が、野球というものを知ってから小学4年生になるまでの間、セントラル・リーグの本塁打王は王貞治のものだった。正確には私が生まれる前の昭和37年から13年間、王選手は本塁打王を独占し続けた(その後も1年の中断を挟んで、私が中学1年の年まで続いた)。
王さんが3割40本を打ってホームラン王になるのは、明日の朝に太陽が東から昇るのと同じくらい自然なことだった。
王さんの引退後、3割40本を打つ選手など年に1人現れるかどうか、という普通のペナントレースを何度か経験するまでは、それがどれほど特別で並外れたことなのか、理解していなかった。
そして、その事実に気付いた時、「王さんを見られてよかった」「もっとよく見ておけばよかった」という相反する二つの思いが胸の奥から湧き上がってきた。もう、これほど並外れた選手を見ることはできないのだろうな、という寂しさが、そこにはあったように思う。
王さんが引退してから29年。
我々は今、王貞治に匹敵する、とてつもない選手と同じ時代に生きている。
MLBで誰も達成したことのない、9年連続200安打。
それだけでも凄いけれど、彼はそのスタートを切る前に、日本で7年続けて首位打者を獲っている。都合16年、彼は1年も欠かすことなく規定打席に到達し、たくさんの安打を打ち続けている。
試合を多少休んでも首位打者は獲れる(実際、日本での最後の2年間は死球と故障でそれぞれ約30試合を欠場している)。だが、試合数の多いMLBにあっても、ほとんどの試合に出場しなければ200本は打てない。
イチローが昨年までの8シーズンで休んだ試合は合計16だという(今年はすでに16試合に欠場している)。筋肉の塊のような大男たちの中でプレーしながら、打球を追ってフェンスに激突しても、三塁や本塁でクロスプレーを演じても、死球をぶつけられても、彼は大きなケガをすることなく、高い水準の打撃コンディションを保って、グラウンドに立ち続ける。何よりもその事実に圧倒される。
いつかは彼にもバットを置く日が来る。
その時はじめて見物人は、イチローという太陽が自然の力で天に昇っていたのでなく、創意工夫と弛まぬ努力と強い意志によって毎朝毎朝そこまで這い上がっていたのだと実感し、彼と同じ時代に生き、彼を見ることのできた幸運を知るのだろう。
だが、今はまだ、太陽が明日も東から昇ることを、物心ついたばかりの子供のように信じることができる。そんな歓びをもってイチローを見ていられるのも、見物人にとっての幸福に違いない。
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コメント
イチローやりましたね
彼はどこまで記録を伸ばしていくんでしょうか
投稿: ぱる | 2009/09/15 01:08
>ぱるさん
この先、肉体に衰えを感じ始めた時に、彼がどう対処していくのかという面にも興味があります。ただ、常々「バッティングはいつも変わるもので一定ではない」と言い続けている彼のこと、自分の肉体の状態も常に変動するものと捉えているでしょうから、かなりのところまで対処できるのではないかという期待もしています。
投稿: 念仏の鉄 | 2009/09/15 10:06
いやー、イチローやりましたねー。すっごい~!
イチローが「レーザービーム」(ライトから三塁に「ストライク」送球をしてランナーを刺殺した鮮やかなプレイ)でデビューし、ヒットを打ちまくってたちまちスター選手になった2001年、「イチローはアジア人男性のイメージを変えた」とアメリカ人(白人男性)が言ってました。日中韓の東アジア人の男性というのは「よく勉強してよく働くいて頭も良いけど、弱っちい」イメージだったのが、「細身でもしなやか」というイメージに変わったとのこと。アメリカに住む東アジア系男性は、イチローに感謝しないといけない(笑)。
ただ、日本では賛嘆一色ですが、アメリカではそれほどでもないようで。
マリナーズの公式ホームページのファンフォーラムで、メッセージボードに祝福のスレッドがなかったので「何で祝福のスレッドないの」と問うた人への答えが一言。
「because of Ichiro is selfish」
(↑ちょっと英語ヘンです。&ちょっと「むかっ」凸(`、´X))
まぁイチローって「我が道を行く」人ですから、Ichiro is selfish ってのはさんざんこれまで米国スポーツマスコミで言われ尽くしている事柄であったようで、selfishウンヌンは、アメリカ野球おたくにとって「聞き飽きた」フレーズだったんでしょう。だから「なんでお祝いのスレッドがないの?」という問いに対して「だってイチローって自分勝手じゃん」と答える。まぁちょっと毒のあるジョークですが、許容範囲なんでしょう。(しょせんネットの掲示板でもあるし。)
で、ちゃんとお祝いのスレッド立ってましたし↓
http://www.forums.mlb.com/n/pfx/forum.aspx?tsn=1&nav=messages&webtag=ml-mariners&tid=37893
単に、日本ほどアメリカでは話題になっていない、ということだけのことかもしれませんね(笑)。
投稿: 馬場 | 2009/09/15 18:26
>馬場さん
産経新聞だったか、USAのメディアは、イチローのMLB記録更新よりも、ジーターの球団記録更新の方ばかりを大扱いしていた、という現地記者の記事が載っていました。ま、しかしジーター本人はイチローを絶賛していましたが(笑)。
262本打った時でも「スポーツ・イラストレイテッド」は表紙にしなかったし、コンタクト・ヒッターへの扱いは冷たいものですよ(過去40年にMVPをとった野手で、本塁打が1ケタだったのはイチローとピート・ローズの2人だけのようです)。
ただ、イチローが加入してからマリナーズの成績は初年度をピークに下降するばかりですから、その憤懣を、主力選手で年俸の高い彼にぶつけてしまうファンもいるのかなと思います。私の見る限り、シアトル低迷の最大の理由は、大金はたいて加入した選手が低迷ばかりしている(そして放出した選手は結構活躍している)補強手腕だと思いますが。
投稿: 念仏の鉄 | 2009/09/17 08:34
本日(h21.9.20)のNHKスペシャル「長嶋と王 50年目の告白」を見ました。今でも時々ある、NHKに受信料を払っても良いかなと思わせる番組の一つでした。
内容は、これまで様々なメディアで伝えられてきた事の集大成で特に新しいことはありませんでしたが、
やはり、本人の表情と肉声というものは、
文字ではないものを伝えてくれることを強く感じさせられました。
この番組中、王がシーズンに39本しか本塁打を打てず、40本に1本届かなかったことを謝罪したことを報道する新聞記事が画面に映りました。
「あたりまえ」という世間が作り出す絶壁に堪えること、
耐え抜いた凄みを感じさせられた次第です。
投稿: MUTI | 2009/09/20 23:38
>MUTIさん
この番組、放映日に出張が入って見逃し、しかも返ってきたら予約録画をしてなかったらしくて落ち込んでいたのですが、TVBrosを買ってきて探したら再放送があるようなので安心しました。
>「あたりまえ」という世間が作り出す絶壁に堪えること、
>耐え抜いた凄みを感じさせられた次第です。
第1回WBCの時に、イチローが王監督を手放しで絶賛し続けていましたが、そういう場所に立ったという意味でほとんど唯一の先人と感じているのだろうと思います。
投稿: 念仏の鉄 | 2009/09/22 08:47
> 第1回WBCの時に、イチローが王監督を手放しで絶賛し続けていましたが、そういう場所に立ったという意味でほとんど唯一の先人と感じているのだろうと思います。
イチローの記憶のもつ価値を本当に理解できる人の筆頭が王元監督であるだけに、マスコミで得られる情報では王元監督の言葉がなく、どういうわけかとおもっていました。
入院されていたのですね。王元監督のご回復を祈らせていただきます。
投稿: MUTI | 2009/09/22 22:13
>MUTIさん
>入院されていたのですね。王元監督のご回復を祈らせていただきます。
びっくりしましたね。術後の経過はよいようで何よりですが、心からご回復を祈るばかりです。
投稿: 念仏の鉄 | 2009/09/24 19:56