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東京の魂。

 FC東京、ナビスコ杯2度目の優勝。感無量。

 相手は現在リーグ首位、今季2戦して2敗のフロンターレ。こちらはカボレをオイルマネーに奪われ、石川をケガで失い、長友もベンチスタート。今シーズンのベスト布陣から3人を欠くという圧倒的に不利な状況が、かえってチームのやるべきことを明確にしたのだろう。先制し、相手のストロングポイントを潰し、前がかりになった相手からカウンターで追加点を奪い、最後はハーフコートゲームになっても構わずにディフェンダーをどかどかと投入し試合を壊して逃げ切る。戦力に不備のあるチームが勝つためのお手本のような試合展開だった。

 ゴール前へのハイボールに迷わず飛び出し、ことごとく跳ね返した権田、若い椋原、誰もが一瞬たりとも集中を切らすことがなかった。フロンターレの選手にとっては、かわしてもかわしてもディフェンスが湧いてくる、悪夢のような試合だったことだろう。そのピッチの中心部には、1人にかわされてもパスが出た先まで追っていく、ゾンビのような米本がいる。先制ゴールだけがMVPの理由ではないはずだ。

 表彰式でトロフィーを掲げる羽生がカボレ9のユニホームを着ているのに気付いて涙し、羽生に続いてチェアマン杯を受け取った藤山がキャプテンマークを巻いているのに涙し、またしてもベンチで優勝を見守る羽目になった塩田のはしゃぎぶりに、また涙。
 グラウンドに降りた塩田が満面の笑みで抱きついた相手は、たぶん引退を決めた浅利だったと思う。藤山も今季限りで東京を去る。
 でも、彼らが培ってきたものは、しっかりと若い衆が受け継いでいる。
 初めてFC東京の試合を見て、一生このクラブについていく、と決めてから10年が過ぎた。当時とは顔触れも戦術も変わったが、試合から受ける印象は少しも変わらない。それがたぶん、クラブの伝統とか魂とかいうものなのだろう。
 
 
…と、ここまで書いたところで、味スタで優勝報告会が開かれることに気付いて、飛田給に向かった。 決勝のチケット争奪戦には敗れたが、せめてチャンピオンたちに祝福を贈りたかった。京王線の車内は、国立から移動してきたと思われるサポーターたちで一杯だった。
 ぎっしり埋まったホーム側のゴール裏スタンドに挨拶に立った城福監督は、浅利について言及したところで、絶句した。感極まった、という形容がよく似合う表情だった。メモをとったわけではないのでうろ覚えだが、城福監督は、こんな話をした。

…僕は、サリをベンチ入りの18人に選ぶことができなかった。
 小平での練習で、いちばん良い準備をしていたのはサリでした。彼はその日、小平のロッカーで号泣したと聞きました。
 ウチのスタメン11人は、Jリーグでいちばん若いチームです。決勝の国立のピッチで、5万人の観衆を前にしたら、雰囲気に呑まれ、足がすくみ、普通のプレーなどできるはずがないと思っていました。
 僕は、サリに許可を貰わずに、試合前のロッカールームで彼のことを話しました。
 決勝のプレッシャーに勝るものは、サリの涙しかなかった。
 「『いい経験をしました』『頑張ったけど負けました』などという試合をして、サリに顔向けができるのか」、そう話しました。
 だから、試合が始まっても、スタンドの皆さんの姿は、彼らの目には入っていなかったはずです。見ているサリに恥ずかしくない試合をすることで、彼らの頭は一杯だったはず。
 2004年は、ジャーンの涙が勝たせてくれた。
 今日は、サリの涙が勝たせてくれました。  …

 今季限りでの退団が決まった藤山は「代表に呼ばれたこともない僕が18年もやれてよかった」というような話をしたと聞く。藤山も浅利もそんな選手だったが、しかし、彼らが紛れもなくチームの背骨だった。
 そんな選手がいるクラブ、そんな選手をおろそかにしない監督、そんな選手の背中を慕う若い選手たちを、嬉しく思う。


追記(2009.11.5)
優勝報告会における城福監督の挨拶は、サポティスタにYOUTUBE映像と、起こした文章(映像の3分18秒あたりから)がアップされている。
http://supportista.jp/2009/11/news04124102.html
私のうろ覚え記事は、大筋はともかく細部はかなり違うので、あとで修正しようと思います。

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コメント

おめでとうございます
現地で川崎を応援してたんですが・・・
くやしいのう

投稿: けい | 2009/11/05 00:15

>けいさん

コメントありがとうございます。

20分あたりにジュニーニョがフリーで打ったアレが入ってたら、全然違う試合になっていたでしょうね…。サッカーは怖いです。

投稿: 念仏の鉄 | 2009/11/05 10:13

5年ぶりということで、本当に感無量です。
5年前は右も左もわからないまま優勝してしまって、その後迷走してしまいましたが、今回はそのようなことがないように、城福監督もクラブも頑張ってくれるよう信じてます(今日は負けてしまいましたが…)。

同じ東京のクラブでも、方や存続が危うい、方や毎試合2万人を集め続ける…これだけの差がついたのは、やはりクラブのサッカーを始めとした伝統・魂といったDNAの持つ力が大きいのではないかと、自分も思ってます。

投稿: アルヴァロ | 2009/11/08 22:26

鉄さんにとってはさぞかし幸福な一週間だったことでしょう。いろいろとおめでとうございます。

決勝、楽しかったですよね。優勝報告会も。
表彰式では、遠目でも羽生さんの「9」、フジさんの「7」は見えてました。で、椋原くんの試合後インタビュー「もうFC東京大好きです!」っていうとこで撃沈(笑)。
つらいときもあるけど、やっぱり応援しがいのあるチームですね。

投稿: 若葉 | 2009/11/09 09:20

アルヴァロさんも若葉さんも、国立ー味スタ組ですよね。いいなあ。
ま、いつまでたってもソシオにならずにだらだらしている私の自業自得です(笑)。

>アルヴァロさん
>これだけの差がついたのは、やはりクラブのサッカーを始めとした伝統・魂といったDNAの持つ力が大きいのではないかと、自分も思ってます。

Jリーグが開幕した時点では、もうひとつの東京のクラブ(当時は東京じゃありませんでしたけど)の方が、伝統も魂も備えていたのに。開幕時のバブルに勘違いした人たちが、いろんな形でクラブを振り回して、投げ出した後、最後に残ったのが、結局はクラブの伝統、ということですから、何とか再起できることを願っています。

投稿: 念仏の鉄 | 2009/11/10 00:43

>若葉さん

ホットラインで見ましたが、国立では浅利も藤山も胴上げされてたんですね。その音頭をとって彼らを捕まえていたのが塩田、というところがまた泣かせます。

投稿: 念仏の鉄 | 2009/11/10 00:45

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