ヒデキがブロンクスに戻った日。
4月13日。ヤンキースの本拠地開幕戦。平日のデーゲームだからぎっしり満員とはいかないが、テレビでざっと見た感じでは、7割くらいは入っていそうだった。
松井秀喜がグランドスラムでデビューを飾った時も、本拠地での初試合は確か平日のデーゲームだった。この時期のニューヨークは、夜に野球をするには寒すぎるのかも知れない。
試合前に、昨秋のワールドシリーズに優勝した記念の指輪の贈呈式が行われた。選手が1人づつ名前を呼ばれてはグラウンドに姿を現し、ジラルディ監督から指輪の入った箱を手渡された。
ピンストライプの男たちが出そろった後に、場内アナウンスが流れる。
「もうひとり、チャンピオンリングを渡す人がいます。昨年まで7年間ヤンキースで活躍した、昨年のワールドシリーズMVP。背番号55、ヒデキ・マツイ!」
反対側のベンチ前でアナウンスを聞いていた松井の目は、確かに潤んでいた。
喝采を浴びながら、小走りにグラウンドに出た松井は、ジラルディから指輪を受け取った。
セレモニーが終わると、ピンストライプの男たちが小走りに駆け寄って、松井に抱きついた。A-RODが、ポサーダが、リベラが、そしてジーターが。思いがけない光景だった。
まもなく試合が始まった。4番DHで先発出場した松井は、1回表、二死一塁の場面で打席に立った。
客席から大きな拍手が起こり、歓声が沸き、そして、スタンドの観客は次々と立ち上がって、見慣れない色のユニホームを着た、見慣れた左打者を歓迎した。
そして、歓迎の儀式はそこまでだった。
ペティートの初球が外角低めに決まると、今度はペティートに対する歓声が起こった。
試合前の記者会見で「ヤンキースファンは複雑なのでは」と問われた松井は「複雑じゃないと思いますよ。ヤンキースファンはいつでもチームの勝利を願っている」と答えた。その通りだった。
ヤンキースタジアムは、かつて移籍後のティノ・マルティネスを遇したように松井を迎えるだろう、という昨秋の予測が実現したことを、私は嬉しく思っている。
だが、欲を言えば、この歓声がブーイングに変わる光景も見てみたいと思っている。ヤンキースが松井によって脅かされている、と彼らが感じる瞬間を。
願わくば、今年の10月ごろにでも。
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