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松井秀喜の戴冠。

 今年のワールドシリーズは6試合目で決着がつき、ヤンキースがフィリーズを下した。新装ヤンキースタジアムで最初の、そしてチームとしては9年ぶりのワールドチャンピオン。
 第2戦に続いて、この試合でも決勝ホームランを放った松井は3安打6打点の大爆発で、シリーズMVPにも選ばれた。日本人として初めて、そして、DH専門の打者としても初めてのワールドシリーズMVPだ、とMLB.comの記事は伝えている。
 松井はアメリカで、ようやく彼にふさわしい称号をひとつ手にした。

 優勝が決まった直後のNHKのインタビューで、松井は「長かったですね」としんみりと語った。
 彼のことはプロ入り前から見ている。いつも取材には誠実に応対する選手だが、同時にいつも、どこか鎧を着たような喋り方をする。こんなに無防備で素直な口調で話す声を聞くのは初めてで、それ自体がこの優勝の実感を、何よりも明瞭に伝えていた。

 インタビューを終えた松井が、スタンドに沿って場内を一周する選手たちの列に加わると、勝利直後にマウンドのあたりでがっちりと抱き合っていたデレク・ジーターが、また松井に抱きつき、嬉しそうに隣を歩きながら、離れようとしない。この主将が、日本から来た僚友を、どれほど大切に思っているかが伝わってくるような姿だった。
 以前も書いたことがあるが、この2人の、試合に取り組む姿勢はよく似ている。彼らを大切にしていたジョー・トーリ前監督が去った今、2人にとっては互いこそが、チーム内での最大の理解者なのかも知れない。


 グラウンドのお立ち台で行われたMVP表彰でのインタビューは現地の映像と音声のままだったが、通訳を通していたので、日本語での質問と回答もそのまま伝えられた。

ーー受賞の気持ちは
 最高です。自分でも信じられません。
ーー日本でも優勝した経験があるが、違いますか
 また違った喜びがある。とにかく今は最高です。
ーー契約の満了年だが、ここでまたチャンピオンを目指すつもりは?
 そうなればいいと思っています。僕はニューヨークが好きだし、ヤンキースが好きだし、チームメイトが好きだし、ヤンキースのファンが大好きですから。

 最後の言葉が訳された時、スタンドは大いに沸いた。ニューヨークのファンもまた、彼を愛している。スーパースターなら飽きるほど見てきた彼らは、グラウンドで利己的に振る舞う選手と、チームの勝利のために尽す選手との違いを、よくわかっているのだろうと思う。


 渡米して7シーズン。20代の若者だった松井は35になった。
 渡米した2003年のシーズンに、彼の活躍もあってリーグ優勝決定戦を勝ち抜き、ワールドシリーズに進出して敗れた。98年からワールドシリーズに3連覇、2001年まで4年連続でシリーズに進出していたヤンキースのことだから、チャンスはすぐまた来るだろうと私は思っていたし、松井もたぶんそう思っていたことだろう。「長かった」という彼の言葉は、私のものでもあり、日米の数多くのファンのものでもある。

 ワールドシリーズで打った3本目の本塁打はリアルタイムで見ることができなかったが、後で見た映像で、2000年の日本シリーズで彼が打った本塁打を思い出した。
 ダイエーホークスと対戦し、「ON対決」と騒がれた日本シリーズの、初戦の1回裏の最初の打席に入った松井は、そこに立った時から特別な空気をまとっているように見えた。とんでもない速さでバットが一閃し、それからおもむろに打球が舞い上がって、ゆっくりとバックスクリーンの右に落ちていった。何か、人智を越えた予定調和を見たような気がした。
 「ON対決」などというのは中継のテレビ画面の中の概念であり、実際に東京ドームのグラウンドに君臨していたのは松井秀喜だった。
(次の打席からは、その空気は消えて、松井は一野球選手に戻っていたのだが)
 松井はこのシリーズで3本の本塁打を放ち、ジャイアンツを4勝2敗の優勝に導いて、日本シリーズMVPを獲得した。

 ヤンキースタジアムの2階席に舞い降りた本塁打も、あの日のそれによく似た軌道を描いていた。
 いろんなものを犠牲にして、願い続け、待ち続けた舞台に、満身創痍になってようやくたどりついた時、最高の状態が、彼に降りた。そんなふうに見えた。


 今季で松井とヤンキースとの契約は満了する。彼が来年どうなるかは、まだわからない。年俸を大幅に下げた1年契約が提示される可能性があると思うが、それを松井サイドが受け入れるかどうかもわからない。
 わからないことばかりの来シーズンだが、ひとつだけ、私が確信していることがある。
 松井が次にヤンキースタジアムの左打席に立つ時、スタンドは大きな拍手と、おそらくはスタンディングオベーションをもって彼を迎えることだろう。
 その時に彼が着ているユニホームが何色であろうとも。

 ヤンキースでの松井は、ディマジオやマントルにはなれなかった。
 だが、チームを去った後も、いつまでもファンから愛され、尊敬され続けたポール・オニールやティノ・マルティネスのような存在になった、とは言えるのではないかと思う。
 数多くのスター選手がやってきては、その多くが傷つき、惜しまれもせずに去っていくこのチームにおいて、それはきわめて希有なことだ。

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