« で、東京は五輪招致活動を続けるのだろうか。 | トップページ | 楽天はどこへ行こうとしているのか。 »

吉見ニンニク注射問題についての個人的なメモ。

 中日の吉見投手がドーピング規定違反の疑いでNPBの調査を受けていると知ったのは、23日の新聞記事でだった。 「一部スポーツ紙」の報道が契機でNPB医事委員会が調査に乗り出したというので、報知か?と思ったら、報知にも「一部スポーツ紙」と書いてある。結局、中日スポーツだというので、何だかなあ、という気分。

 元の記事の実物は読めていないので報知からの孫引きになるが、最初に報じられた内容はこういうことらしい。

<一部スポーツ紙が、公式戦中の登板前後に通称「ニンニク注射」と呼ばれる疲労回復の点滴を受けていたと報道。>
<報道によると、吉見は今年7月途中から、登板前後にナゴヤドーム内の医務室で30分程度の時間をかけ、点滴を受けていたという。>
 
 
 これのどこがドーピング違反になるのかというと、注入した薬物ではなくて、点滴そのものが問題。

 NPB公式サイトにはアンチ・ドーピング・ガイドのページがある。
 主に選手向けのテキストを転載したものと思われ、平易な表現で書かれているが、何が禁止事項なのかは、これを読んだだけでは結局よくわからない。
 ただ、コラム欄の中に< 「元気が出る」注射や点滴は認められるか?>というのがあり、そこにはWADA(世界アンチ・ドーピング機構)の禁止表から、

<「いかなる薬物も、医学的に正当な適応に限って使用されなければならない (The use of any drug should be limited to medically justified indications.) 」>

という文言が引用された後、「正当な適応の医事行為」についてのNPBの見解が記されている。

< 1) 医師による診療記録があり、診断名、診断根拠、医薬品名及び使用量・使用方法などが明確に記載されている。
   2) 薬事法にもとづいて認可された医薬品を用いた治療であり、且つ適応内使用である。  >

 この2点を満たせばOK、というのがNPBの見解。それなら、中日のチームドクターがそれなりのカルテを用意すれば問題なさそうに思える。
 
 
 ただし、NPBのドーピングコントロール規則がWADAの規定に準拠するのだということであれば(報道によればそうらしい)、話はやや違ってくる。

 WADAの禁止リストは、JADA(日本アンチ・ドーピング機構)のサイトで読むことができる(最新版は英文のみ。日本語版は2009年まで)。
 ここで禁止リストを開くと、<Ⅰ 常に禁止される物質と方法>の中に、次の項目がある。<M2 化学的・物理的操作>の第2項だ。

<静脈内注入は禁止される。但し、外科的処置の管理、救急医療または臨床的検査における使用は除く。>

 つまり、原則として点滴はNGなのだ。
 吉見の場合、登板前後に定期的に注入していた、という報道が正しいのであれば、素人目には、ここに示された除外事項に該当するとは考えにくい。
(このあたり、WADAの最新の禁止リストと、NPBアンチ・ドーピング・ガイドの表現との間に、いささかの齟齬を感じる。今後の処分の是非を巡って、問題になってくるかもしれない)


 静脈内注入が問題になったケースとしては、Jリーグで2007年に川崎フロンターレの我那覇選手が処分を受けた事例がある。我那覇は処分を不服として、スポーツ仲裁裁判所に裁定を持ち込んだ。翌2008年に下った裁定は、Jリーグに処分取り消しを求めた。つまり、結論はシロ。
(その後のJリーグの対応には大いに疑問が残るのだが、ここでは触れない)

 このケースでは、吉見のように点滴を定期的に行っていたということではなく、発熱や下痢の症状に対する治療として行われた。そのため各クラブのチームドクターたちはJリーグの処分を不服とし、我那覇の支援活動を行っている。

 「川崎フロンターレ・ドーピング事件を検証して、日本に正しいアンチドーピングが実現することを願う会」のサイトに、JADAへの質問状とその回答がアップされている。
 ここで注目したいのは、<上記M2.2の事項における「正当な医療行為」とは、現場で担当の医師の判断にゆだねられるか否か>(註1)という質問だ。JADA側の回答は「現場の医師にゆだねられる」である。

 「現場の医師にゆだねられる」のがWADAおよびJADAの見解なら、吉見のケースは中日のチームドクターの判断によりOKということか?
 しかし、禁止リストの該当箇所の文言は、2007年と現在とでは異なる。上記の通り、2009年版では、除外されるケースを、より具体的に示している。現場の医師の判断の恣意性を制限している、とも言える。医師が、選手やチームの意を汲んだカルテを書くことを制限している、とも考えられる。
 従って、「我那覇がOKだったから、吉見もOK」とは言い切れない。

 
 NPBがこれまでにドーピング違反として処分を下したケースは3件ある。ガトームソン(ソフトバンク)、ゴンザレス(読売)、リオス(ヤクルト)。いずれも禁止物質が尿から検出されたケース。禁止方法の違反は、吉見が処分を受ければ今回が初めてとなる。
 化学的な検査が焦点となったこれまでとは異なり、点滴をしていた事実については、中日球団と吉見に争う姿勢はない。となれば、NPB医事委員会が結論を出すまでに、さほどの時間はかからないだろう。中日が日本シリーズに進出するようだと、処分の時期はデリケートな問題となる。
 
 
 気になるのは、元の記事(某所でコピペで目を通した)では、“ニンニク注射”が、プロ野球界でごく普通にそこら中で行われているかのように記されていたらしいことだ。本当にそうなのであれば、球界は違反者だらけ、ということになる。
 実際、ネット上では「清原はニンニク注射を打ってると公言してたのに、なぜ吉見だけ違反扱いされるのか」という疑義を数多く目にする。

 この件だけについていえば回答は容易だ。「昔は禁止されてなかった」のである。
 昔といってもそれほど古いことではない。NPBがドーピング検査を本格的に始めたのは2007年だ。清原がジャイアンツに在籍していた頃には、禁止事項ではなかった。

 中日球団の対応を見ていると、点滴が問題のある行為だとは認識していないようだ。一方、この件に対してジャイアンツの伊原ヘッドコーチは「誰だって(ダメだと)知っている」と批判している。

 どちらが正しいかは別として、球団によってこれほど認識に差があるということ自体、NPBのアンチ・ドーピング活動自体が、まだまだ行き届いていないことを示している。
 実際、中学生でもわかるような平易な文章で書かれているNPBアンチ・ドーピング・ガイドには、ニンニク注射の是非については明記されていない(コーヒーやアルコール、サプリメントについては記載があるのだが)。「ニンニク注射は、禁止って書いてないんだからいいんだろ」と解釈される余地がないとは言えない。

 これを機に、NPB医事委員会は、この種の医療行為に関する見解をはっきりと打ち出すべきだろう。アンチ・ドーピングに関心のない選手や、「明記されてなきゃいいんだろ」と判断したがる球団役員にも理解できるように、明確に。


 で、この件が報じられたその日の夜に、吉見はジャイアンツとのクライマックス・シリーズに先発した。
 もちろん、まだ処分が下されたわけではないから、登板を批判することはできない。
 落合監督はこういう状況を利用して、「俺たちは何も悪いことはしていない。(ジャイアンツに味方して)俺たちを非難する世の中を見返してやろう」みたいな空気をチーム内に醸成するのが得意そうに見える。
 だが、そうやって臨んだ試合に負けてしまった場合には、チームの空気は、より一層どんよりするだろうな、とも思われる。

 また、この件に関して落合監督は「俺は医者じゃない。診断もしてない」とコメントしたと伝えられる(確実なソースは未確認)。
 しかし、摂取する薬物の管理を医者任せにせず、選手自身やユニホーム組がアンチ・ドーピングに関してきちんとした意識を持つことが、現代のスポーツ界に求められているのだということは、少なくとも選手たちには自覚させた方がよい。毛生え薬によって選手生命を失う可能性だってあるのだ、という実例を、日本のプロ野球界は経験している。伊原の「普通の球団なら投げさせないよ」という嫌みは聞き流すとしても、「中日は認識が甘い」という批判には同感。

 なお、「ニンニク注射 清原」で検索していたら、ニンニク注射を実施している医療機関のサイトに、<ニンニク注射は、オリンピック金メダリストならびにオリンピック強化選手といった多くのトップアスリートにご愛用いただいております。>と記されていた。JOCは、強化指定選手たちが何をやってるのか、ちょっと心配した方がいいかも知れない。
  
 
註1)
WADAの禁止リストの文言はしばしば変更される。2007年版の該当部分は<正当な医療行為を除き、静脈内注入は禁止される。>とだった。


追記)2009.10.24

エントリ本文を書いていた頃には結論が出ていたらしい。
朝日新聞の記事を引用する。

中日・吉見投手、ドーピングに抵触せず 治療行為と結論
2009年10月24日16時21分

 日本プロ野球組織(NPB)の医事委員会(増島篤委員長)は24日、中日の吉見一起投手について、反ドーピング規定に抵触した事実は確認できなかったとの調査結果を発表した。

 吉見投手は22日の一部報道で、登板直前と翌日に疲労回復に効果があるとされるビタミン剤の点滴を受けていると伝えられた。そのため同委員会が本人と球団代表者に事情聴取した上で、カルテのコピーも取り寄せて検討したところ、「医学的な正当な適用による治療行為の範囲と判断した」(増島委員長)という。

 問題となった点滴は、いわゆる「ニンニク注射」と呼ばれるもの。点滴などの静脈注射はドーピングの痕跡を隠すために使われる可能性があり、世界反ドーピング機関(WADA)が正当な医療行為の場合を除いて禁止している。

(引用終わり)

本文にも記したが、静脈内注入に関するWADAの現在の規定は、「医学的な正当な適用」であるかどうかを問題にしてはいない。<外科的処置の管理、救急医療または臨床的検査>の3項目以外は禁止なのだ。そして、吉見のケースがこの3項目に該当するとは考えにくいのだが、NPBの説明は、この3項目には触れていないようだ。
まさにこの齟齬の隙間にはまりこむような結論となってしまった。

禁止リストの条文を素直に読めば、NPBの裁定はWADAの規定に反している。NPBのアンチ・ドーピング活動はWADAの規定には拘らず独自の判断によって行う、と表明したようなことになりかねない。

ちなみに、NPBはJADAの加盟団体ではない。野球の競技団体はアマチュアも含めてJADAにはひとつも加盟していない。だから、NPBがWADAの規定に準拠するというのは、自主的な判断であり、強制力はない。

とはいうものの、スポーツ界のアンチ・ドーピング活動において、WADAの規定は絶対的な基準といってよい。WADAの規定を離れて独自の判断を下すという行為は、競技そのものの信用に関わってくる。五輪競技への復帰を目指す競技団体のやることとは思えない。

もっとも、他の競技において、疲労回復を目的とした静脈内注入をWADAもしくはJADAが是認した、という事例が存在するのなら、吉見のケースも何ら問題はないということになる。私は寡聞にしてそういう事例を知らないが、心当たりのある方はぜひご教示いただきたい。
 
 
追記2)2009.11.11
11/10付読売新聞のスポーツ面に以下の記事が掲載されていた。ネットでは見あたらないので全文を引用しておく。

<吉見の点滴「規定に抵触」 WADA副会長が緊急性なしと指摘/プロ野球

 世界反ドーピング機関(WADA)のアルン・ルンクビスト副会長(国際オリンピック委員会医事委員長)は8日、読売新聞の取材に応じ、プロ野球・中日の吉見一起投手が受けた静脈内注入(点滴)について、「治療行為であっても、緊急性がない場合は認められない」として、WADA規定に抵触するとの見解を示した。
 ルンクビスト副会長は、「治療だというなら、事前にTUE(治療用除外)申請を提出し、点滴が不可欠で、それ以外の手法が採れないことを示せば、承認を受けることができる。事前のTUEなしに点滴が認められるのは、緊急治療時のみだ」と語った。
 日本プロ野球組織(NPB)は10月、「医学的に正当な治療行為」との理由で、ドーピング禁止規定違反に当たらないと発表していた。 >

 本文に論じてきた通り、WADAの規定を文字通りに読めば、これ以外の結論は考えられない。
 JADAやJOCの活動に関わってきた専門家であるNPB医事委員長が、なぜそこから逸脱した結論を出したのか、奇妙というほかはない。

|

« で、東京は五輪招致活動を続けるのだろうか。 | トップページ | 楽天はどこへ行こうとしているのか。 »

コメント

10/22 中日スポーツ「竜CHANGE CS編」

吉見決戦に備えニンニク注射

 登板翌日と登板直前の2度、ナゴヤドーム内にある医務室に向かうのが吉見の日課。医務室といっても、別にケガをしたり、病気をしたりしているわけではない。目的は点滴。1度に30分程度の時間をかけ、アリナミンと呼ばれる成分の投与を受ける。ニンニクに近い成分を含んでいることから、ニンニク注射ともいわれる方法である。疲労回復に効果があるとされ、愛用しているプロ野球選手も多いという。
 実はずっと敬遠してきた方法だった。「疲労の回復に効果があると聞いて、昨年、試してみたんです。たまたまだとは思うんですけど、それから勝てなくなってしまって」。験担ぎの意味もあり、今期も開幕直後から数ヶ月は避けてきた。が、開幕からローテを守り続け、疲労は限界寸前にまで達した。そこで7月途中に再度、試してみることにしたのだった。
 「正直、ちょっと怖かったんですけど、次の登板で完封できて。それから続けているんです」
 わずかな成績の違いが年棒に大きく反映されるプロの世界にいる以上、決断には相当の覚悟が必要だったに違いない。7月18日の横浜線(横浜)で完封勝利。以降は点滴のかいもあってか、白星を重ね続け、
リーグトップタイの16勝でレギュラーシーズンを終えた。
 そしてCS第1ステージの第2戦となる、18日のヤクルト戦(ナゴヤドーム)では8イニング2失点で勝利投手となった。「医務室の方もそうですし、本当、いろいろな人が支えてくださっています。確かに疲れはまだありますけど、疲れたとかって言ってられませんから」。次の登板はCS第2ステージ第3戦の23日か、第4戦の24日が有力。この日はランニングなどで調整した。2度の点滴による効果があると信じ、吉見は次の決戦へ備えている。(清水祐介)
http://www.2-1ch.net/uploader2/upfiles/2.1ch3838.jpg


画像は拾い物で、中スポを撮ったものなのかトーチュウなのかわかりませんが、手許にあるトーチュウと同じです。結論がどうなるのかわかりませんが、「別にケガをしたり、病気をしたりしているわけではない」「疲労の回復に効果があると聞いて」というのが事実ならクロとしか思えませんね。「愛用しているプロ野球選手も多い」って・・・。

この記事は
・ニンニク注射の問題も我那覇の件も、記者もデスクも吉見も揃いも揃って知らなかった。
・ニンニク注射はマズいと思ったがジャーナリストの良心として、知ってしまった事実を隠蔽することはできない、かといって親会社としては告発調に書くのもはばかられるので、敢えていい話ふうにまとめた。
・落合支持派と反落合派の確執が表面化した社内テロ。
のうちのどれなんでしょうか。それ以外に可能性を思いつかないのですが。

投稿: nobio | 2009/10/24 14:45

>nobioさん

ありがとうございます。

追記に書いておきましたが、NPBはあっさり「容認」との結論を出してしまいました。
増島篤・医事委員長は、専門は外科とはいえ、JOCやさまざまな競技団体に関わってきたスポーツ医学の重鎮のようで、五輪の選手団にも同行経験があるので、ドーピングに関して認識が足りないということは考えにくいのですが、それでも釈然としません。
NPBはこの裁定によって“ニンニク注射”に類する点滴を事実上容認したことになりますが、本当にそれでよいのだろうか。

>それ以外に可能性を思いつかないのですが。

結論が出てしまった後では、
・NPB医事委員会と中日が共謀した「釣り」だった
というのもなくはないんでしょうが、しかしそれで中日にメリットがあるとも思えない(笑)。

投稿: 念仏の鉄 | 2009/10/24 18:46

>疲労回復を目的とした静脈内注入をWADAもしくは
>JADAが是認した、という事例が存在するのなら、
>、心当たりのある方はぜひご教示いただきたい。

いや、「記事には”病気じゃない”とあったけど、調べてみたら正当な医療行為でした」、という見解でしょう。表向きは。

投稿: nobio | 2009/10/24 20:24

中日・吉見、ドーピング禁止規定違反容疑で聴取 (読売新聞)

 日本プロ野球組織(NPB)は、ドーピング禁止規定に違反する、緊急医療目的外の静脈内注入(点滴)を中日の選手が受けていた疑いがあるとして22日、吉見一起投手や西脇紀人代表への事情聴取など調査を始めた。

 日本のプロ野球では世界反ドーピング機関(WADA)及び日本アンチ・ドーピング機構(JADA)の禁止薬物・手法の規定に準じて、 蘇生 ( そせい ) や緊急時の輸血、手術時及び脱水症状の改善などを目的とした緊急の医療行為を除き、静脈内注入を禁止している。同投手と面談したNPB医事委員会の増島篤・委員長は「正当な医療行為に当たるかどうかは、球団に当時のカルテの提出を求め、判断する。疲労回復なら違反だ」と話した。[ 2009年10月23日6時51分 ]

投稿: nobio | 2009/10/24 20:27

>nobioさん
>いや、「記事には”病気じゃない”とあったけど、調べてみたら正当な医療行為でした」、という見解でしょう。表向きは。

ということのようですね。
こういうところでは、MLBを見習わないで欲しいんですが。

投稿: 念仏の鉄 | 2009/10/25 09:14

本文中に

> NPBはJADAの加盟団体ではない。野球の競技団体はアマチュアも含めてJADAにはひとつも加盟していない。

とありますが、全日本アマチュア野球連盟と(財)全日本軟式野球連盟は加盟しているようですね。
http://www.anti-doping.or.jp/jada_scope/member.html

ちなみに(財)日本サッカー協会はドーピング事件が起こった当時は加盟していませんでしたが、CAS裁定後に医学委員会委員長が青木治人から福林徹に代わった後に加盟しています。

今回の野球の件に関してはJリーグの時と大きな相違点が少なくとも2点あります。

1)野球はサッカーと違い、現在はオリンピック競技となっておらず、サッカーにおけるFIFAのような世界的統括組織がないこと。
2)Jリーグの時は取り締まる方(青木治人)とチームドクターその他が対立する関係にあったけれど、今回の野球の件ではそうなっていないこと。

1)について。
そもそも競技団体にとってのWADAの必要性というのは、オリンピック出場が大きくかかわっており、出場するにはWADA規定の遵守が必須です。
WADAの国内的組織がJADAですからそれも同じですね。
ぶっちゃけた言い方をすると、競技団体にとってアンチドーピングの思想は二の次、三の次で、遵守する約束をしないことにはオリンピックに出場できないから仕方なく、といったことがあります。
JFAの場合はそれとは別にFIFAとWADAの関係の兼ね合いもありますね。
結局のところJリーグ事件の場合は、にんにく注射と呼ばれているものを静脈注入したのではありませんでした。
ではなぜにんにく注射という情報が先行したのかと言えば、まず我那覇自身がよくわかっていなかったこと、そして記事を書いたサンケイスポーツの記者もにんにく注射そのものをわかっていなかったことに加え、それとドーピングとの関係もわかっていなかったからです。

大きな声では言えませんが、サッカー界でもにんにく注射はあの事件まではそこそこ日常的に行われていました。
それについてソースは挙げませんが、ある引退した選手が我那覇の件が明るみになったあとに、自身のブログで「自分も毎週〇曜日にやっていた」と書いています。なんて馬鹿な元選手でしょうか。他にもぞろぞろいます。
中にはチームごと、選手・コーチを含めて静注していたところも複数クラブあります。
それと、にんにく注射ではなく、他の禁止薬物を処方されていた(正確には「処方させていた」ですが)有名選手もいます。
それについては今でも問題になる可能性がゼロとは言えないので具体的には書きませんが、要するに日本ではJリーグ事件が起こる前まではアンチドーピングについての正しい知識も意識もほとんどなかったのです。
野球についてはもっとそうですね。
スポーツドクターというのは、野球とサッカー、陸上などと複数の医学的な団体で重複している人が相当数います。
ですからJリーグであれだけ騒がれたのに、今回野球でこんなことが起こったというのは俄かにはちょっと信じられませんでした。
とはいえ、野球界では未だににんにく注射を打っている選手がたくさんいるという情報は医療関係者から耳にはしていましたが。

2)について。
Jリーグの時は、チームドクター全員vs青木治人+Jリーグ(+川淵会長)という構図がありました。
なぜそうなったかと言えば、本来あれは医学的なこととは全く無関係な部分での対立構図だったんです。
でも今回の野球での件は違いますね。
野球界全体として、件の投手を「クロにするのは野球界全体にとってデメリットが大きい」との判断でしょう。
仮にクロと判定した場合、処方されたのは禁止薬物ではなくにんにく注射ですから、いくら静注が禁止されているとは言っても重大な違反ではなく“倫理的な違反”と認定された確率が高いと思います。
それでも何らかの処分はあったでしょうけれど。
その倫理的な意味ではにんにく注射は明らかな違反です。
そして今回は正当な医療行為と認定されたようですが、これは断言してもいいですけど、絶対にありえません。
根拠は述べませんが、それはないですよ。
ただし、にんにく注射っていうのは3日過ぎれば実際に体内から検出されることがないんですよ。
にんにく注射を開発したHドクターなんかドーピング検査のある日(つまり試合日)から遡って3日以上前に打っていましたからね。
ですから、立証するには基本的にスポーツ診療書という、いわばカルテみたいなものに拠るしかないんです。
仮にそれを改竄したとすれば、それがバレない限り立証はほぼ不可能なんです。
にんにく注射を打つよりそっちの方がよっぽど重大な問題なんですけどね。法律違反なんですから。

サッカー界でなかなかWADAを準拠しなかったのは、準拠しちゃうとリーグ(主にUEFA内のリーグ。特にセリエ)自体が成立しなくなるという可能性があったからだと言われています。
あくまでも私見ですが、今回の野球の件も意味としてはそれと同じことなんだろうな、と思っています。

個人的には、それよりも今回の件に対するマスメディアの報道姿勢に多大な疑問と不満があります。
野球は球団と新聞・放送各社が密接に結びついていますよね。
念仏の鉄さんにはおわかりでしょうけれど、それってどうなの? と思いますよ。
検閲の禁止を法制化までさせておきながら自分たちのやっていることは自主規制の嵐です。
「にんにく注射というのはにんにくに似た成分 云々」と公の紙面に掲載してしまうような仕事をしているのに。
自分たちに火の粉が降りかからないところに対しては思い切り紙面を割いて叩きまくって。
嫌だなー、そういうのって。

人様のブログに長々とコメントすみませんでした。

投稿: 匿名 | 2009/10/27 15:13

>匿名さん

詳細な解説をありがとうございます。

>全日本アマチュア野球連盟と(財)全日本軟式野球連盟は加盟しているようですね。

おっしゃる通りです。そのリストをチェックしたのですが見落としていました。お粗末。エントリは修正しておきました。ありがとうございます。

>スポーツドクターというのは、野球とサッカー、陸上などと複数の医学的な団体で重複している人が相当数います。
>ですからJリーグであれだけ騒がれたのに、今回野球でこんなことが起こったというのは俄かにはちょっと信じられませんでした。

同感です。増島篤氏もそういう立場の人ですから、今回の判断は余計に奇妙に感じます。

>Jリーグの時は、チームドクター全員vs青木治人+Jリーグ(+川淵会長)という構図がありました。
>なぜそうなったかと言えば、本来あれは医学的なこととは全く無関係な部分での対立構図だったんです。

「サッカー批評」でミカミカンタ氏が念入りに追い続けていましたね。

>あくまでも私見ですが、今回の野球の件も意味としてはそれと同じことなんだろうな、と思っています。

ほかに合理的な説明が見つからない、と私も思います。
野球の場合、総本山のMLBからして、そういう態度をまだ崩しきってはいませんし(特に選手会が)。

>個人的には、それよりも今回の件に対するマスメディアの報道姿勢に多大な疑問と不満があります。

NPBの判断が出た段階で、それ以上踏み込もうとしない態度については同感です。そして、今回の発端となった中日スポーツを筆頭に、ドーピングに関する記者の認識の低さを思わせる記事が散見されたのも感心しません。

投稿: 念仏の鉄 | 2009/10/27 18:05

度々すみません。

>野球の場合、総本山のMLBからして、そういう態度をまだ崩しきってはいませんし(特に選手会が)。

総本山と書かれていますが、これってNPBとMLBに関係があるという意味なんでしょうか?
たとえばFIFAとJFAのように。
それはきっとないですよね。
野球の総本山って意味なんでしょうかね、きっと。

選手会というものが出てきていますが、ドーピングそのものの案件に選手会が絡むことはたとえどの競技団体であってもないんじゃないでしょうか。
ちなみに日本プロ野球の選手会の顧問弁護士とJリーグの選手協会の顧問弁護士は同一人物です。

投稿: 匿名 | 2009/10/27 21:16

>匿名さん
>野球の総本山って意味なんでしょうかね、きっと。

もちろん、そうです。NPBがMLBの傘下団体というわけではありませんから(今のところは)。

>選手会というものが出てきていますが、ドーピングそのものの案件に選手会が絡むことはたとえどの競技団体であってもないんじゃないでしょうか。

MLB選手会は、ドーピング・コントロールの導入に対して一貫して消極的な動きをしています。例えば違反者への制裁にしても、MLBは選手会の合意なしには実行できません。その結果、2003年に実施したドーピング検査の結果(の具体的な選手名)は公表されなかったし、現在もWADAのペナルティよりはだいぶ甘い内容になっています。

投稿: 念仏の鉄 | 2009/10/27 22:43

何度もすみませんね、これで最後にしますのでお許し下さい。

念仏の鉄さんはMLBもNPBも選手会がもっと積極的にかかわるべきだとおっしゃっているわけですよね?
そうだとしたらなぜそう考えるのか私にはちょっとわかりかねます。
選手は決められたことには従うけれど、自らが進んで自分たちの首をしめるかもしれないことに積極的になることがないのはごく自然なことのように思います。
むしろ反対するのは心情として頷けるところです。
だからと言ってドーピングなんかしてちゃ結局は自分たちの価値を貶めることになってしまうんですが。

それと、今回の件で中日スポーツの記者が書いたことは基本的に間違っていないと思いますが、その記者を責めている方も方々のブログで見かけますね。それはおかど違いだと思うのですが、これはこちらのブログには関係ないですね。

最後ですが、ドーピングがなぜなくならないかと言えば、それは元をただせば観客(ファン)が求めているから、という側面が間違いなくあります。
ドーピングそのものを、じゃなく、超人(すごいプレーをする人)を見たい、という意味で。
ですから、広い意味では「向こう側」だけではなく、見物人にも責任、とまでは言いませんが、原因の一端はあると思っています。
それがいいとか悪いとかという意味ではなく。
見物人は間違いなくその競技を構成している当事者の一群ですものね。

では何度も長々と失礼しました。
これからもブログを楽しませていただきます。

投稿: 匿名 | 2009/10/27 23:29

>匿名さん
>念仏の鉄さんはMLBもNPBも選手会がもっと積極的にかかわるべきだとおっしゃっているわけですよね?

いいえ。
選手会がドーピング・コントロールの導入に反対する姿勢を露骨に取るべきではない、とは思ってますが。

>最後ですが、ドーピングがなぜなくならないかと言えば、それは元をただせば観客(ファン)が求めているから、という側面が間違いなくあります。
>ドーピングそのものを、じゃなく、超人(すごいプレーをする人)を見たい、という意味で。

そういう次元にまで話を広げるのなら、観客の関与がゼロだとは言えません。
一方で、ドーピング行為が発覚すれば観客の支持を失う、という予測が、ドーピングに対する抑止力になるという面もあろうかと思います。

投稿: 念仏の鉄 | 2009/10/27 23:58

>選手は決められたことには従うけれど、自らが進んで
>自分たちの首をしめるかもしれないことに積極的に
>なることがないのはごく自然なことのように思います。
>むしろ反対するのは心情として頷けるところです。

選手会自身が「我々は自らの首を絞める気はない」と表明するのであれば、和を以て尊しとする日本の風土の中ではある意味見上げたものだと思いますが、選手会に選手会の勝手な事情があるように、ファンにはファンの勝手な期待があっていいわけで、野球ファンが選手会の気持ちをわざわざ先回りして酌んであげなくてもいいのではないでしょうか。あまり適切なたとえとは思いませんが、例えば政府が増税したがるのが自然なことだとしても(たぶん自然なことでしょう)、それを理由にわざわざ減税要求を控える必要はないわけです。「匿名」さんが「野球ファン」ではなく「野球選手」だとすれば理解できますが。

投稿: nobio | 2009/10/28 07:01

匿名さん、鉄さん、お二人は「ファンのすごいプレーを見たいという願いがドーピングを生み出す(こともある)」というスタンスなのでしょうか?
私もスポーツファンですごいプレーを見たいと思っていますが、決してドーピングによるプレーを見たいとは思いません。
私は、ドーピングは選手側(選手個人だけとは限らないようなので側とします)の選手の能力を上回る結果を残したいと願う気持ちが生み出すものだと思っています。
それは、理由はどうあれ(金や名声、プロとしての責任感など)あくまでも純粋に選手側の願いです。ドーピングの発覚した選手の中には「ファンのために」という言い訳をする者もいるようですが、ファンがドーピングによるプレーを求めていないのは当該選手も例外なく理解しています。
それでも選手はドーピングの動機を「ファンのために」と言い、実際にそう思っていたりするのでしょうが、それはファンに対する最悪の裏切りであり、それをしてしまうのはばれなければよい、嘘でも相手が喜べばよいと安易に考えてしまうような個人的な精神の未成熟さが原因だと思います。
「ファンがすごいプレーを求めるから」という、まるでファンがドーピングによるプレーを一部では容認しているかのような意見には断じて賛成できません。

本来ならわざわざ書き込む必要もない一個人の意見ですが、「ドーピング」というこの一点は、スポーツとショービジネスを別つ大きなポイントと思い書き込ませていただきました。

投稿: たむ | 2009/10/29 19:47

>たむさん

おっしゃることは判りますし、気持ちの上では、おおむね同感でもあります。

しかし、例えば1998年のマーク・マグワイアとサミー・ソーサの本塁打シーズン記録争いを、それなりの興奮をもって眺めていた自分を思い出すと、そう簡単に自分を免責してよいものかどうか。自分をイノセントな立場に置いて物を言うことに、ためらいを感じます。

そんなジレンマが、上の匿名氏へのレスの歯切れの悪さとなって現れているのだと理解いただければ幸いです。

投稿: 念仏の鉄 | 2009/10/29 20:26

えーと、もうコメントしないでおこうと思ったんですが(苦笑)。

きっちり書いておきますが、私はドーピング行為には反対です。
ただ、なぜ反対かと問われるとこれがわからない。
情緒的に、なんとなく。
もしくは、これが一番言いたくないんだけど、ルールで禁止されているから。
そんなとこでしょうか。
最後の「ルールで…」っていうのは言葉を変えていろんな場面でよく使われますよね、短絡的に。
問題はなぜルールで禁止されているのかってことだと思うんですけど、まぁ、それは今は触れないでおきましょう。

NPBがドーピング禁止を打ち出したのは06年でしたよね。
ただし、その年は罰則もなかったし、検査しても誰も陽性反応は出なかったとだけ発表されて、誰を検査したとか、誰がどんな方法で検査をしたとかって公表されなかったし、陽性が出ても個人名は出さないと予め決めてあったと記憶しています。
違ったらごめんなさいですけど。
それで罰則ができたのが翌07年で、NPBはJADAに加盟もしていないのになぜこういうアンチドーピングの方向性に向かったかというと、野球をオリンピックに復活させたいからというのと、WBCのためですよね。
その時はまだ東京オリンピックの可能性がありましたし。
WADA規定というのは競技団体単位じゃなく、国や自治体も賛同しているわけですから。

たむさんが「スポーツとショービジネスを別つ大きなポイント」と書いていますが、オリンピックとWBC(だけに限りませんが)はファンの意思とは別に、これはもう商業主義というか、スポーツビジネスの祭典なわけですよ、そのために開催すると言ってもいいくらいに。
いや、それが悪いと言ってるわけじゃないんですけどね。
で、たむさんのコメントを読むと「スポーツは崇高でショービジネスはあかん」ってふうに感じちゃうんですよね。
あ、あんまり厳密な意味じゃなくて、大体そんな感じってことで。

それっておそらく日本の文化・風土に起因していると思うんですけど(日本はスポーツではなく、“体育”もしくは剣道・柔道のような“道”として運動が推進・発達したように。そう言えば“野球道”なんて言葉を目にすることもありますよね、いまだに)、それだからこそ、ドーピングというものを忌避する土壌があると思うんです。
精神性を重んじるっていいますかね。
いや、あった、という過去形になるのかな、一部では。
プロスポーツは今や金になるわけですよ。
だからドーピングをする、という乱暴なことで片付ける気はないですけどね。
その金を生み出しているのは誰か?
それは当然ファンですよね。
放送権料が高騰してる、スポンサーが金を出すって言ったって、それだってファンがいるからなわけで。
このブログで言うところの“見物人=観客=ファン”ってのはその競技の紛れもないステークホルダーなわけで、それから逃れることはできませんよね、当たり前ですけど。
そりゃ選手はやっちゃいますよ、ドーピング。
なくなりっこありません。

07年のNPBドーピング規定違反の罰則第一号ってガトームソンでしたっけ?
あの時使ったフィナステリドって確か今年から解禁されてましたよね。
検査が発達したからマスキングの役割を果たさなくなったって。
検査ってそれなりに金がかかるんですよね、WADAが認定しているやり方をすればね。
はっきりした額は忘れちゃいましたけど、3万円くらいじゃなかったかしら?
100人で300万円ですよ。その他にも検査員の諸費用がかかります。
当然、それで儲かる人が出てくるわけですね、競技は全国にいろいろありますから。

あー、何を書いているんだろ。
言いたいことたくさんありすぎて風呂敷を広げすぎです、私。

つまりですね、これはわざと乱暴に書いてしまいますが、情緒だけでは解決しませんよ、と。
念仏の鉄さんがいみじくも書いていますように、まさしく「そう簡単に自分を免責してよいものかどうか。自分をイノセントな立場に置いて物を言うことに、ためらいを感じます」ってことだと思うんです。
ファンの立場からドーピングにノーを突きつけるなら、まずそれを知ることから始めなきゃ、きっといつまでも情緒的に流れていつでもブレまくってしまうと、これはまったく個人的に思う次第であります。

アナウンサーの山本さんじゃないですけど「彼らは彼らではありません」なのです。
「そんなの嫌だ、俺は金を払ってる客だ」って言いたくなるのはわかりますけど、そんなにきれいなもんでもないですよね、その金が問題だったりするんですから。

あー、私は誰に向けて書いてるんだか。

とりあえず先に謝っておきます。ごめんなさい!

ところで私の中にはドーピングを選手本人が理解した上で、納得して使用したいろんな競技を見てみたいって気持ちがあったりします。
「超人見てみてぇー!」
っていう単純で子供じみた気持ちですけど。

投稿: 匿名 | 2009/10/30 03:22

「追記2)2009.11.11」を読みました。読売新聞偉いですね。伊原春樹や清武英利がこのまま発言をやめるとしたら、読売新聞も本気で実態を知りたいわけではなく、ポーズだろうとしか思えませんが、しかしポーズだけでも示すのは立派な根性のようにも、また、多少は意味あることだとも思います。

投稿: nobio | 2009/11/18 19:40

>nobioさん

本件に対するWADA副会長のコメントを記録として公に残した、ということ自体に意味があると思います(ま、そもそも報道というのはそういうものですが)。

投稿: 念仏の鉄 | 2009/11/19 11:37

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/50507/46568424

この記事へのトラックバック一覧です: 吉見ニンニク注射問題についての個人的なメモ。:

» 吉見のニンニク注射問題について選手会は何もしないつもりなのか。 [観測所雑記帳]
10/22 中日スポーツ「竜CHANGE CS編」 吉見決戦に備えニンニク注射  登板翌日と登板直前の2度、ナゴヤドーム内にある医務室に向かうのが吉見の日課。医務室といっても、別にケガをしたり、病気をしたりしているわけではない。目的は点滴。1度に30分程度の時間をかけ、アリナミンと呼ばれる成分の投与を受ける。ニンニクに近い成分を含んでいることから、ニンニク注射ともいわれる方法である。疲労回復に効果があるとされ、愛用しているプロ野球選手も多いという。  実はずっと敬遠してきた方法だった。... [続きを読む]

受信: 2009/10/25 22:27

« で、東京は五輪招致活動を続けるのだろうか。 | トップページ | 楽天はどこへ行こうとしているのか。 »